×

アプリマーケターがいま、本当に知っておくべきこと[インタビュー]

アプリ広告業界で仕事をし、イベントやセミナーに参加したことがある人であれば、恐らくまずご存じであろう、Moloco合同会社 日本事業責任者 坂本 達夫氏。

そんな業界認知度抜群の坂本氏の著書、「アプリを使ったビジネスの「ユーザー獲得」から「マネタイズ」まで アプリマーケティングの教科書」(日本実業出版社)が、10月20日に発刊される。

書籍の内容や、これを著した背景について、詳しくお話を伺った。

 (聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下 智之)

 

 

 

-ご著書の概要についてお聞かせください

『アプリを使ったビジネスの「ユーザー獲得」から「マネタイズ」まで - アプリマーケティングの教科書』というタイトルです。
初めてアプリビジネスに触れる初級者から、経験はあるけどより体系的に学びたい中級者ぐらいまでの方を読者として想定しています。
これを読むだけで、スマホアプリのビジネス面に関しては80点ぐらいまで知識がつき、必要な考え方を脳内にインストールできるというものを目指して書きました。

 

-実務家の坂本さんが、なぜ今回筆を執られたのでしょうか。背景をお聞かせください。

 

スマホアプリの開発に関する書籍は多数ありますが、ユーザー獲得やマネタイズといったビジネス面について体系的に学べる教材はほとんどありませんでした。
僕自身、仕事で多くのアプリ企業とやり取りする中で、よく「新人にどうやってアプリマーケ学ばせればいいですか?」と相談されたり、「いつも坂本さんのnote読んで勉強してます」と言われたり (それぐらい教材が無いということ) することが多かったんですよね。

一方で、少なからぬアプリ企業がいまだに、基本的な知識が足りていないせいで、様々な形の損失を被っているのを見てきました。
例えば、広告媒体を同じモノサシで比較できないため最適でない予算配分をしていたり、上手くやれば広告収益を倍にできるチャンスを逃していたり、アドフラウドにお金を垂れ流しているのを見破れなかったり、などです。

その結果、せっかくいいアプリを作っているのにビジネス的に最大限の成果をあげられていなかったり、海外勢にどんどんシェアを奪われてしまってたり、という現状があります。これをどうにかしたい、という思いが執筆の一番の原動力です。

 

-ご著書で坂本さんが最も主張したいことをお聞かせください

表のテーマが「正しい知識をつけて、アプリの成長ポテンシャルを最大限引き出そう」、裏のテーマが「アドフラウド撲滅」ですかね。イケてるアプリを作ることって、めちゃくちゃ難しいです。企画力や技術力だけでなく、アート性だったり、タイミングや運みたいなものも求められます。僕自身も過去アプリを出して大ゴケしたこともありますし、いいアプリ・サービスを作れる人や会社のことをとても尊敬しています。

一方で、アプリのプロモーション(の中でも特にデジタル広告)や広告マネタイズって、セオリー通りにやるだけで誰でも80点ぐらいは取れて、逆にセオリーをハズすと極めて高い確率で機会損失を出してしまう、という性質のものです。80点から100点を目指すには、統計やデータサイエンス、または高品質のクリエイティブ制作といったスキルが必要ですが、80点までは知識をつけるだけで到達できます。

そして80点まで知識がつけば、アドフラウドを見破って「使わない」という意思決定が出来るようになります。アプリ業界のマーケターが全員80点の知識をつければ、理論上はアドフラウド事業者は生存できなくなるはずです。

僕が「あのネットワークはアドフラウドだ」「あの代理店はアドフラウドを売ってる」と糾弾することはリスクが大きすぎるし、自分自身MolocoというDSP企業に勤めてるのでポジショントークだととられかねません。また、新しいアドフラウドが現れた際にもいちいち潰しにいかないといけないです。そんな対症療法をするよりも、日本のアプリマーケターが「知識」という免疫をつけたほうが良いよね、と考えています。

 

-どのような方に対して、最もおススメでしょうか

3つあります。

1つ目はど真ん中、アプリのプロモーションやマネタイズに関わっている方。アプリ企業の中の人に限らず、広告代理店さんも含みます。中でも特に、初めてアプリマーケティングに関わる方には、ドラクエのマップのように最初に手にとっていただきたいですね。もちろん、中級の方がさらに知識を深めるのにもオススメです。

 

2つ目は、アプリを運営している企業のマネジメント層の方。評価すべきポイントや、落とし穴がどこにあるか分からないままでは、リスク管理や目標設定などが難しいためです。日本は特にテレビCMがあるため、大きく調達してアクセルを踏むスタートアップのCMOに、デジタル広告やアプリ広告について詳しくない方が就任するケースが多いように思います。それ自体は別にいいのですが、現場が何をやってるのか分からない、仮にボタンを掛け違えていたときに気付けない、というのは経営上のリスクが大きすぎます。

エンジェル投資やカンファレンス運営などを通じて、スタートアップの経営レイヤーと話すことが多い中で感じている問題意識です。

 

3つ目が、アプリの広告業界に古くからいる方たち。日本製のトラッキングツールや日本発アドネットワークの盛衰、レビューサイトやブースト広告など、古参勢なら「あったなー!」と懐かしくなるであろう固有名詞がたくさん出てきます。

 

-坂本さんのサイン入り本を入手するには、具体的にはどのようにすればよろしいでしょうか

自由人に思われがちな坂本さんですが、普段はめちゃくちゃサラリーマンのムーブをしてるんですよ。ほぼ毎日、渋谷のオフィスに出社していますし。なので事前にSNS等でご連絡いただいた上でオフィスの近くまで来ていただければ、ちょっと仕事抜け出してサインしに行くことは出来ます。もし会社単位とかで10冊以上まとめてご購入いただけたら、社内向けの勉強会を開催する、イベントのゲストとして登壇する、などの特典を相談いただけます。正しいアプリマーケティングの知識を広める、という目的にも合致しますし。

そもそも、サイン要ります...?

 

-今の日本のアプリマーケティング業界における課題はどのようなことがあり、これを解決するには、どのようなことをすべきであるかについておきかせくだい。

色々な課題がありますが、結果として日本という大きな市場において、ユーザーの可処分時間や可処分所得を海外勢に奪われている、というのが最も大きな問題だと思います。しかし、モバイルのOSやアプリの配信プラットフォームなどと異なり、プラットフォーム上のコンテンツについてはまだ逆転が可能です。正しい知識をつけ、マネタイズとプロモーションに正しく積極投資をすれば。
逆にそうしないと、日本人が使っているアプリは海外製のものばかり、日本発で海外で勝つアプリもほぼ無い、となりかねない危機感があります。

あとは繰り返しになりますがアドフラウドの問題ですね。日本は先進国の中でアドフラウドの被害規模が大きく、アプリ企業や、アプリ企業に出資している投資家のお金が、適切に使われないどころか、反社会的勢力に流れてしまっている。

自分に出来るのは、これまで10年以上蓄積してきた知識を、全ての人がアクセスできるようにすることです。アプリビジネスに関わる皆さんに、この本を手にとって知識をつけていただき、明日からのアクションがより正しいものに変われば、ちょっとだけ日本は良いほうに変わると信じています。

 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。