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リテールメディア広告市場の成長見通しとCARTA HOLDINGSの攻めどころ[インタビュー]

AmazonやWalmartを筆頭に、米国では店舗を持つ小売企業が続々とリテールメディア化に取り組んでおり、市場も急成長を遂げている。日本でも、リテールメディア広告への期待が高まる中、リテール領域のDX化に取り組むCARTA HOLDINGSグループはリテールメディア広告の市場調査を実施した。今回は調査結果をひも解きながら、現在のリテールメディア市場の実態や、今後のリテールメディア広告展望について、CARTA HOLDINGSのグループ会社で、メディアマネタイズ支援事業を展開する株式会社fluct(フラクト)の取締役・松本昌樹氏、小売業のデジタル化支援事業を展開する株式会社デジクルの代表取締役・今井悠介氏からお話を伺った。

 

(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)

 

CARTA HOLDINGSのリテール支援体制

出典:CARTA HOLDINGS

-自己紹介をお願いします。

松本氏:CARTA HOLDINGSグループの株式会社fluct(フラクト)に所属しております。

fluctは設立から10年ほどの会社で、「WEBメディア・WEBアプリの広告収益を最大化する」ツールを作り、提供・コンサルティングを行っています。

「WEBメディア・スマホアプリにおいて広告で収益を作っているメディア企業に対して、既存の収益が100万円あります、fluctのツールを入れると収益が150万円になるので入れませんか?」といった提案などをしており、一般的にはアドテク企業に分類され、事業ドメインとしてはSSP(サプライサイドプラットフォーム)を構築・提供するのがメインの事業になっております。一般的なWEBメディアやアプリには自社のSSPを一定規模でご利用いただけていると自負しております。

次の事業の柱としてリテール&コマース事業本部を新しく作り、「WEBメディア以外にアプローチしよう」と小売企業がもつアプリやコマース(ECサイト)内に「広告枠を設置して販売する、広告事業をやりませんか」といったご提案や「広告事業をやりたい」という引き合いにもご案内をしております。

 

今井氏:CARTA HOLDINGSグループ、株式会社デジクルの代表を務めております、今井と申します。デジクルは、小売企業様の店頭販促をデジタル化する、独自ソリューション「デジクルプラス」の開発・提供や、会員証・ポイントカード・電子マネーなどのデジタル化を中心に、小売のオウンドサービス強化支援事業を行っています。

小売企業様に対して、サービス提供しているという点では、fluctと共通していますが、fluctが、小売企業様の保有する店頭やオウンドメディア、ECサイトの広告事業の展開を推進していくのに対して、デジクルでは、小売企業様が、消費者とデジタル接点を構築・育成可能な、サービス・メディアの開発・運営支援に取り組んでいます。

 

-今回CARTA HOLDINGSがリテールメディア広告の市場調査を実施された背景についてお聞かせください。

松本氏:数年前から「リテールメディア」というキーワードを国内でもよく聞くようになり、色々な記事で     先んじて取り上げられていますが、まだ明確に輪郭が整った定義があるわけではないと考えています。

20年ほど前にインターネット広告が登場した時は、いわゆる4マスなどの広告の枠組みが整っている状態で、インターネット広告が盛り上がり、マーケターの選択肢がどんどん増え続けたのと同様に、「リテールメディアを利用したマーケティング」という新しい選択肢が出来てきたのではないかと解釈しております。

CARTA HOLDINGSグループでリテールメディアに取り組んでいるのは、fluctやデジクルが主要な会社ですが、その他にも数社がこの領域における事業を取り組んでおります。

今この領域(リテールメディアにおけるマーケティング)に各社が注目、参入しており、、どの程度の規模感があるのか俯瞰した上で、市場が盛り上がることを期待し、市場形成を押し進めていきたいと考えており、他社にもCARTA HOLDINGSグループの市場調査を参考にしてもらいながら、事業を検討していただきたいですし、「事業形成への入り口として調査を実施した」というのが動機になります。

 

 

リテールメディアDX化の現状とは

-今回の調査結果についての考察や解説をお聞かせください。

今井氏:グラフからも読み解けるように、2026年には、リテールメディア広告市場規模は、805億円に到達(2022年度の約6倍)すると見込まれており、今後も市場は、拡大していくことが予想されます。この内訳を見ると、この先数年の市場全体の成長を牽引するのは、50%以上の売上比率を占めるデジタルサイネージ広告であることがわかります。実際、店舗を直接的にメディア化・広告収益を得る手段として、デジタルサイネージを設置する企業は増えており、デジタルサイネージ広告は引き続き堅調に伸びていくだろうと思います。

また、実店舗での購買が大部分90%以上を占める国内マーケットにおいては、メーカー企業にとって、小売企業との取り組みは非常に重要です。これまでは、アナログな店頭販促施策に対して投資していた流通対策費の予算の一部が、店頭に設置されたサイネージに広告出稿に流れ始めているような実感もあります。今後も、小売企業様が持つ会員情報や購買データを元に構築されたマーケティング施策は増えていくでしょう。

一方、日々、たくさんの小売企業様とお話しさせていただく中で、オウンドメディア/アプリへの関心の高まりを感じており、実際にデジクルでも、これまでアナログで主に展開されていたサービスのデジタル化支援をたくさん手がけています。2022年のリテールメディア広告市場売上予想に占めるオウンドメディアの売上は約65億円ですが、2026年には、450億に到達すると見込まれており、私自身も小売企業様のオウンドメディア/アプリの成長とともに、この市場を開拓していけることにワクワクしております。

 

松本氏:企業のオウンドメディアや自社アプリが成長することで、今後は外部メディアの活用だけでなく、オウンドメディア、自社アプリの広告枠の開発が拡大していくと思います。

リテールメディアの特徴として、小売のデータを利用するのはもちろんありますが、一般的なメディアよりもお客様の「買う瞬間に近い」メディアであるという点がすごく重要な要素になってくるのではとおもっています。

 

今井氏:デジクルやfluctでも、メーカー企業様のプロモーションに関わらせていただいておりますが、ファーストパーティデータの活用や、売り場とデジタルの連動施策に対する関心の高まりを感じますね。

 

-リテールメディア広告・リテールメディアの可能性に関してお伺いできますでしょうか。デジタルマーケディング・広告ビジネス、双方の観点でどのようなポテンシャルがあるとお考えでしょうか。

今井氏:新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに加速したリテールDXの領域は、「変革のタイミング」を迎えており、「デジタル化」は小売企業様の重要な経営課題のひとつになっています。既存のビジネスモデルから脱却し、新たな収益基盤の構築に取り組む中、自社アプリや、LINEを活用し、リテールメディア化を目指す企業もますます増えていくと思います。

ただ、本格的にDXに取り組んでらしゃる小売企業はまだごく一部で、多くの企業様は、まだどのように取り組んでいけば良いのか悩んでらしたり、予算確保に向けて体制や課題を整えている段階かと思います。そういった企業に対しても、手厚くサポートしていきたいですね。

 

松本氏:広告ビジネスの可能性は無限大だと思っています。

小売企業の方々も自分たちでお客様とコミュニケーションをとるべく、アプリをリリースし、一定規模の環境でデジタル化が整いつつある雰囲気を感じております。データ活用は比較的難しいので「実際の購買データをリアルタイムで活用する」ことに各社が力を入れているのが現状で、素地が整いつつあり、やっと「購買データを使ってメーカーが出したい広告のニーズが叶えられる環境」が構築されてきたタイミングだと思います。

その環境が当たり前になり、それ全体を「メディア」と考えると、かなり大きな規模になるのではないかと予想しております。

 

-リテールメディアの周辺で注目されている動向についてお聞かせください。

松本氏:我々のようなプレイヤーが増えてきたという印象があり、いい傾向だと考えております。今は「みんなで畑を耕しましょう」といった段階ではないでしょうか。

外資系、国内企業、アドテク企業からデータコンサルを行う会社などプレイヤーがお互いに協力しながら市場を作っていく段階なのかなと思っています。

fluctに関していうと、関連会社などを通して広告配信を希望される企業さまから「リテールメディアのDX」や「アドサーバー」に関する問い合わせが多い印象です。日本で、アドサーバーを取り扱っている会社はまだまだ少ないなか、多くの実績を持つfluctに目を向けてくださっているのかもしれません。

 

今井氏:先ほども申し上げましたが、リテールメディア化を見据えながらも、お客様とのデジタル接点構築やお客様との関係を深めるオウンドメディア/アプリへの関心が、今後、ますます高まっていくのではないかと考えています。

CXの重要性は増しており、お客様に「使いたい」と思っていただけるオウンドメディア/アプリの追求が今後どんどん加速していくでしょう。実際、既にオウンドメディア/アプリを展開しているものの、機能面やユーザー体験を見直したいと考えられている企業さまも多く、問い合わせもいただいております。

デジクルでは、会員証やポイントカード、商品予約や店頭販促など、これまでアナログで提供されてきたサービスのデジタル化を支援しているのですが、アナログのカードのみで展開していた会員証をデジタル化したことで、新規会員数が3倍になる等、成果も見え始めています。こうした、取り組みを積み重ね、多くのお客様に愛されるオウンドサービスを作ることが、リテールメディアに繋がっていくのだと思います。

 

-欧米各国は、リテールメディア先進国と言われていますが、日本市場との違いがあれば教えてください。

松本氏:「海外ではウォルマートが強い」というお話を聞くことが多いです。ウォルマート自体を使っているお客様の数が非常に多いのでメディアとして成立する、という背景があるようです。

日本と比較してアメリカの小売業界は寡占化が進んでおり、日本以上に小売企業のメディアパワーが高まっている状況だと見ています。

広告的なスタンスで考えると、小さい案件をたくさん実施するのは手間がかかるので、(規模が)大きくなって欲しいという声はよく聞きます。

 

今井氏:あわせて、欧米では消費者のデジタルリテラシーが高いことや車社会が浸透していること、また、商圏の広さなど環境的な要因が与える影響も大きく、BOPISやネットスーパー含めたEC化率が日本とは大きく異なっています。実際、アメリカではオンラインメディア領域、特にECサイトがリテールメディア市場を大きく牽引しています。日本独自の環境や商習慣がある中で、アメリカの事例をローカライズするのではなく、日本ならではのリテールメディア市場のあり方について考えて行く必要があると考えています。

 

 

小売のメディア価値・広告収益最大化を全力支援

今後事業としてどのようにリテールメディアを広めていきたいとお考えでしょうか。 

松本氏:当社は基本的に広告配信する事業を行っております・小売企業様が持っておられるアプリに対して広告を配信しませんか、というアドサーバー部分のお手伝いを引き続き広めていきたいですね。あとは広告配信できる面を増やしたいと思っております。

店舗の前や商品ごとにある小さなサイネージへの広告配信も行い、1つのアドサーバーからサイネージを含めて複数のデバイスに広告を配信する形にしたいと思っています。

例えばビールメーカーの広告をアプリにもサイネージにも配信するといったイメージです。

いくつかの素材を入れて、予算を設定すればそれらすべてが小売企業の持つ掲載面へ配信されていく、といった流れをまとめて実施できるポジションに到達したいと思っています。

また、オペレーション部分でも小売企業のお手伝いができるのではないかと思っています。グループ会社含めて20年以上デジタル広告の運用をおこなっていますので、広告運用、新規広告商品の開発を一緒に実施していきたいと考えています。

 

今井氏:デジクルとしては今後、小売企業様のリテールメディアを活用した新たな収益基盤構築をサポートする唯一無二のパートナーとして、リテール市場の拡大に貢献できればと考えています。

一方、リテールメディア化、DX化、と一口に言っても、何をどう始めれば良いのか悩まれている企業様も多いのが現状です。今後も、これまでと同様、一社一社の状況を細かく分析した上で、それぞれに合ったDX戦略を掲示していきたいです。小売企業様が自社の顧客とデジタルでしっかりと繋がれるオウンドメディア/アプリを構築し、お客様に使われるサービスになってこそ、リテールメディアとしての展開が可能になってくると思いますので、長期的には、リテールメディアを見据えつつも、足元の小売企業様の成長にも寄与できるよう取り組みを進めていきたいです。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。