「横断的利用の付加価値創出が次のステップ」―広告プラットフォーム統合を遂げたヤフーの目指す理想形とは[インタビュー]
これまで予約型広告と運用型広告で分かれていたプラットフォームを「Yahoo!広告」として一つに統合したばかりのヤフー。実はこの統合化プロジェクトは既に次の段階へと移行しつつある。現在進行形でさらなる進化を目指すヤフー株式会社のプロジェクトメンバーに最新状況についての話を聞いた。
(聞き手:ExchangeWire Japan長野雅俊)
プラットフォーム統合はまだ道半ば
―運用型と予約型の広告プラットフォーム統合作業が完了してから1年近くが経過しました。
芝崎氏:統合プラットフォームの基盤づくりは無事に終えることができたものの、本格的な作業は実はまだ始まったばかりです。プラットフォームに対してさらなる付加価値を加えるための研究や開発作業を引き続き行っています。
―プラットフォームを統合することで、運用型広告と予約型広告の横断的な利用を活性化したいという考えがあったのでしょうか。
芝崎氏:仰る通り、運用型広告と予約型広告では、そもそも利用目的が大きく異なる場合があります。各広告主様の状況に合わせて、現行の広告出稿形態とは異なる用途や目的に対するご案内をする上では統合的なプラットフォームがやはり望ましい。運用型と予約型では管理画面も商流も全く別物という状況を改善するというのが大きな狙いの一つではあります。
ただし、プラットフォームと商流を統一するだけで横断的な利用が活性化するわけではありません。横断的利用による新たな付加価値を創出するというのが次のステップとなります。
―実際に運用型広告と予約型広告を併用する広告主はどれほどいるのでしょうか。
芝崎氏:それぞれ単体での利用層を比較すると、運用型広告の方がより幅広く、予約型広告ではいわゆるブランド企業様の割合が高くなります。そして運用型広告と予約型広告の併用となるとやはりそれなりの予算規模が必要になるので、大きな案件でご利用いただくことが多いです。
―プラットフォーム統合により、運用型広告と予約型広告のレポーティングなども統合されたのでしょうか。
芝崎氏:統合的なレポーティング機能の開発には今まさに取り組んでいる最中です。広告主様や広告代理店様がマーケティング施策を展開する上でPDCAが回しやすい方法は何かという観点から、どういったアウトプットをご提供していくべきかということを検討しています。
小嶋氏:現行システムにおいても、運用型広告と予約型広告を横断したリーチ数やコンバージョンリフトは表示できます。今後は加えて、コンバージョンにどれだけ貢献したかをスコアで見れる「アトリビューションモデル比較レポート」をご用意しております。
完全自動最適化だけでは十分ではない
―以前の取材時には、入札、ターゲティング、クリエイティブの自動最適化機能の開発にも取り組む考えを示していました。
田中氏:入札設定に関する自動最適化機能で重要な入札戦略である「コンバージョン数の最大化」を含む一連の機能のリリースを行いました。今後はターゲティングやクリエイティブなどの設定作業に関しても自動化する環境を構築したいと考えています。さらに運用面での細かなアドバイスや運用の指針となるスコアの提示を含めたレコメンド機能の研究開発も進めているところです。
ただこの計画を進める上では、サードパーティーデータの収集が困難になりつつあることに十分に留意する必要があります。適切なデータが不足している環境下では、自動最適化機能が十分な能力を発揮できない可能性があるからです。そうした事態を想定した上で、完全自動化に向けた整備だけでなく、広告主様に需要のあるターゲティングメニューの追加など基礎機能の強化は引き続き整備していきたいと考えています。
―サードパーティーCookieが制限される状況においては、機械任せにするとパフォーマンスが低下するということですか。
田中氏:はい、その認識です。サードパーティーCookieが使えないとなると正確な広告効果を計測できず、計測結果をフィードバックして自動最適化に生かすこともできなくなります。また現在のデジタル広告市場においてはリターゲティング広告の売上がかなりの割合を占めていますが、サードパーティーCookie廃止によりこのリターゲティング広告が活用できないとなると何かしらの対策を打たなければなりません。
中小企業ならではのニーズとは
―「運用型広告と予約型広告の併用となるとやはりそれなりの予算規模が必要」とのことでしたが、予算規模が少ない中小企業向けにはどのようにサービス強化を図っていく予定ですか。
芝崎氏:検索広告までを含めれば、ヤフーが提供する広告サービスは既に約10万社にご利用いただいています。その中には中小企業様も多く含まれており、当社の広告プラットフォームはかなり間口が広いと自負しています。
また4月からは、広告代理店様を対象に、予約型広告を前金で受け付ける取り組みを開始することになりました。これまでは運用型広告のみそのような対応が可能だったのですが、より多くの事業者様に予約型広告をご利用いただきたいという考えの下でこのような仕組みをご用意しました。
小嶋氏:またターゲティング商品を推進した結果、小規模の予算でも予約型広告をご出稿いただきやすくなり、昨年には新規広告主数が2.2倍に増加しました。前金の仕組みをご用意することで、さらに敷居を下げることができたらと考えています。
―大手企業と中小企業の間で広告プラットフォームに対するニーズに違いはありますか。
田中氏:例えば自動最適化機能は、一定期間にコンバージョン数がたくさん集めることができればできるほど効果を発揮します。逆に言うと、コンバージョン数が月に1、2件のみという商品やサービスでは、自動最適化が十分に働かない可能性があります。そういう場合には、コンバージョンではなく、その手前にあるクリックなどにポイントを置いて最適化を行うといった対策が考えられます。
さらにCPA設定に関する考え方も予算規模によってばらつきが生じます。自動最適化が機能するまではCPAが目標値から多少前後してしまうことがあるのですが、予算が限定されている広告主様の中には設定したCPAを厳守したいという考えを示す方もいます。その場合は、自動最適化機能が最善の選択肢とはならない可能性があります。
統合作業に終わりはない
―今後の展開についてお聞かせください。
田中氏:プラットフォームの統合ないし改善作業に終わりはないのだと思います。ただ方向性として、自動化において、入札機能については大きな機能追加が完了し、今後はターゲティングやクリエイティブ機能への適用を進めていくという計画は優先的に進めていきたいです。
また運用型広告と予約型広告を横断してご利用いただきやすい環境を整備することも注力していく予定です。それぞれ利用形態に合わせてチューニングを重ねていく必要があり、競合社の動きに遅れないように注意しながらも、長期的な観点からしっかりと取り組みたいと考えています。
芝崎氏:さらにはヤフー単体だけではなく、ZホールディングスとしてもLINE社と合わせての共同開発を行っていく予定です。その意味では非常に多層的な取り組みになるはずです。
―そうした様々なニーズや課題を取り込むことを含めてのプラットフォーム統合ですね。
芝崎氏:統合的な機能をできるだけ早くリリースしたいという思いは常に持ちつつも、然るべき検討と準備を行うとなると、やはり一定の時間を必要とします。ただし、当社が思い描いている姿に少しずつ近づきつつあるのは確かです。プロダクトやサービスごとの向上とプラットフォーム統合の進化を両立させながら、今後も研究開発を続けて参りたいと思います。
*取材対象者の所属や業務内容は2022年2月に実施した取材当時のもの
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。