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アドテクスタートアップから、AIスタートアップ へ―FLUXの今とこれから[インタビュー]

パブリッシャーの広告マネタイズ支援事業者としてサプライサイドでは誰もが知るFLUXは、2023年6月に44億円のシリーズB資金調達ラウンドを実施した

アドテク市場の成熟期において大型資金調達を実現することが出来た背景や、同社の事業戦略について、創業者兼取締役 CBDO 平田 慎乃輔氏および取締役 CRO 齊藤 郁馬氏にお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)

サプライサイドからデマンドサイド、事業DX支援へ

―FLUXの事業について、前回のインタビュー以降、事業において何か新しい取り組みがあればお聞かせください。

平田氏:これまで、ヘッダービディングを皮切りにパブリッシャー様に親和性の高いサービスをご提供することで、事業を拡大してきました。
私たちは、パブリッシャー様の広告枠ベースで総広告リクエスト数では月間600億~800億 という規模のデータを取り扱っています。この膨大なデータ処理・分析技術を活かして、データに関連するDXを推進するビジネスの展開を進めております。

また、我々がデータやAIによる分析のスタートアップとして経営のかじを切っている折にGPT4に代表されるGenerative AIが普及し始めました。これを活用して、パブリッシャー様に向けて、Generative AIを活用したプロダクトを提供する取り組みも進めております。

 

そして、これまで蓄積した技術を生かして、パブリッシャー様はもとより、広告主様向けにもサービスの提供を進めております。

 

当社はアドテクスタートアップから、マーケテックスタートアップ になり、そしてAIスタートアップ へと舵を切りつつあります。

 

 

―広告主向けサービスについて、詳しくお聞かせください

齊藤氏:検討をしている段階ではありますが、大きな形としては広告主によるマーケティング活動において、LTVやROIを最大化させることを支援するデジタルマーケティングスイートのようなものをマーケティングソリューションとして提供してまいります。

このソリューションは、クッキーレスの環境下において、ファーストパーティクッキーに紐づく情報や統計処理された広告出稿・配信・成果までの情報を得ることにより、現状のデジタルマーケティングの効果を追求していくことが出来るようなものです。

このスイートにおいて、4つのプロダクトを展開していく予定です。

一つ目は、FLUXと提携しているパブリッシャー様を連携したアドネットワークです。二つ目はクリエイティブやLPの分析・改善です。そして三つ目はトラッキング技術、そして四つ目はデータ分析支援です。

 

―デジタルマーケティングスイートはいつ頃ローンチの予定ですか?

齊藤氏:既に一部のプロダクトにおいて、PoCを開始しています。7月より段階的に提供を開始し、年内にはマーケティングスイート全体として提供を開始する予定です。

 

―成熟しているアドテク市場環境の中でこれだけの大型資金調達が出来た理由についてお聞かせください。

平田氏:まず我々の売上が右肩上がりで成長を続けているということが大きな理由の一つであると思っております。

我々が提供しているサービスは、パブリッシャー様の売上に直結するものです。我々が創業当初より取り組んできたのは、KGIに直結するようにプロダクトを作り続けるということです。このことが、アドテク市場が成熟し、かつ足元の市況が軟調である状況においても、売上を伸ばすことが出来ている要因であると思っております。

そして、投資元との事業シナジーの観点で評価をいただいたことが挙げられます。
これまでシードとシリーズAで出資をしていただいてきたベンチャーキャピタルに継続出資をしていただきつつも、今回は新たにCVCにも参画いただき、出資をしていただくことになりました。

例えばSalesforce Ventures様、Sony Innovation Fund様、NTTドコモ・ベンチャーズ様などは、各社の企業グループの事業会社とのシナジーも期待できると考えています。これらの企業グループ様は、例えば、広告事業を展開されていたり、あるいはパブリッシャーあるいは広告主の立場で当社との事業シナジーがより広く見られます。

 

齊藤氏:我々はいつもサービス提供をするうえで意識しているのが、「Nice to Have」ではなく、「Must Have」となるようなものを提供するということです。したがって、お客様の売上が目に見えて上がる、あるいはコストが目に見えて下がるといった、しっかりとリアクションがあるようなサービス・プロダクトの開発・提供というところをずっと考えています。

厳しい市況環境であっても、しっかりとつかわれ続けるサービスであるということを投資家の皆さまの目線でご評価いただいた結果、国内外を代表する投資ファンド様から、堅調に成長し続けるスタートアップとしてご評価いただきました。

 

成熟市場における、国内アドテク企業の攻めどころとは!?

―国内の他のアドテク企業は、成熟した業界においてどのようなところを攻めていけばいいと思われますか?

齊藤氏:大きく二つの考え方があると思っています。

一つは、海外のトレンドを国内のマーケットに提供していくのはどのような形がベストであろうかということを考えた上でのアプローチです。

2017年から2018年当時ヘッダービディングの普及率は米国のTop3000パブリッシャーでは80%を超えていましたが、国内では極めて低い普及率でした。なぜ普及が進まないのかというような、マーケット環境のギャップをビジネス機会ととらえてアプローチをするのが良いと思います。

もう一つは、例えばUSではいくつかの企業が出てきている脱炭素時代の広告取引ソリューションのような、明日から目に見えて売上が立つようなものでないものの、大きなグローバルトレンドの中で流れが来るものに張って戦っていくというように、なんらかのスタンスを取って展開をしていくことが重要だと考えます。
どのようなスタンスで、マーケティングテクノロジー、アドテクノロジーの領域に入っていくのかということを、市場の成熟期においては、一度考え直してみるということが良いのではないかと私は思っています。

 

平田氏:グローバルのトレンドを見て、聞いて、日本でローカライズするということが、僕らは重要であると思っています。

FLUXを立ち上げた当時の想いは、グローバルでは評価されているパブリッシャーのマネタイズ担当者が、日本ではそうではないという状況の中で、どうやったらパブリッシャーで本来重要な役割を担っている広告マネタイズ担当者の役割や立場が正当に評価されるかということです。これを追求し続けた結果、顧客であるパブリッシャー様からの支持をいただき、今に至っています、

 

齊藤氏:我々はパブリッシャー様と共にビジネスを創ってきたという経緯があります。現在進めている広告主向けのマーケティングスイートにおいて、パブリッシャー様に収益を還元していくという構想を描いております。

 

平田氏:例えば日本ではなかなか普及していないPMPですが、普及しない明確な理由を掘り下げて分析していると「やり方がよくわからない」、「売り方がよくわからない」という声がよく聞かれます。パブリッシャーに在籍し、各々のメンバーが販売してきたFLUXだからこそ、やり方や売り方を明確にしていきたいと思っています。

メディアが持っているデータのなかで、コンテンツ制作に活かせているものの、広告販売にいかせていないものがあり、ここを掘っていきたいと思っています。

多くのパブリッシャー様は、サイト内でユーザーの視聴行動をトラッキングしているデータを使って、コンテンツをリコメンドしていますが、これを広告でもやっていけると考えております。パブリッシャー様の広告担当者は、社内での立場があまり強くない傾向が多く、また人数が少ないため日々の業務に追われがちで、このようなことをするのがなかなか難しいとお聞きしますが、我々がテクノロジーでその一部をご支援することで業務効率化を図り、本来パブリッシャー様しかできないことにより時間を割いていただければという想いがあります。

 

 

齊藤氏:パブリッシャー様、広告主様、DX化をご支援している事業会社様を含め、データとAIを駆使してエンハンスしていくビジネスをするということには変わりがありません。

 

―資金調達したお金の用途についてお聞かせください

平田氏:既存事業の発展のためというものについては、申し上げるまでもありません。パブリッシャー様向け、広告主様向けのサービス拡大のための投資をしてまいります。

また、新しいところでは我々がアドテク領域で取り組み、得ることができた技術やデータを活かして他領域でのサービス展開にも投資していきたいと思っています。

従来のアドテク企業という枠から、データ・AIといった領域にしっかりと入っていき、世の中の認知を広げていきたいと考えております。特に予測分析・自然言語処理・大規模言語モデルといったAI技術への投資は続けていかなければいけないと考えております。

さらに事業規模が拡大するにつれて取り扱うデータ量が増えてくれば、膨大な処理数が必要となります。データを処理してアウトプットをしていくというところがさらに必要となるため、R&Dの促進が必要となってまいります。

また、今後は当社の事業領域において、機能を補完・補強のための国内外企業のM&Aも視野に入れております。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。