「素材を入れた翌日に放映して差し替えができるテレビ広告」を実現したい―PubMatic×インティメート・マージャー対談[インタビュー]
アドテク界隈でOTTやCTVという単語を耳にする機会が頓に増えてきた。ただし、この領域はまだ発展途上段階にある。来るべき未来に向けて水面下で様々な課題に取り組む2社にOTT及びCTVの本質論を語ってもらった。(Sponsored by PubMatic)
急成長もターゲティングと効果計測に課題
―自己紹介をお願いします。
廣瀬氏(左写真):パブマティック株式会社でカントリーマネージャーを務める廣瀬道輝と申します。PubMaticで7~8年ほど従事していますが、その間にアドネットワークを通じた広告配信からプログラマティック広告取引へ、バナー広告から動画広告へ、PCからスマートフォンそしてCTVへといった具合にオンライン広告の配信方法、フォーマット、配信先端末が目まぐるしく変化してきました。その中でもOTT及びCTVは今後確実に成長していく領域として期待を抱くと同時に様々な課題にも取り組んでいます。
簗島氏(同右):株式会社インティメート・マージャーの代表取締役社長の簗島亮次です。DMPの開発及び運用を行う当社では現在、サードパーティCookieに依拠しないデジタルマーケティング手法の開発に注力しており、その一環として当社のデータを用いたCTVへの広告配信を手掛けています。
―OTT/CTVに注目する理由をお聞かせください。
廣瀬氏:日本においては動画配信サービスの利用者が人口の61.2%と言われています。一方の米国では人口の70%に相当する2億3000万人が本格的な定額制動画配信サービスを利用。またスマートTVないしはCTVの所有者は日本では50%を超えていますが、米国では82%の家庭がインターネットにつながったテレビを少なくとも1台は所有しています。日本も米国に追随する形でOTT/CTV視聴が今後さらに普及していくことが見込まれます。
もちろん、米国と日本では市場を取り巻く環境が大きく異なります。米国でテレビ視聴をするためには高額なケーブルテレビのパッケージ契約が前提となることが長らく一般的でした。そのような環境下で「割安な料金で自分が見たい番組だけを見たい」という視聴者の要望を受け止めたOTT/CTV市場が急速に成長したのです。テレビの受像機を買いさえすればすぐにテレビ視聴が無料でできる日本ではこうした需要はあまりないでしょう。
ただし、コロナ禍で人々がオンライン上で過ごす時間が増加し、またテレビメーカーもCTVを積極的に生産するなどした結果、日本のOTT/CTV市場の成長が一気に加速している感触はあります。また視聴者もチャンネルまたはコンテンツ単位での有料視聴という方式に段々と慣れてきたように思います。
簗島氏:当社のようなデータ企業にターゲティング配信のお問い合わせが寄せられるということは、その配信先の評価が高まっていることを意味します。なぜならば、成功事例にまだ乏しい新興プラットフォームや新規手法での広告配信を試してみる際に、きめ細かいターゲティングが求められることはほとんどないからです。十分な配信規模が整い、広告効果がある程度まで見込めるようになった後で初めて「より効率的に広告を配信したい」という需要が顕在化します。
そして、ここ半年くらいの間にOTT/CTVへのターゲティング配信に関するお問い合わせ件数がぐんと増えました。OTT/CTV広告市場が着実に成長を遂げていることの証です。
―需要拡大に伴い、配信環境の整備も進んでいるのでしょうか。
廣瀬氏:正直なところ、まだ発展途上の段階です。デジタル広告の最大の特徴は「精緻なターゲティングができること」と「効果測定ができる」ことにありますが、例えばCTVはサードパーティCookieを用いないので、プログラマティック取引を通じた閲覧履歴に基づくターゲティングができません。現状では「A社のBモデルの端末に配信」というデバイスターゲティングか、または「Cというドラマの各エピソードのタイトル」などに関連したコンテクスチュアルターゲティングなどが技術的には可能です。
また効果測定においては、CTVではクリックという行為が発生しません。一方でビューアビリティ計測においては既に大手事業者が精緻な計測環境を整備しています。
簗島氏: CTVならではのもう一つの特徴として世帯視聴が挙げられます。つまり、テレビ広告のように「3世帯家族」といった世帯単位でのターゲティングができるのです。ただ他のデジタル広告と同様に興味・関心や購買意向に基づく効率的な広告配信環境はまだ十分に用意できていません。当社としては十分なデータ環境を構築して適切なセグメントを定義することで、然るべきターゲティング配信環境を整備していきたいと思います。
一方の効果計測はより大きな難題です。広告表示の有無つまりインプレッションは計測できますが、閲覧やクリックを起点とした流入つまりアトリビューションの計測が非常に難しい。OTT/CTVでの接触後何日以内での流入をクロスデバイスでトラッキングするという手法が主流となりつつありますが、まだまだ精度を向上させる必要があります。
ただアトリビューションをきちんと計測できていないということは、現時点で把握できている以上に広告効果が高い可能性があるということでもあります。既にOTT/CTV広告配信を開始したマーケターの皆様の多くが「本当はもっと効果があるはずなんだけどな」という気持ちを抱いているのではないでしょうか。
中小企業やスタートアップが出稿できるテレビCM
―そもそもOTTやCTVにターゲティング配信が求められているのでしょうか。
廣瀬氏:OTT/CTVの本質は「デジタル機能を活用してテレビ広告が出稿できる」点にあると考えています。テレビ広告は確かにブロードリーチの最たるものではありますが、ターゲティング需要は確実にあります。ところが、一般的なテレビ広告でできるターゲティングはエリア配信ぐらい。より精緻なターゲティングの仕組みさえ用意すれば、最大限に活用されるはずです。
簗島氏:実際に当社には既にOTT/CTVへのターゲティング配信に関するお問い合わせが寄せられています。その背景を想像するに、通常のテレビ広告では一回当たり何千万~何億円という莫大な費用がかかるのに対して、OTT/CTVでは配信ターゲットを絞れば300~500万円程度で広告出稿ができるからでしょう。
つまり今まで「テレビ広告に興味はあるが手が出せなかった」という広告主層にとっては、精緻なターゲティングができるか否かは死活問題です。
廣瀬氏:これまでのテレビ広告は一部の大手広告主しか扱うことができない代物でした。中小企業やスタートアップでも出稿できるテレビ広告の担い手として、またテストマーケティングの場としてもOTT/CTVは期待されているのではないでしょうか。
―OTT/CTVにおいてユーザーごとに広告クリエイティブを出し分けるという需要はあると思いますか。
簗島氏:100人のターゲットに対して100通りの広告クリエイティブを出すというのが理想的ではあります。ただOTT/CTVに流すような本格的な動画広告を100通りも用意するとなると製作費が膨れ上がり、現実的ではありません。Instagramストーリーズのように安価で気軽に動画広告を制作できる代替フォーマットの開発を検討すべきなのかもしれません。
―ターゲティング一つをとっても、まだまだ課題が山積しているのですね。
簗島氏:一般的なデジタル広告の配信形態は、①ブロード配信→②コンテンツマッチ→③オーディエンスターゲティング→④ダイナミッククリエイティブといった順番で発展を遂げてきました。CTVはまだ②と③の中間あたりに位置する「興味・関心に基づくターゲティングをいかに実現するか」という課題に取り組んでいる最中です。
CTVでは使えないサードパーティCookieの代わりにOTTプラットフォームに登録された会員情報、IDFAやAndroid IDといった端末IDなどを最大限に活用する必要があります。
「お試し用媒体」からの脱却へ
―他のインターネット広告と同様のターゲティング配信や効果測定ができる環境が整うのはいつ頃と見込んでいますか。
廣瀬氏:もう少し、時間を要するでしょう。
簗島氏:ただあまり時間がかかり過ぎると、インターネット広告の仲間としては受け入れてもらえなくなってしまうかもしれません。
廣瀬氏:OTT/CTVは従来のデジタル広告とテレビ広告の中間的な存在です。だからこそ、従来のデジタル広告及びテレビ広告の指標をそのまま適用することができません。OTT/CTV専用の統一指標を整備することが急務です。
―どのような統一指標が考えられますか。
簗島氏:ビュースルーサーチコンバージョンが主流となると思います。つまりOTT/CTV広告の最後に「検索してね」というメッセージを表示し、その後どれだけ検索経由のコンバージョンないしサーチリフトが発生したかを計測するという手法です。
廣瀬氏:広告内容に興味を持ったユーザーはその後スマートフォンで検索するはず。OTT/CTV広告を視聴した端末と、検索や購買を行ったスマートフォンをIPアドレスで紐づけるのも有効だと思います。
―今後の市場課題についてお聞かせください。
廣瀬氏:日本市場ではOTT/CTVにおける媒体社の数がかなり限定されています。実際に現状のOTT/CTV広告はDSPを通さずにほぼ純広告として販売されることが多く、広告枠のプログラマティック売買が活性化した米国市場とは対照的です。また広告クリエイティブの審査が厳格であり、自動入札を実施するのが非常に難しいという課題もあります。
簗島氏:日本ではOTT/CTV広告はまだ「お試し用の媒体」という位置づけです。言い換えれば、インターネット広告のレギュラー入りを果たしていない。広告出稿の出稿オペレーションにも効果計測にも手間がかかる現状を鑑みれば致し方ないとは思います。
だからこそ、独自基準を整備しつつも、他のデジタル広告と同程度に広告配信を効率化及び最適化する方法を一刻も早く用意しなければいけません。それが実現できなければテレビ広告の亜種または若者向け限定のテレビCMと見なされてしまう。
でもOTT/CTVはテレビの亜種ではない。デジタル広告の技術を活用すれば、「今日に素材を入れて明日に広告が出て、そのパフォーマンスに基づき明後日には差し替えができるテレビ広告」としての存在意義を確立できるでしょう。
廣瀬氏:私としては市場の活性化のためにもっとストリーミング系の媒体社が増えてほしいと切に思います。コンテンツを作ることはコストも掛かりますし時間もかかりますのでなかなか難しいことはわかるのですが、海外ではOTTや CTVコンテンツのアグリゲートを専門とする事業者がいるほどです。
日本市場においてもスマートTVを製造するテレビ事業者の多くが番組表やOSを提供していますが、あの画面に独自コンテンツを流すなどしながら広告収益化をすれば、新たなOTT/CTV媒体になりえると思ったりします。当社としては、こうした広告収益化という観点を含めて、媒体社と一緒に来るべき日本のOTT/CTV市場の成長を支えていきたいと思います。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。