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「分断されたデータを再び集約して容易に分析できる環境を実現」-激動のアプリ広告市場におけるAdjustの新たな存在意義とは[インタビュー]

IDFAとSKAdNetworkに加えてPrivacy Sandboxまでが到来し、さらにデータポイントが増え続けることで、アプリ広告に関するデータ分析は複雑化の一途を辿っている。モバイル計測パートナー事業者(MMP)はこうした市場環境にいかに対応しようとしているのか。来日したAdjust社のCEOに話を聞いた。(Sponsored by Adjust)

 

アプリ市場に待ち受ける明るい未来

 

―改めて自己紹介をお願いします。

 

Adjustの最高経営責任者(CEO)を務めるサイモン・デュサールです。当社はいわゆるアプリマーケターやアプリデベロッパーに対し、広告のキャンペーンの費用対効果を分析するソリューションやデータを提供することでアプリ事業の成長と拡大を支援しています。

 

世界規模で展開するMMPは当社を含めて世界でもわずか数社ほどしかありません。いずれも十数年前のほぼ同時期に創業し、各社それぞれテクノロジーやサービス内容を通じて明確な差別化を図ってきたように思います。

 

当社は3年ほど前からAIと機械学習領域における開発投資を大幅に増大し、関連機能の強化と拡充を図ってきました。またユーザーのプライバシーを保護しながら精緻な計測を行うという難題にも正面から取り組んでいます。

 

―直近の世界的なアプリ市場動向をどう捉えていますか。

 

data.ai(現Sensor Tower)の発表によると、アプリストアの支出額が引き続き上昇し、その額は2023年に世界全体で1710億ドル(約26兆円)です。2030年には2880億ドルに達すると予測されています。

 

つまり、アプリ事業者には今後さらなる成長の機会が用意されています。米国と中国に続き世界第3位の市場規模を持つ日本市場はその恩恵を受けることができるはずです。

 

日本の市場関係者の皆様がこの成長機会を最大限に生かすために当社が何をできるかを探ろうと、私自身が年1回は必ず日本に出張し、市場課題の把握に努めています。

 

―日本市場に特徴的な傾向はありますか

 

2024年7月に発表した当社とSensor Tower社の共同調査結果が示す通り、これまでコロナ禍の巣籠もり需要からの揺り戻しなどを理由に停滞していた日本のゲームアプリが2024年の第1四半期より復調の兆しを見せています。

 

またかつてハイパーカジュアルゲームを開発していたゲーム企業がミッドコアゲームの要素を融合させたハイブリッド形式に移行することで、1年間でリリースする本数を抑制する代わりに一本あたりのLTVがより高いタイトルを増やす傾向が強くなってきました。

 

さらに国内のファイナンスアプリ市場も大幅な伸びを示しています。フィンテック領域は世界規模で急成長を遂げており、そもそもフィンテックという概念ができてから日が浅いのでまだまだ発展途上の段階にあります。安定的な成長を続けるEコマースアプリと合わせて期待できる市場です。

 

機械学習に基づくインクリメンタル分析機能を実現

 

―「AIと機械学習領域における開発投資を大幅に増大した」とのことですが、具体的にはどのような機能を開発したのでしょうか。

 

例えば多くのアプリマーケターが高い関心を持つインクリメンタル分析を容易に行うことができる「InSight」を今春にリリースしました。仮に100万円の広告費を投じて、1万インストールを獲得したとしましょう。それだけだと単純な話ですが、当該キャンペーンからの直接的なダウンロードにつながらなかったとしても、広告を目にしたユーザーが後日自ら検索して見つけ出した結果として5000件のオーガニックインストールにつながった場合は、総計1万5000インストールに貢献したと見なすことができます。もしくは広告を打たずともオーガニックインストールとして獲得できたものが3000件含まれていれば、真の広告効果は7000件となるかもしれません。

 

 

このようなインクリメンタル分析はかねてから必要とされてきた機能であったにも関わらず、適切なテクノロジーが存在しなかったため、これまでは広告代理店が1カ月ほどの時間を費やしてA/Bテストなどを行いながら対応していました。

 

―InSightでは機械的にA/Bテストを行うのでしょうか。

 

従来のA/Bテストに代わって、機械学習と合成コントロール法(Synthetic Control Method)を組み合わせることで95%の精度での予測を実現しました。インストールやROASといった計測対象となる指標や期間を指定すれば、「InSight」の管理画面上にグラフが表示され、どのような広告成果があり、そのうち他施策とのカニバライゼーションに相当する成果がどれほどあるかなどが把握できます。

 

さらに2024年内には同じく機械学習モデルを用いたマーケティング・ミックス・モデリング(MMM)予測機能のリリースも予定しています。こちらは管理画面に今後3カ月にわたる広告予算などの情報を入力すれば、収益最大化に向けてどのようなチャンネルにどのような広告投資を行うべきかというレコメンドを提供します。

 

―ユーザーのプライバシー保護が今後さらに強化されると、各種の分析や予測に必要なデータに不足するのではないでしょうか。

 

当社が本社を置くドイツを含めた欧州地域はプライバシー先進国であり、これまでも一般データ保護規則(GDPR)やデジタル市場法(DMA)といった欧州での法規制の施行後に米国など他の市場が追随しています。この傾向は今後もしばらく続くでしょう。

 

新たな法規制によってどんな課題が生じるかを特定し、その課題の解決方法を提供するという作業を当社は既に幾度も繰り返してきました。個々のユーザーを識別することなく、集合的なデータを機械学習を用いて分析する当社独自の仕組みはそうした成果のあくまで一例に過ぎません。今後どのような法規制が施行されようとも、当社は適切な対応策を用意できる絶対的な自信があります。

 

―ATT施行と併せてアプリ広告業界を揺るがしたSKAdNetworkの現状をどう評価しますか。

 

2024年6月に開催された世界開発者会議(WWDC24)でApple社は、SKAdNetwork5に代わり、当初はサードパーティのアプリストア向けとして公開されていたAdAttributionKitのアップデートを発表しました。

 

SKAdNetworkは過去数年間でかなりの進化を遂げました。しかしながら、現時点での最新版であるSKAdNetwork4.0の普及率はいまだ芳しくありません。その導入から運用に至るまで、大部分のアプリ事業者にとっては荷が重すぎるのでしょう。

 

そこで当社では、SKAdNetworkとAdAttributionKitを使ってできることはすべて当社の管理画面上で容易に実現できるConversion Hubという機能をリリースしています。

 

これからのMMPの役割とは

 

―SKAdNetworkがどれだけ進化したとしても、それ自体では完結し得ないということですね。

 

ユーザーのプライバシーを保護しつつ精緻なデータを得ようとすればするほどその仕組みは自ずと複雑化するので、何らかの形で誰かがデータを取りまとめる必要性が増してきます。

 

思えば、かつてアプリ事業者は広告効果を測定するために、利用するアドネットワークごとにSDKを導入しなければなりませんでした。つまりアドネットワーク数が20種類であればSDKも20種類を導入しなければならなかったのです。このような状況下でMMPが登場し、MMPから各アドネットワークにデータを送信するという仕組みを構築することで一つのSDKに集約できるようになりました。

 

 

ところがいつの間にかデータポイントは再び複雑化の一途を辿るようになり、アトリビューション計測一つをとっても、IDFA取得承認ユーザー、SKAdNetwork、Privacy Sandboxといったプラットフォームごと、またはスマートフォン、コネクテッドテレビ、PC、コンソールといった端末ごとに違いがあり、さらにはサードパーティのアプリストアまで入ってきて計測対象の拡大と同時に分断が進みつつあります。この分断を改めて統一し、容易で統合的な計測及び分析環境を整備することが当社の使命であると考えています。

 

―コネクテッドテレビ広告のアトリビューション計測の現状をお聞かせください。

 

ご存じのようにOTT及びコネクテッドテレビ広告市場は急成長を遂げていますが、世帯視聴やマルチスクリーン視聴といった固有の視聴形態とそれに伴うアトリビューション計測上の課題があります。当社はこの課題に対して、多くのユーザーが視聴中にスマートフォンを片手に持つ傾向があることから、コネクテッドテレビ視聴とスマートフォン上でのダウンロードを紐づける仕組みを開発しました。

 

コネクテッドテレビ広告運用に関する知見も蓄積してきています。例えば100万円をコネクテッドテレビ広告に投じてインストールを5件しか獲得できなかった場合に、かつてはあまり効果的な施策ではなかったという判断に至っていましたが、データを精査すると「アシスト力」と表現できるような、コネクテッドテレビ広告の表示後にインストールに転換した例が多数あることが分かっています。

 

―ゲームのPC及びコンソール計測機能の普及状況はいかがですか。

 

実はゲームのPCとコンソール計測は日本のゲーム企業様のご要望を受けて開発した機能です。当初はあくまでもモバイルアプリとの比較を行うことを主目的としていましたが、今やアプリを持たないPC及びコンソール専門のゲーム企業様にもご活用いただいています。

 

―海外と同じく、日本のアプリ市場にも志を高く持つスタートアップ企業が多くいます。アプリ市場で成功するための秘訣をお聞かせください。

 

日本のアプリ開発事業者の多くは販売市場を日本に特化していると理解していますが、他市場の同業者たちは常に海外展開を視野に入れています。当然のことながら、海外展開は事業拡大に向けての大きな機会です。

 

また日本は広告代理店の影響力が非常に大きい市場です。広告代理店と良いパートナーシップを構築できれば、経営資源をより有効に使うことができるようになるでしょう。

 

いずれにせよ、新規事業を起こすに当たってアプリは最適のプラットフォームであり、日本のアプリ市場は好調です。スタートアップ企業の皆様にはぜひこの機会を生かしていただきたいと思います。

 

―Adjust社としてはどのように成長を遂げていきたいと考えていますか。

 

過去数年間にわたりアプリ業界は激動の時代を過ごしてきました。そしてこれからもさらに大きな変化が待ち受けていることでしょう。アプリ事業者がこれらの変化に対して右往左往する必要はありません。代わって変化の波を吸収し、アプリ事業者の方々がプロダクト開発に集中できる環境を整備するのが当社の役目です。

 

複雑化し分断化してしまったアプリのデータを再び集約して容易に分析できる環境を引き続き構築していきます。そうした環境を整備できれば、ありとあらゆるアプリ事業者が抱える様々な課題を解決することができるはずです。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。