「高速PDCAを最優先」-CRM事業に参戦したYappliの勝算[インタビュー]
DX推進などを受けて、データ関連事業は群雄割拠の様子を呈している。その中で、アプリ開発プラットフォームのYappliがCRM事業への参戦を果たした。競合事業者が乱立する中で、いかに混戦状況を抜け出そうとしているのか。Yappli社の中枢で活動する2名に話を聞いた。(聞き手:ExchangeWire JAPAN 長野 雅俊)
Mobile Tech for All
―自己紹介及び事業紹介をお願いします。
山本氏:執行役員 CMO(Chief Marketing Officer)の山本崇博と申します。当社はノーコードのアプリ開発プラットフォームを運営する企業です。当社は「すべての人がアプリのモバイルテクノロジーを使える世界をつくりたい」との思いを「Mobile Tech for All」という言葉に込めて、ノーコード技術の開発に注力してきました。アプリ開発というと、つい最近まで広告代理店や制作会社に委託することが一般的でした。しかし、現在では、600を超える事業者様がノーコードでアプリを開発・運用いただいています。
伴氏:Executive Specialistの伴大二郎です。昨年より提供を開始したノーコードの顧客管理システム「Yappli CRM」などを通じて、各企業様の課題解決とデジタルシフト支援を行っています。
―開発、運用、CRMを含んだ統合的なアプリ向けプラットフォームを運営されているのですね。
山本氏:はい。BtoC向けの販売促進をはじめとしたマーケティング用途の「Yappli for Marketing」、取引先や販売店に対する営業支援やカタログの電子化などに役立つ「Yappli for Business」、社内利用向けの「Yappli for Company」といった具合に用途に応じても異なるメニューをご用意しています。
―「Yappli CRM」を立ち上げた経緯についてお聞かせください。
伴氏:多くの小売店が顧客管理を目的としてポイントカードを発行しています。しかしながら、現在でも紙やプラスチックで制作している事業者が多く、制作費と顧客体験の創出においていくつもの課題が残されています。
また最近でこそ、ポイントカード機能を有するアプリが増えてきましたが、必ずしも適切なCRMを行うことができているわけではありません、ポイントカードに限らず、顧客管理を効率的に行うと同時に顧客体験を向上させることを目的として本事業を立ち上げました。
アプリを通じたCRMの課題とは
―「ポイントカード機能を持つが適切なCRMを行うことができていないアプリ」とはどのようなものでしょうか。
伴氏:例えば単にポイントカード機能を持つアプリを運営するだけだと、ユーザーが端末を変更した途端に別人として認識されてしまいます。
この課題を解決するために、既存のCRMシステムと連携することもできますが、この方式では実際には多くがウェブビューと呼ばれるウェブ上の画面を表示する形式となり、ユーザービリティとリアルタイム性において別の課題が発生します。こうした一連の課題を解決し、アプリ開発とセットで統合的かつ割安にCRM機能を提供できる点が当社の強みです。
山本氏:ちなみにアプリにはプッシュ通知があります。ウェブにはプッシュ通知がないので、顧客に何らかのメッセージを届ける際にはメール送信等が別途必要となりますが、アプリではこうしたチャネルの分断が起きません。小売事業者がオフラインとオンラインの施策を統合する上ではアプリが最も効率的なツールであると言えます。
伴氏:またメールマガジンなどではHTMLメールのコーディング作業などが発生し、制作から施策実施までに時間がかかります。アプリのプッシュ通知をノーコードで作れるYappliであれば、簡単に短時間で制作できるというのも利点です。またアプリではユーザーは事実上常にログイン状態にあるので、通知を読んだか否かといった結果が必ず出ます。つまり効果検証が行いやすいのです。
―顧客層をお聞かせください。
山本氏:業種は本当に様々です。Yappli for Marketingであれば、アパレル、生活雑貨、飲食店、スポーツ用品、商業施設など。Yappli for Businessとなると、製造業、医薬品などを扱う事業者が代表例となります。
伴氏:Yappli CRMの方はリアルの店舗を持つお客様が多いです。現段階ではCRMを含めた各マーケティング機能をすべてスクラッチで自社構築する最大手企業ではなく、その他のデータやCRMに悩んでいる企業が対象です。会員規模としては、100人~数千万人単位まで対応可能です。
―そうした企業では具体的にどのような担当者が利用しているのでしょうか。
山本氏:Yappli for Marketingにおいてはやはりマーケティング関連担当者様です。ただ一般的にはモバイル担当専任はあまり存在せず、様々なマーケティング関連業務を兼務している方が多いという印象です。マーケターの業務は多岐に渡るため、運用負荷はできるだけ下げる必要があります。Yappliはそうした課題を解決するためのプラットフォームです。
伴氏:デジタル関連人材は常に不足していますが、数名程度の新卒社員が試行錯誤を繰り返しながらCRM施策を実施している例もあり、若い人材の方が難なく使いこなしていますね。
顧客体験はリアルでライブ
―CRM機能を持つマーケティングプラットフォームが乱立しています。そのような環境下で貴社はどのような差別化を図っていますか。
伴氏:アプリを起点としてリアルタイムで対応できる点で差別化できると考えています。従来のCRMツールは、データを取得→分析→施策の実施という流れを想定して作られていることが多く、リアルタイムで施策を展開しにくいという印象を受けています。
例えば「チェックインしたばかりのロイヤルユーザーに1000円分のクーポンを贈呈する」という施策を実施するには、「チェックインしたことを示すアプリの情報」と「ロイヤルユーザーであることを確認するための会員データ」を照合した上で直ちにクーポンを発行しなければなりません。これができている企業が実は非常に少なく、多くが随分と時間が経過してからプッシュ通知なりメールを通じてクーポンを提供するに留まっています。
こうした現状と「顧客体験はリアルかつライブで発生する」という認識の下で、当社としてはリアルタイムでのアクションにこだわりたいと思っています。
データの鮮度が重要
―分析に用いるCRMツールではないということですね。
伴氏:分析を軽視しているわけではありませんが、それ以上にデータの鮮度が重要だと考えています。購買データやウェブ行動データをかき集めてきたところで、せいぜい広告のCVRが1~1.5%ほど改善されるぐらいでしょう。それよりもユーザーと施策を通じたコミュニケーションでデータの鮮度を上げることにこだわった設計なのです。
セグメントを切り分けた上で、コンバージョンの確率が高い人に向けてメッセージを送り分けるといった従来型のCRMは既存ツールにお任せすればいい。当社は高速でPDCAを回すために①すぐにデータを使える②簡単に施策を設計できることを優先したいです。PDCAが回っていないのに深い分析を試みてもうまくいきません。まずはコミュニケーションの頻度を上げてユーザーとの関係構築をしてから分析というのが本来のあるべき姿だと思います。
―市場課題をお聞かせください。
伴氏:スタンプカードを発行する、メールマガジンを配信する、LINEの友だちになってもらうなど色々と試してみたもののそれぞれのデータが統合されていないのでCRMとして機能していないという事例を多く見かけます。つまり顧客接点をやみくもに増やすだけで、1対1の関係構築やLTV計測にまで至らない。だからと言ってデータ統合に必要なCDPなどのツールは高額なので手が出せない、で終わってしまっているのです。取得データの戦略的な活用ができていない例が多いと感じています。
―CRM市場は既に飽和していませんか。
伴氏:少なくともノーコードのCRMはブルーオーシャンです。CRM投資は米国では毎年12~15%の成長率を示しているものの、日本はわずか5%程度と言われています。つまり日本市場にはCRMにまで手が回っていない企業がまだまだたくさんあるということです。
いくつかの理由が考えられますが、一つには日本のCRMツールが多機能すぎるという点が挙げられます。多くの事業者にとって、様々な分析と検証を繰り返し行う時間などありません。事業者のスピード感に合わせたツールでなければ、CRMの普及は進んでいかないでしょう。
―今後の展開についてお聞かせください。
山本氏:Yappliに関しては、様々な用途でご利用いただけているので、この用途の幅を皆様に知っていただき、さらに色々な業界で使っていただきたいと思っています。またセルフサーブ版の提供を通じて、利用層を大幅に拡大していく予定ですのでご期待ください。
伴氏:Yappli CRMに関しては、1年で100社導入を目指していきたいです。100~1000万人の会員規模を持つあらゆる企業様が使いこなせるツールとして発展させることで、CRM市場の混戦状態を頭一つ抜け出すことができたらと考えています。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。