広がる「テレビCMの運用」-テレシーが語る運用型テレビCMの市場規模予測[インタビュー]
テレシーは、2021年に続き2回目となる運用型テレビCM市場調査を実施し、その結果を公表した。
今回の調査では、前回を上回る推計・予測結果となったが、どのような背景があるのだろうか。
同社CEO 土井健氏、同CSO兼CCO村井陽介氏にお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下 智之)
運用型テレビCM市場は、想定を上回る成長に
テレシー/デジタルインファクト調べ
―貴社で昨年に続き実施された、運用型テレビCM市場の調査結果について、お聞かせください。
土井氏:約1年3か月前に公表した前回調査の時は、私たちもこの市場に参入を開始したばかりでした。「この市場はどのようになっていくのか。」という見通しを立てる上で、前回の数字を出しました。
その後1年事業を進めていくなかで、今までテレビCMを出稿してこなかった広告主の方々を、テレビCMに投資していただける環境にお連れすることが出来、当初の想定よりも上振れる形で2021年は着地しました。
2022年以降については、当社における手応えやノバセルさんの直近の決算をみていても当初の想定を上回る成長率で推移するのではないかと予測しました。したがって、今回の調査では前回を上回る結果としてリリースをさせていただきました。
―上振れた要因について、マクロでみるとどのようなところにありますか?
土井氏:テレビCMの市場は、コロナ禍を除くと長い間横ばいで推移してきました。その中で、これまでテレビCMを使ってきた広告主のあいだでは、テレビCMの効果についてはもう少し細かく見ていこうという風潮が出てきました。
また、これまでネット広告を中心にプロモーションをしてきた広告主の方々に対し、低額でテレビCMを出稿することが出来るという環境を、当社やノバセルさんなどのプラットフォーマーがご用意して、テレビCMに出稿するということへのハードルを下げ、多くの広告主にテレビCMにトライしていただいたことが、大きな要因であると考えています。
広がる「テレビCMの運用」
―広告主の業種についてはいかがでしょうか?
土井氏:当社の状況で申し上げると。2021年からそこまで大きな変化はありません。EC、ゲーム、SaaSなどの出稿が伸びております。
なかでも特にゲームの広告主の出稿が伸びております。
―2022年に入ってからも2021年の成長の勢いを踏襲していますか?
土井氏:はい、想定以上に伸びております。笑
おかげさまで当社の事業が順調に成長しており、採用が追い付かないくらいです。
当社に加えて、運用型テレビCMを提供するプラットフォーム事業社の名前も以前より聞くことが増えてきております。
テレビCMを運用するという考え方自体が、広告主の方々に広がってきているということを感じています。
―現在営業活動において注力されている点について、お聞かせください
土井氏:引き続き、初めてテレビCMを出稿する広告主層を獲得していきたいと考えております。スタートアップが集まるイベントなどに協賛をして、そこからのリード獲得を狙っています。
現状はまだ注力していませんが、これまでにテレビCMを出稿されたことがある大手広告主からの問い合わせも結構増えてきており、注目を集めてきていると感じております。実際に、ご一緒させていただくことも出てきました。
必ずKPIを作り、そして運用する
―大手広告主の場合は、どのようなKPIの設定をされようとしていますか?
土井氏:BtoCか、BtoBかにより異なりますが、商品購買や資料請求、BtoBで資料請求件数が少ないということであれば、サイトセッション数や検索数など、少し前段階のユーザー行動をKPIに設定し、このKPIの獲得効率を見ながらPDCAを回していく、というケースが多いです。
ナショナルクライアントの場合、Webに成果地点が落ちていない場合もしばしばあります。WEB以外の成果地点でデータを取得できる環境であれば、そのままKPIに取り入れることもございますが、そうでない場合は、計測可能な指標の変化として、「何をもって成功とするか」を最初にお話させていただいたうえで、出稿をいただくことにしています。
-運用型テレビCM市場に複数ある事業社のなかで、他社と貴社との違いや特徴はどうであると認識されていますか
土井氏:まず1つ申し上げられるのは、ノバセルさんのことを大変尊敬しております。
先駆者としてこの市場を開拓されたのは間違いなくノバセルさんです。テレビCMを運用することが出来るということを、分かりやすく平易な言葉でみんなに伝えるという入り口となったのは、やはりノバセルさんです。その中で我々も後発で参入して、一緒に市場を大きくしていこうという気持ちで私も会社の事業を運営しています。
そのような中で、両社に少しずつ違いが出てきているという気がしています。
両社出来ているのは、運用型テレビCMの提供をして、しっかりと広告効果を回しているということ。ですが幾つかの部分において違いが出てきているのかなと思っています。
例えば放送枠のプランニングやバイイングにおける力は、テレシーが強いと自負しています。
一方でノバセルさんが強いのは、BtoBの印刷事業において50億円規模のテレビCMを出稿してユーザー獲得が出来たというデータをもとに他社のプロモーションを手伝うという、戦略と実績は素晴らしいと思います。
村井氏:我々はもちろん運用型テレビCMというスタンスに特化していますが、テレシーは総合代理店グループの中の一つということもあり、広告主が抱える課題が必ずしもテレビCMだけで解決することが出来ないという場合には、グループのソリューションを統合的に提供することが可能です。なかなか知られていないグループ内のその他のケイパビリティを最大限に生かせるという総合力もテレシーとしての強みかと思います。
土井氏:また、ヘリコプターサイネージ広告やドローンショー広告などの新しい媒体開発は、当社のみの取り組みでしょう。
-新しい媒体開発への取り組みは、土井さんの想いが特に強いのでしょうか?
土井氏:そうですね。笑
正直なところ、広告代理店事業だけではなく、事業開発にも取り組んでいきたいというのが私の気持ちの中にあります。
そこまでできているほうが、お客様の課題解決が出来ると考えております。また私たちの事業も安定すると考えております。
例えばヘリコプターサイネージ広告の場合、当社が媒体社の立ち位置にあり、電通グループの広告代理店はもとより、グループ外の広告代理店も販売することが出来るようにしています。
広告代理店の事業は競合環境も影響するなど、売上のボラタリティが高いですが、少額でも多様な収入が入ってくるような仕組みにしておくことで、事業の安定性を保つことが出来ます。
そのような目線は、以前代表をしていたfluctにおける事業経験も影響しているかもしれません。
自社のP/Lを引き上げる上でも重要であると考えております。
村井氏:ノバセルさんのプロダクト開発にはすごいなと、思わせられます。ノバセルさんはマーケティングの民主化を掲げておられます。クライアントのマーケティング活動においてしっかりと役立つプロダクトがいかにあるべきか、という点については素直に勉強させて頂いております。
土井氏:戦略性や型化は、ノバセルさんは本当にすごいと思います。上段からしっかりと戦略を作るというところと、それを産業またいで型化していくことのケイパビリティ―については秀逸であると思っております。
市場とテレシーが、中長期の成長に求められること
-2025年に1,300億円という市場規模予測を出されていますが、この数字を達成するためにはどのようなことが求められますか?
村井氏:一つは、テレビCMというものはあくまで広告主が抱える課題を解決するための一つの手段であり、万能なものではありません。テレビがどのような役割をもつものかをしっかりと説明したうえで、実際にその役割を果たしているのかどうかをきちんと検証する。そして、もしその役割を果たしているのであれば次のステージに行く必要があり、果たせないのであれば何を改善すべきであるかというように、結果を受けた後の次の動きを広告主と向き合って取り組んでいくべきです。テレビCMは投資額が大きいがゆえに、一度やってうまくいかないと「ダメだったね」というようになりがちであると思っております。
「一発花火を上げたけど、その後は続かないね。」というようなことにはならないようにすることが、重要だなと考えております。
また、これまではテレビCMの出稿を大手総合代理店に依頼していたような広告主が新規事業を立ち上げたときに、まずはスモールに開始したいといったような場合に当社のような企業に依頼していただけるようなことが起きてくれば、我々が出した予測にあるように更に市場が拡大していくでしょう。
土井氏:地上波テレビCMの需要は、他のマス媒体と比べてそれほど減少することなく現在に至っています。メディア環境が大きく変わっているなかで金額需要を維持しているというのは、すごいことです。このことから私たちは「テレビCMというのはやはり価値があるのだ」ということが気づいたという証拠であると思います。
昨今は「ブレンデッドCPA」といわれる、ネット広告だけのCPAではなくその時に使ったトータルの広告費で、トータルのコンバージョン数を割ってCPAを出してみるという、広告主が増えつつあります。
そしてトータルで考えると、事業を成長させるためにはテレビCMのパワーが欠かせない、ということ感じていただいたことにより、需要が横ばいになっているのではないかという感じがします。
-テレシーが今後注力していきたいと考えている領域があればお聞かせください。
土井氏:一つは海外への展開、そしてもう一つはTelecy Analytics自体をSaaS化して、他の広告代理店や広告主に提供していくことです。これらの取り組みを進めながら、事業を作っていこうと考えております。
村井氏:当社へのご発注を多くいただけるようになってくると、クリエイティブに対するニーズも上がってきます。
とはいえ、これまでの伝統的な総合広告代理店が依頼を受けるような金額感ではありません。そのような中でオリティ―の高いものをコストを抑えて制作するための仕組みづくりをし、広告主にとってのリスクを最小限にする挑戦をしています。また、クリエイティブを作るだけではなく制作物そのものを評価するところも、私たちには期待されており、ここも取り組んでいきたいと考えております。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。