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広告収益とUX向上をいかに両立させるか―Browsi×Globalive対談[インタビュー]

「広告を前面に大きくそしてたくさん並べたい」「いや広告に邪魔されずにコンテンツを表示したい」。広告とコンテンツの対立構造は、恐らく何十年も続けられている。この究極のジレンマの解決に取り組むのが、イスラエル発の媒体社向けプラットフォームであるBrowsiだ。具体的な方法論から根本的な市場課題まで2人の識者に話を聞いた。(Sponsored by Browsi)

 

媒体社はあまりにも多くの難題を抱えている

 

―自己紹介をお願いします。

 

シャムリー氏:BrowsiのCEOを務めるアサフ・シャムリーと申します。イスラエル国防軍8200部隊*で将校を経験後、9年以上アドテク業界に携わっており、2016年に2人の共同創業者とともにBrowsiを立ち上げました。当初はプロダクト開発責任者として活動していましたが、2021年より現職に就任しています。

 

梅野氏:Globalive代表の梅野浩介です。海外のアドテクベンダーと事業提携した上で、それらの企業が保有するツールやテクノロジーを日本市場に紹介し、導入支援をしています。Browsiとの事業提携は既に3年目を迎えました。

 

―Browsiは媒体社支援を目的としたプラットフォームを運営しています。媒体社は現在どのような課題を抱えていますか。

 

シャムリー氏:媒体社は様々な難題に直面しています。まず彼らはユーザーの関心を集めるためのコンテンツの担い手という意味では広告事業の起点であるにもかかわらず、その商流においては末端に位置するという理不尽な状況に置かれています。つまり、SSPやDSPを始めとする様々なテクノロジーベンダーや広告代理店などいくつもの中間業者を介した上でやっとのことで広告費を受け取ることができます。その過程でマージンが引かれるので、媒体社が最終的に受け取ることができる広告費は全体のわずか一部に過ぎないということも決して珍しくはありません。

 

さらには個人情報保護関連を始めとする各種の法規制やガイドラインを遵守する責任は主に媒体社が負います。しかもアドテク技術の進化に伴い、責務は増えていく一方です。今や高いビューアビリティを保証し、無効なトラフィックを排除し、ブランドセーフティを確保した上で、EU一般データ保護規則(GDPR)やカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)にも対応しなければなりません。

 

加えてサードパーティCookieの廃止への対応やSEO対策としてGoogleが定めたUX基準への準拠など、とにかく課題だらけ。媒体社が持つ限られた資源だけではこれらの課題を解決しきれず、しかも本業であるコンテンツもやせ細っていくという事例をこれまで何度も目にしてきました。

 

―市場構造の歪みによって媒体社が不利益を被っているのですね。

 

シャムリー氏:加えて一人ひとりのユーザーに対するサービスの最適化に本気で取り組むとなれば、業務はさらに複雑になります。以前であれば、ユーザーは媒体社が運営するウェブサイトを直接的に訪問していましたが、近年ではSNSやコンテンツアグリゲーターを介して個別のコンテンツに触れる機会が飛躍的に増しました。ユーザーがどのような道筋を辿ってコンテンツにたどり着くのかという分析とその対応だけで一仕事です。

 

またニュース記事を紙の新聞と同じ体裁で読みたいという人がいれば、スマホ仕様で読みたいという人もいます。コンテンツを用意した後も、それを届ける段階でさらに多くの作業が待ち受けているのです。

 

SEO対策の自動化にも貢献

 

―こうした媒体社の課題解決に役立つアドテク技術は少ないとの印象があります。

 

シャムリー氏:アドテク技術の進化により、例えば購入履歴に基づき、Aさんには家具を、Bさんには食品をといった具合に広告内容を変更することができるようになりました。ただ依然として広告の表示方法や表示位置に関しては同じまま。よく考えてみるとこれは不思議な現象です。Aさんは記事の見出しだけを読んで次々とコンテンツを読み漁るが、Bさんは一つの記事を何度も読み返すなどの違いがあるかもしれません。本来であれば、ユーザー行動に応じて、広告内容だけでなく、ユーザー体験の設計から変更すべきなのです。

 

そこでBrowsiでは、ユーザー行動を予測しながら、レイアウトを自動的に変更するという技術を開発しました。この技術を活用することで、広告収益の最大化とビューアビリティの向上の両立を可能にしています。

 

梅野氏:媒体社向けのアドテク技術としては、近年ではヘッダービディングが台頭しました。ただこのヘッダービディングも既に一定度まで普及し、媒体社が広告収益をさらに向上させるための技術はほぼ尽きたような状況です。

 

そこで当社では、次の一手として広告枠の設定作業を自動化するBrowsiの普及に努めています。この技術は広告収益とUXの向上を両立できる点がこれまでのアドテク技術と大きく異なると考えています。

 

―「広告収益とUXの向上」をいかに両立させるのですか。

 

梅野氏:Browsiの技術はユーザー行動に応じて、表示する広告の位置や数が変わります。そして広告収益だけでなく、ユーザーが記事をスクロールする速度やページ滞在時間などを計測しながら最適化を図っていくのです。

 

スクロールの速いユーザーには広告表示を抑える

 

スクロールの遅いユーザーにはUXを阻害しない程度に適宜広告表示

 

さらにBrowsiは、Googleが2020年に発表した検索ランキングの指標となるCWV (Core Web Vitals)への対応にも適しています。Googleの検索順位に影響するので各媒体社が注視する指標ですが、Browsiではレイジーロード(ページ全体の表示を速めるために広告など一部コンテンツを遅延読み込みする技術)などの技術を生かしつつ、Googleが公開したAPIに基づき、レイアウトの最適化作業を自動化しています。

 

シャムリー氏:ちなみにCWVはGoogle独自の採点基準であり、その評価が高いからといって必ずしもユーザー体験の改善に直結するわけではありません。もちろん、検索で上位に表示されるためには、Googleの指標に従う必要があります。ただ同時に1セッションあたりのページ閲覧数やページ滞在時間といった本来的なユーザー体験を測る指標にも留意すべきです。Browsiであればそれらすべてを考慮しながら最適化することが可能です。

 

―「広告収益最大化」「ユーザーのエンゲージメント向上」「SEO」は確かに全く別物という印象を受けます。それぞれ別々の担当者が配置されている場合もあり得るでしょうね。

 

シャムリー氏:媒体社が用いるツールは、広告関連はGoogle Ad Manager(GAM)、タグマネージャー、ヘッダービディング、そしてユーザー体験や集客に関してはSNS、サイト最適化やレコメンド機能など非常に多岐にわたります。ただこれらのツールを集約して管理できる統合的なプラットフォームが存在しないというのが現状です。

 

その結果として、広告枠を一つ増やすことで、収益がどれほど増えたかを計測できたとしても、ユーザー体験への影響までを同一プラットフォーム上で把握することがこれまでできませんでした。両方の機能を兼ね備えているのはBrowsiだけです。

 

広告収益とUXの向上の両立が難しい理由

 

―「広告収益とUXの両立」はかなり以前から課題視されてきたように思います。

 

シャムリー氏:確かにかなり古くから存在していた課題です。長きにわたり、広告収益の最大化とユーザー行動分析は分断されてきました。

 

まずその二つを両立させるのは技術的に非常に難しい。広告収益とユーザー行動に関する大量のデータを収集そして分析しなければなりません。また広告収益からユーザー行動に至るまでのデータすべてを専門事業者に委ねることに懸念を覚える媒体社が一定数いたということもその背景にはあるのかもしれません。

 

梅野氏:恐らく「データを第三者に預けることに対する不安」というのはインハウス化が進んだ超巨大メディア企業特有の例外的な事象だと思います。少なくとも日本市場においては媒体社がインハウス体制を整備していることは稀であり、提携事業者にデータを開示した上で最適化支援を受けることは一般的です。

 

―広告収益やUXの向上はどれほどの規模で見込めるのでしょうか。

 

シャムリー氏:ある世界的なニュース媒体社は、Browsiを実装することでビューアビリティが38%増となる80%に到達すると同時に、収益を10~15%増加させました。またユーザーのエンゲージメントを測る目的でユーザー行動を分析したところ、ユーザーはよりゆっくりとそしてより深くスクロールしたことが確認できました。

ちなみにこの事例の概要を示した以下の二つの資料を見ると一目瞭然なのですが、通常は広告の位置と数はほぼ一定です。一方のBrowsiを実装したページは位置も数も多様化しています。

梅野氏:ここで言及した世界的な媒体社でさえ、収益最大化をしつつユーザー体験の向上を実現するための人材やツールをこれまで持ち合わせていなかったという点は着目すべきです。広告最大化を支援するサービスは数多く存在しますが、そうした事業者がユーザー体験まで考慮することはあまりないでしょう。また様々なユーザーがいるので、きめ細かな対応を手動で行うのはほぼ不可能です。Browsiの機械学習やAI機能があってこそ、大々的かつ効率的に運用することができます。

 

SNSを介した訪問ユーザーに最適化した施策とは

 

―今後の展開についてお聞かせください。

 

シャムリー氏:Browsiはこれまでデータの収集、分析、そして最適化までをすべて自動化する技術として研鑽を続けてきましたが、今後は分析した結果を管理画面に提示し、媒体社が様々な知見を得ることができる仕組みを整備していきます。ヘッダービディングを始めとする手法別の収益やユーザーのスクロール傾向など10種類のデータを一覧表示できるようになる予定です。

 

分かりやすく表現すれば、Google AnalyticsとGAMのデータを掛け合わせて把握できるようになります。

 

―それらのデータを参照した媒体社はどのような具体策を実施し得るのでしょうか。

 

シャムリー氏:例えばSNSを介して流入してきたユーザーは、個別のコンテンツのみ閲覧するので、1セッション当たりのページ閲覧数が少ないとします。そのような傾向を把握した媒体社は、例えばSNSから流入したユーザーには一ページ当たりの広告表示数を増やす一方で、ほぼ毎日にわたり直接的にウェブサイトを訪問するロイヤルユーザーには1ページ当たりの広告表示数を少なくするといった対策を講じることができるかもしれません。

 

従来では、こうした一連のデータ収集から分析そしてテストを経て本格的な施策の実施を行おうとすれば、年間プロジェクトに発展することもありました。Browsiでは管理画面上にデータの分析結果と合わせて施策の選択肢を表示し、クリック一つでテストの実施や施策の継続または中止ができる環境を整備します。

 

梅野氏:さらにこれまでBrowsiでは主にディスプレイ広告を扱っていましたが、新たにアウトストリーム広告枠も設けられるようになりました。

 

シャムリー氏:Globalive社との事業提携を経て、日本市場における展開も軌道に乗ってきたと実感しています。当社としては革命的な技術であると自負していますが、このような新技術を率先して導入いただいた日本の媒体社の皆様には感謝しています。

 

梅野氏:既に日本の媒体社様による具体的な実績が出てきています。Browsiの展開に関しては、同じく広告収益とCX向上に取り組むfluct社との事業提携も深めつつ、引き続き媒体社支援を強化していきたいと考えています。

 

(※)8200部隊:イスラエル国防軍における諜報部隊であり、その能力は米国の国家安全保障局(NSA)に匹敵するともいわれる。非常に厳しい選抜をクリアしたエリートのみが入隊を許され、近年では同部隊出身者によって様々なテクノロジースタートアップが創業されていることでも話題となっている。

 

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ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。