プライバシー強化技術(PET)とは何か?: 広告業界プライバシー対策のネクストステップ
by ExchangeWire.com / Supported by CARTA HOLDINGS on 2023年8月14日 in ニュース
ユーザープライバシー保護と効果的な広告ターゲティングの両立は、デジタルマーケティング担当者にとって常に大きな課題だ。プライバシー強化技術(PET)は、こうしたアドテク業界の祈りに対する答えとなるのだろうか?
トラッキングされ、マイニングされ、売りつけられる。それでも私たちは躊躇することなくデータを提供してきた。実際、私たちが行うほとんどすべてのデジタル行動は、個人データという形で補足され、収益化されている。
過去10年ほどの間に無数の訴訟の基となったデータマイニングとそれを取り巻く倫理観は、ケンブリッジ・アナリティカ・スキャンダルが初めて公になった5年ほど前に、私たちの意識の最前線に押し上げられた。この問題に対するマーク・ザッカーバーグ氏の長く悲痛な沈黙は衝撃的ではあったが、まったく驚くべきことではなかった。
それ以来、データプライバシーやその欠如は、さまざまな記事のヘッドラインに浸透している。最近では、Googleがプライバシーを取り巻く懸念を払拭するため、サードパーティCookieのサポートを来年には停止するというニュースが、熱狂的な盛り上がりを見せている。
アドテク企業は、消費者を保護するために必要な措置を講じると同時に、デジタル広告業界のニーズにも応えるため、どうすればよいのだろうか。
そこで登場するのが、プライバシー強化技術(Privacy Enhancing Technologies、業界内ではPETと呼ばれている)である。
PETは、消費者のプライバシーを守りながら、企業の安全なデータコラボレーションを促進し、顧客インテリジェンスを強化し、データの価値を最大化することを可能にする。昨今のプライバシーをめぐる規制の強化やOS、ブラウザのプライバシー対策の進化を考えれば、プライバシー強化技術が、インターネットサービスの未来を握る鍵となる可能性はかなり高いだろう。
PETとは何か?
「プライバシー強化技術(PET)」とは、デジタル環境のプライバシーとセキュリティを強化するために考えだされた、さまざまなツール群のことである。プライバシー強化技術の主な目的は、プライバシーと実用性の間にバランスを見つけることだ。そのため、個人データの収集や利用に対する懸念に応える有力なソリューションのひとつとして注目を集めている。PETは、広告主と第三者との間で共有される個人情報の量を最小限に留めることで、ユーザーのプライバシーを保護するソリューションだ。具体的な例としては、以下の通り:
データマスキング
データマスキング技術とは、復号化やリバースエンジニアリングに耐性のある難読化データを生成する技術だ。これには元の形式を維持したままデータ値だけを変更することも含まれる。文字列をシャッフルしたり、単語や文字を置換したり、暗号化したりするなど、さまざまな方法でデータを変換することができる。
暗号技術
暗号技術とは、アルゴリズムを用いて機密データを暗号化した上で送信し、目的の宛先に到達した時点で始めて復号化を行う技術である。送信前にデータを暗号化し、受信時に復号化することで、送信者と受信者のみが正しい情報にアクセスできることになる。
なぜ、突然の注目されたのか?
ICO(英国データ保護機関)が最近発表した、プライバシー強化技術に関するガイドラインの影響だろう。ガイドラインによれば、「PETは、革新的で信頼できるアプリケーションを通じて、データ活用に画期的な機会をもたらし、プライバシーを保護しながら機密データを共有し、共同で分析できるようにする」のだという。
広告測定の可能性
近い将来、PETがデジタル広告に統合されれば、ユーザーデータのプライバシーとセキュリティも強化されるだろう。この統合は、すでにいくつかのケースで進行中だ。これらは個人データが匿名化されたままであることを保証すると同時に、ターゲットを絞った広告を適切なオーディエンスに届けることを可能にする。また、広告計測を促進しながら個人データを保護するため、広告計測の領域にもPETが組み込まれる可能性は高い。
PETを広告測定に組み込むアプローチの1つに、「差分プライバシー」の採用がある。この技術は、個人情報を秘匿化した上で、その測定や分析の結果から元のデータを再識別することを防止する。これにより、広告主はユーザーのプライバシーを損なうことなく、キャンペーンの効果を測定することができるようになる。
分散型機械学習の一形態である連合学習(Federated Learning)は、広告測定のもう一つの道を提示する。これはデータを一カ所に集約することなく、多様なデバイスやプラットフォームにデータを分散したまま、分析を行うことを可能にする。この機能により、広告主は個々のデータのプライバシーを維持しながら、さまざまなデバイスやプラットフォームを跨いだ広告エンゲージメントについて貴重なインサイトを得ることができる。
ブロックチェーン主導の透明性
プログラマティック広告に対する消費者の信頼を回復することは、長年、アドテク業界にとって大きな課題だったが、ブロックチェーン技術がその解決の一端を担えるかもしれない。
ブロックチェーンの可能性は大きく、参加者全員が、データ共有システムへ安全にアクセスできるようになる。買い手と売り手は、取引の内容やその詳細について納得できるようになる。プライバシー規制を遵守しながら広告詐欺を排除するために設計された、リアルタイムのプルーフ・オブ・ビュー(閲覧証明)技術と組み合わせれば、可能性は無限に広がるように思える。
しかし、その可能性を語る上でも、ブロックチェーンの普及を阻むいくつかの障壁に触れないわけにはいかない。その最たるものがコストと時間だろう。Martechシリーズでも取り上げたように、ブロックチェーンのトランザクションには最大1.5秒かかる。しかし、デジタル広告に必要なのは、10ミリ秒以内の応答だ。タイミングがすべての広告業界にとって、これはとても深刻なハードルとなりうる。
また、他の販売業種と同様、ブロックチェーンの導入に要するコストは価格に影響を及ぼし、最終的には顧客に転嫁されることになる。そのため、バイヤーからすると費用対効果が低下したように見える可能性がある。
どのような分野であれ、技術が幅広く導入されるまでには時間がかかる。ユーザーデータを利用することで、8,861億9,000万米ドル(~7,112億9,000万ポンド)規模にまで成長したターゲティング広告のアドテクも例外ではない。完全なデジタルトランスフォーメンションの実現に必要なのは、時間だ。
プライバシーの未来
最近では、Appleの新しいプライバシー・マニフェストが、パブリッシャーやアプリ開発者に、ユーザーデータの収集・利用方法についての説明責任を求めるようになった。また昨年には、デジタル広告の技術標準を策定する業界団体IAB Tech Labが、プライバシー強化技術(PET)ワーキンググループの組成を発表している。
これらプライバシーをめぐる諸課題は、ビジネスに対する障害としてではなく、むしろ可能性を拡げるチャンスとして見るべきだろう。なぜなら、さまざまなステークホルダーと、データ分野で協業する機会をもたらしてくれるからだ。
PETはまだ初期段階にあり、私たちはまだ実用的なユースケースを定義している段階だ。だがそこには、アドテク業界にとっての一つのシンプルな真実がある。つまり、技術の進歩を受け入れるのか、取り残されるのか、どちらかひとつだということだ。
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株式会社CARTA HOLDINGS
2019年にCCIとVOYAGE GROUPの経営統合により設立。インターネット広告領域において自社プラットフォームを中心に幅広く事業を展開。電通グループとの協業によりテレビCMのデジタル化など新しい領域にも積極的に事業領域を拡大している。