プレイヤーたちに聞く!デジタルサイネージ広告最前線〜電通MCx室編〜[インタビュー]
by ニュース
on 2024年6月03日 inデジタルサイネージ広告市場はコロナ禍からの回復で市場規模は2019年を超え、特に都内の主要エリアでの大型ビジョンや、小売店でのデジタルサイネージの設置が進み市場が拡大している。3rd Party Cookieの規制が話題になる中で、注目を集めるデジタルサイネージメディア。タクシーサイネージメディア「GROWTH」やオフィス喫煙所サイネージメディア「BREAK」など複数のデジタルサイネージメディアを運営する株式会社ニューステクノロジー代表取締役 三浦 純揮が市場を取り巻くプレイヤーたちにインタビューを行い、今後の市場動向を読み解いていく。
藤井氏プロフィール(写真右):
2004年電通入社。営業局配属を経て、2008年にOOH局へ。
以降、OOHメディア領域にて、メディア担当、グループ会社(国内・海外)出向、DOOH開発、Tokyo2020対応と幅広い分野に従事。
現在はOOH局内でメディア・セールス及びLIVE BOARD事業を統括する。
田中氏プロフィール(写真左):
2022年電通入社。OOH局データ推進部に配属され、OOHメディアのプランニングや効果検証などデータ領域を担当。
今年1月より、MCx室メディアコンテンツデータ開発部に所属。メディア横断の統一指標策定等を進めている。
記事提供:株式会社ニューステクノロジー
電通グループが取り組むメディアコンテンツ改革
三浦:OOHメディアにまつわる状況について、多くのクライアントを抱える広告会社としての目線で色々お話をお伺いできればと思います。田中さんは電通グループの横断組織である「MCx室」にいらっしゃるとお伺いしました。「MCx室」の目的や設立の背景を教えていただけますか?
田中氏:「MCx室」はメディア・コンテンツ・トランスフォーメーションの略称で、簡潔にいうと、メディアコンテンツ領域を担当する各部門の情報・連携のハブとなる横断組織です。
発足の背景としては、マーケティング領域がデジタルシフトする中で、TV・WEB・OOHといった各メディアを横断する統一指標がないことや、グループ全体で好事例が共有されていないことが課題にあり、組織化することでAX・BX領域(※)を強化していくことを目的としています。
(※)AX=アドバタイジング・トランスフォーメーション。BX=ビジネス・トランスフォーメーション。
これまでバラバラに点在していた情報やノウハウを集約して、共通した知見の中でメディアコンテンツを発展させていくイメージです。
「MCx室」の取り組みは大きく4つに分かれています。1つ目に「広告の高度化」として、メディアを横断する統一の評価軸作りやダッシュボードのようなソリューション開発を進めています。2つ目は、媒体社と事業開発を行う「新しいメディアビジネス創出」、3つ目は「コンテンツビジネスのアップデート」です。コンテンツの価値が高まる中で、その価値を可視化するようなソリューション作りや、新たなエンターテインメントビジネスの創出に向けて取り組んでいます。最後が「新しい顧客体験の提供」で、メタバース空間を活用するなど、ただ見るだけの広告でなく、より広告に興味を持っていただける仕組み作りや企画を推進しています。
メディアを横断で評価する指標を作る意義
三浦:ご紹介いただきありがとうございます。1つ1つの取り組みが大規模といいますか、電通グループが本気でメディアコンテンツの改革に向けて推進されていることが理解できました。お二人はOOH局にいらっしゃったということもありますので、単刀直入にOOH広告市場やデジタルサイネージ広告の課題についてお聞きしたいです。よく言われる、出稿効果の可視化だけが課題なのでしょうか。
藤井氏:もちろん、OOHメディアの出稿効果の可視化を求めるクライアントは一定数います。ただそれだけではなくて、OOHメディアの良さはわかっているけれど、実際にOOHメディアが売上・認知・ブランドイメージなど、企業のどの部分に寄与しているのかを把握したいクライアントもいます。また、マーケティングが複雑化する中でメディア全体の中でOOHメディアをどう捉えたらいいか、その指標がないことも課題であると感じています。
では、媒体社でその指標を作ってください、というのもリソース面だったり、広告主ニーズとの調整だったりと、現実的には難しいところです。
そこで、クライアントと媒体社双方に近い立場の我々が、メディア横断で評価できる指標の策定やメディアプランニングの最適化をミッションのひとつとする「MCx室」を設立することで、この長年の課題を解決する第一歩になりうるのではないかと思います。
数値化できない定性面を可視化する必要性
三浦:たとえばデジタルのImp単価が統一指標になると、OOHメディアのImp単価は高くついてしまうのですが、統一する指標はどんなものがいいと思われますか? 何パターンか用意されるイメージでしょうか。
田中氏:広告効果の表現として、間口(リーチ)×奥行(接触効果)で表す考え方があります。全媒体の指標としてどちらも揃えて可視化することが理想ですが、テレビであればパネルデータ、デジタルであれば実数データなど、メディアごとにデータソースが異なりますし、定義や計算ロジックにもバラツキがあるので、指標づくりは正直簡単ではありません。リーチは各媒体社が持っている数値があるので、奥行(接触効果)の指標をどう設定していくかを議論しています。
藤井氏:クライアントによってKPIが違いますし、指標を1つだけに絞ってしまうとクライアントの期待に応えられない可能性も出てきます。複数のKPIがあることを念頭に、指標を何パターンか用意してなおかつ、ブランディングに寄与するような定性的な部分を可視化していく必要があると個人的には考えています。特に世界的に見てもブランディングに寄与すると言われているのがOOHメディアなので、定性的な部分をどう捉えていくかが重要だと思います。
三浦:たしかにおっしゃる通りですね。タクシー広告の広告主も、定量的な側面だけでなく、「タクシーで見たよ」と多方面から連絡が来る、社員のモチベーションが上がるなど、定性的な効果を評価いただくことも多いです。
定量的な広告効果だけで会話するようになると、たとえば『学生時代に見ていたエモいCM』のような、潜在意識に刷り込まれて後々効いてくるようなCMは生まれづらくなってしまう気がします。こういった瞬発的な効果は見えづらいけれど、ブランドイメージに寄与する長期的な効果もぜひ可視化していただきたいです。
ちなみに、広告会社から見てOOHメディアの役割やポジションに変化はありますか?
OOHはSPメディアからリーチメディアへ
藤井氏:そうですね、約20年前でいうとOOHメディアはセールスプロモーションメディアの位置付けでしたが、最近ではテレビ・デジタルに次ぐリーチメディアのポジションです。クライアント側の意識も変化していて、メディアへのこだわりといいますか、メディア同士の垣根が無くなってきていますね。メディアを個々に観測していくというよりは、複数の出稿メディアを総合的に見て効果を判断する流れになっていると感じています。
三浦:『OOHはリーチメディア』という表現は非常に分かりやすいですね。OOHメディアはリアルなシーンで接触するので人の記憶に残りやすい、複数のビジョンを使って街全体を占有できるなどの特徴もありますが、リーチに振り切ることで出稿目的がシンプルになりクライアントが検討し易くなるかもしれません。今後いろんな場所で、第3のリーチメディアと謳っていこうと思います。笑
最後になりますが、OOHメディアに期待することがあれば教えてください。
競争より共創、選択しやすいシンプルな構造へ
田中氏:まず、データ領域に関して、OOHメディアは数が多く指標にもばらつきがあるため、既に進められておりますが、OOH業界としての共通メジャメント策定を期待しています。それによって、広告主もOOHメディアを同一指標で比較できるようになり、より最適なビークル選定がしやすくなると思います。
また個人的に、メタバース空間にもOOHメディアが拡がっていくことに注目しています。今後、メタバースはさらに注目が集まる領域で、OOHは人が集まる所に存在しうるメディアだと思っています。メタバース空間内で、現実ではできない世界観の演出や巨大ビジョンでの放映がなされる事例が増えることを楽しみにしています。
藤井氏:デジタルと違ってOOHメディアは物がある以上、プラットフォーマーによる寡占化が進みづらいんですよね。よって、競争よりも共創といいますか、業界で揃えられるものは揃えていったほうが業界全体にメリットがあるのではないかなと思います。
たとえば、広告主の状況として、出稿を検討するリードタイムが年々短くなっています。デジタルのようにスピーディーに購入・変化に対応できるようになればOOHメディアの大きな武器になると思います。また、広告主の買いやすさの視点で言えば、ビジョンのサイズを統一する、ネーミングを統一するなど、選びやすい工夫がなされていくといいのではないでしょうか。
ABOUT 柏 海
ExchangeWireJAPAN 編集担当
日本大学芸術学部文芸学科卒業。
在学中からジャーナリズムを学び、大学卒業後は新聞社、法律・情報セキュリティ関係の出版社を経験し、2018年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。デジタル広告調査などを担当する。