ヘリコプターが生み出す新たな広告価値[インタビュー]
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on 2022年2月24日 in今やタクシーでは一般的となったデジタルサイネージをヘリコプターに取り付ける。そんな実証実験が3社共同で開始された。これまでピンポイントで広告を届けることが難しかった超富裕層をターゲットにした今回の取り組み。その狙いと今後の展望について、株式会社テレシー 代表取締役 土井 健氏、株式会社IRIS シニアアドバイザー 飽浦 尚氏、Space Aviation株式会社 取締役COO兼CFO 保田 晃宏氏にお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 渡辺 龍)
細かな開発を進めながらの立ち上げ
―自己紹介をお願いします
土井氏(写真中央):株式会社テレシーの土井健と申します。100万円からはじめられる運用型テレビCMサービスを提供しており、今回は総販売代理店として商品企画、広告営業を担います。
飽浦氏(写真左):株式会社IRISの飽浦尚と申します。タクシー向けデジタルサイネージのTokyo Primeを提供しており、今回のプロジェクトではサイネージのシステム開発の部分を担っています。
保田氏(写真右):Space Aviation株式会社の保田晃宏と申します。グループ会社に匠航空という航空運送事業の免許を持った会社があり、現在ヘリコプター35台ほどで運航しています。端末を設置する媒体社として2社と共同で取り組んでいます。
―今回の実証実験の概要についてお聞かせください
土井氏:京都にあるヘリコプター1台にサイネージを搭載し、PoCという形で2月からスタートさせました。タクシーサイネージと同じように、後部座席の乗客が座る目の前にサイネージがあり、空に関するコンテンツや広告が流れるといったものです。ファーストクライアントにはAlfa Romeoさんに入っていただきました。
飽浦氏:配信端末やシステムは基本的には既存のものを使っていますが、関連法規に準拠する形で少し改修を加えています。
―実際の立ち上げまでは順調だったのでしょうか
土井氏:ヘリコプターサイネージのリリースは今年1月です。写真からもご想像いただける通り、リリースまでは半年ほどかかりましたのでスムーズとは言い難かったです。笑
保田氏:地上との違いとして航空法や電波の関係が一番の問題になりました。その部分をどうするかということや、どういったタイミングで乗客に見ていただくかという設計なども検討課題の1つでした。
飽浦氏:サイネージを搭載したことでヘリコプターに影響を与えることがあってはいけないので、その辺りでもセンシティブな開発がありました。当初はサイネージの設置場所として後部座席に1つずつ付けるアイデアもありましたが、給電の方法など諸々の制約の中で最終的に真ん中に1つ付けてみようという話になりました。そういった部分と、システムの開発を詰めていくところで時間かかりました。
尖った媒体が求められている
―ヘリコプターを媒体にすることは以前から思い描いていたのでしょうか
土井氏:ヘリコプターというピンポイントではないですが、新たな媒体開発はしたいと思っていました。ここ数年、今まで媒体ではなかった部分が媒体になってきているので、何か新しい媒体になりうるところがないかは探していました。
―超富裕層へアプローチできることが差別化のポイントだと伺いました
土井氏:世の中に価値を帯びてくる媒体は2つしかなく、広範囲にリーチされるものか尖っているものかのどちらかだと思っています。前者を作ることは、今は非常に難しくなってきています。一方で尖った媒体は広告主からも求められており、そこには拡大の余地があると思いました。また、今までの媒体は超富裕層に分かりやすくアプローチ出来るものが無かったので、その層に対して広告を当て得る1つの手段になっていると思います。
―広告主側も新たな媒体というのは常に探しているものなのでしょうか
土井氏:探していると思います。特に高級車メーカーやラグジュアリーブランドは数多に広告を出す意味はなく、超富裕層をピンポイントで狙いたいというのは昔からあるニーズです。
飽浦氏:動画サイトなどで有料課金をすると広告が流れずに動画が見られますよね。ああいったトレンドが進んでいく中で、動画を使って訴求するというのが少しずつ難しくなってきています。そんな中でテレビでもタクシーでも流さないくらい絞り込んだ動画広告というものは、新たな価値を生み出していくのではないかなと思います。
ヘリコプターが新たな足になる未来
―日本でヘリコプターの活用は今後伸びていくのでしょうか
保田氏:アメリカは日本の20倍以上のヘリコプターが飛んでいます。日本はというと、規制の問題があるわけではなく、旅客事業としてこれまで積極的にやっている会社が無かったという点が大きいです。そこで我々は気軽にヘリコプターに乗るのが当たり前になる社会を作っていこうとしています。ヘリコプターの利点は飛行機と違い空港でなくても降りられるというところです。更地があって遮蔽物が無いという条件が揃っていれば、離発着場が増やしやすく、それこそ各ゴルフ場やホテルなどの観光地の脇にヘリポートを設置すれば、利用価値も高まっていきます。
飽浦氏:今、新しいリゾート地にはヘリポートが併せて作られるようになっています。ヘリコプターでの移動というのはハイヤーのような移動手段として、富裕層のあいだでは一般化されつつある、まさに入り口のところまで来ているという状況です。そこでこれからの5年後、10年後を見据えると、確実にタクシーと同じことが起きるだろうと考えています。渋滞に巻き込まれることなく移動できる手段は、色々な場所を結ぶ線として増えていくはずなので、そういった状況が今後広がっていくとタクシーサイネージのようなことになると。そこの一番大元の部分を今から我々で開発をして抑えておくというようなところです。
保田氏:全国に1300ほどある道の駅全てにヘリポートを設置して「空の駅」にしようという動きもあり、現在22の自治体が参加しています。非常に社会受容性は高く、観光だけでなく有事の際の防災の観点からももっと広がっていくべきものだと思います。それだけマーケット拡大の余地も残っていると思います。そういった意味では日本でもヘリコプターのB to C市場は10倍以上に伸びる可能性は十分あります。
超富裕層への新たなタッチポイントに向けた取り組み
―今後の展望についてお聞かせください
飽浦氏:正式リリースに向けて設置台数を増やし、しっかりと広告商品として立ち上がらせていくことが最優先です。これは次のクォーターくらいに実現していければいいと考えています。そこで実績を作りながら、ヘリコプターを保有されている会社や個人に、一緒にこのネットワークに参画していきませんかというご案内をしていくという流れになるのではないかなと思います。
保田氏:我々はまさに移動手段としてのヘリコプターの拡大のため、ホテルや観光地にヘリパッドを設置していくという取り組みをやっています。それに伴い、今まで利用されていなかった新しい顧客もどんどん増えています。利用時間自体も、今の機体数だけでも3倍ぐらいまでは伸ばせるはずです。それに向けて稼働率を高めていくためにも、ヘリコプターを使った体験のパッケージをどんどん作っていくことで、メディアとしての価値も、ヘリコプター自体のマーケットも拡大させていきたいです。
土井氏:各社が空飛ぶ車を作っていく方向に進んでいる中で、空を物体が移動することが当たり前になる可能性が高くなってきており、今はまさにその黎明期だと思います。そのタイミングで、パイオニアとして一足先にヘリコプターの媒体化に取り組めている価値は高いです。ありがたいことにプレスリリースから反響も多く来ていますが、初めは掲載を絞って、ブランド系広告を中心に入れたいと思っています。また、超富裕層へのタッチポイントとしてサンプリングも考えています。
飽浦氏:成人の方向けにお酒のサンプリングやワインの試飲会、高級車の試乗会の招待券など面白いと思います。
土井氏:どういった形で提供出来るのかも含めて、今まさに本番稼働に向けて詰めている段階です。動画プラスアルファで色々と付与していくことで、広告主と乗客の双方が幸せになれる媒体に育てていきたいです。
ABOUT 渡辺 龍
ExchangeWireJAPAN 編集担当
立教大学社会学部現代文化学科卒業。大学卒業後は物流企業にて海外拠点と連携し、顧客の輸出入サポート業務全般に従事。
その後、2021年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。デジタル広告市場調査などを担当している。