「移動時間に、新体験を。」―ニューステクノロジーが目指す“モビリティメディア”の進化 [インタビュー]
by ニュース
on 2023年2月10日 in株式会社ニューステクノロジーでは2022年10月より、モビリティメディア(タクシーサイネージ)「THE TOKYO TAXI VISION GROWTH(以下GROWTH)」のリニューアルを進めている。新しいコンセプトとして「移動時間に、新体験を。」を掲げ、タブレットのサイズを従来の1.5倍となる15.6インチに変更したほか、Full HD(1920×1080px)の解像度による放映にも対応可能となった。また、媒体の刷新に合わせて、UIの変更やオリジナルの情報番組の配信もおこなっている。同社の新たな取り組みとデジタルサイネージ市場の展望について、三浦純揮代表取締役に話を聞いた。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 柏 海)
広告を見せるだけではない、タクシーサイネージに出来ること
―2022年10月より、GROWTHのリニューアル進めています。本取り組みの狙いは。
GROWTHは2019年4月にサービスを開始しましたが、情報を一方的に伝える従来のタクシーサイネージ広告としての取り組みだけでなく、新しい移動体験の提供を実現していくために、まずはハードのリニューアルを図ることにしました。
事業開始当時はタクシーサイネージの認知自体も進んでいませんでしたが、この4年弱の取り組みを通じて、東京の利用者を中心に「タクシーサイネージを通じて何かしらの映像が見られる(見せることができる)」ことは啓蒙が出来たと判断しています。
啓蒙が出来たタイミングで、タクシーサイネージを通じて次は何が出来るかを考えたときに、我々としてはただ広告を流し続けるのではなく、モビリティメディアとして、ユーザーの移動時間の質や価値を高めるための進化が必要ではないかと考えました。
しかし、元のタブレットは広告を流すことを目的に開発をしていたため、まずはハードのスペックを確保することを目的に、液晶サイズも従来の1.5倍=15.6インチと大きくしました。今後は色々な体験の可能性を模索しながら、機能面の拡充に注力していきたいと思います。
―広告メニューやメディアコンテンツの変更は。
従来のメニューや編成に対しては、広告主からの需要も高いため、大きく変える予定はありません。変更点としては画面のUIとして、画面の右側や下にバナー広告を出せるようになったほか、クーポンの配布やECサイトへの誘導なども出来るようになりました。画面・音声のオンオフも常時操作可能です。
また、GROWTHではオリジナルで移動時間の情報番組「HEADLIGHT」を毎週放送しています。「HEADLIGHT」は、タブレットのリニューアルに合わせてコンセプトやMCの選定・番組編成まで一から考えました。移動時間に知っておくとためになる情報を届けることを目的としており、都内で話題の飲食店の紹介やおすすめの観光情報、著名人に関連したコンテンツなど、情報番組として幅広く情報をカバーしています。ただ情報を発信するのではなく、QRコードを掲載し「お店の情報はここをクリックしてください」など、次のアクションにつながるように、外部サイトへの誘導も行っています。
なお、「HEADLIGHT」もタイアップメニューをご用意していますが、基本的には自社で取材先の選定や編集までおこない、ユーザーが知っておくとためになる情報を幅広く届けることで、更なる移動空間の価値向上に努めています。
オリジナル情報番組「HEADLIGHT」
車窓サイネージでもタクシーの新たな乗車体験を提供
―車窓モビリティサイネージサービス「THE TOKYO MOBILITY GALLERY Canvas(以下Canvas)」についてはリリースから1年以上が経ちましたが、反響やお取組状況についてはいかがでしょうか。
おかげさまで多くの広告出稿をいただきましたが、事例としては「貞子タクシー」や「LUX TWICE TAXI」など、IPと組むケースが比較的多かったように思います。
Canvasはタクシー配車アプリの「S.RIDE」と連携しており、Canvasとのコラボタクシーを指定して配車することも可能です。「LUX TWICE TAXI」においては通常期間と比較し、平均約1.7倍の配車数を記録しました。
ローンチをした当時は、Canvasは車窓サイネージとして、都内の歩行者を対象とした、屋外広告のような展開を中心に考えていました。しかし、サービス開始後は車窓やラッピングをはじめ、タクシー車内でもコラボコンテンツに関連する動画を放映するなど、タクシー車両全体を活用した施策が増え、タクシーユーザーやファンから大変好評です。今後も更に話題性のある事例が誕生するのではないかと期待しています。
「貞子タクシー」
「LUX TWICE TAXI」ではラッピング車両も走行した
―同じタクシーサイネージとはなりますが、車内のGROWTHと車窓(車外)のCanvasで、クライアントやターゲット層の違いは。
GROWTHは、BtoB企業を中心に普段からタクシーの利用が多い決裁者層・経営層に対して、自社のサービスや企業のブランドメッセージを伝えたい広告主が多いですね。
一方でCanvasは、タクシーに普段は乗らない層を対象としたキャンペーンを展開される広告主も多いです。先ほども例に挙げたTWICEのタクシーは、若い女性ファンの利用も多く、コラボタクシーに乗るために遠方から東京まで足を運んでくださったファンもいました。
Canvasの取り組みを通じて、街中で一つのアトラクションを楽しむような体験を提供出来ているのではないかと思います。タクシーに乗っていること、もしくは目的地の先も含めたトータルで特別な移動体験を創り上げていくことは、今後も積極的に展開が出来ればと考えています。
―タクシーサイネージ事業の拡大については、どのような想定をしていますか。
GROWTHは現在、東京23区内で12,500台のタクシーに設置し、月間で延べ820万人へのリーチが可能な媒体となっています。今後の全国展開に関しては現時点では考えておりません。
冒頭にお伝えした通り、ユーザーの観点では、新型サイネージの機能をアップデートすることで、広告コンテンツを配信する広告メディアから、ユーザーの移動時間に新体験をもたらすメディアへと媒体の価値を高めていきたいと考えています。広告主の観点では、他媒体とのアライアンスや広告メニューを拡充することで、toB・toCの両軸で多くの広告主の皆様にご利用いただき、事業やサービスのビジネスの成長を後押しできようなメディアに成長させていきたいと思います。このような取り組みが結果的に、タクシーサイネージ市場自体を進化させていくことに繋がると考えています。
東京都内でまだまだ出来ることがあると思うので、全国にメディアの拡大を図るよりも、媒体のリニューアルも含め、乗車体験の進化や体験価値の向上を目指して動いていきたいと思います。
ゴルフカートサイネージの開発も開始
―「THE GOLF CART MEDIA BIRDIE」を発表されましたが、こちらはどのようなサービスとなるのでしょうか。
今回はゴルフカートナビ「i Golf Shaper (アイゴルフシェイパー)」を提供しているアイシグリーンシステム株式会社と、新たにゴルフカートのサイネージ広告事業をスタートさせることになりました。
最近のゴルフカートにはホール情報を伝えるナビゲーションシステムとして、サイネージが付いていることも増えてきましたが、本サービスではこのタブレット上で、新たに広告配信をするイメージとなります。
まずは、四国エリアのゴルフカートを中心に連携を開始し、順次全国規模での連携拡大を進めていく予定となっています。なお、他社のサービスでは後部座席にタブレットが付いているかと思いますが、本サービスでは運転座席に向けてコンテンツを流す想定です。
広告効果=クライアントビジネスの向上
―サイネージ市場が今後、更に伸びていくためにはどのような課題があるのでしょうか。
都条例(東京都屋外広告物条例及び同施行規則)が現在の技術の進化に則さず、新しくアップデートがないことは大きな課題だと思います。
タクシーに限らず、今の技術だと様々なロケーションでもっとエンターテイメント性を兼ね備えた空間を演出することが可能です。そうすれば、観光やインバウンドにとっても魅力的なロケーション・観光地に成り得る可能性はありますが、条例や規制でチャレンジそのものが不可能なのは、業界全体の課題だと感じています。
―広告効果の測定や指標の作成についてはいかがでしょうか。
広告効果の測定や指標も大きな課題です。サイネージ業界全体として、共通となるような効果指標作りにも取り組んでいますが、サイネージがロケーションメディアである以上、各メディアの視聴態度や体験価値も違うので、そのような指標が作りづらい状況です。
ただ、話をシンプルにすれば、これも「サイネージ広告への出稿を通じて、クライアントビジネスが伸びたこと」を実証する、もしくは「媒体社側で把握することが大事」という話に尽きるのではないでしょうか。
また、市場が今後更に伸びて行くための課題にもつながりますが、広告を買ってもらうためには、効果測定や媒体の説明を丁寧におこなう以上に、(広告担当者が)そのメディアを体験したことがある、ということも非常に大事だったりします。駅のデジタルサイネージもですが、自分の行動導線にあるメディア=体験のしたことがあるメディア、というのは広告を出稿する側も非常に分かりやすいですよね。
もしくは、新宿の3D猫や渋谷駅前のシンクロビジョンのように、一目で分かるインパクトメディアも効果的です。インパクトメディアはクリエイティブの作り込みは前提となりますが、「分かりやすい+効果がある」というのは、広告主だけでなく媒体者にとってもメリットがあると感じています。
ロケーションオーナーとしてクライアントニーズに応える
―今後の貴社の事業展望についてはどのように考えていますか。
まずはタクシーサイネージをモビリティメディアとして更に成長させたいと思います。
続いて、ニューステクノロジーでは、喫煙所や美容室など、細かなクライアントニーズに合わせたメディア開発をおこなってきましたが、今後も様々なロケーションでメディアを開発していきたいです。また、3Dサイネージのような、いわゆるインパクトメディアの開発も新規で取り組んでいければと想定しております
サイネージプレイヤーの中でも、我々のように、複数のロケーションメディアで事業展開している事業者は、非常に珍しいかと思います。もし我々と一緒に、新たなメディアを作りたいロケーションオーナーさんがいましたら、是非お声かけをいただければ幸いです。
ABOUT 柏 海
ExchangeWireJAPAN 編集担当
日本大学芸術学部文芸学科卒業。
在学中からジャーナリズムを学び、大学卒業後は新聞社、法律・情報セキュリティ関係の出版社を経験し、2018年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。デジタル広告調査などを担当する。