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パブリッシャーは運用型広告依存からの脱却はできるのか?―ATS Tokyo 2024イベントレポート

デジタルメディアとマーケティング業界の有識者が一堂に会し、業界の最新動向についての議論を行うイベント「ATS Tokyo 2024」が2024年11月22日、都内にて開催された。

 

「パブリッシャーは運用型広告依存からの脱却はできるのか?」と題した本セッションには、株式会社ソシオコーポレーション メディア事業部 Manager 瓦野 晋治氏、株式会社オールアバウト メディアビジネス部 コンテンツR&Dグループ マネジャー 中村 友弥氏、株式会社ハルメク・エイジマーケティング 営業局メディア営業部 部長 兼 生きかた上手研究所 課長 八頭司 尚氏が登壇。パブリッシャーを取り巻く厳しい現状の課題整理や抜本的な打開策の捻出を目指した議論が行われた。

 

瓦野氏は、運用型広告の単価の低下だけに留まらず、SNSやゲームといった他の娯楽に押されて、パブリッシャーが配信した記事が目にされる機会自体が減少していると指摘。一方で多くのパブリッシャーはこれまで記事をオンライン上に公開さえすれば多くのユーザーにリーチできていたため、記事をユーザーに届けて読んでもらうためのマーケティングに関する知見を蓄積できていないという問題に言及した。

 

 

この意見に中村氏も同調。特定の興味を持つ固定ファン層以外に対して情報を届ける手段が極めて限られているとの課題意識を示した。また広告単価については、記事のテーマによっては相対的に高いものもあると主張。しかしながら、SNS投稿内容の切り抜き記事や「コタツ記事」と総称される類は広告単価が低く、広告収益を確保するために広告枠を増加させるという悪手が業界的に慣例化しつつあると述べた。

 

 

これらの見解に対して八頭司氏は、創業当初から書店を介さない直販ビジネスを運営してきたハルメクでは、「ユーザーにいかに情報を届けるか」ではなく、「(既につながっている顧客の)情報ニーズをいかに的確に把握できるか」という点に問題意識が向けられていると説明。この課題に取り組むため、月4000枚規模で寄せられる読者アンケートや自社運営のイベントを通じて読者の声を収集しており、また社内シンクタンク及び内製化されたコールセンター機能といった体制を整備していると伝えた。

 

 

中村氏は、アンケートを含めたリサーチやイベント開催を通じて生活者とつながる場をつくる仕組み作りはオールアバウトでも重視しており、他のパブリッシャーも取り組み得る施策であると指摘。また瓦野氏は記者や編集者といった情報発信者起点で不特定多数のユーザーに情報を届ける「プロダクトアウト型」のパブリッシャーの存在意義はあるとしながらも、そうしたパブリッシャーの事業モデルが苦戦を強いられている現状を鑑みて、ハルメク社の取り組みを参考にできる余地は大きくあるのではないかとの見解を示した。

 

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。