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ゲームの復調、ファイナンスの躍進、Eコマースの安定成長の裏側にある変化とは―Adjustと日本のアプリ市場を読み解く

大手モバイル計測パートナー事業者である Adjust社が、日本国内のアプリ市場動向を映し出す様々なデータを詰め込んだホワイトペーパーを発表した。アプリマーケターたちは、このホワイトペーパーから何を読み取り、そして今後のマーケティングにいかに生かすべきなのか。同社ゼネラルマネージャーの佐々直紀氏に話を聞いた。

(Sponsored by Adjust)

 

ゲームアプリ市場が復調の兆し

 

―日本国内のアプリ市場動向を示した共同ホワイトペーパーモバイルアプリトレンド2024:日本版を発表するに至った経緯をお聞かせください。

 

Adjustでは、日本のアプリ市場関係者の方々に対して様々な目的で活用し得るベンチマークやインサイトをご提供したいとの思いから、当社がクライアント企業様やパートナー企業様とのシステム連携を通じて取得した様々なデータに基づく独自の調査レポートを毎年発表しています。

 

今年は、アプリ広告主様に対してアトリビューション計測を始めとするデータ提供を行うAdjustと、アプリストアの追跡などを得意とするSensor Towerが、互いのデータを持ち寄り、日本市場の俯瞰的かつ包括的な市場動向を示すレポートを作成しました。

 

当社からは、2022年1月〜2024年3月に取得したデータを対象に、当社が計測する上位3,000のアプリ及びすべてのアプリの合計データを組み合わせた結果などをお示ししています。なお、本レポートに関する私の発言は、AdjustとSensor Tower社の両データに加えて、当社の社員やお取引先などから伺ったお話などを踏まえてはいるものの個人的な見解も含まれている点についてはご承知おきください。

 

―日本のアプリ市場の全体的な傾向をお聞かせください。

 

日本市場全体としては、2023年の日本のアプリインストール数は昨対比で1%減となったものの、2024年初めには再び増加傾向を示しています。一方でアプリ内支出額となると2022年1月以降は全体的にはやや下降気味です。

 

ただし、データをより細かく見ると、目覚ましい成長を遂げているジャンルや指標がいくつもあります。とりわけこれまでアプリ市場を牽引してきたゲームアプリの復調やファイナンスアプリの急成長は好材料と言えるでしょう。

 

―ゲームアプリ市場は近年やや停滞気味と言われてきました。

 

日本のゲームアプリのインストール数は2022年初頭から減少傾向にあったのですが、2024年第1四半期は、2023年第4四半期と比較して18%増加しました。ゲームアプリのダウンロード数ランキングを見ると、「ぽちゃガチョ!」「キノコ伝説:勇者と魔法のランプ」を始めとして中国製アプリが上位を占めており、こうした海外発の新規タイトルが日本市場で人気を集めていることが分かります。

 

資料:モバイルアプリトレンド2024:日本版

 

―一方でゲームアプリ消費支出額ランキングを見ると、「モンスターストライク」や「ウマ娘 プリティーダービー」など日本製のロングタイトルが並んでいて、あまり代わり映えがない印象があります。

 

ランキングだけを目にすると確かにお馴染みのタイトルばかりという印象を受けるかもしれませんが、実態としては大きな変化が起こりつつあります。それはゲームのマルチプラットフォーム化です。既にゲーマーの約半数がモバイル、コンソール、PCといった複数の端末上でゲームをプレイしています。将来的には例えば自宅ではPCで集中的にプレイした後で、電車での移動時間内に経験値稼ぎなどの続きをするといったゲームが台頭するのではないでしょうか。

 

つまりゲーム企業は、これら複数の端末をまたいだユーザージャーニーを理解する必要があるのです。例えば、モバイルではコンバージョンに至らない可能性が高いユーザーでも、PCやコンソールではその可能性が高くなるかもしれません。この動きに応じて、創業当初からアプリ計測を主力事業としてきた当社も、今ではPCやコンソール計測にも注力するようになりました。

 

―ゲームアプリの継続率については昨年からほぼ変化がありませんでした。

 

2023年におけるゲームアプリの1日目の継続率は28%で7日目は14%、そして2023年第1四半期は1日目が27%で7日目が13%なので、数値として見るとそれぞれわずか1%減少したに過ぎません。

 

しかしながら、ほんのわずか1%減少しただけで、LTV全体に対して大きな悪影響を与える場合があります。リターゲティング施策やリエンゲージメント施策を通じて休眠復帰を促す必要性が高まっていることが示唆されます。

 

―ユーザー情報の取得を制限することになったApp Tracking Transparency(ATT)がリターゲティングやリエンゲージメント施策の足枷になっているのではないですか。

 

実は日本全体でのオプトイン率は、前年比23%から24%に増加しており、とりわけモバイルゲームは徐々に増加して2024年第1四半期には30%に達しています。ユーザーが自身に関するデータ利用に理解を持つようになったのかもしれませんし、またアプリ企業も試行錯誤を重ねた上でユーザーからの同意を得るための知見を蓄積してきた結果の表れである可能性もあります。

 

いずれにしても、ユーザーのオンライン行動分析に資するデータを参照した上でオプトイン戦略を構築することが非常に重要です。

 

広告チャネルの選択と集中が進行か

 

―ゲームアプリ市場の復調はアプリ広告市場にはどのような影響をもたらし得るでしょうか。

 

ユーザーがよりゲームアプリを楽しむようになれば、当然ながらマネタイズ機会が増えるので広告予算が増え、さらにはアプリ間の競争もいっそう激しくなるのでより積極的な広告投資が行われるようになります。

 

実際に有料広告によるユーザー獲得の割合が増加しており、2023年から2024年第1四半期にかけて、平均するとゲームアプリ企業は自然流入の2倍強を広告経由で獲得しています。とりわけ広告経由率が高いハイパーカジュアルゲームは自然流入の5.69倍を広告経由で獲得しており、また戦略ゲームは2024年に昨対比で広告経由率が2倍以上となりました。

 

資料:モバイルアプリトレンド2024:日本版

 

ちなみにATTによってユーザー情報の取得が制限されつつあるiOSにおいてもゲームアプリ企業が積極的な広告投資を行ったことで、インストール数の半数以上をiOSが確保していることも注目すべき動向だと思います。

 

―2024年以降は多くのアドネットワーク事業者も広告費増加の恩恵を受けられるのでしょうか。

 

必ずしもそうとは言えないかもしれません。というのも、ゲームアプリあたりのネットワークパートナー数はやや減少しているからです。広告経由のインストール数は増加していることを考慮すると、広告キャンペーンの規模が縮小されたわけではなく、いわゆる広告チャネルの「選択と集中」が進行している可能性があります。

 

「選択と集中」のあり方はアプリごとによって異なるので一概には言えませんが、全体的な傾向として安定した実績を持つ大手プラットフォーマーに寄りがちであるという印象は否めません。ただし、コネクテッドテレビなどの新規媒体を含めた様々なチャネルへ出稿することで取得できるデータを活用ないし精査することによって最適化を図ることができるというのが当社の考えです。広告主様がなぜネットワークパートナー数を絞りつつあるのかについてはもう少し深堀りする必要があるでしょう。

 

ファイナンスやEコマースも成長領域

 

―ゲーム以外で注目すべきジャンルはありますか。

 

日本国内ではファイナンスアプリが目覚ましい成長を遂げています。2022年から2023年にかけてインストール数は27%増加、セッション数も22%増加し、この増加傾向は2024年に入ってからも継続中です。中でも「楽天ペイ」や「PayPay」といった決済アプリが、インストール数の75%、セッション数の76%を占めています。日本国内の法規制への適用などを理由として、このカテゴリでは日本産アプリが独占していることも特徴的です。加えてバンキングアプリの利用も急増しており、過去1年間でアプリを運営する地方銀行様から当社へのお引き合いが増えたと実感しています。

 

さらに消費支出額も過去数年間で大幅に増加しました。これに伴い、日本でのファイナンスアプリのLTVは、グローバルと米国のベンチマークの両方を大きく上回っています。

 

―楽天ペイやPayPayは2024年第1四半期の全カテゴリにおけるダウンロード数ランキングでも上位に入っていますね。

 

はい。TikTokやThreadsといった大手SNSとこれらのファイナンスアプリがほぼ肩を並べている状況です。なお、全体のダウンロード数ランキングの2位はマツキヨココカラ公式アプリでした。これは株式会社マツモトキヨシホールディングスと株式会社ココカラファインが経営統合したことに伴い、アプリも統合したことを受けての結果であると考えられますが、Eコマースアプリ市場全体としても安定した成長を遂げています。

 

とりわけ「dポイントクラブ」に代表されるお得情報アプリのインストール数はEコマースのサブカテゴリーの中で最もインストール数が増加しました。お得情報アプリでは、Androidがインストール数とセッション数の両方で82%を占めていることにも注目すべきです。

 

なお、Eコマースアプリではアプリ滞在時間は年々短くなってきています。できるだけ長い時間にわたりプレイしてもらうことが重要となるゲームアプリなどとは異なり、Eコマースアプリではデザインとユーザー体験が改善された結果であると受け止めて良いでしょう。実際にアプリ滞在時間が短いほどコンバージョン率が高く、購入が完了していると考えられます。

 

―アプリマーケターは本レポートをいかに活用し得るのでしょうか。

 

既に見てきたように、アプリのジャンルやそれに応じたユーザーグループなどによって、注目すべき指標と目指すべき目標は大きく異なります。全体的な業界動向やベンチマークの把握を目的として本レポートを参照いただけたらありがたいです。

 

日本は世界有数のモバイルアプリ市場であり、既に様々な広告チャネルとメディアミックスが用意されています。あとはこれらをいかに使いこなすかです。データプライバシーのフレームワークや規制にしっかり対応し、日々変化していくユーザーの興味や関心や期待に対応すべく、粒度の高いデータを効率的に活用していくことでこれら様々な手段を有効活用していくことができるようになると思います。Adjustは、そのお手伝いをするために今後もテクノロジーとサービスの向上を図っていきたいと考えています。

 

「モバイルアプリトレンド2024:日本版 アプリパフォーマンスのベンチマークとインサイト」のダウンロードはこちら

 

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。