Interview: TV CMコンテンツも動画広告に活用できる時代に – CMerTV 五十嵐社長インタビュー
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on 2013年4月01日 inTVドラマの無料配信が一般的な米国では、TVと同じCMコンテンツの動画広告が普通にコンテンツの合間に配信されている。一方日本では、複雑な著作権の構造上、TV CMをインターネットで利用することはほぼ不可能と言われてきた。この著作権の問題を、総合広告代理店時代から数年かけて解決し、インターネットにおける企業のブランディング活動の可能性を広げた、CMerTV社長にお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire Japan編集長 大山忍/ライター:鶴田修朗))
「音楽著作権」の使用手続き・料金なしで、動画広告をDSP配信
――CMer TVは、テレビCMを集めたポータルサイトのようなイメージでしょうか。
五十嵐:テレビCMを含め、現在、数百本の動画広告を配信しています。ポータルとしての特徴は、すべての動画広告が消費活動と結びついている点です。例えば「映画」で検索すれば、現在公開中の映画のCMを横並びで視聴できるだけでなく、上映館を表示したり、前売りチケットを購入したりできます。広告を新しい価値基準で並べ、メディア化している点に、ポータルとしての大きな意義があります。
――従来のテレビCMでは、ユーザーは受動的に情報を受け取っていました。しかしCMer TVでは、検索を通じて、ユーザーが能動的にCMから情報を探すことができる形になっている。
五十嵐: はい。ポイント付与型のCM配信サイトもありますが、弊社はそういう事ではなく、純粋に興味のあるCMを比較するなど、積極的な態度で視聴して頂いています。
ただしポータルというのは、我々にとって、1つのサービスでしかありません。例えばどんなCMが視聴されやすいのか、CMのどこでスキップされるのか、消費活動が高いのはどのようなCMなのか、といった知見を得ています。その知見を活用して、それを様々なサイトにDSPとして動画を配信しています。最終的には、動画サイトのプレロール枠やスマートTV、自動販売機やデジタルサイネージ、デジタルシネマなど、オンラインでつながるすべての広告ツールに、配信することを考えています。
――どのくらいのサイトに配信しているのでしょうか。
五十嵐: 現在、約600~800サイトに配信が可能です。300×250のレクタングル枠に「In-Banner」形式で配信しますので、PC上では動画CMを月に数十億回ほど再生できます。スマートフォン上でも、まだそこまでの数字には達していませんが、月に数億回ほどの再生はできます。純広、アドネットワーク、RTBといった、どの商品にも対応できます。
この動画広告の配信サービスを始めるにあたっては、独自で権利処理の仕組みを整えるのに1年半を要しています。JASRACなど音楽著作権管理団体と、動画内で用いられている楽曲の利用に関して包括契約を結びました。
インターネットで音声付きのCMを配信する上で、大きな課題になっているのは楽曲使用に対して発生する著作権使用料の処理の仕方です。この使用料は、インターネットの場合、媒体費や配信数などによって算定された料率金額を広告主が権利者に支払います。
ただ使用申請や、配信回数の集計、料率の計算など多くの手間がかかり、この手間が、ネットで動画広告を配信する際にTVCMと比べてネガティブに思われる原因となっています。
テレビやラジオでは、番組コンテンツ内で使用する楽曲については包括契約を結んでいますが、番組内で流れるCMは、別途に権利処理を申請して広告主が使用料を支払わなければなりません。YouTubeも同じ仕組みです。
われわれはCMそのものをコンテンツとして権利者側と包括契約を結んでいますから、CMerTVのサーバーから配信するCMに関しては、別途に権利処理を申請して広告主が使用料を支払う必要はありません。その手続きはCMerTVが行います。
――つまり御社と契約すれば、いろいろなサイトにDSPで動画を配信した場合でも、申請や別途権利料を支払う必要がない。
五十嵐: はい。簡単に言えば、さまざまなサイトのレクタングル枠に、CMer TVのコンテンツを配信しているという解釈になります。レクタングル枠が、ポータルサイトであるCMer TVの一部として機能するという発想です。
――楽曲以外の権利については、どのように処理をするのでしょうか。
五十嵐: 楽曲以外の権利、例えばCM自体の著作権や著作隣接権、出演者の肖像権などは、制作前の交渉段階で広告主や広告会社が利用範囲を規定する契約をとりまとめる状況になりつつあります。あらかじめネットで配信することを前提に、関係者と契約するわけです。
CMer TVに入稿する動画は、あらかじめこれらの権利がすべて事前に処理されていることが前提です。唯一、事前の交渉・契約ではクリアできないのが楽曲の使用であり、その部分について、われわれが音楽著作権管理団体とで権利処理をする形です。
音声オン状態での動画広告のCTR、音声オフ時の5~15倍
――広告主や代理店の反応はいかがでしょうか。
五十嵐: ポータルは2011年10月から開始して約100社、動画DSPは2012年8月から約160社のクライアントにご利用いただいています。
DSPの広告効果で言えば、成果地点に至ったユーザーへのフリークエンシーが、静止画では10回だったところ、動画では3、4回だったというデータを得ています。
ターゲティングに関しては、通常のDSPと同様ですから、精度の高い配信ができます。スマートフォンにおいても、Android上ではビュースルーコンバージョンを計測も可能です。
動画は自動再生ですので、音声のデフォルト設定についてオン/オフを選択できます。音声オンの状態は、オフの場合に比べ、5~15倍CTRが高くなることが分かっています。今後は、音声オンでの配信にトライしていこうという媒体社も増えていくと思いますし、われわれも開拓をしていきます。
――具体的な成功事例を教えていただけますか。
五十嵐:東映様は、映画の告知で動画DSPを活用されました。映画作品の雰囲気を伝えたり、出演者や映像の魅力をより効果的に伝えるには、同じ動画がよいとご担当者は思われていたのですが、今まではTVCMをそのままネットで配信すると主題歌などの著作権処理が大変で実現が難しかったのです。今回静止画バナーも同時にDSP配信したのですが、動画広告のほうが3倍以上もクリック数が多いという結果がでました。
「ミュゼプラチナム」という脱毛サロンを運営されているジンコーポレーション様は、ウェブでのブランド認知と無料カウンセリング予約のコンバージョン効果の両方を期待されていました。結果として、動画はビュースルー効果※1が高く、静止画よりも少ないフリークエンシーで予約獲得に結びつきました。担当者の方は、ブランドを知らないユーザーに関心を持ってもらい、顧客へ導く動画のチカラを感じたと喜ばれていましたね。
※1広告をクリックしなかったユーザーが、コンバージョンに至った効果
図:動画と静止画のフリークエンシーとコンバージョン数比較
――動画広告のKPIは、やはり動画がどれだけ再生されたかといったことや、コンバージョンを軸に策定する広告主が多いのでしょうか。
五十嵐:コンバージョンに関してはそうです。ただ再生率に関しては、本来、広告主は動画がクリックされることを求めます。しかし、再生中に動画がクリックされれば、再生率は短くなります。ですから最後まで再生される広告が、必ずしも効果の高い広告というわけではありません。
とはいえ、動画広告は、全てを視聴してもらい、広告の役目を全うさせることも大事です。30秒CMなら、30秒間を見切った人の割合は、KPIの1つになると思います。
――そのほかに動画広告を利用する上で、御社が啓蒙したいKPIはありますか。
五十嵐: われわれは動画にマウスをオーバーしたり、音声をオン/オフしたり、ポストインプレッションの計測が可能です。ですので、将来的にはこれらの指数を基に、広告配信に対しての影響を与えた度合いを指標として数値化したいと考えています。動画広告から派生した影響や動きを、ブランド価値の向上と捉えるための指標です。
一方でわれわれから第三者配信をしていますから、「テレビのGRP換算で○×」といったおおざっぱな指標ではなく、ユニークのインプレッション、平均フリークエンシーといった指標もきちんと出していきます。コンバージョン関連では、ビュースルーコンバージョンや、ポストクリックコンバージョン(動画クリック後のインプレッションで発生したコンバージョン)などもご活用いただけます。
――今後、動画DSPはどのように展開していくとお考えでしょうか。
五十嵐:今後はいろいろなネット媒体が動画コンテンツを発信し、そのコンテンツの前後や間にCMを流して収益化したいと求めて、動画DSPがその配信の役割を担う日が近いでしょう。スマートTVが普及すれば、TV画面でユーザーにマッチしたCMがRTBによって配信されるようになることも想定しています。スマートTVが普及する前段階でも、例えばビデオ・オン・デマンドの課金サービスが、有料会員獲得の前段階として、動画を利用した広告モデルを採用する可能性は、十分にあると思います。
――そうした中での御社の課題はどこにありますか?
五十嵐:ようやくバッターボックスに立ったところですから、課題は山ほどあります。中でも重要なのは、テレビCMと比較できる指標づくりです。ナショナルクライアントも興味は持っているのですが、現段階ではマス媒体に比べ、ネットの広告予算は非常に少ない。ネットで動画を流す予算を獲得するためにも、効果をきちんと理解してもらえるような指標をつくる必要があると思います。
ABOUT 大山 忍
ExchangeWire Japan 編集長
米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。
2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。