パブリッシャーよ、今こそ団結せよ!-Teadsと合併発表のOutbrain幹部が見た日本市場特有の課題とは[インタビュー]
「OutbrainがTeadsを買収」とのニュースを驚きとともに受け止めた市場関係者は多いのではないだろうか。今秋に来日したOutbrain幹部は、本合併をパブリッシャーが生き残りを図るための重要な戦略の一つであると位置づけている。世界中のパブリッシャーの収益化支援を手掛けてきた同幹部に、合併後の展望と日本市場ならではの課題を聞いた。
(Sponsored by Outbrain)
オープンインターネットを取り巻く環境とは
―自己紹介をお願いします。
Outbrainのグローバル パブリッシャー担当 エグゼクティブヴァイスプレジデントを務めるステファニー・ヒモフと申します。現在はロンドンの事務所を拠点としながら、日本を含めた世界中のパブリッシャーの皆様の収益化支援業務を統括する立場にいます。
―収益化に関して、パブリッシャーは現在どのような課題を抱えていますか。
世界中のパブリッシャーがPV減少やユーザーのエンゲージメント低下に頭を悩ましています。様々な要因が考えられますが、若年世代がSNSに時間を費やすようになったことがやはり一番大きいです。
またプライバシー保護強化に伴い、サードパーティCookieを始めとしたターゲティングやトラッキングに有用なシグナルを取得しづらくなったこともCPMの低下につながっています。
ただし、Outbrainは創業以来、パブリッシャー向けにユーザーのエンゲージメントを高めながら収益を向上させるためのツールを提供することで、総計50億ドル以上(約7700億円)の広告収入を世界中のパブリッシャーに還元してきました。当社が保有するテクノロジーとサービスに磨きをかけることで、この危機を乗り越えていくための支援を引き続き提供していくことは可能であると考えています。
―確かにオンライン広告配信という観点だけに限定しても、各種のSNSプラットフォームの存在感は大きいですね。
先に述べた理由に加えて、ブランドセーフティの確保を理由に、ときに凄惨な事件を取り扱うこともあるニュースサイトへの広告出稿を控え、SNS広告に予算を移している広告主も一定数います。
ただ実際にはSNS上の詐欺広告やフェイクニュースなどが世界中で問題視されていることを鑑みれば、これはやや理解しがたい現象です。対照的に、ニュースサイトであれば、ジャーナリストがきちんと取材をし、ファクトチェックまでを行った記事が掲載されています。実際にProhaska Consultingという調査会社が実施した調査によると、ブランド企業や広告代理店の80%はニュース媒体上のブランディングキャンペーンが高いブランド効果を発揮するとの見解を示しています。
ニュース媒体を始めとするオープンインターネット市場関係者は、自社コンテンツにもっと自信を持つべきです。同時にSNSプラットフォームとの戦いを生き抜くための戦略を立てることも必要となります。
Teadsとの合併で目指すもの
―具体的にはどのような戦略が必要とされているのでしょうか。
まずは一にも二にもオープンインターネット市場関係者同士で結束することが重要です。この構想を具体化するための取り組みの一環として、去る8月にOutbrainは同じくオープンインターネットへの広告配信を行ってきたTeadsを買収することを発表しました。総計約10億ドルといった買収額を始めとする諸条件については両社が既に合意をしており、現在は当局の審査を含む手続きを進めている最中にあります。
これらの手続きが完了次第、2社の本格的な統合を開始することになります。それぞれのオフィスやブランドまたはデータなどをどのように統合していくかまではまだ決まっていません。ただし、少なくとも人員の9割以上は残すことが決定しています。つまり本合併は費用削減ではなく、事業の拡大及び成長のみを目的としたものとなります。
―数年前に貴社はTaboolaとの合併を発表したものの、この計画は頓挫しました。今回も同じような結果となる可能性はないでしょうか。
Taboolaとの合併が頓挫した理由の一つに、TaboolaとOutbrainの事業内容が相似していたため、相乗効果を得られにくいとの見通しが示されていたという点が挙げられます。
一方でTeadsとOutbrainはそれぞれの事業領域が隣接しているものの異なり、本合併が互いに補完的に機能することが期待できます。
Teadsはプレミアムパブリッシャー向けにブランディングに最適な動画ソリューションを提供し、Outbrainは広告パフォーマンス向上とコンバージョン最適化を実現するレコメンドエンジンを強みとしてきました。両社が合併することで、ブランド認知から購買に至るまでのマーケティングファネル全域を網羅することができ、パブリッシャーの収益源が拡大します。
さらに両社合わせて広告主は2万社、パブリッシャーはウェブ、アプリ、CTVなどを含めた1万媒体、さらに20億ユーザーを抱える巨大プラットフォームが誕生することになるのです。
オープンインターネットの課題の一つは多様であるがゆえに分断されていたことにあります。両社の合併を通じて、その統合を推し進めることができます。
SNSの武器をオープンインターネットに
―SNSプラットフォームに対抗すべく、データや広告配信面の規模を拡大していくための取り組みということですね。
さらに加えてSNSプラットフォームが持つ武器をオープンインターネットにも装備する仕組みを用意しました。ご存じの通り、若年世代はInstagramやTikTokを始めとするスマートフォン上の動画体験をもはや生活の一部としています。この体験をオープンインターネット上でも実現するべく、スマートフォン画面に適した縦型動画ソリューションとなる「Moments」を開発しました。
本ソリューションを導入したパブリッシャーのサイトやアプリ上でユーザーが画面をスクロール操作すると、コンテクスチュアルターゲティングを可能とするOutbrainの予測エンジンが最適な縦型動画を選び出します。パブリッシャーが用意した独自動画コンテンツに加えて、YouTubeやTikTokに投稿された動画コンテンツなどをオープンインターネット上のオーディエンス向けに配信することが可能です。
米国とドイツでは既に数十以上のパブリッシャーがベータ版を導入し、2025年には日本市場でも本格的にリリースする予定です。MediaScience社が実施した600人のオンラインユーザーを対象に実施した調査によると、SNSと比較してMomentsの方が長い時間を費やして動画を視聴する傾向にあることが分かりました。SNS特有のフィードを読み流す形式ではなく、興味のある記事を読んでいる最中に関連性のある動画が表示されることになるので、当然の結果であると思います。つまりMomentsを活用すれば、単に見られるだけでなく、ユーザーの記憶と印象に残るという動画広告本来の目的を果たすことが可能になります。
―かなり明確な対抗策を打ち出しているのですね。
オンライン広告市場において、誰を相手にいかに戦うかという点は明確にすべきです。今日のパブリッシャーを取り巻く厳しい環境が醸成されるまでの過程は、ウォールドガーデンの存在を見くびっていたという意味で「トロイの木馬」の物語を彷彿とさせます。今や依存関係に陥ってしまったことで、パブリッシャーは検索アルゴリズム、AMP、インスタント記事などウォールドガーデン側が一方的に設定した仕様に合わせなければ多くのユーザーに記事を届けることが難しくなってしまいました。やはりコンテンツ配信については、パブリッシャーが手綱をしっかりと握り続けていなければならなかったのです。
―具体的にはパブリッシャーはいかに戦うべきなのでしょうか。
欧州市場においては、パブリッシャー同士が連携して政府機関などに対してロビー活動を展開しています。その結果としてウォールドガーデンは多数の訴訟問題を抱えるようになりました。
また英国では、リベラルなガーディアン紙と保守派のデーリーテレグラフ紙が共同してPMPを構築しています。過去に熾烈な競争を繰り広げてきた両社の営業部隊とデータを統合するまでに至ったのです。
翻って、日本のパブリッシャーはいまだパブリッシャー同士の競争に忙殺されているという印象があります。ただし、もはやパブリッシャー同士で戦っている場合ではありません。本当に戦わなければいけない相手はウォールドガーデンです。パブリッシャー同士の結束が今、必要とされています。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。