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インターネット広告の配信に関する課題に向き合おう―ATS Tokyo 2024イベントレポート

デジタルメディアとマーケティング業界の有識者が一堂に会し、業界の最新動向についての議論を行うイベント「ATS Tokyo 2024」が2024年11月22日、都内にて開催された。

 

「インターネット広告の配信に関する課題に向き合おう」と題した本セッションには、
株式会社神戸新聞社 デジタル推進局 データ戦略部 部長 初瀬川 文範氏、株式会社良品計画 オープンコミュニケーション部 長谷部 貴洋氏、popIn株式会社 ディスカバリー事業部 セールスマネージャー 吉田 凌氏、モデレーターとしてExchangeWire JAPAN 編集長 野下 智之が登壇した。

 

ディスカッション形式で行われた本講演では、広告予算の7割がウォールドガーデンに集中している一方、消費者は多くの時間をオープンインターネットで過ごしており、広告予算に大きな偏りが生じているという課題が提起された。

 

モデレーターの野下から「ウォールドガーデンとオープンインターネットの出稿比率は?」という質問に対し、無印良品を展開する株式会社良品計画の長谷部氏は、良品計画は現在、ほぼオープンインターネットへの出稿をせず、ウォールドガーデンに予算を集中していると回答。その理由として
「オープンインターネットは、配信面、配信フォーマットの両方で、適切な場所に広告が表示されるようにコントロールすることが難しいという懸念点があります。具体的に社内で話題になるのは、閉じるボタンが押しにくいインタースティシャル広告や、クリックを促すようなフローティングバナー広告です。これらの配信方法は、我々が意図しているお客様への広告体験とは違うと認識しています。こういった方法で広告が表示されないようにするため、管理のしやすいウォールドガーデンに重点的に出稿しています」
と説明した。

 

株式会社良品計画 オープンコミュニケーション部 長谷部 貴洋氏

 

しかし一方で、長谷部氏はウォールドガーデンであっても管理の難しさに触れ、
「YouTubeで意図しない動画に広告配信されていた事例があり、アドベリフィケーション(広告検証)ツールの導入が早まりました」と報告した。

 

長谷部氏の話を受け、広告枠を販売する媒体社の立場である株式会社神戸新聞社の初瀬川氏は、
「例えば、長谷部氏のお話にあったインタースティシャル広告、フローティングバナー広告について、既存のバナー広告比べ収益が高いという結論に至った場合、『インタースティシャル広告だけ残して、他の広告形式はすべて廃止しよう』という議論になりかねません。実際に私どもの社内で近しい議論を行ったこともありました。しかしながら、出稿側から見ると、望ましくないフォーマットと判断されるケースがあると初めて知りました。このように、出稿者と媒体社で全く逆の考えを持っていたという課題を、改めて痛感しています。」
と、率直な感想を述べた。

 

 

株式会社神戸新聞社 デジタル推進局 データ戦略部 部長 初瀬川 文範氏

 

さらに、モデレーターの野下から株式会社神戸新聞社のPMP(プライベート・マーケット・プレイス)の取り組み状況について情報を求められると
「弊社で運営しているメディアの中では、デイリースポーツが最も取り組みやすいと考えておりまして、オリンピックやWBC、ワールドカップなど、スポーツが盛り上がるタイミングに合わせてしっかりとセールスができるよう、オープンオークションでは実現が難しいフォーマットなどに工夫を凝らし、より魅力的な広告枠の提供に取り組んでいます。」
と報告した。

 

2人の話を聞いて広告配信業者であるpopIn株式会社の吉田氏は、
「配信クリエイティブの審査や配信先メディアの管理について、弊社ではシステム的な対応に加え、人海戦術によるチェックも行い可能な限りの対応を実施しています。
しかしながら、広告配信のエコシステムには広告主、代理店、SSP、DSP、メディアと多くのプレイヤーが携わっています。弊社単体で対応できる部分にも限界があり、やはりオープンインターネットの業界全体として健全化に取り組む必要性を感じています。もちろん、弊社として本件に関する取り組みは最重要事項として認識しており、全社一丸となって最大限の努力をして参ります。」
と、業界全体の課題を述べた。

 

popIn株式会社 ディスカバリー事業部 セールスマネージャー 吉田 凌氏

 

続いてモデレーターの野下から「AIが進化することによって、適切なクリエイティブの選択や、広告配信場所の最適化などが可能になれば、オープンインターネットであっても、安全に広告配信ができるようになるのでは?」という質問に対して、長谷部氏は広告配信業者として、3つの課題を解決できれば、オープンインターネットにおける広告配信はより魅力的になるとし、以下3つの考えを提示した。

1つ目は、配信先が開示されていて、大きなクリエイティブサイズの在庫が豊富であること。
2つ目は、媒体を横断してFQをコントロールができて、パス分析もできること。
3つ目は、同じ指標でもウォールドガーデンとオープンインターネットの違いを見出すこと。

 

3つ目に関しては、ウォールドガーデン内の媒体で動画広告を配信するにあたっても、視聴完了単価で見ると某媒体が安いが、CPCで見ると他媒体の方が安いケースが多いとのこと。このように媒体によって顧客の利用状況が異なる中で、同じKPIで比べて正しく媒体評価ができるのか?ということには疑問があるとし、「こういった視点でオープンインターネットもアプローチできれば、可能性を見出せるかもしれない」と期待を述べた。

 

さらにpopIn株式会社の吉田氏は、
「ウォールドガーデンの話に戻りますが、『ウォールドガーデンは広告表示のコントロールが容易』という話だったと思います。ただ現状、ウォールドガーデンであっても広告効果を可視化する情報を渡し切れていません。我々DSPはウォールドガーデン、オープンインターネットの双方でしっかりとこの問題に対応し、広告主、媒体社ニーズに答えることが、『デジタル広告の活用』ということにおいて重要なのだと考えています」
と述べた。

そして最後、吉田氏はインターネット広告の配信に関する課題に向き合う方法として、パブリッシャー、広告主、プラットフォーマー、そして代理店といった広告に関わる事業者がしっかりと腹を割って話し合うことを提案。
「こういう枠にこういう広告を。このタイミング、このフォーマットで出そう! というような感じで、広告の売り手も買い手も関係なく、広告に関わる事業者の皆様と、今後の広告の方向性やルールを話し合えるといいなと思っています。ATS TOKYOのような場所は、まさに話し合うにはうってつけの場所ですので、ぜひ皆さんお話ししましょう!」
と締めくくった。

ABOUT 町田貢輝

町田貢輝

ExchangeWireJAPAN 編集担当 日本大学法学部法律学科卒業。編集プロダクション、出版社でエンタメ、健康、IT関連の雑誌と書籍の編集・進行管理に従事。2024年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。DX領域のメディア運営全般ならびに、調査研究を担当する。