サイバーエージェントDXが定義する、広告DXとは?[インタビュー]
サイバーエージェントは、昨年11月にサイバーエージェントDXを設立した。同社設立の背景と狙い、今後の事業展開の方向性について、株式会社サイバーエージェント執行役員 兼 株式会社サイバーエージェントDX 代表取締役 宮田岳氏にお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)
―改めて自己紹介をお願いいたします。
2012年にサイバーエージェントに新卒で入社し、現在10年目になります。最初の8年はインターネット広告事業本部で広告営業を担当していました。そこから徐々に経営戦略に携わるようになり、執行役員としてインターネット広告事業本部の戦略や体制の立案をしておりました。
2020年11月に販促革命センターを立ち上げて、販促のデジタル化や小売企業様のDX支援に取り組んでおりました。
2021年11月にサイバーエージェントDXを立ち上げて、小売企業様のDXを含め、金融やモビリティー、EC企業様の広告事業の立ち上げをサポートすることに特化した事業を手掛けております。
クライアントニーズ起点で始めたDX事業
―会社設立の背景や狙いについてお聞かせください。
今DXの市場が大きくなってきています。2030年には3兆円になるといわれています。インターネット広告市場はおおよそ2.4兆円くらいで伸び続けておりますが、DX市場もこれと同程度に伸び続けるとみておりまして、この市場に特化した子会社の設立に至りました。
さらに2つの理由があります。
一つは、お客様からのニーズです。
広告営業でお客様のところに訪問し、経営層に広告のレビューをすることがあるのですが、その際「何かお困りのことはないですか?」というようなことを毎回聞かせていただいていました。
すると「社内でバラバラになっているデータを一元管理することができるようにしたい」であったり「そもそものビジネスをよりネット化したい」であったり「EC化率を高めたい」というような、広告にとどまらないようなビジネスのご相談が増えてきておりました。
もう一つは、小売業以外の業種におけるDXニーズの存在です。
販促革命センターで、小売企業様のDXを支援してまいりましたが、初速の立ち上がりがよく、小売以外の業種でも同様の支援ができるのではないか、と考えたことです。
小売企業様向けで成功したこのフレームがほかの業種でも活用できるのではないかと思っておりました。
そこで、自らDXの市場に可能性を感じたことが設立を決めたきっかけです。
取り組むのは、広告のプロデュースとセールス
―小売業以外の業種として、金融、モビリティー、ECなどを対象とされているとのことですが、より具体的にどのようなタイプの企業であるかについてお聞かせください。また、どのような協業の仕方をするのかについても、具体的にお聞かせてください。
金融だと、銀行やクレジットカード事業。モビリティーですと、電車、飛行機、タクシーなど。ECは全般的に営業しています。そのほか教育系企業などもターゲットにしております。
我々がこれらの業種をターゲットに絞った理由は3つあります。
1つ目は、貴重なデータを持っているかどうか。モビリティーの会社は、移動データを持っています。ECは、だれが何を買っているかというデータを持っています。
2つ目はデータの量があるかどうか。すごく貴重なデータであっても、少なければ意味がありません。広告ビジネスに耐えうるボリュームがあることが必要となります。
3つ目は、広告の出面があるかどうか。ECサイトにはそれなりのユーザーが集まりますし、鉄道には駅や電車車内、小売であればアプリや店舗に人が集まります。
これら3つの基準に合わせて、ターゲット企業を選定しております。
これらの企業を対象に、基本的には広告商品となるようなメディアを一緒に作らせていただくということと、作った広告商品を我々が販売するという両方を手掛けることになります。広告のプロデュースとセールス、その両方をさせていただくのがわれわれの仕事です。
サイバーエージェントDXが定義する、広告のDXとは?
―ECの企業の場合はどのような展開イメージになるのでしょうか?
広告価値は、人に多く使われているかどうかや、人に多く見られているかどうか、ということと相関します。これまでテレビCMの広告価値が高かったのは、お茶の間に特定の時間に皆同じ番組を見るというように、世の中全体がテレビを見る習慣があったからこそです。
今はインターネットが進化し続けており、AmazonのようなECサイトには多くの人が集まっており、その広告価値は計り知れないほどになっています。クライアント企業のビジネスをさらに発展させるためにも、ビジネス自体をデジタル化しクライアント企業と消費者をダイレクトにつなげることで、EC化比率を上げ、そのサービスがより使われるようサポートし、それに伴う広告価値を伸ばすことが基本的な向き合い方だと思っています。
我々がDXと言っている言葉を定義すると、クライアント企業の広告事業を立ち上げる支援をすることであり、そのように呼ばせていただいております。
-取引するクライアントとは、どのような契約形態を想定していますでしょうか?
受託開発というよりは、お客様の広告事業を立ち上げて一緒に事業を伸ばしていきたいという考えのもと、提供するサービス内容や費用、契約形態はクライアントに応じて、柔軟に対応していきたいと考えています。クライアント企業と弊社でのレベニューシェア、業務委託のほか、2社で新たな会社を設立するなどさまざまな可能性を想定しています。
運用力、販売力、クリエイティブ力が差別化のポイント
―大手コンサルティング企業や総合代理店なども競合になりうると思いますが、競合環境についてはどのように見ておられますか?また、どのような優位性を持っていこうと考えていますか?
広告事業については、我々に一日の長があると考えております。我々は攻めのDX、その中でも広告事業のDXの立ち上げのパートナーであることに絞っております。インターネット広告事業においては、もともとサイバーエージェントは、業界ナンバーワンです。そこで身に着けたことが我々の強みになっており、DX事業に活きてくると思っております。
具体的に言うと、今回の事業で生かすことが出来ることには、大きく3つあります。1つ目は広告の運用力です。そして2つ目は販売力です。販売力に関しては、広告代理事業で培ってきた顧客リードとセールス力が活きると思っています。3つ目はクリエイティブです。広告商品を作るとなると、クリエイティブをどうするかということが効果において重要になります。この領域も広告の運用を通して培った我々の強みです。
デジタルの力で世の中をもっと便利にする
-新しい会社の組織は、インターネット広告事業本部からは独立した組織になるのでしょうか?今後どのような方向に向かっていきたいと考えておられますか?
インターネット広告事業本部とは切り分けた組織として立ち上がっております。オフィスの物理的な場所も現在は分かれております。
現在は採用をしている最中であり、エンジニアやデザイナーも独自に採用していき、いわゆるモノづくりのところまでを自社で完結するようにしたいと思っております。
創業の時は8名だった人員は、今年1年目で50名、2年目で100名の規模にする予定で、2025年に売上高100億円を目指してまいります。
我々のミッションは、「デジタルの力で世の中をもっと便利にする」ということを掲げております。本質的な我々の仕事は何かと問われたら、この言葉が答えになると思っています。
お客様が広告ビジネスをすることが出来るようになれば、最終的な対価としての収益は、後からついてくると思っています。まず一番優先すべきは、デジタルで便利になるものを作ることです。そこをいろいろな企業様とご一緒させていただきたいと考えております。そして使われるものを作ったら、そこに人が集まって広告価値が生まれ、そしてその広告商品を我々が売ってしっかりと収益を上げるというような循環を作っていきたいと考えています。
便利なアプリを作ったり、店舗体験を良くしたり、乗り物に乗るときの体験をより便利にする・・・生活をデジタルの力で便利にするものを作り、メディアを作り、広告商品を作る。これが、我々が職種を超えて今後やりたいことであり、そして目指すべき方向性です。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。