LINE POP Mediaに見出す、国内リテールメディア市場のこれから[インタビュー]
LINEは、小売店を通して商品を販売するメーカー向けにLINE POP Media の提供を開始した。
LINEが提携する小売店店舗に設置したLINE Beaconを通して、来店ユーザーのLINEアプリのトークリスト最上部に広告を掲載、購買直前のユーザーにアプローチすることが出来るという、LINEならではのユニークな広告プロダクトである。
同プロダクトの特長やリリースした背景について、同社Z販促事業本部の渡邉 祐貴氏にお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下 智之)
開発背景にある、小売店とメーカー企業それぞれのニーズ
―自己紹介をお願いします。
LINEとヤフーによる混合チームで今年4月よりZ販促という事業本部が創設されており、その中で、主にリテールメディアと呼ばれる領域の事業企画として担当しています。
Z販促では、小売企業の持つデータ(※)等を活用した協同マーケティング活動をリテールメディア事業と位置づけています。
※ユーザーの事前許諾を得たデータ
―LINE POP Media提供開始の背景についてお聞かせください
小売企業及びメーカー企業双方がLINE POP Mediaに期待いただいている重要な役割として、店舗に設置されるアナログPOPの代替があります。
多くの小売企業は、人手不足を背景に、アナログのPOPの設置、貼り替えなどをなくそうとする取り組みを進めています。
メーカー企業は、小売企業の省力化の影響を受けて、自社販促物が店頭に設置されにくくなっている状況のなか、 いかに効率的に店舗の来店客に自社製品の魅力を訴求することが出来るのかが、課題となっています。
このような課題を受け、店頭のアナログPOPに代わるユーザーアプローチの手段として、LINE POP Mediaを開発、提供をすることとなりました。
―LINE POP Mediaの導入により、メーカー企業はどのようなことが出来るようになるのでしょうか?
メーカー企業は、店頭設置場所などの制約を問われることなく、また展開時期をコントロールしながら、来店客の属性に合わせて広告を出し分けることができるという、柔軟なプロモーションを展開することが出来るようになります。
さらに、Data Clean Room(※)を活用することにより、広告接触ユーザーが実際に購買に至ったかどうかという、従来は難しかった実購買効果の可視化も可能になります。
※ユーザーの事前許諾を得たデータを、許諾を得た範囲内で活用しています
メーカーのブランドプロモーション、小売企業のメディア収益化を強力に支援
―LINE POP Mediaの販売チャネルについてお聞かせください。広告配信はどのようにするのでしょうか?
LINE POP Mediaは、当社が認定をする一部の広告代理店様を通して提供します。現時点では、販促領域における小売企業とメーカー企業との商慣習をよく理解されている広告代理店様に絞った販売をしています。
また、小売企業が直接メーカー企業に販売を行うことも可能としています。
LINE POP Mediaは当社が提供するLINE広告の管理画面から配信設定が可能なメニューです。コンビニエンスストア、ドラッグストアなどの屋号を指定して来店ユーザーのみ (※)にセグメント配信をすることが出来ます。広告価格は、店舗カテゴリーごとにimp単価が設定されています。
※LINE POP Mediaは店舗に設置されたビーコン端末からの信号情報を検知して、広告内容を最適化する広告メニューです。スマートフォン端末の設定およびLINEアプリの「LINE Beacon」の利用同意を得ているユーザーが対象となります。
( https://guide.line.me/ja/account-and-settings/settings/line-beacon.html )
―メーカー向け広告は、商流がメーカー企業営業担当者と小売企業商品部との商談を通すケースが多いといわれますが、貴社のプロダクトに関してはいかがでしょうか?
おっしゃる通り、メーカー企業の営業担当者と、小売企業商品部のバイヤーとの間の商談で 言及されるメニューとなることも想定し、小売企業を通した販売もできるようにしています。
一方で、我々として特にこだわったメニュー設計上の特徴は、メーカー企業のブランドプロモーションにおいて、小売を横断してご活用いただけるようにしたことです。
例えば、テレビCMとLINE POP Mediaとを連動させることで、小売店舗の売上を最大化出来るような広告商品としてご提案をさせていただきたいと考えています。
テレビCMと連動して、メーカー企業のブランド商品が取り扱われるすべての小売店舗にいるユーザーに、広告が届けられるというイメージです。
―LINE POP Mediaに対する小売企業側のニーズはどのようなところにあるのでしょうか?
一つ目は先ほどお伝えした、アナログPOPのデジタル化ニーズで、LINE POP Mediaの提供開始の背景としてお伝えした通りです。
二つ目は、小売業以外の新たな収益化手段に対するニーズです。
日本における中長期的な人口減少の問題を受けて、小売企業は持続的な成長を続けていくためには新たな収益源を確保する必要があります。
このため、大手小売企業は金融業やメディア事業などの周辺事業への展開を進めています。例えば自社アプリ上でメーカー企業向けの広告メニューを作り、これを販売するような取り組みも始まっています。
LINE POP Mediaの提供により、メディア事業を自社アプリ面だけでなく、LINE上でも出来るようにすることで、小売企業のメディア収益化ニーズに応えることが出来るようになりました。
また、LINE POP Mediaを展開することで、プロモーション対象となるブランドの商品が置かれている売り場全体の活性化にもつながり、カテゴリ売上増に貢献することも期待できます。
データ活用環境の整備後、市場は急拡大!
―今後のプロダクトの方向性について、お聞かせください
小売企業がLINE POP Mediaに期待しているのは、自社アプリなどだけではリーチしきれないユーザーへのリーチ最大化とLINEならではのコミュニケーションです。このような期待に応えるプロダクトに成長させていきたいと考えております。
まずは、参画いただく小売企業を増やすことにより、ナショナルキャンペーンの告知等で使っていただきやすいリーチ規模の大きいメニューにしていきます。
また、よりユーザーが店頭でLINEを開いてくれるような仕組みづくりや、ユーザーの買い物中により印象に残る広告フォーマットを検討、開発していく予定です。
さらに、実購買効果を可視化することで、メーカー企業に継続して使っていただけるようなメニューにしていくことが必要だと考えています。
―リテールメディアと呼ばれる市場は、日本において今後どのように拡大していくと思われますか?
リテールメディアは、米国ではすでに大きな市場となりつつありますが、日本は小売企業が分散する商環境です。そこで、小売企業単独ではなく、小売企業と我々のような広告プラットフォーマーで作り上げるメディアに対する需要がますます高まっていくと考えております。
業界各社が個人情報保護法の改正等に伴うデータ活用環境の整備に追われている現状が落ち着いたのちに、日本においてもリテールメディア市場が急速に拡大していくと予想しています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。