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「データで消費者を理解してこそのリテールメディア」―国内市場を牽引する楽天はリテールメディア広告の流行現象をどう捉えているのか[インタビュー]

検索、SNSに続く「第三の波」として注目されているリテールメディアは、他のデジタル広告動向と同様に、日本市場で独自の進化を遂げつつあるように見受けられる。その実態について、日本のリテールメディア広告市場を牽引してきた楽天グループ株式会社のコマース&マーケティングカンパニー マーケットプレイス事業 市場広告部 ジェネラルマネージャーを務める春山宜輝氏に話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 長野 雅俊)

 

広告事業立ち上げから安定成長を継続

 

―リテールメディア広告市場の成長が著しいと言われています。規制が強化されつつあるサードパーティCookieの代替手段として購買データに対する注目が高まってきた結果なのでしょうか。

 

「Cookie規制が追い風になってリテールメディア広告市場が成長している」という見方があることは認識していますが、Cookie規制が取り沙汰されるずっと以前から、デジタルマーケティング関係者の間では購買データが重視されてきたと理解しています。

 

他方で、Cookieレスが進行したことにより、当社などが保有するファーストパーティデータとしてのID情報とそのID情報に紐づく様々なデータの活用に対する理解が深まってきたことは事実だと思います。

 

―リテールメディアが業界関係者の間で流行現象と化しているとの実感はありますか。

 

リテールメディアに対する関心が高まっていることには間違いありません。業界内の流行語のようになっていることも実感しています。ただし、リテールメディアを「有効なCookieレス対策」と位置付けた見解や、「リテールメディア元年」といった表現を耳にすると、楽天市場の立ち上げ初期から広告事業を運営してきた当社としてはやや違和感を覚えます。

 

楽天市場には約5万7000店舗が出店しており、競合商品も多くある中で売上を上げるための有効な打ち手の一つとして広告を長らく活用いただいてきました。その結果として、当社の広告事業も安定成長を続けています。

 

―貴社の決算資料によると、今年度の第一四半期の広告売上は前年同期比で7.2%増、第2四半期は同8.4%増でした。流行現象化している分野の成長率としてはやや物足りないように感じられませんか

 

当社は2000年初期より事業を運営し、既に数千億単位の売上がある中で、かつ毎四半期に二桁近くの成長を遂げてきました。直近の成長率についても引き続き高い水準を維持していると受け止めております。また、現在に至るまで日本市場を牽引してきたという自負もあります。

 

―貴社の広告事業においては、オンライン出店者が楽天市場で販売する商品の広告を楽天市場に表示する形式が最も活用されてきました。こうした広告に対する需要は伸び続ける余地があると思いますか。

 

この広告形態はまだまだ成長する余地があると考えており、来年度も本領域への投資を拡大する計画を進めています。

 

なお、楽天市場における検索連動型の広告は、既に出店者様の半数以上にご出稿いただいている状況です。新規のご利用増ももちろんですが、加えて広告出稿がさらに活性化することで、既存広告主様のご利用単価が上がっていくと見込んでいます。

 

―楽天市場内に留まらず、楽天IDを活用して外部の広告プラットフォームに広告を配信する事例もあると聞いています。広告主は、楽天市場外へ広告展開することについてどのような必要性を感じているのでしょうか。

 

事業を一定規模まで拡大させた店舗様は、段々と従来のような成長率を維持するのが難しくなってきます。当社としても様々な施策を通じて楽天市場へとオンラインユーザーを集客しているものの、それだけでは十分でない場合もあります。そこで自社の広告予算を投じて他の広告プラットフォームから楽天市場の自社商品ページへと集客を図る店舗様が近年では増えています。

 

楽天市場とは異なり、そうした外部の広告プラットフォームを通じて接触するオンラインユーザーは必ずしも購買のモーメントにいるわけではありません。マーケティングファネルとしては比較的上位の段階でいち早くリーチするという施策になります。

 

―外部配信におけるデータ連携はCookie規制の影響を受けるのでしょうか。

 

GoogleやMeta社といった大手広告プラットフォームとはID連携をしているので、サードパーティCookie制限の影響はほぼ受けない見通しです。オープンウェブの配信面とはサードパーティCookieを通じて連携していますが、各種の代替ソリューションを活用することで影響を最小限に留める用意をしています。

 

また外部配信においてオープンウェブ媒体が占める割合がそもそも非常に少ないので、当社の広告事業全体に与える影響は極めて小さいと見込んでいます。

 

―楽天市場では取り扱っていない商品やサービスを提供する企業が、例えばブランディング目的などで広告を出稿することはあるのですか。

 

そのような利用形態は一切ありません。楽天市場の中で表示される広告の内容は、楽天市場で取り扱っている商品のみというのが大前提となっています。

 

楽天市場はあくまでもECモールであり、売り場であり、買い物をするための場所です。楽天市場としては、売り物ではないものを宣伝する広告を扱うことはありません。ユーザーのカスタマージャーニーにとって、そのような広告は必要ないと考えています。

 

 

しかしながら、例えばメーカー企業様ご自身が楽天市場には出店していないものの、そのお取引先となる小売事業者がそのメーカーの商品を取り扱っている場合に、広告費をメーカー様が負担することで、お取引先を後方支援するSales Expansionという広告商品の活用事例は増えています。

 

―製造小売業の商流に対する深い理解に基づく広告商品ですね。

 

Sales Expansionは、楽天市場独特の検索結果の表示方法とも非常に相性が良い広告商品です。他の大手ECプラットフォームで検索した場合、シリーズ違いや型番違いの商品は多数表示されるものの、全くの同一商品が2つ以上表示されることはありません。

 

一方で楽天市場の検索結果には、異なる店舗が扱う同一商品が多数表示されます。ユーザーの観点としては、その中から一番お得で、楽天ポイントがついて、一番早く届く商品を選ぶことができるということになります。

 

逆にメーカーの観点としては、自社商品で楽天市場の検索結果をジャックするという手法が使いやすいことを意味します。こうした利用法を促進することを目的として開発したのがSales Expansionであり、多くのメーカー企業様から好評をいただいています。楽天市場の特性をよくご理解いただいているメーカー企業様ほど有効活用いただいているとの印象です。

 

加えて、メーカー企業様が楽天の消費行動分析データを使って外部メディアに出稿する場合もあります。自社のCRMデータが限定的であるために、楽天が保有するデータを活用することで、他の広告プラットフォームへの広告配信に生かすという事例が相当します。

 

日本のリテールメディア広告市場は異質なのか

 

―楽天市場に広告を出稿する部署や担当者とはどのような方たちなのですか。

 

企業様によって様々ではありますが、EC部署またはその中に設置された「楽天担当チーム」のような担当部署が商品の在庫管理や出荷と併せて広告出稿を行っている場合が多くあります。

 

EC事業においては在庫管理や出荷管理が非常に重要です。またユーザーのレビューを見た上で適切かつ丁寧に対応する必要もあります。こうした業務と広告出稿を包括的に行っている事業者様が比較的多いと理解しています。

 

―欧米と日本ではリテールメディア広告市場の様相がかなり異なっているように感じられます。

 

欧米ではWalmartやTarget、CVSといったオフライン店舗を有する企業が、随分と前から自社のECサイトを立ち上げて広告メディア化していきました。彼らはオフラインとオンラインの購買データを活用して効率良いターゲティング広告配信ができる環境を提供し、単なる店舗事業者としてだけでなく、広告メディアとしても事業を拡大しています。

 

翻って日本では大手小売事業者が全国に大きなショッピングセンターや住宅地密接型の小型店舗を展開している一方で、そうした事業者のECサイトの活況は芳しくないように見えます。米国と違い、国土が狭く人口密度が高い日本では、徒歩圏内または車で5~10分ほどでこうしたオフライン店舗に赴くことができます。結果的にEC化率がなかなか上がらないため、リテールメディア広告市場の成熟度合いにおいても遅れをとっているのかと思います。

 

―日本でもWalmartのようなオフライン店舗のリテールメディア化が今後促進されることでより厳しい競争環境になると思いますか。

 

「リテールメディア」という言葉ばかりが先行し、実態としては多くのオフラインの店舗はデジタルサイネージを設置してネットワークで繋ぎ広告メディア化しているというのが現状だと理解しています。こうした形態では、配信方法こそデジタル化しているものの、デジタルサイネージ広告を目にした消費者がその後その商品を手にしたかまたは購入したのかといった点まできちんと把握できる仕組みにはなっていません。手法としてはむしろレガシーなマスメディア広告に近いとの印象を抱いています。

 

消費者が何を探していて、何に興味を持ち、何を買って、その結果としてどんな感想を抱いたのかまでをデータとしてきちんと把握をし、それらに基づいたマーケティングを行うことができてこそのリテールメディアです。

 

楽天市場はそうした要件が満たされた環境となっており、現に事業を着実に拡大しています。ただし、同規模のECプラットフォーマーとの競合環境はあるので全く安堵できる状況ではないことは確かです。引き続き、常に緊張感を持ってサービス改善に取り組んでいきたいと考えています。

 

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。