「マーケティングと身体性を考える」-第10回「MCA道場」が開催 [セミナーレポート]
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on 2024年7月18日 in5月21日、一般社団法人マーケターキャリア協会 (MCA)は、東京・渋谷にある株式会社インフォバーンオフィスにて、マーケターのキャリア育成を目的とした「MCA道場」の第10回講座を開催した。
「マーケティングと身体性を考える」と題した本講座では、内海芳雄氏を師範に迎えながら、MCA理事から富永朋信氏も登壇。MCA代表理事の田中準也氏の司会のもと、リテールを一つのキーワードにしながら、マーケターとしての在り方について両者が語り合った。
※詳細な所属・役職等は下記のとおり
(写真左)内海 芳雄氏/株式会社ABEJA デジタルプラットフォーム事業部
(写真中)富永 朋信氏/株式会社Preferred Networks SVP 最高マーケティング責任者
(写真右)田中 準也氏/株式会社インフォバーン 代表取締役社長
師範と師匠、両者の出会いとは
内海氏のキャリアは、株式会社西武百貨店(当時のセゾングループ)からスタート。営業政策部でマーケティングと出会い、その後はそごうの民事再生プロジェクトにも参画。株式会社そごう・西武では販売促進部長も務めたが、そこでデジタルマーケターとしてのキャリアを経験することになったという。
2005年にそごう・西武が株式会社セブン&アイ・ホールディングス(セブン&アイグループ)傘下に入った際には同社へ出向し、グループ統合プロジェクトにも参画した。
2014年の株式会社ロフトへの転籍後は、グループのオムニチャネル戦略に関わるだけでなく、営業開発部長として新規事業開発を担当し、その後は取締役執行役員として営業企画部長、デジタル戦略部長を委嘱され、ロフト独自のDX戦略を牽引・推進してきた。
富永氏は、メーカー3社・流通3社・IT2社・ホテルチェーン1社など9社でマーケティング業務を歴任。そのうち直近の4社では、執行役員としてマーケティング部門責任者を務めてきた。
また、社外では多数の企業や政府系機関に対するブランドコミュケーションやオフィシャル広報アドバイザーなど、様々な支援をおこなっている。
両者の出会いは約10年前にさかのぼり、イベントでメインスピーカーとして登壇した富永氏をユーザーの立場として眺めていたのが内海氏であったという。
内海氏はこの時の出会いを振り返り「強烈な印象だった」と回顧。その場で内海氏が名刺交換へ足を運び、以降は内海氏が富永氏をマーケティングの師匠と称し、関係性を深めてきた。
プランニングだけでは良い結果を導き出せない
モデレーターの田中氏はここで「オーバーシンキング・オーバープランニングの弊害とは」とお題を提示した。
そのお題を受けて富永氏は、自身が籍を置いている株式会社Preferred Networks (および株式会社Preferred Robotics)で扱っている、「カチャカ」を例に挙げて説明。
カチャカは自律移動ロボットで、本体の上に置かれた台(シェルフ)と共に動き、人の声や専用アプリの指示に基づきながらスムーズに室内を移動する製品である。
「カチャカ」使用イメージ
(https://youtu.be/GHl29FQm9AI?si=kBQVKORMton_xDzk)
富永氏は「このロボットの存在やコンセプトは今まで世の中になかったものだと考えられる」と踏まえながら「こういった製品をお客さまや社会に分かるように伝えて、最終的に買っていただくのはとても難しい作業。実際に私を含めた社内のマーケター部隊で緻密にプランニングをしていたが、そのプランニングも実行に移すと穴だらけで修正が必要だった」と話した。
PDCAのうち、Pを過剰にやりすぎてしまうことは、マーケターとしてよく起こり得ることだという。ただし、このオーバープランニング・オーバーシンキングの弊害として、失敗に気付くのが遅くなり、結果として修正も遅くなってしまう。
内海氏も「マーケターの立場でいると、どうしてもプランニングを重視してしまう」と同意し、プランニングだけでは決して良い結果を導きだせないと所感を述べた。また、田中氏も「失敗は出来るだけ小さく済ませたほうが良い」としながら、特にマーケターとしての経験が浅い担当者は自分ひとりで抱えず、周りの仲間たちと共同・共創していく必要性を強調した。
白髪は本当に“真っ白な髪”なのか
メインテーマでもある「身体性」については富永氏が解説をした。
①ZoomやTeamsでミーティングをしている時、②対面で会ってミーティングをしている時、の両者においては②のほうが明らかに情報量は多い。これはスクリーンによって対象と分断されず、五感を通じて情報をキャッチしているからである。
五感を通じて情報をキャッチする=身体的に感じている、という点について富永氏は、店頭で商品を魅力的に見せていくにはどうすればよいかを考える時にも通ずると話す。実際に現場・売り場へ足を運び、その場にいるお客さんやライバルも見たうえで、解像度の高い情報を五感で得ることは、机上では得られない大事な情報となる。
また、大事なポイントとして富永氏は「分かったつもりにならないこと」を挙げた。
「例えば、私の眼鏡の上から見て『あの人は白髪だ』と思考停止するのではなく、もっと懐疑的になってもらいたい。白髪=真っ白な髪ではなく、私をしっかり観察をしてもらえば白だけでなく黒もあるし、グレーもあればそれぞれで色の濃さも違う。細かい単位で物事を観察することで情報量は増えていくので、これを仕事に当てはめれば、仕事を進めていくうえでの糸口や失敗のポイントもより見えてくるようになる」(富永氏)
LOFTが手掛ける究極の衝動買いビジネス
内海氏は富永氏の話を受けて「私が在籍していたLOFTも究極の衝動買いビジネスだった」と振り返り、そのためにVMD(※)にこだわった売り場づくりにも取り組んできたという。
※VMD=Visual Merchandising(ビジュアルマーチャンダイジング)。しっかりと立ち止まってもらうための売り場づくりをしていくこと。
LOFTの価値の源泉は、文具売り場に行けば実際に書けるなど、売り場へ来た人に試してもらうことで、五感や身体性に訴える売り場作りにある。内海氏はこの取り組みを、ビジネスにおける重要な気付きのポイントであったと当時から感じていた。
そのなか、内海氏がLOFTで営業企画部長を担当していた際には、「VMDのプランニングノート」と「実際のVMD」がどうなったかを評価する全社的なコンテストも年1回実施し、会社として継続的に評価をしていく体制も作っていたという。
両者の話を受けて田中氏は「リテール以外で、二人のような気付きや経験を得るためにはどうすればいいのか」と会場へのアドバイスを求めた。
富永氏は「リテールマーケティングほど複雑ではないが、メーカーの商品が買われる理由や使われるユースケースも多面的である」と話し、『戦略ごっこ―マーケティング以前の問題(著作:芹澤連 氏)』を取り上げながら、リテールに取り組まなくても学びの機会を得る方法は多く用意されていることを伝えた。
「人の心はどうすれば動くか」を考える
会場からの質問コーナーでは、若手を中心にマーケターや経営者など様々な立場の聴講者から質問の声が聞かれた。
そのなか「ECはリアル店舗と同じような価値醸成を行うのは難しい。どのような点に気を付けていくべきか」と質問が挙がった。
富永氏は「人が物を買う理由は『馴染みがあるから』『良い物だから』『好きだから』の3段階。それぞれをドライブさせるUXは違うので、ECならばそこも考える必要があるのではないか。ただ、全く馴染みのない商材であれば、典型的なショールーミングを促すカスタマージャーニーも考えるべきだろう」としたうえで「大事なのはHOWではない。タッチポイントは後から考えれば良いので、『人の心はどうすれば動くか』の仮説を作るための情報をたくさん仕入れて、しっかりと考えてみて欲しい」と呼びかけた。
また、新卒1年目の聴講者からは「これから業務に取り組むにあたって意識するべきポイントは」という質問も挙がり、内海氏からは「ABEJAに入社した私自身もそうだが、1年目というのは会社を一番客観視できる時期。私だったらこうしたい、もっとこうしたほうが良いという感覚は大事にしてもらいたい」、田中氏からは「先輩や上司よりも、同じ1年目の同期と仲良くしていただきたい。1年目の同期というのは永遠の絆なので、絶対に大切にしてほしい」とエールが送られた。
ABOUT 柏 海
ExchangeWireJAPAN 編集担当
日本大学芸術学部文芸学科卒業。
在学中からジャーナリズムを学び、大学卒業後は新聞社、法律・情報セキュリティ関係の出版社を経験し、2018年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。デジタル広告調査などを担当する。