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WireColumn: PTDはプログラマティック・バイイングでパブリッシャーの主導権を回復させるのか

(コラムニスト:株式会社サイバー・コミュニケーションズ 宮一良彦)

海外の記事を読み解きながら、アドテク技術のトレンドを解説するcci宮一氏によるコラム。第一弾は「パブリッシャー・トレーディング・デスク(PTD)」です。

 

PTD(Publisher Trading Desk)という言葉を聞いたことはありますか。PublisherとTrading Deskは対極であり、組み合わせた語には違和感があるかと思います。本稿では、ExcangeWireの記事を追いかけながら、その意味と意義を考えていきます。

 

 

 

 

 

 

パブリッシャーにとってのプログラマティック・バイイング

 RTBを中心とするプログラマティック・バイイング(*1)は、日本市場でも拡大を続け、電通「日本の広告費」2012年版からは、「運用型広告」という分類として認識されるまでに至りました。ROIを追求するダイレクトキャンペーンでは、面より人で広告を配信できるプログラマティック・バイイングは効率がよいと考えられたのが拡大の要因です。

一方、パブリッシャー(とりわけプレミアムパブリッシャー(*2))にとっては、プログラマティック・バイイングはネガティブに捉えられています。デマンドサイド(広告主・代理店・DSP事業者)はアドテク、データを集約する一方、パブリッシャーはインプレッションとデータを別々に提供し、プログラマティック・バイイングの蚊帳の外にいると考えているのがその理由です。

 

図1

 

プログラマティック・バイイングをめぐるプレイヤーの不均衡な関係

 

 

インプレッションではなくオーディエンスを売れ

WireColumn: プレミアムパブリッシャーは広告インプレッションではなく、オーディエンスに基づいてビジネスを行うべき (WireColumn: Premium Publishers Are in the Audience Business, Not the Ad Impression Business)

プレミアムパブリッシャーはインプレッションを販売することをやめて、ファーストパーティデータ(*5)を使ってオーディエンスを販売するようシフトすべきとのExchangeWireのコラム。

馬鹿げているという人もいるかもしれませんが、プレミアムパブリッシャーがデジタルコンテンツの更なる収益化において直面している最大の課題は、自らがどのようなビジネスに身を置いているかをわかっていないことだと考えています。つまり、売ろうとしているのは誤った製品なのです。

では、プレミアムパブリッシャーはどのビジネスに身を置くべきなのでしょうか。オーディエンスに基づいたビジネスが、その答えです。より正確に言えば、パブリッシャーはオーディエンスを説得し、オーディエンスを理解するビジネスを行うべきなのです。

刺激的な書き出しで始まるコラムですが、広告インプレッションのインベントリーは、どんなウェブサイトでも創出できるため、参入障壁は少なく市場が過剰な供給過剰に陥っています。プレミアムパブリッシャーは、こうしたビジネスに身を置くべきではないという内容です。ではどうすれば良いのかといえば、オーディエンスに基づいた広告商品を作り、正しいコンテキスト(ブランドメッセージが正しく伝わる場所)で配信し、オーディエンスセグメントや視聴時間別の反応を測定しレポートすべきだとまとめています。

もちろん、プレミアムパブリッシャーがオーディエンスを把握し、広告配信からレポートまで、ひととおりのサービスを提供する仕組みを用意するのは容易ではありません。メジャーメントの整備やツールの導入も必要となるでしょうし、そのコストをどう考えるかについても内部での議論が必要でしょう。

 

 

パブリッシャーと広告主を1対1で繋げ

PubMatic EMEA/APAC VP & MD ロブ・ジョナス、ドイツ市場におけるRTBとプレミアム・プログラマティックの未来について語る (Rob Jonas, VP & MD, EMEA, APAC, PubMatic, Discusses the Future of RTB & Premium Programmatic in the German Market)

プレミアムパブリッシャーに対して、ブランドコントロールと、ファーストパーティオーディエンスデータを利用したインプレッションの価値向上を提供するのが、同社のプライベート・マーケットプレイス(PMP: Private Marketplace *3)であるというPubMatic VPのインタビュー記事。

共食いに対する非現実的な恐れ、そしてコントロールや透明性、対立するチャネルにおける管理が欠如していることから、それほど多くのクォリティインベントリーがプログラマティック・バイイング可能にはなっていません。私たちの戦略は、パブリッシャーがプレミアム在庫をプレミアムとして維持できるようにすることにフォーカスしています。これは、ドイツ市場において大きな懸念事項となっており、クォリティインベントリーとプレミアムコンテンツを推進するという最近の動向に現れています。

私たちはプレミアムパブリッシャーに、モバイル、デスクトップ、そしてタブレットを含むあらゆる販売チャネルやプラットフォームでの売上を管理する、リアルタイムのメディア販売プラットフォームを提供しています。PubMaticが提供する柔軟な機能で、パブリッシャーは自身のアドテクノロジーをカスタマイズできるようになります。提供する機能は次のようなものです:(1)プレミアム在庫とブランドコントロールを、透明性をもって管理するための優れたプライベート・マーケットプレイスツール、(2)メディアにファーストパーティやサードパーティーオーディエンスデータ(*6)を追加し、インプレッションの価値やユーザー体験を向上させる、(3)パブリッシャーが高いインプレッション価値を出しているチャンネルを把握し、インベントリーを管理できるようにするための、(直接および間接)在庫のリアルタイムのレポーティングを行うことです。

ドイツ市場についてのインタビューですが、日本の状況にも重なると思います。プレミアムパブリッシャーにとって、自身のプレミアムインベントリーを、他の広告商品とのカニバリゼーションを避けながら、プログラマティック・バイイングで提供して行くことは大きなチャレンジですが、その実現はまだまだ難しいのが現状です。

ブランドコントロールにしてみても、一般的なAd Exchangeでは、RTBでのクリエイティブ考査は提供されていませんし、日本独自でクリエイティブの事前・事後考査を提供しているOpenX Marketにしても、考査の対象となるクリエイティブは20,000近くに上り、作業はかなりの負担となります。また、RTBでの入札価格についても、クライアント(あるいはDSP)データを利用したリマーケティングが主体では、メディア価値を、入札価格に反映するのはなかなか難しいです。

同インタビューでは、こうした問題を解決するのがパブリッシャーと代理店(広告主)を1対1で繋ぐPMPであるとしており、今後、ドイツにおけるPMPを含めたRTBベースの直接取引は、2016年までにRTB取引の16%を占めだろうとしています。

パブリッシャーと代理店(広告主)を1対1で繋ぐ仕組みは、DoubleClick Ad ExchangeのPreferred DealやOpenX MarketのProgrammatic Premiumとしても提供が始まっています。DSPでの対応が必要など、課題もいくつかありますが、今後、広がりを見せていくと考えられます。

 

 

代理店を打ち破れ

 パブリッシャーはいかにしてトレーディングデスク広告で代理店を打ち破ることができるか (How Publishers Can Beat Agencies In Trading-Desk Advertising)

パブリッシャーはDMPを使って自身のオーディエンスを理解し、拡張(Look-alike)し、販売すべきだし、自社に十分なインプレッションがなければ、サイト外から集めてでも進めるべきであるとのAdExchagerのコラム。

RTBは広告主を運転席に座らせてくれました。広告主は価格を決定することができるようになり、また、(「トレーディングデスク(*7)」のおかげで) 代理店は縮小していたマージンをメディア手数料で向上させることができるようになりました。

パブリッシャーたちはRTBをそれほどには好みませんでした。代理店と広告ハイテク企業のマージンを向上させたオーディエンスターゲティングは、彼らのマージンを低下させました。パブリッシャーたちは、CPMが下落し、ネットワークが全体の広告支出を取っていってしまい、デマンドサイドプラットフォームが在庫の価値をさらに下げ、Facebookのようなセルフサービスのプラットフォームがパイの多くを吸い上げていくのを見ていました。

よりバランスのとれた業界を取り戻すのを助けるために、パブリッシャーたちはオーディエンスターゲティングからお金を稼ぐ方法を見つける必要があります。

 

RTBによるリマーケティング、オーディエンスターゲティングが、広告主や代理店に主導権を持たせることになった反面、パブリッシャーのマージン低下を招いています。パブリッシャーはどうしたらインベントリーのコントロールを取り戻すことができるのかといえば、DMPを使って、パブリッシャーのデータとクライアントのデータを活用できる場を作ることです。さらに、クライアントが求めるターゲティングのインベントリーが足りないのならば、足りない部分のビジネスをあきらめるのではなく、ターゲットとなるオーディエンスを外から見つけて仕入れればいいのではないか。これがパブリッシャー・トレーディング・デスク(PTD: Publisher Trading Desk *8)であり、パブリッシャーがオーディエンスターゲティングから収益を上げる方法なのだと結んでいます。

パブリッシャーもアドテクとデータで武装し、足りないインベントリーは外部から調達してでもビジネスをしろというのは、前述の「プレミアムパブリッシャーは広告インプレッションではなく、オーディエンスに基づいてビジネスを行うべき」ともつながります。きっとここには答えがあるはずです。

 

 

パブリッシャーよ、団結せよ

なぜオーストラリアはプレミアムパブリッシャーエクスチェンジを構築する必要があるのか
(Why Australia Needs To Build That Premium Publisher Exchange)

広告事業的にAPACから孤立しているオーストラリアのプレミアムパブリッシャー4社(Mi9、Yahoo!7、Fairfax、News)がAppNexusと交渉し、自分たちのプレミアムパブリッシャーエクスチェンジ(*4)を作ろうとしているというExchangeWireの記事。

オーストラリアパブリッシャーエクスチェンジ (APE: Australian Publisher Exchange)は高いフロアプライスが設定された優良なデマンドソースに開かれた集団的エクスチェンジとなり収益を改善させることになるだろう。

デ・グラーフ(オランダのニュースサイト)は、プレミアムパブリッシャーがリアルタイムの取引戦略を考える上でのケーススタディとなる。デ・グラーフは典型的なウォーターフォールアプローチを放棄するために、インベントリーの「オールインワン」のオークションモデルに目を向けた。インダイレクト、ダイレクト、ギャランティといったあらゆるデマンドにインベントリーへのアクセスを与えることにより、デ・グラーフはゆっくりと収入を改善させ、収益を押し上げている。どのように機能しているのか?

 

地元のアドテクプレーヤーと協力することによって、オランダのパブリッシャーはBidderを立て、他のデマンドソースに対抗して自身の在庫に入札するようになった。結果は、入札頻度の増加と、価格設定の高値化をもたらした。この、より高性能の収益最適化は、収入の増加、効率の改善、および市場における需要の全く新しい場所へのアクセスにつながった。

業界ではPTDの解釈をめぐって一部混乱がある。それはセルサイドのトレーディングデスクである。ダイナミックインベントリーを取引するための適切なファーストパーティデータを活用することは、非常に重要なビジネス的課題である。参加する各パブリッシャーは、ダイレクトキャンペーンの戦略と同様に、データ駆動のための独立したトレーディングデスクを考えるべきである。そうしなければ、テーブルの上にお金を残しておくことと同じである。

 

パブリッシャーはインベントリーのサイズが小さければ存在感は無いとあきらめるのではなく、団結してプレミアムパブリッシャーエクスチェンジを作れば良いというのは、バーチカルアドネットワークと似ていると思われるかもしれません。しかし、ここで語られているのは、オーディエンスデータを中心に据えてプレミアムパブリッシャーのインベントリーを再編成し、プログラマティック・バイイングに対峙していこうという決意でもあります。

一方で、記事で語られているデ・グラーフのケースは大変興味深いです。詳細は調べる必要がありますが、パブリッシャーがそれぞれPTDを設置し、互いに入札することで、フィルレートとビッドプライスが向上したということでしょうか。

図2

PTD 2.0: The Next Evolution Of The Publisher Trading Desk

 

 

プレミアムパブリッシャーの次の一手

プログラマティック・バイイングに対するパブリッシャー側からのアプローチをいろいろと考えてきました。日本のパブリッシャーからは、プログラマティック・バイイングの主導権はデマンドサイドにあり、結果を受けとめるしかないとの諦めの声を聞いたこともありましたが、打ち手はたくさんあると思います。プログラマティック・バイイングはデマンドサイドだけのものではありません。良質なコンテンツで、適切なメッセージを適切なオーディエンスに適切な時(Right Audience, Right Message, Right Time)に届けることは、パブリッシャーの役割であり、その広告効果はプログラマティック・バイイングでも変わることはないはずです。自らも武装し、互いに協力し、新しい世界に飛び込むことで、道が開けるのではないでしょうか。

 

用語解説

*1 プログラマティック・バイイング: おもにRTBを介したインプレッション単位、入札ベースの広告の売買。広義には、オーディエンスデータを使って、選択した人向けの広告を売買すること。

 

*2 プレミアムパブリッシャー : 「自身の提供するコンテンツをコアコンピタンスとするパブリッシャー」、「高い広告価値を提供できているパブリッシャー」などいくつかの考え方がある。

 

*3 プライベート・マーケットプレイス、プライベートエクスチェンジ: 売り手、買い手を厳選した広告売買の場(マーケットプレイスまたはエクスチェンジ)。売り手は広告の質、買い手はコンテンツの質を担保することができ、双方のブランドセーフティに寄与する。

 

*4 プレミアムパブリッシャー・エクスチェンジ: プレミアムパブリッシャーがそれぞれの在庫を集約し、良質なコンテンツの広告枠を集めたプライベートエクスチェンジ。

 

*5 ファーストパーティ(オーディエンス)データ: パブリッシャー、クライアントが直接収集したオーディスデータ。データ収集に利用するCookieがファーストパーティクッキーであることに由来する。

 

*6 サードパーティ(オーディエンス)データ:  DSP/Ad Network/Ad Exchangeなど、プラットフォーマーが収集したオーディエンスデータ。データ収集に利用するCookieがサードパーティクッキーであることに由来する。

 

*7 トレーディングデスク、エージェンシー・トレーディングデスク: 「エージェンシー・トレーディングデスクは、DSP やオーディエンスターゲティングを使って、入札ベースのメディアやオーディエンスの広告在庫を管理するシステムを広告会社内で集中的に運用する組織や機能。

 

*8 パブリッシャー・トレーディング・デスク: エージェンシー・トレーディングデスクは、エージェンシーが提供するであるのに対し、パブリッシャーが提供するトレーディングデスク。ファーストパーティデータを駆使して他のパブリッシャーの在庫も含めてオーディエンスの広告在庫を売買するのが特徴。

 

 

ABOUT 宮一 良彦

宮一 良彦

株式会社電通デジタル・ホールディングス ITプロジェクトマネージャー

日本語入力、音声合成、データベースエンジンの開発に従事した後、ベクター 取締役に就任、オンラインソフトの課金システムを開発。また、Netgravity(現 Google)Ad Serverのチューニング、機能拡張等のコンサルティングサービスを提供。CNET Japan Technical Directorを経てサイバー・コミュニケーションズへ。基幹システム開発から海外パートナーのシステム導入とビジネス化を担務し現職。JIAA ユーザー情報取り扱いワーキングループ インフォメーションアイコン実践チームリーダーを兼務。