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「LTVの向上を目指すなら美容室サイネージ」―デジタルガレージによるサイネージ本質論[インタビュー]

現在、美容室へのデジタルサイネージ端末の導入が急速に進められている。コロナ禍の影響が比較的少なかった業界でもあることから、デジタルサイネージ関連事業者の成長が著しい。この先には一体どんな展開が待ち受けているのか。現場従事者だけが知る課題と可能性について、デジタルガレージの担当者に話を聞いた。
(聞き手:ExchangeWire Japan長野雅俊)

 

取り付け台数は3.7倍の急拡大

 

―自己紹介をお願いします。

 

デジタルガレージ マーケティングテクノロジーカンパニー パフォーマンスマーケティング本部 OOH推進部長の諸石真吾です。全国の美容室にデジタルサイネージを設置し、動画コンテンツと広告を配信するヘアサロン特化型デジタルサイネージメディア『サキザキテルコ』のサービス運営責任者を務めています。

 

―『サキザキテルコ』の提供を開始してから1年以上が経過しました。

 

デジタルサイネージ端末の取り付け台数は11,261台に達し、昨年比で約3.7倍となりました*。1万台を突破したころから、広告主の関心が一層高まったように感じます。設置台数が増え、広告配信面が増加したことで、売上も昨年比で約200%増と大きく成長しました。

 

―美容室で流れる動画広告は、やはり美容系の商材を多く扱っているのですか。

 

美容室の利用者は、美意識が高まっていると推測できるため、美容関連商材との親和性は高いと思います。特にヘアケア商材との相性が良く、『サキザキテルコ』の広告メニューの一つである商品のサンプリングと併せて、動画広告を活用いただいています。

 

また美容室という特性上、『サキザキテルコ』の視聴者の75%は女性です。例えば住宅ローンや学習塾など、美容に限らず女性からの関心が寄せられる商材においても利用いただいています。

 

さらにもう一つの特徴的なジャンルとして、企業のブランディングやCSRなどをPRする動画が挙げられます。利用者の滞在時間が長く、長尺の動画をスキップせずに視聴してもらうことができる美容室の特性を活かしています。一般的な広告プラットフォームでは動画広告の短尺化が進行しています。それに対して、美容室に設置したデジタルサイネージメディアは、「動画広告を最初から最後までしっかりと視聴してほしい」という広告主の需要の受け皿となっています。

 

コロナ禍での美容室サイネージ

 

―コロナ禍ではとりわけ交通機関や屋外に設置されたデジタルサイネージ広告が打撃を受けました。美容室への影響はどれほどあったのでしょうか。

 

感染拡大が最も深刻化していた時期は、美容室に行くタイミングをずらした利用者が一部みられました。しかし、マスク生活やリモートワークの浸透によって、ヘアカラーの施術が流行したことで、多くの美容室では客単価が上がり、年間ベースで例年とほぼ同規模の売上達成していると聞いています。そのため『サキザキテルコ』が配信する広告の視聴者数が大きく低減することはありませんでした。

 

またcookie規制などを受けてウェブ広告におけるターゲティングが難しくなったことで、一部のデジタルサイネージ広告媒体が再評価されたようにも感じています。「経営層が乗るタクシーのサイネージ」や「若者が多い渋谷の屋外広告」と同様に、『サキザキテルコ』も「美意識が高まった女性にリーチできる美容室サイネージ」という認識が浸透したのではないでしょうか。

 

―美容室サイネージはコロナ禍の影響とは無縁だったということですか。

 

もちろん、無縁とまでは言い切れません。「人流が減った電車や屋外の広告出稿を抑えて、インストアや美容室のサイネージへ出稿する」という広告主の動きがあったことは事実ですが、「OOHへの出稿を一切控える」と決断した広告主もいます。

 

プログラマティック広告に関する本質的な課題

 

―美容室サイネージ業界は、プログラマティック化の進捗が著しいですね。

 

『サキザキテルコ』は、2021年6月からマイクロアドデジタルサイネージ社のデジタルサイネージアドネットワーク『MONOLITHS』と連携し、プログラマティック広告配信を開始しました。エリアと日時、リーチとフリークエンシーなどを掛け合わせた効率的な配信環境を整備しています。

 

DOOHにおけるプログラマティック広告配信は普及し始めている段階のため、広告代理店のOOH担当者が運用に慣れていない場合や、広告主がOOH広告の自動買い付けに抵抗を覚えることがあるようです。

 

美容室は電車やコンビニエンスストアのように、老若男女が日常的に利用する場所ではなく、利用する美容室にサイネージが設置されていなければ動画コンテンツや広告の視聴を体験することはできません。

 

美容室サイネージメディアやDOOHのプログラマティック広告配信の浸透のため、『サキザキテルコ』の設置数を増やしています。同時に、広告主や広告代理店の担当者に、美容室に赴いていただき、『サキザキテルコ』の視聴を体験してもらう活動にも取り組んでいきたいと考えています。

 

―サプライサイドの動きに対して、デマンドサイドが追い付いていないのですね。

 

効果測定に関する課題も関係していると思います。将来的にDSPを通じて、スマートフォン、PC、デジタルサイネージの配信面を一括で管理できるようになった場合、効果を把握するためには広告効果を測る指標も統一する必要があります。また、プログラマティック配信の技術を活用するためには、業界全体で知恵を出し合い配信環境を整備する必要があります。

 

サイネージ運営者の良心が問われている

 

―効果測定についての課題は、デジタルサイネージコンソーシアムなどが取り組んでいると理解しています。

 

当社もデジタルサイネージコンソーシアムに所属しており、そこで交わされている意見や、同団体が発表した「オーディエンスメジャメントガイドライン」などを効果測定の参考にしています。

 

ただし、こうしたガイドラインが今後どこまで普及し、遵守されるかは未知数です。媒体の運営者が自社に有利な効果指標を独自に打ち出すことに対処すべきだと思います。

 

―貴社ではどのような効果指標を用いているのですか。

 

想定リーチ数、再生端末数、視聴ごとの単価などのレポートに加えて、視聴者の着座時のみをカウントする着座再生数を提示しています。さらに『サキザキテルコ』のブランドリフト調査を通じて、視聴者の興味・購買意向のリフト値や、メッセージの浸透率などを確認することができます。これまでに行ったブランドリフト調査の結果から、強制視聴となりがちな動画プラットフォームの広告と比較して、視聴者の広告への好感度が高いという傾向が現れてきています。

 

一方で、現状は商品の購入に至るまでのコンバージョン測定は難しいです。コンバージョン測定を実現するために、ビーコンやWi-Fiの活用などが考えられますが、まだその仕組みを整備する時期ではないと思っています。

 

―PCやスマートフォンと効果指標をそろえてしまうと、デジタルサイネージの効果が低いことが明らかになってしまうのではないかとの懸念も耳にします。

 

配信規模が大きく異なるので、CPAなどの指標で比較すると、デジタルサイネージの効果は低いと判断されるかもしれません。しかし一方で、「LTVは美容室サイネージの方が高い」という仮説が成り立つ可能性もあります。一例ではありますが、ある企業が、自社のロイヤルユーザーを対象にユーザーになったきっかけを調べたところ、3割の人がきっかけとして美容室での体験を挙げています。そこで、『サキザキテルコ』に興味を持っていただき、広告の出稿に繋がりました。

 

今後も効果の検証を重ね、デジタルサイネージメディアの強みや可能性を明らかにしていきたいです。

 

* 2021年7月31日時点

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。