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PubMaticが語る、リテールメディアとコマースメディアのポテンシャル、そして日本での展開[インタビュー]

インターネット広告市場において、高い成長余地があるリテールメディア市場。SSPグローバル大手PubMaticは、2023年に包括的なコマースメディアサービス「Convert」の提供を開始した。
同社は今後、リテールメディアの広告ビジネスにおける収益化を支援していくために、リテールメディアネットワークの構築を目指していくという。

リテールメディア市場を日本において、今後どのように攻略していくのか。PubMatic Head of Business Development Japan 廣瀬 道輝氏にお話を伺った。

 

(聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下 智之)

 

リテールメディア=欧米はECサイトのメディア化、日本では店舗のDX化

 

―まずはリテールメディアに参入をした理由をお聞かせください

リテールメディアというものが、メディアビジネスであり、SSPである我々の事業領域の延長線上であるということがまず大きな理由です。
日本ではリテールメディアは現在成長初期の段階にありますが、欧米では確立しており、サードウェーブと呼ばれています。1つ目の波は検索連動型広告、そして2つ目がソーシャルメディアです。いまインターネット広告市場では、この2種類でインターネット広告費の70~80%(日本ではそれ以上)を占めていますが、リテールメディアはこれに続く第三の波と認識されています。

欧米ではAmazon、Walmart、Instacartなどのトッププレイヤーに続くように、多数のリテール企業がこぞってリテールメディア化を進めています。この背景は自社の購買データの価値を認識し、高い収益性の広告メディアビジネスとの融合にあります。RetailBizによると 小売業の場合、売上に対する収益率は概ね5~10%程度と言われていますが、広告ビジネスの場合50~80%に及びます。欧米において、リテールメディアは、今に始まった動きではありません。AmazonやWalmartがリテールメディアビジネスを始めたのは、10年以上も前のことです。欧米のリテール企業は、小売業のほかに広告という第二エンジンを持つことで、企業としての収益性と成長性を高めるためのドライバーとしてリテールメディアに取り組んできたのです。

日本では、欧米と比較してリテール企業の低いEC化率を背景に、モバイルデバイスの実店舗への活用が発達しており、リテールメディアは実質、実店舗のDX化のコンテキストで語られることが多くなっています。欧米において、リテールメディアは各リテール企業のECのメディア化、収益化にフォーカスされてきているので、リテール企業のオウンドメディアであるWebやアプリに配信するオンサイト広告、オウンドメディア外のサードパーティー(オープンウェブ、CTVやOTTなど)の広告在庫へ配信するオフサイト広告の双方に力をいれ、配信にあたってはいずれもリテール企業の購買データが軸になっています。これらのデータを接続したオンサイト、オフサイトへの配信、そしてレポーティングは我々PubMaticがいままで扱ってきたものとそう変わりません。

 

 

クッキーレスを追い風に、高まる成長の期待値

 

―リテールメディアは広告主にとってどのようなメリットがあるのでしょうか?

昨今のクッキーレスの問題を背景に、広告主はサードパーティー・クッキーを使わずに、ファーストパーティデータを使った精度の高いターゲティング広告の配信に期待しています。
リテールメディアには2種類の広告主が存在します。1つ目はリテールメディアを展開するリテール企業と直接取引のある広告主、2つ目はリテール企業と直接取引のない広告主です。
直接取引のある広告主は主に消費財メーカーが多いと思いますが、彼らは直接取引をしているので、そのリテール企業が持つ消費者の嗜好、購買実績を基に広告を配信することが自社の商品や製品の販売に直結することを知っています。これはオンサイト配信と呼ばれ、リテール企業の持つECや実店舗内のサイネージなどのオウンドメディア上に、スポンサードプロダクトリスティングやブランド広告などのバナー、動画のフォーマットで訴求されます。

一方、直接取引のない広告主は、主にブランド広告主が多いと思いますが、そのリテール企業が持つ嗜好、購買傾向と自社ブランドに合致すると思われる消費者に対して、オープンウェブやCTV、DOOH等の広告在庫上でアプローチできます。これがオフサイト配信です。もちろん消費財メーカーがオンサイトだけでなくオフサイトの配信を行い、商品の売上だけでなく、新規顧客を獲得するためにファネルを拡げる、またWebサイトだけでなく、オーディオ、CTVなど複数のデバイスにチャネルを拡げることで認知拡大をするなどリテールメディアはフルファネルかつオムニチャネルにアプローチできるところにも広告主は期待しています。

そして、ROIの測定です。どのキャンペーンでどの商品がいくつ、いくら売れたのかがわかるクローズドループ測定というリテールメディアの特長ともいうべきレポーティングを使うことでROIが可視化され、インターネット広告商材としてのパフォーマンスが見えやすいことも広告主の大きなメリットです。
運用上のメリットも大きいと言えるでしょう。プログラマティックが発達している欧米では、リテール企業の購買データを活用するというだけで通常のプログラマティックの延長上で広告運用をすることが出来ます。また、リテールメディアに配信される広告は、リスティング広告やバナー広告がメインとなっており、特殊なフォーマットを新たに用意する必要はありません。このため、従来の検索連動型広告やソーシャルメディア広告からのシフトがしやすく、リテールメディアが伸びる背景にもなっています。

広告主にとって、リテールメディアは基本的にECという場所柄、購買を検討している段階のユーザーに対して広告を当てられるという既にカテゴライズされた広告商材であること、それに加えファーストパーティ・データを使ったターゲティングが活用できるということは、広告として有用です。現代の必要以上に広告を浴びせられている消費者からみても、自身に関連した広告によって、新たなメーカー、ブランドなどに出会う機会が増えるはずです。
リテールメディアは三方よしというメディアだといわれることもあるのですが、リテール企業、広告主、消費者の三社にとってわかりやすいメリットがあることがサードウェーブの所以だと思います。

 

PubMaticのリテールメディア向けソリューション

 

―PubMaticがリテールメディアに提供するソリューションをお聞かせください

当社が2023年にリリースした「Convert」というプロダクトを国内でも段階的にローンチしてまいります。
まず全体像ですが、前述してきたリテール企業の持つファーストパーティーデータを接続する機能、オウンドメディア(Web, App)へ配信するオンサイト広告機能(検索結果に連動するスポンサードプロダクトリスティング広告とバナー、ネイティブ、動画広告)、オウンドメディア外のオープンウェブやCTVなど第三者の広告枠へ配信するオフサイト広告機能をオムニチャネルでサポートし、これらをクローズドループ測定でレポーティングします。
そして、これらの広告を買付できる買付機能をConvertは包括しています。

既にローンチされている機能としては、オンサイト配信の検索連動型広告のスポンサードプロダクトリスティングです。 これはリテールメディアのEC上の検索に連動して広告配信されるタイプの広告です。Boston Consulting Groupによると 欧米のリテールメディアの約70~90% 欧米のリテールメディアの約70~80%がこの広告からの売上です。続いてオフサイト広告配信。これはリテール企業が持つファースト・パーティデータを活用してオープンウェブなど外部の広告在庫に広告を配信し、リテールメディアまたは、広告主のための集客をするというものです。リテールメディアでの広告はダイレクトに広告販売につなげることができるため、商品詳細ページやブランドページに遷移させることが普通です。オフサイト広告配信も然りです。

そして、これからのローンチ予定が、前述したクローズドループ測定機能とオンサイト広告配信機能です。

クローズドループ測定機能:これは当社のプロダクトを通じて配信されたキャンペーンから設定してKPIに応じたパフォーマンスが測定できるものです。

オンサイト広告配信機能:前述のスポンサードプロダクトリスティングもオンサイト配信に含まれますが、リテールメディア内にバナー、ネイティブ、動画などの広告フォーマットを通じてユーザーをサイト内の商品詳細ページ、ブランドページ等に遷移させるタイプの広告です。

 

―サービスの提供形態についてお聞かせください。

レベシェアモデルでの提供が基本となりますので、初期費用はかかりません。契約前の綿密な打ち合わせ後、契約完了致しましたら、「Convert」のアカウント、及び管理画面をご提供します。リテールメディアを運用するリテール企業、コマース企業は、オンサイト広告、オフサイト広告を配信するリテールメディアを立ち上げることができます。
また子アカウントとなるUIを取引先の広告主に提供し、取引先広告主はリテールメディア内で広告運用をすることができるようになります。

 

ミドル・ロングテールレイヤーによるリテールメディアネットワークを展開

 

―日本におけるリテールメディアターゲットはどのように設定されているのでしょうか?

米国と比較し、日本のリテール企業のオンサイトインベントリが限定されていることは日本市場でも認識されていると思いますが、我々が主にご支援する必要があると考えているのは、ミドル・ロングテールに位置するリテール企業です。

リテールメディアをトップ、ミドル、ロングテールとTier分けすると、このうちトップのTierにいるプレイヤーは自社で独自のリテールメディアを構築し、けた外れの投資をし続けています。
ミドルプレイヤーは、リアルの店舗、ECを持ち(もしくはその片方)、それなりのボリュームのデータも持っているが、テクノロジーベンダーと組まなければリテールメディアを構築できないTierと考えており、また、ロングテールのプレイヤーは、データはあるけれども規模感がなく、オンサイトインベントリも少ない、自分たちだけではリテールメディアビジネスに踏み込めないと考えているだろうと想定し、我々の支援を必要としていただけると考えております。

また、Tierだけでなく我々が想定しているカテゴリは、リテール企業だけでなく、マーケットプレイス、D2C,そしてデータプロバイダーの4つを我々のプロダクトを導入頂くことでリテールメディアのプラットフォームとしてお使いいただけると考えています。
マーケットプレイスは自社の商品を取り扱わず、売買のマーケットを提供している企業を指し、D2Cは自社商品だけを取り扱い、消費者に直接販売をしているメーカー、そしてデータプロバイダーは決済や、ポイントなど商品を持たず消費者データを持っている企業です。

 

―導入にあたって、どのような準備が必要になってくるのでしょうか?

インテグレーションに際しての技術的なハードルは高くはありません。未だローンチ前の機能はございますが、既にSaaSとして提供しているものですのでエンジニアの方々とお打ち合わせをさせていただきながらインテグレーションを進めさせていただきます。インテグレーション以前に、どうしてリテールメディアを構築するのか、自社のデータやインベントリに強みがあるのか、リテールメディアビジネス(広告ビジネス)に対しての投資がリソースを含めてどれほどコミットできるのかを話し合うことが先決です。
また、当然データの取り扱いがキモになってきますので、ユーザーに対するデータ活用の同意の取り方なども確認事項です。したがって、規約を変えていただくなどの準備が必要となる場合もあります。自社の資産であるファーストパーティーデータを収益に変換していこうという動きは悪ではありません。これをどこまでイメージしてもらい、リテールメディア化をしていただけるようにサポートするのがPubMaticのリテールメディア領域での役割もひとつだと考えています。

導入をする前の段階で「導入するといくら売り上げが上がるのか?」という問いに対して的確にこたえるのは容易ではありません。当社のプロダクトはツールの一種ではあるものの、リテールメディア自体はリテール企業にとって一事業となります。
そのため、検索窓の検索数や、想定クリックレートとCPMによるシミュレーションを出すことはできますが、自社のデータを付加価値に広告ビジネスを始める以上、インベントリの拡大、提携する広告主とのパートナーシップ、リテールメディアを使って広告主にどれだけのROIを戻せるのかなどを戦略化していき、広告プラットフォームはそこに必要な一要素です。

我々がお手伝いをしたいのは、リテールメディアビジネスをやりたいけどまだ出来ていないようなECサイト事業者です。これを束ねて、リテールメディアネットワークを作っていかなければいけないと考えております。広告主からしても、それが一番買いやすいのではないかとみております。

 

―今後のPubMatcの取り組みについてお聞かせください

まずは導入できれば競争力のあるスポンサードプロダクトリスティング機能の導入と並行して、自社データを収益化したいと考えていらっしゃる企業様とオフサイトへの広告配信のプラットフォームとして使っていただけるようにしたいです。いずれの場合も広告主をパートナーとして獲得する必要があるため、既存の広告チームを活用しながら、もしくは我々PubMaticが取引のある代理店様と組む形で進める場合もあるでしょう。
そして、個人的にやりたいことはロングテールのリテール企業、コマース企業様のデータを統合、インベントリをネットワーク化することが、日本でのリテールメディアに合うのではと考えており、SSPをコアビジネスとする当社がやるべき道筋のような気がしています。

リテールメディアのオフサイト配信は、オープンウェブの繁栄に効果的なソリューションだと考えられます。リテール企業のファーストパーティーデータを使い、クローズドループ測定でROIを測定しながら、オープンウェブのインベントリを買い付けることができるオフサイト配信はブランド広告主、代理店がソーシャルメディアで配信する以上に広告をプレミアムなコンテンツに配信することに繋がるからです。

日本でのPubMaticのリテールメディアの活動はオープンウェブを支える活動に繋がると信じて進めています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。