出店店舗の売上促進に寄与する「楽天市場」広告の取り組み[インタビュー]
コロナ禍での生活様式の変化は、各ECサイトに大きな売り上げをもたらした。その後、日常を取り戻す中で、EC業界の成長の鈍化も予想されたが、「楽天市場」の勢いは未だ衰えを見せていない。
好調を維持する楽天グループでは、「楽天市場」の出店店舗にどのようなサービスを提供しているのだろうか。2022年の振り返りとして、広告プロダクトの現状や今後の注力領域について、楽天グループ株式会社 コマース&マーケティングカンパニー マーケットプレイス事業 市場広告部 ジェネラルマネージャー 春山 宜輝氏に話を伺った。
(聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下 智之)
(ライター:同 渡辺 龍)
2022年7-9月期の収益は前年同月比18%増
-「楽天市場」のビジネスの現状についてお聞かせください
楽天の国内EC流通総額※は、2021年は5.0兆円を突破し、2022年は5.6兆円と高い成長を維持しています。「楽天ポイント」を軸としたユーザーのリテンションや、各サービスのクロスユースが非常に好調に推移しています。楽天モバイルユーザーの「楽天市場」利用率も非常に高くなっており、「楽天市場」の流通を大きく押し上げるとともに楽天グループ全体の成長を牽引してくれています。コロナ禍ではECの需要がこれまでになく拡大しましたが、全体のグループ戦略が上手く機能しており、「楽天市場」を中心に引き続き堅調に成長できています。
※国内EC流通総額(一部の非課税ビジネスを除き、消費税込み)=市場、トラベル(宿泊流通)、ブックス、ブックスネットワーク、Kobo(国内)、ゴルフ、ファッション、ドリーム、ビューティ、Rakuten24 などの日用品直販、Car、ラクマ、Rebates、楽天西友ネットスーパー、クロスボーダートレーディング、等の流通額の合計。
-「楽天市場」における広告事業の売上はどのようになっているのでしょうか
楽天グループにおける7-9月期の広告事業の売上収益は442億円で、前年同月比で18%増となりました。各国のデジタル広告が若干マイナストレンドになってきている中でも、当社は幸いプラスで成長できています。「楽天市場」広告単体での売上実績も、実数の開示はしておりませんが、大変好調に推移しております。
―「楽天市場」の広告プロダクトについて、直近での動きがあればご紹介ください
「楽天タウンミーティング」や「楽天EXPO」などで、店舗さまにご紹介している代表的な広告プロダクトとして「RPP」(検索連動型広告)があります。非常に多くの店舗さまに使っていただいているプロダクトですが、店舗さまからは、入札する際、検索結果ページの何番目に表示されるのかを知りたいという要望がありました。また、必要以上に入札をすることがないように、掲載状況に応じて適切な入札をしていただけるようにレポート提供を開始しました。また、店舗さまの取り扱い商材に合わせた関連キーワードのお勧めもしていけるよう、現在一部の店舗さまにご協力をいただきながらテスト運用しており、今後全店舗さまに活用いただける機能としてリリースいたします。
また、「TDA」(ターゲティングディスプレイ広告)は、今までビューアラブルインプレッションあたりの単価が固定でしたが、店舗さまからの声を踏まえて、8月から入札制度へ移行いたしました。今では過半数の店舗さまが入札によって露出機会を増やしており、また同時にロジックの改善も行ったことで広告効果にもご満足いただきながらご利用いただいている状況です。今後も目安入札単価など店舗さまの運用を支援する機能をリリースする予定です。
広告経由のGMS成長率は楽天市場全体のGMS成長率を超える
-「楽天市場」の店舗販促の取り組みとして、直近での成功事例をご紹介ください
先ほどご紹介した「TDA」の例では、掲載した広告商品を購入したユーザーの内、約半数以上のユーザーがその広告バナーに接触したのち、「楽天市場」のサーチ上でその商品名やカテゴリー名で検索をして商品購入に至っていることが分かりました。このユーザー行動はある程度予測はしておりましたが、半数以上という実績には我々も驚かされましたし、数時間以内の行動もあれば、2か月後に起きているケースもあることが分かりました。もちろん、全ての広告キャンペーンに対してお約束できるわけではないですが、このユーザファネルに沿ったマーケティング施策とその効果を店舗さまと共有することで更なる流通拡大のお役に立てると考えております。また、広告クリエイティブやターゲティングのセグメント内容、実施キャンペーンなど様々なABテストにご活用されている店舗さまも多くいらっしゃいます。今までの楽天市場での広告プロダクトでは非常にやり辛かった部分でもあるので、多くの店舗さまにご満足いただけている部分であると考えております。こういった新しいプロダクトのご提供だけでなく店舗さまの創意工夫によって、広告経由のGMS成長率は楽天市場全体のGMS成長率を超えるほどの結果に結びついております。
加えて、毎月18日に、「楽天市場ショッピングチャンネル」というライブコマースのイベントを開催していますが、これも非常に盛り上がってきており、毎月売り上げのレコードを作っている状態です。注目すべき点は、単純に売り上げを作れるというわけではなく、ライブコマースにおける購入者の新規率が40%もあったということです。全ての店舗さまにこれに当てはまるわけではなく、あくまで平均値ですが、これは我々としても驚きの結果でした。店舗さまには新しい販売スタイルによるワクワク感と新規顧客の獲得のチャンス を、またユーザーには新しいショッピング体験を提案できており、非常に重要な取組みだと考えています。2023年は、開催頻度をより上げていきながらこのような動きをどんどん加速していきたいと考えています。
―ライブコマースの枠はスポンサー枠として提供しているのでしょうか
今は無償枠でご案内しています。それもあってか、おかげさまで申込が殺到しているので現在は抽選という形を取っています。ただ当社としても商品ジャンルが偏らないように気をつけています。
―売上に繋がる定石のようなものはあるのでしょうか
昔は、一定のスタイルから逸れたものは売れないのではないかと思っていたのですが、今ではその考えは完全に覆されました。どんな演出の仕方でもしっかりしたコンテンツがあれば、売れるときは売れるので、非常にシンプルですが、結局大事なのはユーザーにとっての面白さだと思っています。コンテンツとしての面白さを保っていて、ユーザーが見ていて楽しいと感じていれば自然と視聴時間は延びていきます。それが最終的に購入にも繋がっていくのだと思います。もちろんファッションなら洋服の生地感はユーザーに分かるように見せたほうが良いなど、ジャンルによって最低限やっておくべきポイントはありますが、「こうすれば必ず売れる」という成功法則はないと思っています。
―広告枠として有料化していく予定はあるのでしょうか
今後の拡大に備えてインフラはもちろん、配信内容の監視体制もしっかりと強化しております。その為、サービス全体のコストが嵩みつつあり、継続的なサービス提供のためには検討は必要と考えておりますが、店舗さまのご意見も伺いながら進めさせて頂きたいと考えております。
「RPP」、「TDA」、「プロダクト連携」、「DMP/AI活用」が2023年以降の鍵
-「楽天市場」における、今後の店舗販促支援の注力ポイントについてお聞かせください
大きく挙げると「RPP」、「TDA」、「プロダクト間の連携」、「DMP/AI活用」の4点です。
「RPP」は、会員ランク別に入札単価を最適化できる仕組みを提供します。もちろん、ロイヤリティの高いユーザーは検索面における広告接触後の転換率は高いですし、逆に新規ユーザーにはその場の転換率を求めていくと効率が下がる傾向があります。ユーザーの広告接触後の転換率を踏まえて、入札単価を自動的に下げることでコストを抑制したり、ロイヤリティの高いユーザーには積極的な入札をすることで売上拡大につなげるなど最適化を行うことで店舗さまの広告効果を更に改善していきます。
「TDA」は「楽天市場」アプリのホーム上部に掲載されており表示率もクリック率も高く、人気の広告です。ただ、広告原稿の審査キャパシティを超えるお申し込みをいただいており、全ての店舗さまがご利用できる状態になっていないのが現状です。今年のQ2を目途にこの問題を抜本的に解決し、店舗さまがいつでも自由にお申込み頂ける環境を提供したいと考えております。
今までは、1つ1つの広告プロダクトを店舗さまにご案内して参りましたが、先ほども触れましたが、ユーザファネル別の行動が可視化され、適切なキャンペーン施策や広告運用を行うことで高い成果に繋げていくことができることが分かりました。今後は、店舗さま自身がそのデータを見て、必要に応じて適切な広告プロダクトを使い分けができる環境をご提供いたします。具体的には第1弾として、広告プロダクト間でリターゲティングができる仕組みとユーザファネル別の行動を可視化したデータをご提供いたします。
また、DMPのデータやAIロジックの活用については、当社には1億以上の楽天会員とそのユーザーIDに基づくオンライン・オフライン双方のデータを蓄積しているという強みがあります。これらデータと楽天独自のテクノロジーを掛け合わせ、楽天内外の広告効果を大幅に改善できるような仕掛けを提供していきたいと考えています。例えば、ビッグデータ分析に活用できるAIエージェント「Rakuten AIris」や、2020年よりSQREEM TechnologiesというAI技術を持つ会社と合弁企業を作っており、彼らのアルゴリズムやデータを活用したソリューションの提供を今後加速させてまいります。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。