MADSのデジタルOOHの展望とサードパーティクッキー(3rd Party Cookie)規制後の市場の変化 [インタビュー]
by ニュース
on 2024年4月01日 inMADSは全国で10万以上のデジタルサイネージと呼ばれている多種多様なスクリーンをネットワーク化し、コンテンツや広告の配信を手掛けている。同社が提供するデジタルサイネージ専用のコンテンツマネジメントおよび広告配信システム「MONOLITHS」を利用することで、インターネット上の管理画面で、通行人、来店者など、サイネージ接触ユーザーに対して、場所や時間などを任意指定(ターゲティング)したプログラマティックな配信を可能としている。
2024年には全国の美容サロン向けに「OCTAVE by MADS」の提供も開始した。MADSの取り組みと今後の展望について、同社代表取締役の穴原誠一郎氏に話を聞いた。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 柏 海)
リテールメディアを中心とした基盤の強化
―現在のお取組状況をお聞かせください。
2021〜2022年のコロナ禍で仕込んできたサイネージネットワークの更なる拡大に取り組んでいます。特にリテールメディアについてはコロナ禍でサイネージの設置を大きく広げ、例を上げるとドラッグストアチェーンで最大規模のウエルシア薬局については全国約2,000店舗に対してほぼ導入が完了しており、広告販売も順調に進んで来たと感じています。
従来より手掛けている大手ドラッグストアを中心としたサイネージ広告は2022年以降、一層注目され出しており、今後のcookie規制により、さらに加速していくと考えています。また、消費財メーカーは小売現場における実購買データ、購買に至るまでの行動データやアプリの利用ログなど、小売業者側が独自に収集、所有するデータ=ファーストパーティーデータの活用をより重要視し始めている背景があります。
購買に至る前には、その購買アクションにできるだけ近い(物理的場所、時間軸)場所でコミュニケーションを図ることにより、購買に繋げることが期待できるといった声も多く聞いており、我々の店頭サイネージの効果(POSリフト)レポートが多くのブランドで比較的高い評価を頂けていることもそのひとつの証明かと思います。
―リテールメディア領域ではどのような取り組みが進んでいますか。
広告を単に店頭サイネージで流すだけでなく、何をいつどう出稿すべきかといった工夫や包括体な取り組みが増えており、出稿数もドラッグストアやスーパーなどで200ブランドに到達しています。
例えば、店頭認知だけではなく、そこに至るまでの認知、リーチも確保していくことで、より売上の貢献度を高められると考え、TVCMやSNSのプランニングの支援も行っています。
SNSと店頭サイネージは相性が良く、クリエイターを利用したPR投稿のみに限らず、その素材の二次利用(同じ9:16のサイズで)を店頭のサイネージで行うことで、見たことがあるという再認知や、他者が推薦しているということから瞬間的に興味を抱き購入に至りやすいという結果がPOS(レジの売上)データからも見えてきています。
また同時に複数のクリエイティブを配信し、曜日や時間に加えて、どのクリエイティブが、より売上に影響しやすいかというデータも溜まってきていますので、それを積極的にプランニングに活用しています。
美容サロン専用タブレットメディア「OCTAVE by MADS」をリリース
―デジタルサイネージに関わる直近のお取組状況をお聞かせください。
我々の事業に関連するタクシーサイネージの市場は急速に拡大しました。コロナ禍で著しく落ち込んだ時期もありましたが順調に回復してきています。
その背景には1対1という視聴環境の特性があります。我々は「専念視聴環境」と呼んでいますが、広告やコンテンツの視聴率が高いのが特徴です。
タクシーの平均乗車時間はおよそ18分ですが、これを平均滞在時間が90分とされる美容サロンに置き換えれば、より長い時間でユーザーに多くの体験を与えることが出来ると考えています。同時に動画広告としてだけではなく、コンテンツとして楽しんでいただける工夫も可能です。
また美容サロンは誰もが定期的に訪れる場所です。その美容サロンを、メディアとして進化させることが出来ると考えており、2024年はこのOCTAVE(オクターヴ) by MADSもユーザー、美容サロン、広告主の3方に対して本格展開していきます。
店舗・商業施設のデジタルサイネージが市場拡大の一助に
―サードパーティクッキーの規制が、デジタルサイネージ市場全体に与える影響については、どのように考えていますか。
Cookie規制でターゲティングがしづらくなるとはいえ、広告予算自体が大幅に減少するということは考えにくい。そこで、今まで投下していた予算をどのように使っていくかが課題になると思います。
今後、新しいデータの活用方法、配信、プランニングなども進化してくると思いますが、デジタルサイネージ、デジタルOOHといった個人所有でない、いわば“第三者デバイス”もオンラインでネットワーク化された配信先のひとつとして、選択肢に入って来るのは必然だと考えています。
そういった環境背景から、我々のような配信事業者側が設置面を拡大する動きだけではなく、従来から広告や店舗販促などを展開していたロケーションを保有する企業も手間や人手を効率化できるといったメリットもあり、協業して取り組んでいく傾向も一層加速していくことと思います。
―改めて、今後の展望についてお聞かせください。
デジタルOOHを構成するハードウェアのコストは、同一レベルのモノで比較するとこの10年でおよそ7割程度下落していると言われています。これは技術の進化と性能の向上によるものですが、これが意味するところは導入のしやすさに伴う様々なデバイスの増加です。
広告媒体に限ったことではありませんが、もはやユビキタスネットワークが過言ではない現代では、増加するデバイスはオンラインを前提に構成されていくのは必然で、例を挙げると飲食店などではタブレットでのオーダーや決済などの役割を担っているところも目立ってきました。
弊社はオンラインの配信システムを中心としたマーケティング支援が主たる役割ではありますが、コロナを経た今後の世の中には省人化や効率化を目的として様々な役割をもった個人所有でないデバイスが増加していくことと思います。そしてそこには我々の関与する余地が大きいと考えています。
パーソナルデバイスでのデジタル広告はリターゲティングに始まりターゲティング広告は進化を続け、場合によっては鬱陶しいと感じさせてしまうこともありました。これからの未来の広告では、訪れた先、その時の環境や自分の行動に沿って、価値ある情報に広告という形で出会う、かつて使われたセレンディピティ(自分にとって価値ある偶然の出会い)がデジタルOOHでこそ実現できるかもしれません。
デジタル広告サービス出身の我々だからこそ、そういったサービス創りを目指していきたいと思います。
ABOUT 柏 海
ExchangeWireJAPAN 編集担当
日本大学芸術学部文芸学科卒業。
在学中からジャーナリズムを学び、大学卒業後は新聞社、法律・情報セキュリティ関係の出版社を経験し、2018年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。デジタル広告調査などを担当する。