Index ExchangeのAPAC責任者が語る日本市場の動向予測[インタビュー]
2024年に予定されているサードパーティCookie廃止に向けての準備はもう十分に整備されているのか。日本市場は世界から取り残されていないか。12月8日開催のATS Tokyo 2023に合わせて来日した、Index ExchangeのAPAC担当 マネージングディレクターを務めるアデル・ワイザー氏に話を聞いた。
―クッキーレス進行に対応した環境整備は十分に進んだと思いますか。クッキーレス対策について今後注力すべきポイントがありましたらお知らせください。
過去数年間で様々な対策が用意されたものの、各対策を活用した取り組みが本格化し、大きな変化が起きるのはまさにこれからです。ターゲティングやキャンペーンの効果測定を目的として、Google Chrome上でサードパーティクッキーを活用している事業者はまだ多くいます。大多数の事業者は、最適な代替ソリューションを選び出すために試行錯誤を繰り返している最中にあり、バイサイドとセルサイドの両者に従来とは異なるデータ整備と顧客理解が求められています。
新たな環境へと円滑に移行するには、クッキーレスの進行が及ぼす影響をきちんと理解することが大前提となります。今は実際に試してみて、そして学びを得る絶好の機会です。オープンウェブを通じた新たなユーザー識別そして広告取引のあり方を知ることで、リーチするユーザー数と広告効果を最大化できます。
広告主は、自社が保有するデータと事業目的に合致するソリューションを見つけ出さなければなりません。そのためには、これまで実施したキャンペーンを振り返り、どのようなターゲティングを設定し、どのように効果測定を行ったかなどを見直すべきです。
―サードパーティクッキーを代替する識別子の有力候補を教えてください。
既にかなり多くの代替手段が用意されています。まずは確定ID。ログインユーザーのID情報を使って非常に精緻なターゲティングが可能である一方で、適用できるユーザー規模が限定的であることが課題です。もう一つは推定ID。様々なデータを組み合わせることで各ユーザー情報を構築します。
ユーザーが消費したコンテンツに基づくコンテクスチュアルデータはユーザーの興味・関心に応じたターゲティングに役立ちます。またバイサイドとセルサイドが上手く連携すれば、媒体社が保有するファーストパーティデータも活用の余地があります。媒体社は興味・関心などのセグメントごとに整理されたユーザーに対する精緻なターゲティング環境を装備することできるはずです。この領域は、今後1年半の間に目覚しい進歩を遂げると見込んでいます。
Index Exchageのアデル・ワイザー氏
Googleが開発を進めるプライバシーサンドボックスも検討すべき選択肢の一つです。詳細はまだ明らかになっていませんが、当社は企画検討段階及び実証実験段階からGoogleと連携し、この複雑な新規オークション方式についての理解促進と業界全体に対する周知に努めてきました。プライバシーサンドボックスを効果的かつ広く活用されると同時にユーザーのプライバシーを遵守したソリューションとすべく、当社では多大な投資を行っています。
―コネクテッドテレビ広告の市場動向に関して、日本市場は世界から遅れをとっているのでしょうか。
少なくとも現時点においては、その他の先進諸国と比較して、日本市場は少し遅れを取っています。その理由の一つとして、グローバル企業と国内企業が互いに熾烈な競争を繰り広げているため、エコシステムが分断されている点が挙げられます。また日本のコネクテッドテレビ広告市場においては、タグ設定を前提としたウォーターフォール型の配信管理がいまだ一般的であるという点がやや特異です。ウォーターフォール方式はマニュアル操作を通じた設定変更を行いやすいという利点があるものの、透明性と効率性そして収益性の観点からは理想的な配信方式ではありません。
ただし、「一定の自社管理権限を持ち続けたい」という思いは世界中の媒体社が共通して持っています。とりわけユーザー体験の向上を目的とした自社管理の必要性については、米国、英国、オーストラリア市場で当社と提携する事業者も感じているようです。その結果として、新たな仕組みを試すという機運が高まらないという弊害が生じています。
こうした課題に直面しながらも、日本市場の環境整備は着々と進んでいます。とりわけ広告主の動きは早く、プログラマティック広告取引に対して高い関心を示しています。国内の媒体社及び放送局が、プログラマティック広告取引を行うためのソリューションに対する信頼を高めることができれば、日本国内のプログラマティック広告市場はさらに拡大していくでしょう。必要最低限の管理権限を維持したままで、ユーザー体験を阻害することなく、一斉入札を行うことでより効率的かつ収益性の高い仕組みを構築できれば、日本の放送局は他の先進諸国で活動する同業者に追いつくことができるはずです。
―その他気になる動向についてお聞かせください。
今後はパフォーマンス広告への注目がより高まることが見込まれます。これは日本市場に限った話ではないのですが、広告配信における最適化機能が向上したことで、パフォーマンス広告の効果が高まりました。日本市場ではCPC課金またはCPA課金の採用率が非常に高く、ウォールドガーデンへの出稿が多くなる一因となっています。Cookie廃止後はパフォーマンス広告が大きな影響を受けると見込まれているため、パフォーマンス広告の効果を高める代替ソリューションがより重視されるはずです。
さらなる注目すべき動向としては、サプライパス最適化が挙げられます。パフォーマンス広告への関心の高さとも関係していますが、バイサイドの要望を十二分に反映した、より管理しやすく、より透明性の高いサプライチェーンの構築が求められています。
最後に、企業の買収や合併も引き続き積極的に行われていくはずです。過去数年間だけでも、効率化とサプライチェーンの拡大及び強化を目的として、様々な企業買収と合併が次々と実現しました。グローバル企業と国内企業が絶妙なバランスで共存する日本市場においては、独自の展開が見られるかもしれません。バイサイドとセルサイドの双方の事業者にとって注目すべき観点になると思います。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。