プレイヤーたちに聞く!デジタルサイネージ広告最前線〜pHmedia編〜[インタビュー]
by ニュース
on 2024年5月24日 inデジタルサイネージ広告市場はコロナ禍からの回復で市場規模は2019年を超え、特に都内の主要エリアでの大型ビジョンや、小売店でのデジタルサイネージの設置が進み市場が拡大している。3rd Party Cookieの規制が話題になる中で、注目を集めるデジタルサイネージメディア。タクシーサイネージメディア「GROWTH」やオフィス喫煙所サイネージメディア「BREAK」など複数のデジタルサイネージメディアを運営する株式会社ニューステクノロジー代表取締役 三浦 純揮が市場を取り巻くプレイヤーたちにインタビューを行い、今後の市場動向を読み解いていく。
※対談・インタビューの参加者は次のとおり。
株式会社pHmedia(ペーハーメディア)奥田 薫 代表取締役社長(カバー写真)
株式会社ニューステクノロジー 三浦 純揮 代表取締役
記事提供:株式会社ニューステクノロジー
ドン・キホーテを運営するPPIHと博報堂がタッグを組む新会社
三浦:デジタルサイネージ広告の界隈では、ここ1、2年で“リテールメディア”の話を耳にすることが増えました。まさしく「pHmedia」は、そのリテールメディア事業をメインとする新会社として、2023年12月に設立されたばかりですが、どのような背景があったのでしょうか?
奥田氏:「pHmedia」は、株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(以下、PPIH)と株式会社博報堂の新会社として設立されました。私の経歴としては、PPIHでドン・キホーテ店舗の店長やMD・マーケティング領域を経験していたのですが、実は約10年前に広告事業を立ち上げたことがありまして。
当時の課題としては、ドン・キホーテの「majica」アプリ会員数が200万人ほどで、アセットが限られていたことと、会員情報の分析や購買データを活用するまでに至っていない状況にありました。また、データを有効活用するにはメーカーと中長期的に取り組む必要がありますが、ドン・キホーテのクライアント窓口はメーカー広域営業がメインで、短期的な視点で議論することが多かったことも課題でしたね。
majicaアプリ イメージ
2024年現在「majica」アプリ会員数が約1,400万人を超え、データを取り扱う専門部署の立ち上げ等があり、社内体制が整ったタイミングで、メーカーと中長期な取り組みをしていくために宣伝・マーケティング部署とのリレーションが豊富な博報堂とタッグを組む運びとなりました。
リテールメディアに付きまとう予算問題
三浦:なるほど。中長期的にメーカーと取り組んでいくために、PPIHさんと博報堂さんそれぞれが持つアセットを活かしたということですね。
リテールメディア事業のハードルとして、結局メーカーの販促予算なのか、宣伝予算なのか棲み分けが難しい、という話をよく聞きます。つまり営業部と宣伝部、どちらの財布(予算)から広告費用を出していくのかということですが、実際のところはいかがですか?
奥田氏:メーカーによっても事情が異なるのですが、営業部と宣伝部の距離が近い会社は施策を進めていく上での話が早いですね。メーカーのマーケティング機能が本社でなく子会社にあるなど、営業部と宣伝部の距離が遠い場合は文化の違いやKPIも異なるため、各部署の文化や考え方に合わせて会話しています。
そもそも社名である「pHmedia」の“pH”はアルカリ性か酸性かを示す尺度なのですが、結果を○か×ではなく、酸性・アルカリ性の反応をみるように、どんな反応になるのかをドン・キホーテの売り場で実験して、良い施策になればドン・キホーテだけでなく他のリテールでも導入していってくださいと伝えています。実験し、広く展開するこの好循環を創出していくことで消費者・リテール・メーカー宣伝部・メーカー営業部の“四方良し”を目指しています。
すでに始まる“リテールメディア疲れ”
三浦:中長期的かつ本質的にメーカーと向き合っていらっしゃるんですね。リテールメディアという言葉自体が広義に使われがちですが、御社では具体的に何を販売しているのですか?
奥田氏:リテールメディアのメニューとして提案するのではなく、メーカーの課題に応じてプランニングしていくケースや、当社のアセットをご説明して、ドン・キホーテ、ユニーで何ができるかを議論していくケースが多いですね。
というのも、すでにメーカーの“リテールメディア疲れ”が始まっていまして。『勧められてリテールのサイネージ広告を流したが効果が見えづらい』『メーカーが欲しいデータ取得がまだできない』という話を聞くようになりました。ですので我々はメニュー提案でなく、メーカーの課題をヒアリングしながら自社のアセットを組み合わせてご提案していくことを大切にしています。
三浦:最近話題になったばかりという感覚でしたが、すでに“リテールメディア疲れ”が起こっているのですね。改めてにはなりますがリテールメディアの魅力について、どのようにお考えですか?
奥田氏:そうですね。メーカーからすると3rd Party Dataが制限されていくことで、より1st Party Dataの重要性が高まっています。1st Party Dataでは、消費者の購買傾向や購買頻度・買い周りの特徴など、3rd Party Dataでは得られない顧客理解に繋がる深いデータを蓄積していくことが可能です。また、若年層を取り込みたい・LTVを伸ばしたいという思いをメーカーもリテール側も持っています。共通課題を持っている者同士で、売り場で実験しながら商品の購買データを積み上げていき、同じベクトルでプロジェクトを進めていける良い関係を構築できることがリテールメディアの魅力の1つです。
ドン・キホーテが店内サイネージに取り組む意義
三浦:ドン・キホーテさんの場合、店舗に新しいメディアを作らずとも既にある顧客データが武器になるかと思いますが、「ドンドンTV」のように店舗に新しくメディアを作ることをどう捉えていらっしゃいますか?店舗が華やかなので、サイネージが埋もれてしまう懸念もあると思います。
奥田氏:「ドンドンTV」の位置付けとしては2つありまして、まず顧客・メーカーに対して新しいチャレンジをしていることのアピール。そして、コスメのビフォーアフターを見せるといった、POPでは伝えきれない情報量を伝えたい時に動画コンテンツは最適です。「ドンドンTV」の活用方法としては、商品の陳列棚とのセット放映、新商品プロモーションなどでの放映、メーカーの営業担当者様が店舗への営業ツールとしても活用しています。
棚とサイネージをパッケージ化した、「ドンプッシュ」も約20店舗で試験的に展開しています。
左画像)ドンプッシュ イメージ、右画像)ドンドンTV イメージ
一方で、三浦さんのおっしゃる通り、現状ではサイネージの設置場所がわかりづらかったり、サイネージのサイズが統一されていないなどの課題があるので、最適化に向けて進めているところです。また、今後の店舗内サイネージについては、総合スーパー「ユニー」での展開も考えています。ドン・キホーテとは業態が違うので、どうすれば多くの方に見てもらえるのかなど、まさに今、博報堂と共にメディア設計を行っています。
三浦:今後も店舗内メディアを立ち上げていく予定なのですね。店舗入り口にサイネージをポツンと置いているだけのケースをよく見かけますが、後付けで設置するとそうなってしまうのも理解できます。サイネージ設置を前提として店舗設計の段階から組み込む必要があるかと思うのですが、ドン・キホーテさんの新店舗でその予定はありますか?
奥田氏:現状で言うと、新店舗での予定はありませんがドン・キホーテ特有のPOP文化や、個店経営を重んじる企業理念とサイネージが共存する形を模索していきたいと考えています。
独り歩きするリテールメディアの正しい姿を示していく
三浦:最後になりますが、今後取り組んでいきたいことはありますか?
奥田氏:「pHmedia」の使命の1つでもある、中長期的にパートナーシップを組むメーカーを増やしていくこと、が第一ですね。実験を重ねながら長期的な視点で取り組んでいくことで、精度の高いフィードバックデータをメーカー側に提供し、四方良しの関係を構築していきたいと考えています。先ほども話に出ましたが、広義の言葉として独り歩きしている「リテールメディア」としての正しい姿を見せることで、リテールメディアの有用な活用方法や本当の魅力をメーカーに理解していただけるよう働きかけていきたいですね。
ABOUT 柏 海
ExchangeWireJAPAN 編集担当
日本大学芸術学部文芸学科卒業。
在学中からジャーナリズムを学び、大学卒業後は新聞社、法律・情報セキュリティ関係の出版社を経験し、2018年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。デジタル広告調査などを担当する。