美容分野の雄がデジタルサイネージに参入―リクルートが描く「BELLET」の戦略
株式会社リクルートが、美容室向けデジタルサイネージサービス「BELLET(ベレット)」の本格的展開に乗り出した。2022年4月から東京23区を中心に設置を進めており、同年10月末時点で450店舗、2,300席以上にまで拡大している。ホットペッパービューティーという国内最大級の美容プラットフォームを擁する同社は、デジタルサイネージ領域でどのような戦略を描いているのだろうか。「BELLET」の概要から今後の展望までを、株式会社リクルート 新規事業開発室 BELLET プロダクトオーナー 柳澤 郁哉氏にお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWireJAPAN 長野 雅俊)
(ライター:同 渡辺龍)
美容室での接触頻度をいかに確保するか
―自己紹介をお願いします。
2018年に新卒でリクルートに入社をして、SaaS事業で2年間マーケティングを中心に業務を推進していました。その後、社内の新規事業提案制度「Ring」に応募をしたのですが、そこで「BELLET」という美容室向けデジタルサイネージの企画で準グランプリを取ったことがきっかけで本格的に事業を進めることになりました。現在はBELLETのプロダクトオーナーとして、事業方針などを決めながら全体を管轄しています。
―どのような経緯でこの企画を立ち上げたのでしょうか。
企画を立ち上げた当時はタクシーサイネージが勃興し始めている時期で、その辺りの動きを注視する中で美容室とデジタルサイネージの掛け合わせの可能性を考え始めました。コロナ禍において、美容室内のお客様の過ごし方の変化や顧客接点という部分で国内最大級の情報量を保有しているということもあり、美容室サイネージに一定の可能性を感じたことが発端です。
―他社とはどのように差別化を図っているのでしょうか。
大きく3点あると考えております。
1点目は、リーチできる層です。こちらは、弊社が銀座や青山・表参道など都内の美への投資に積極的なお客様が多く訪れるエリアの美容院を中心に拡大を進めていることが背景にあります。30秒から最大2分まで長尺の動画をSKIPなしで訴求できるため、上記のお客様に対してしっかりと動画の内容を見ていただき、商品・ブランドの認知、理解促進をいただけます。
2点目は、商品自体の設計です。我々は10分に1回という高い放映頻度で広告を放映する商品設計となっており、他社と比較しても約3倍近くお客様に接触することが可能となります。その結果、広告到達率や広告メッセージの浸透率が非常に高くなります。
美容室が平均2カ月に1回の来店サイクルであるため、1来店での接触の深さが必要である点と、美容室内でのお客さまの過ごし方を把握している弊社だからこその商品設計になっています。
3点目は、RID(リクルートID)を活用した施策の展開です。単に美容室でブランドや商品を認知し、興味・購買意欲の向上につなげていくだけにとどまらず、各広告主様のサイトへの流入などを促す施策を展開しております。
また、美容室様に関しては、SIM端末を通じて店舗のWi-Fiを必要としない作りとなっていますので、届いたその日にスムーズに設置・利用がいただける形になっております。
リクルートの販路を活かし設置台数都内No.1へ
―全国展開のより広くリーチを取るモデルと、店舗を絞ってブランディングを優先するモデル、貴社はどちらを目指しているのでしょうか。
全国展開というよりは、特に表参道、銀座といったエリアを中心に東京23区のカバー率を広げていくことが初手の戦略になります。
―既に競合他社も事業規模を拡大している中で、まだ設置数を広げていく余地はあるのでしょうか。
現在、月に50から60店舗ほどの美容室様が我々のサイネージを新規で取り付けていただいている状況です。そういった観点でいうと、東京都内にはまだ設置できる店舗様は多数あります。
一方で、美容室の市場は大手法人が寡占している状態ではなく、中小規模の法人や個人店が乱立している市場であるため、開拓が難しく費用対効果が合わない部分があるのも事実です。
その点、我々の場合はホットペッパービューティーの営業担当を介して美容室様とアポイントを取ることが可能であるため、効率的にアプローチができます。そういった意味でもカバー率をまだまだ上げていく余地は十分あると捉えています。
―今後の設置拡大の見通しについてお聞かせください。
2024年の3月末までに700店舗以上への設置を目標に置いています。その台数規模になってくると東京23区内では国内最大級になります。現状は東京都内No.1を目指して拡大を進めていますが、その後は東京都内でさらにカバー率を上げていくのか、その他の主要都道府県に攻めていくのかは検討している段階です。
―現在取引のある広告主はどういった業界が多いのでしょうか。
基本的にはヘアケアやスキンケアの領域が多いです。また、広告だけではなくサンプリングなども活用できる商品をお持ちの企業様には大変好評いただいています。その他当社発行の「じゃらん」に広告を掲載していただいているホテル様などともお取引があります。
―広告以外にはどのようなコンテンツを提供しているのでしょうか
現在は基本的にヘアケア関連や、ホットペッパービューティー内で扱っている写真などをコンテンツ化しています。またグルメ、映画といったエンタメ、ライフスタイル関連情報も放映しています。この辺りは競合他社と大きな差はないですが、今後はリクルート内のサービスで親和性の高いもの、例えばゼクシィなどのコンテンツを扱えるように拡充を図っていく予定です。
柔軟な効果指標が今後の鍵
―サイネージ全般で課題となる効果測定ですが、貴社ではどのようにお考えでしょうか。
前提として、サイネージの前に人がいない状態でどれだけ広告を流しても広告効果はありません。お客様が目の前にいる状態のみが効果測定対象となるという定義付けは非常に重要です。
当社では、広告動画が流れている間、プライバシーを保護した上で顔認識をしております。お客様の顔が広告動画放映時間のうち50%以上認識できていない場合は再生回数には含めておりません。50%を超えたときのみ、有効再生として計測しています。
また、現在は主にブランドリフトサーベイでの効果測定が主となりますが、規模の拡大に合わせて実数値での効果測定ができるように工夫していく必要性があると考えています。
―今後の事業展望を教えてください。
これまで美容室サイネージに取り組んだことのある広告主様の中には、当初の期待を満たせずにいる方も少なからずいると思います。
美容室サイネージは引き続き、長尺の動画を受動的な姿勢で見ていただけるため、認知・理解促進・購買意欲の促進といった認知ファネルからミドルファネルへの接触が主要価値です。
ただし、今後は、エリアごとのクリエイティブの出しわけによる来店促進や美容師の方を巻き込んだ美容室店内での購買など美容室サイネージだからこそできる施策の展開を検討しております。
また、今後は効果測定や効果指標に関しての問題を解消することがこの市場を盛り上げていく鍵を握ると考えています。
重要なのは、広告主様が求めるマーケティング設計にいかに対応できるかということです。他媒体と比較した際に美容室サイネージを同じような指標で捉えられるという観点が非常に大切であると考えています。今後はその辺りの課題に取り組みつつ、実績にも繋げていきます。BELLETの今後により一層のご期待いただければと思います。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。