サイバーエージェントが見通す、2023年の動画広告市場とクリエイティブ進化の方向性[インタビュー]
サイバーエージェントは、今回で9回目となる2022年国内動画広告の市場調査を公表した。
同社がみる動画広告市場のトレンドおよび、同社の注力領域である動画クリエイティブ開発の今後の方向性などについて、インターネット広告事業本部 統括 淵之上 弘氏に、お話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)
2022年の動画広告市場は、引き続き堅調に成長
―動画広告市場の市況についてお聞かせください
力強く伸びているという印象です。ダイレクトといわれる広告の動画化も進んでいますし、今までブランドといわれていたような認知系広告のデジタルシフトも、共に順調に進んでいるという印象です。
―過去1年間で、貴社が特に注目された媒体がありましたら、お聞かせください。
特にこの媒体がすごく伸びたということはなく、全体として伸びたという印象がありますが、その中では最大の媒体であるYouTubeに注目しているのはもちろんのこと、ABEMAやTVerも高い伸びを実現していて非常に注目しています。
―デバイス、フォーマット、媒体の多様化が進む中でクリエイティブの重要性が益々高まってくると思われます。動画クリエイティブに関する直近のお取組みについてお聞かせください。
ブランド向けの動画広告については、ターゲットごとに最適なメッセージを届けるべく、ターゲットごとのクリエイティブを制作できるような体制を整えています。
今までは事前に制作した1~2つのクリエイティブを全ターゲットに向けて配信していたというようなところを、さらにターゲットの興味関心や属性を考えて、そのターゲットごとにクリエイティブを考え制作しています。例えば20代―30代・男性がターゲットであれば、そのセグメントに加えて、興味関心で細分化し、その興味関心に合わせてより多くのクリエイティブを制作し検証していくことにチャレンジしました。
課題は動画広告のクリエイティブ
―貴社ではAIを活用したクリエイティブを提供されていますが、動画の領域についてはいかがでしょうか?
効果予測AIを用いて広告効果を最大化する「極予測AI」を2020年より提供しており、こちらは静止画のみならず動画広告にも対応しています。
動画広告のなかでも運用型広告においては、配信先に合わせた多種多様かつ大量なクリエイティブ制作を短期間で制作し、そして迅速なクリエイティブ運用を行うことが、広告効果を維持するために必要です。
―動画広告ビジネスにおける課題をお聞かせください。
インターネット広告はターゲットを設定して広告を出し分けることが出来るということが大きな特徴にも関わらず、動画広告をテレビCMの延長線上で考えられていることもまだまだ多く、各ターゲットに合わせたクリエイティブが制作しきれていないことが課題です。
ターゲットに合わせたクリエイティブを考え制作し、広告配信の出し分けを行うことで、ユーザーにとって受け入れやすい内容を届けることができます。業界全体が、もっとクリエイティブに注力していくことになると思っています。
2023年は企業の広告予算全体のうちテレビCM予算も含めた全体最適によりさらに成長
―2023年の動画広告市場の見通しについてお聞かせください
2023年は景気の影響を受けないとはいえないものの、特にブランド系の動画広告については、企業の広告予算全体のうちテレビCM予算も含めた全体最適が続くと思われます。
景況感の影響も重なり、仮に広告主企業の全体の広告費が減少したとしても、テレビCMの予算が動画広告にシフトされるため、動画広告市場は成長していくとみています。
また、インターネット広告は効果計測が可能なので、動画広告におけるKPIをしっかり設定することで、その施策の投資対効果が見えます。テレビCMから予算シフトされた動画広告は、PDCAを回し意味のある広告投資をすることが可能となり、そしてしっかりと運用を行っていく必要があります。
サイバーエージェントが考える、動画クリエイティブ進化の方向性
クリエイティブ強化、CTV、データ活用
―貴社の動画広告ビジネスにおける注力領域についてお聞かせ下さい。
2023年の動画広告ビジネスにおける当社の注力ポイントとして、まず一つはCTV(コネクテッドテレビ)が挙げられます。その流れをとらえて最適なクリエイティブを作り、しっかりとターゲットごとに最適な配信をすることに取り組んでいく必要があると考えております。
ワールドカップを機にABEMAの存在が世の中において認知が広がりました。ABEMAを含め新しい動画サービスが台頭してきており、2023年は伸びるサービスとそうでないサービスとが明確になっていくと考えます。当社としては、ユーザーに本当に見られている動画プラットフォームが何であるのかということをしっかりと分析し、最適なプランニングをしていく必要があると認識しています。
2つめに、動画クリエイティブについても、引き続き大きな注力領域です。
ユーザーは、動画配信サービスを視聴する時間やタイミングを自由に選択できています。我々はこのようなユーザーの動画視聴行動に適したクリエイティブを作っていく必要があります。
当然ターゲットに対するクリエイティブを作る必要もありますし、これをもっと突き詰めていくと、「ターゲット×コンテンツ」に対する最適なクリエイティブを作っていく必要があります。
スポーツのコンテンツを見ている人に対してはこういうクリエイティブ、音楽コンテンツを見ている人に対してはこういうクリエイティブ・・というように、その時にユーザーが視聴している動画コンテンツに応じで、クリエイティブの最適化を図っていくべきです。さらに言えば、視聴時間に対する最適化もあるべきです。
そして、デバイスです。デバイスによる差としてあり得るのは、例えばテレビデバイスで視聴しているときと、モバイルデバイスで観ているときとで、動画の再生スピードは一緒でいいのであろうか、などということも挙げられます。
現在我々が想定しているのは、例えばPCとモバイルとで比べたとき、モバイルのほうが、少しテンポが速いほうが望ましいということです。実際に、モバイルでは動画のテンポが速いクリエイティブのほうが、広告効果が良い傾向が見受けられます。
したがって例えば、テレビで流しているCMをモバイルでそのまま流すと、かなり遅く感じられてしまいます。一方モバイル上で流しているクリエイティブをテレビで流すと、かなり速く感じられてしまいます。このような感覚の違いは、視聴ユーザーとデバイスとの物理的な距離間にも依存するかもしれません。このような仮説を今後検証していく必要があります。
動画内テロップについても、モバイル視聴、テレビ視聴、どちらを想定しているかによって、最適な大きさなど表示方法は異なり、それぞれの最適化を図ることで、広告効果は変わってくるはずです。
またデータ計測も進んでいくので、データ活用をしっかりと行い運用を強めていくことが可能となってきます。
まだまだ検証を重ねている段階ではありますが、当社では今後あるべき最適なクリエイティブがより細分化されてくることを想定したクリエイティブ領域の組織づくりもおこなっています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。