旅行マーケティングでは安全情報の提供が鍵にーTeadsが消費者動向調査を実施[インタビュー]
コロナ禍で非常に大きな影響を受けた旅行業界。ワクチン接種が進み、緊急事態宣言が解除されたと思いきや、今度はオミクロン株の登場で先行きはいまだ不透明なままである。このような状況下において、旅行業界はいかにマーケティング施策を展開できるのか。プレミアムメディアネットワーク上で旅行計画に関するアンケート調査を実施したTeadsに見解を尋ねた(本インタビューは2021年12月下旬にリモートで実施)。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 長野 雅俊)
Teadsが消費者動向調査を実施する理由
―自己紹介と事業紹介をお願いします。
ラ・カーピア氏(写真左):グローバル マーケティング本部でバイスプレジデントを務めておりますアントネラ・ラ・カーピアと申します。2011年の入社時はインターネット広告の黎明期。広告関係者を訪ねまわり、インターネット広告が今後いかに重要になるかを説く日々を過ごしていました。当時はまだテレビ広告が主流であり、プログラマティック広告やAI活用はそれほど現実味のある話として受け止めてもらえなかったのです。そのころと比べると、隔世の感があります。
Teadsは、世界中のプレミアム媒体を横断し、プログラマティック広告取引を先導するプラットフォームです。バイサイドとセルサイドの両者に対して、広告クリエイティブやデータ関連のAIまたは最適化技術を提供しています。
こうした技術を活用することで、広告主や広告代理店の方々に対して、世界中のプレミアム媒体が有する広告在庫を提供します。当社が構築した独自のネットワークを通じて、ブランドセーフティが確保された環境で月間19億ユーザーへのリーチと効率的な広告配信を実現。26カ国で800名以上の社員がその他様々な支援を行っています。
吉田氏(同右):日本市場向けのマーケティングとPRを担当する吉田 乃奏實です。Teads Japanは2015年に上陸、2022年の5月には7周年を迎えるフランスのマーケティング企業です。
アントネラが申し上げました通り、当社では非常にユニークかつ希少なアウトストリーム広告ソリューションを提供する、SSP、DSP、DMP、リサーチラボを持つグローバルメディアプラットフォームです。inReadという特許技術で世界中のトップパブリッシャーの記事中へ美しい広告クリエイティブを配信しています。また近年では、Cookieを使わない安心で安全な広告配信を行っています。
私自身はTeadsへ参画し4年になります。当社の価値とサービスを広告主と代理店、媒体社の皆様に対してご紹介させていただいています。また当社のR&Dチームが開発する新しいソリューションやリサーチ部門の成果をグローバルチームと連携し発信することで当社のブランド認知を高めるというのも私の業務の一つです。
―11月末に「2021年 冬のホリデーシーズン旅行動向」と題したアンケート調査結果を発表しました。
ラ・カーピア氏:当社が開発した、コンテンツ消費傾向の解析ツールであるTeads Media Barometerを活用し、コロナ禍の以前と以後で、一般消費である商品購入・外食・旅行等に対する興味や関心がいかに推移したかをまとめています。尚、本調査では年末年始の計画に着目しました。年末年始は、Eコマース及びオンラインショッピング業界にとって非常に重要な時期だからです。クリスマス、大晦日、正月、ブラックフライデー、サイバーマンデーといったイベントが目白押しで、年間売上の大半をこの期間に計上する事業者も少なくなりません。
―このような消費者動向調査は定期的に実施しているのですか。
吉田氏:はい。広告関係者の皆様に対して消費者動向をお伝えすることを目的として、グローバル規模かつ通年で実施しています。調査の一貫性を確保するために、できる限り各国共通の一般的な質問を策定。ただし、コロナ関連状況は国ごとに異なることを鑑みて、今回に関しては調査実施国ごとにそれぞれ異なる質問を用意しました。例えばイタリアではクリスマスの過ごし方やプレゼントなどについて尋ねた一方で、日本では年末年始全般の旅行計画に関して質問しています。
ラ・カーピア氏:今回はオンラインショッピングと旅行業界業界を中心に取り上げましたが、今後も様々な視点からコロナ関連動向を注視していきたいと思います。ワクチン接種が進み、感染状況が次第に落ち着くことが期待される中で、マーケティングの注力領域を明らかにするための示唆を得るためには必須と考えています。
尚、近日中に電気自動車をテーマとした新たな調査を実施予定です。半導体不足の現状を把握した上で、将来的な自動車の購入意向に対する影響を探ります。自動車業界の未来を知る貴重な調査となるでしょう。
フランス人の8割が旅行に前向き
―今回の調査結果に関して、日本市場とその他の国々で目立った違いはありましたか。
ラ・カーピア氏:グローバル平均としては、約半数が旅行に出掛けることを楽しみにしています。ただし国ごとに違いがあり、初夏に実施した調査では例えばフランスでは8割が旅行に前向きな見解を示す一方で、シンガポールでは75%が不安を覚えています(日本は66%)。概して米国及び欧州の方が、南米、アジア太平洋、中東・北アフリカ地域と比較して旅行に対して前向きです。
旅行に対する意識調査結果。各グラフの右端に配置された日本の調査結果からは、旅行に対する不安を抱える日本人が比較的多いことが伺える
資料提供:Teads
また旅行コンテンツの消費量は2021年初頭から2倍以上となり、旅行に対する関心が高まっています。各地の感染状況や各種の行動制限などについての情報も合わせてよく閲覧されているようです。
吉田氏:10月1日に緊急事態制限が解除されて以降、旅行に対する関心は確実に高まりました。オミクロン株関連の報道後は微減したものの、ミレニアル世代と総称される25~34歳と65歳以上は関心を高く保ち続けています。また45~54歳の関心度は安定して推移しています。旅行関連のニュースが多くなった11月中旬には18歳から24歳に相当するZ世代の関心が一機に高まりました。そして、12月中旬から全ての世代で旅行の意向が再び上昇しています。
旅行コンテンツの消費量の推移を示した調査結果。緊急事態宣言が解除された10月1日以降からオミクロン株の報道が多くなり始めた11月後半までにかけて全体的に右肩上がりになり、12月中盤から再び関心が高まっている
資料提供:Teads
旅行コンテンツの消費量の推移を示した調査結果(緑線)。政治関連やコロナウィルス関連のコンテンツがほぼ横ばいであるのとは対照的に、消費量が次第に増えている
資料提供:Teads
旅行に関する不安を解消するには
―本調査結果から、マーケティングに関してどのような示唆を導き出すことができますか。
吉田氏:旅行業界のマーケティング活動において最も重要なのはコミュニケーション戦略です。アントネラが指摘した通り、消費者は目的地の感染状況や行動制限などに関する情報を探しています。コミュニケーション戦略を立案する際の参考となるはずです。
またテレビニュースを参照したり、当社を含む様々な事業者のデータやオウンドメディアにおけるコンテンツ別のインプレッション、回遊時間、購入データ、リテンション率などを性別や年代別に分類した上で、様々なチャネルを通じた適切なコミュニケーションを取ることが求められます。
―本調査実施時点では、36%がまだ年末年始の過ごし方を決めていませんでした。こうした人々に対してはどのようなアプローチが考えられますか。
ラ・カーピア氏:欧州では航空会社が安全性を強調するメッセージを打ち出すようになっており、例えばKLMオランダ航空やエールフランスはチケット購入完了前に安全に関わる最新の情報を豊富に提供しています。消費者の不安を解消するための取り組みと言えるでしょう。
ただし、規制状況は刻々と変化し、また国によって大きく異なります。さらに感染状況が水面下で進行しているという場合もあり得ます。だからこそ、現時点ではイタリア、フランス、スペイン、米国といった国々では旅行先として国内が推奨されているのでしょう。ただし、状況は確実に改善しつつあります。
吉田氏:11月時点では年末年始にどこに旅行に出掛けるべきかを決めていない消費者が多いのは当然とも言えます。しかし、それでも11月時点で3割が既に旅行計画を策定済みということは旅行業界が少しずつ活性化していることの表れではないでしょうか。
旅行計画をまだ定めていない36%に対しては、旅行先の情報と合わせて安全に関する詳細な情報を提示することをお勧めします。消費者は航空会社・鉄道・バスなどの公共交通機関のウェブサイト、ホテルのウェブサイト、旅行予約(OTA)サイト、観光協会を含む旅行関連サイト、現地の今を知るのにtwitterやInstagramなどのSNSを閲覧しますが、それらのコンテンツ上には安全面や行動規制に関する情報が古かったり、不足していたりと、混在しています。これらの最新の情報を正確に伝えることが、予約率やコンバージョン率を向上させるための鍵となるはずです。
また各種の調査に目を通して最新の消費者動向を把握しましょう。そしてマーケティング活動を再び本格化すべき時期が来たら、ソーシャルメディア、ニュースレターを含めたオムニチャネルで効率的にメッセージを配信すべきです。
―「旅行を計画しているが行き先は決めていない」と回答した20%に対してはどのようなアプローチが考えられますか。
吉田氏:やはり安全面での情報が鍵になることに変わりはありません。そうした情報は、旅行に行きたいという消費者の気持ちを後押しし、またどの場所に行くべきかという判断材料となるはずです。例えば、OTAサイトでホテル・旅館を予約する際、その個別の宿のページに現地情報が掲載されていることも安心材料になります。ここまでは一般化されているかもしれませんが、予約通知メールや予約リマインダーメールなどで、現地の安全情報(各都道府県の感染防止対策)や観光情報(コロナ禍でも安全に現地を楽しむことのできる観光情報)、気象情報を入れることで旅行者は事前の準備が進めやすくなるのではないでしょうか。
また先行予約割引や直前割引も効果を高める場合があります。さらに中国をはじめとするアジア全域では、ECサイトとライブ配信を組み合わせたライブコマースが流行の兆しを見せており、いずれ日本市場でも人気を博すようになるはずです。
ラ・カーピア氏:さらには旅行に行きたいと思わせるようなプログラムやオファーを用意すべきです。例えばエミレーツ航空ではドバイ行きの航空券とともに博覧会の入場券を提供しています。また医療制度が整備されており、厳しい規制や行動制限が課されるような深刻な状況でないことが明示されれば安心できます。欧州ではワクチンパスポートも旅行者と旅行先のローカルの人々双方が安心して移動・受け入れができる一つのアイテムになっています。
―「旅行はしない」と回答した22%についてはいかがですか。
吉田氏:たとえ各種の行動規制が緩和ないし撤廃されたとしても、消費者を取り巻く環境や感染リスクに対する意識は地域によって大きく異なります。旅行業界全体がコロナ禍以前のレベルにまで回復するにはまだ一定の時間を要するでしょう。消費者の旅行意向の高まる“その瞬間”のタイミングは、人それぞれ異なります。ですから、メディアは旅行・運輸業界の情報を常に正しく伝える必要があります。大切なことですが、広告はこの適切なタイミングで消費者の目に触れることができれば、消費者理解やブランド選好を促します。「旅行をしない」と回答された消費者もその瞬間のタイミングが調査時には到来していなかっただけかもしれないのです。
一点一画に力を注ぐようなマーケティング活動が続きますが、ひいては旅行業界全体の回復となるよう、私たちも継続して消費者動向調査やサポートを実施してまいります。
ラ・カーピア氏:コロナ感染状況次第で政府の規制状況は大きく変わります。海外旅行よりも国内旅行の方が安心かつ安全であることは間違いありません。エアライン、OTA、ツアー会社などはこうした現状を踏まえたマーケティング戦略を用意する必要があります。またコロナ禍で減給になられた方や職を失った方もおられます。政府が効果的な経済政策を用意することで、旅行に行きたいけれども行くことができない人々をも取り込むことができるようになるかもしれません。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。