Zefr×オプト対談:ブランドセーフティと広告効果をいかに両立させるか[インタビュー]
広告配信先を絞れば広告単価が上がる。ブラックリストを作成してもすぐに古びてしまう。メディア品質を確保するのは決して容易ではない。果たして、広告効果を犠牲にせずにブランドセーフティを実現することは可能なのか。オンライン広告運用の第一線でこれらの課題に立ち向かう2社に話を聞いた。
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ブランドセーフティに基づき広告の最適化を目指す
―自己紹介をお願いします。
ラドン氏: Zefrの共同創業者兼共同最高経営責任者を務めるリッチ・ラドンと申します。
当社は、YouTube、Meta、TikTokといったいわゆるウォールドガーデン向けのブランドセーフティとブランド適合性ソリューションを開発するテクノロジー企業です。これらのプラットフォーム上で表示される広告に隣接するコンテンツのブランドセーフティやブランド適合性に関する計測やレポーティングを行うだけでなく、計測した結果に応じて広告配信を最適化する技術を提供しています。
鴨川氏:株式会社オプトのインテグレーテッドメディアプランニング1部 部長を務める鴨川幹大です。当社はインターネット広告やデジタルマーケティング支援をはじめ、インハウス支援、経営支援、アドテクノロジー支援、そしてLINEミニアプリ開発支援などを通じて、成長志向企業の事業成長を支援してまいりました。なかでも私の部署は広告の認知施策におけるメディアのプランニングなどを担当しています。
上田氏:鴨川と同じ部署でチームマネージャーを務める上田莉沙です。
福居氏:同じ部署に所属する福居愛望と申します。主に、FMCGと呼ばれる日用消費財業界の企業様を担当しています。
―デジタル広告を活用した認知施策ではどのような広告プラットフォームを利用することが多いのでしょうか。
鴨川氏:主にはYouTube、Meta、X、TikTok、TVerで、その中でもYouTubeの占める割合が非常に高いです。テレビCMと連動したクリエイティブをこれらの広告プラットフォーム上で配信するという形態が一般的です。
―今ではMetaやTikTokなどにも対応していますが、それらに先駆けて、Zefr社はまずYouTube広告に対する取り組みから開始したのですね。
ラドン氏:YouTube広告が世界中で広く活用され、かつブランド広告に適したプラットフォームであり、さらにブランドセーフティに関する課題意識がいち早く顕在化したプラットフォームだったからです。
とりわけ2017年にテロリズムや人種差別などを助長しかねない動画に大手企業の広告が表示されていたことが発覚し、Google社は抜本的な対策に乗り出しました。その一つが、不適切なコンテンツの特定と排除を機械的に行う技術を持つ当社との事業提携でした。
新規コンテンツの自動追加で配信規模を担保
―Zefr社のYouTube広告向けソリューションの概要をお聞かせください。
ラドン氏:YouTube広告に対しては、ホワイトリストによるカテゴリ指定ができるZefrターゲティング、より細かなターゲティングができるZefrコンテクスチュアル・ターゲティング、Zefr計測、Zefr MAXといった4種類のソリューションを提供しています。
そのうち最新のZefr MAXはブランドセーフティとブランド適合性を担保しつつ広告のパフォーマンスを最大化するためのソリューションです。ブランドリスクが高い配信面に加えて、広告効果が低い配信面を自動的に排除することでGoogleのアルゴリズムの最適化を支援します。
YouTube広告向けZefr社のソリューション
―ブランドセーフティやブランド適合性の観点から不適切な配信面を排除し、さらに広告効果が低いと見なされた配信面まで排除してしまうと、広告配信規模が極めて限定されてしまうのではないですか。
ラドン氏:確かに広告在庫が限定的な媒体で不適切または不効率な配信面を排除するだけであれば、配信先は極めて少なくなるでしょう。しかしながら、YouTubeが有する広告在庫は膨大です。また当社ソリューションは、不適切または広告効果が低いコンテンツを削除するだけでなく、新たなコンテンツを自動的に追加することで配信規模を確保しています。
つまり旧来の固定的なブラックリストとは対照的に、YouTube上に日々更新される広告在庫の状況と広告主の要望に応じて配信先を常時的に組み替えることができる点に当社ソリューションの強みがあります。
―技術的にはどのような仕組みになっているのでしょうか。
ラドン氏: 広告効果と広告単価については、Google AdsまたはDV360を通じてデータを取得することができます。
そしてご存じのように、広告配信面が多ければ多いほど広告単価は低くなり、逆に広告配信面が限定されれば広告単価は高くなります。そこで当社では、配信面を選別しつつも、広告単価を維持できるように、YouTubeとデータ連携をすることで新しいコンテンツを自動的に取り込んでいく仕組みを構築したのです。
―Zefr社が提供するYouTube広告向けソリューションのうち、オプト社ではいずれを活用しているのでしょうか。
福居氏:まず前者は、面を指定して配信をしたい広告主企業様の要望にお応えするために活用しています。例えば「YouTubeを学習目的で視聴しているお子様向けに広告を配信したい」といった具体的なシーンやモーメントに応じた広告配信を行う際に活用しています。
鴨川氏:サードパーティCookieの利用制限が強化されると、コンテキストターゲティングの重要性は確実に高まっていくと思います。ただし、特定のカテゴリやキーワードに応じてYouTubeの配信面を自力で洗い出すことは、YouTubeの広告在庫が巨大となった今ではもはやほぼ不可能です。そこでZefr社のツールを利用しています。
―Zefr社のソリューションでは、日本語によるターゲティングも可能なのですか。
ラドン氏:最適化エンジンの開発や機能改善に取り組むチームには日本人社員も所属しています。
また生成AI技術の進展により、大規模言語モデルをより有効に活用できるようになったことで、機能は飛躍的に向上しました。例えば当社の英語の管理画面に日本で情報検索を行うと、対応する英語の要約情報が表示されます。つまり現代では言語をまたいだ機械学習を行うことができるようになってきているのです。なお、当社システムが対応する言語の数は100以上に上ります。
福居氏:一方のZefr MAXは適切でない配信面を除外するためのツールとしての位置づけです。ブランドセーフティを重視されている広告主企業様のキャンペーンを実施する際に活用しています。
上田氏:ブランドセーフティの観点に加えて、広告効果が低い配信面を除外する仕組みも高く評価しています。例えばYouTubeから流れる音楽を作業BGMとして流している場合に、動画広告を配信しても視聴される可能性は極めて低いでしょう。こうした配信を除外すれば広告配信効果を鑑みた広告配信が可能です。
さらに近年ではYouTubeをはじめとする動画配信サービスをコネクテッドテレビで視聴することが増えていると思うのですが、例えばご家族で世帯視聴をしている場合、お父様のアカウントでYouTubeにログインすると、お父様向けに配信した広告が実際にはお子さんが視聴するということが発生し得ます。そこでお子様向け配信面の除外設定などを行えば、より適切な広告配信を行うことができるようになります。
―実際にブランドセーフティ施策を実施しつつも広告効果を高めることができたのでしょうか。
福居氏:ブランドリフト調査では、Zefr MAXを活用したキャンペーンにおけるブランドリフト率が非常に高かったです。
上田氏:YouTube本体としても不適切なコンテンツは除外していますし、当社独自でも日本インタラクティブ広告協会(JIAA)のガイドラインやアドベリフィケーション企業様のツールを活用しながらブランドセーフティの確保に努めています。しかしながら、YouTube上に日ごとに大量にアップロードされる動画すべてをリスト対応のみで管理するのは現実的には不可能です。Zefrのような自動化システムがないと対応が追い付きません。
また不適切または不効率な配信面を除外すると、通常は広告配信先が減って広告単価が高騰するのですが、こうした現象は起きませんでした。恐らくZefr MAXが排除すると同時に配信先の新規追加も行っているので広告単価を維持できているのではないかと思います。
グローバル市場との格差
―北米や欧州市場と比較すると、日本市場ではブランドセーフティに対する課題意識が低いといわれています。
ラドン氏:実際に日本市場はブランドセーフティに対する取り組みがやや遅れていると思います。先に申し上げた通り、グローバル市場においては2017年にYouTube広告上のブランドセーフティに関して大きく取り沙汰されました。ところが2019年に私が来日した際には、ブランドセーフティについて関心を示す広告主はほとんどいなかったことが強く印象に残っています。
そしていまやプラットフォームには絶え間なく動画がアップロードされ、残念ながらその中には一定数の不適切なコンテンツが必ず含まれています。ブランドセーフティに関する課題はさらに大きくなりました。米国、カナダ、欧州ではオンライン広告といえばブランドセーフティが最重要課題の一つとなっています。
―日本市場ではどのような広告主がブランドセーフティを重視するのでしょうか。
福居氏:ナショナルクライアント様がやはり多いですね。または医療サービスや薬品に関わる企業様もブランドセーフティを重視する傾向にあります。
鴨川氏:日本ではYouTubeの広告プラットフォームとしての利用が増えてきたのが2017年ごろであり、当たり前に活用され始めたのが数年前だと思います。広告予算に占める割合が増大したことと、アドフラウドの問題がテレビ番組で取り上げられたりしたことなどを受けて、広告が実際にどのような配信面に流れているかについて気にされる広告主は徐々に増えてきたという印象はあります。
あくまで実験的に動画広告を配信する広告主様の関心事項にはならないかもしれませんが、大規模なプロモーションを実施される広告主様はブランドセーフティについて高い関心を示されることが多いです。
―YouTube広告を有効活用するための助言などありましたらお聞かせください。
福居氏:コンテンツごとの視聴者像を正確に把握することが重要です。あとは、YouTubeだけに限っても、今はインストリーム広告だけではなく、YouTubeショートなどもあるため、異なる動画広告形式を組み合わせたり、さらにはコネクテットテレビ画面用とスマートフォン画面用で広告クリエイティブを出し分けたりすることも効果的です。
―オプト社からZefr社に対して何か要望はありますか。
福居氏:日本市場では、YouTube以外にも、TVerやABEMA といった動画広告プラットフォームも急成長しています。YouTubeとは異なり、UGCではなくプロコンテンツを取り扱っているため、ブランドセーフティは担保されますが、配信面のターゲティングの自由度が高くなると、もっと活用シーンが増えそうだと感じています。。
例えば、食品のキャンペーンを行う際に、料理番組や食品情報を扱う番組に加えて、食品をテーマにしたトークバラエティ番組までターゲティングができるようになれば、よりユーザーのモーメントを捉えた配信ができると考えていました。
ラドン氏:データ連携さえすれば、当社の技術を例えばNetflixやHuluにも適用することはできるでしょう。ただし、私たちがYouTube広告に注力してきたのは、これほど大量かつ多様なコンテンツを持つプラットフォームは他にないからです。様々な動画配信プラットフォームが存在しますが、今でも各家庭のコネクテッドテレビ画面に映し出されているのはYouTube動画です。
世界中の広告主が追い求める広告のリーチと効果を最大限に実現する広告媒体として、当社は引き続きYouTube広告向けソリューションへの注力を継続していきたいと思います。
<お問い合わせ先>
Zefr
https://www.Zefr.jp/
E-mail: Zefr@legoliss.co.jp
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。