ショッピング広告の可能性を知る―楽天市場出店店舗向け販促広告-[インタビュー]
楽天市場の広告というと、楽天市場出店店舗向けの広告商品がその中心的な役割を担うという印象を受ける。
本稿では、楽天市場出店店舗向け広告サービスの責任者である、楽天グループ株式会社 コマースカンパニー マーケットプレイス事業部ジェネラルマネージャー春山宜輝氏に、楽天市場の概要や出店店舗向け楽天市場広告商品についてお話を伺った。
コロナ禍で急成長を遂げた楽天市場
―楽天市場についてお聞かせください
楽天市場は1997年にサービスを開始しました。誰もが自由に商売ができる「楽市・楽座」がそもそもの名前の由来になっています。
その後かなり規模も大きくなり、出店店舗数も55,000店を超えました。楽天市場に登録されている商品は3億点以上に及び、国内EC流通総額では、総額4.5兆円(注)にまで成長しました。
(注)2020年度(2020年1~12月期)における、国内EC流通総額(一部の非課税ビジネスを除き、消費税込み)=市場、トラベル(宿泊流通)、ブックス、ゴルフ、ファッション、ドリームビジネス、ビューティ、デリバリー、楽天24(ダイレクト)、オートビジネス、ラクマ、Rebates、楽天西友ネットスーパー等の流通額の合計
楽天市場は、個性豊かな店舗さまによる幅広い品ぞろえを特徴としており、例えば地方の山間部にあるみかん農家様など、日本全国の事業者に出店していただいております。楽天市場の責務は、ユーザーが安心安全なショッピングを楽しんでいただける環境を提供することだと捉えており、店舗さまにおいても出店時の審査などもしっかり実施しています。
また店舗さまのサポート体制としては、ECコンサルタントが全店舗さまそれぞれを担当させていただいています。また楽天大学というサポート制度や、ECを成功させるためのノウハウをオンラインコンテンツとして提供するなど、店舗さまが継続的な成長を重ねられるよう様々な形で様々なプログラムを用意しています。
店舗さまとは、Eコマースが今後50年、100年と継続する産業として共に築いていきたいという話をさせていただいています。そのためにはサステナブルな価値の循環環境を作っていく必要がありますが、店舗さまとは一定のルールの中で店舗さまの魅力を活かせる生かせる売り場づくりをしていかなければいけないと考えております。
ユーザーの方々、店舗さまに対しても、安心安全なショッピングができるといった売り場を提供していく必要があるという前提のもと、様々な施策を段階的に提供させていただいております。
2020年10-12月期の当社における国内EC流通総額は1.4兆円、対前年同期比38.5%増、20年度全体で約4.5兆円、対前年同期比約20%増となりました。国内EC/ショッピングEC(注)だけを踏まえると、2021年4-6月期は1.2兆円プラスとなり対前年比12.2%増の成長となりました。また、2年CAGRにおいては、23.6%の成長を達成しました。
(注)ショッピングEコマース=楽天市場+ 1st パーティー(ファッション, ブックス, Rakuten24 (ダイレクト), ネットスーパー+ オープンEC (Rebates, チェックアウト) + ラクマ
2020年の1月、2月頃までは、以前より継続してきた成長率で推移してきましたが、新型コロナウイルス感染拡大以降、成長カーブが変化しました。外出自粛の時期などもあり、新規ユーザーが楽天市場を初めて利用いただいた際に、日用品などだけでなく、地方の産品なども安心・安全にお買い物頂けるという体験があったからこそ、その後離脱をせずにずっと使い続けてくれているというトレンドが顕著にみられたのだと考えています。
検索連動型広告を中心に構成される、楽天市場の広告商品
―広告事業についての状況もお聞かせください
昨年2020年度の広告売上は1,294億円、前年比でプラス15.7%と成長をしました。
楽天市場では約55,000店舗様が3億を超える商品を販売されていますが、より店舗さまのオリジナリティーを出しながらユーザーの目に留まるためには、マーケティング活動も必要となります。公平性の観点から、より露出を高めたい店舗さまには、広告サービスをご利用いただいています。
ECサイトにおける広告とは、いわゆる一般的な媒体社の広告とは少し異なっており、どちらかというと店舗さまの流通額をどれだけ上げていくのかということが、一番重要なKPIとなっております。
広告の種類は数多くあり、代表的なものを挙げると、検索連動型広告(RPP)、ターゲティングディスプレイ広告(TDA)などがあります。TDAは2020年にサービスの提供を開始しており、楽天のDMPが蓄積する顧客基盤やマーケティングデータなどを使いながら、店舗さまが自らターゲットセグメントなどの設定ができるようになっております。
そしてもう一つは、従来型の純広告を、期間保証型広告として販売しております。純広告は、イベントや楽天スーパーSALE、お買い物マラソンなどの企画実施時に枠を提供させていただいております。
これ以外にも、メール広告や、各種SNSサービスも活用させていただき、ユーザーへPUSH型で配信できる広告など、様々な形の広告を提供しております。
―ご紹介いただいたなかで、一番多くの広告主に使われているのは検索連動型広告でしょうか
はい、検索連動型広告が最も多いです。ターゲティングディスプレイ広告は、リリース後かなり利用数が伸びてきています。
―広告出稿をする広告主(出店店舗)の傾向はありますか
店舗さまの特定の業種・業態などの特徴的な傾向はあまりなく、様々な店舗さまにご利用いただいております。検索からの流入ユーザーは多く、これを重視する店舗さまが、商機を逃さないようにするために出稿しています。
例えば検索連動型広告の出稿におけるキーワードの出し方は、カテゴリーワードの場合もあれば、具体的な商品名の場合もありますが、店舗さまごとの戦略により様々であり、運用のされ方には、バリエーションがみられます。
―広告主はどのように広告を出稿するのでしょうか
基本的に、運用型広告といわれている検索連動型広告やTDAに関しては、店舗さまご自身で広告の設定や運用をすることができます。例えばTDAについては、管理画面から予算や必要なターゲティングセグメントを設定して、クリエイティブを入稿していただきます。一部運用が難しいという店舗さまにはサポートチームが運用を代行することもあり、六か月間に限り、一定の条件を満たした店舗さまを対象に、我々が無償で運用代行をさせていただきます。
―広告のフォーマットについてお聞きします。検索連動型広告のクリエイティブはテキストと画像で構成されているのでしょうか
検索連動型広告は一部の楽天市場やグループ内外の媒体にも掲載されますが、主に楽天市場の検索結果画面に掲載されます。出来るだけ簡単に店舗さまに使っていただこうというコンセプトのもと、RMSという、店舗さまの商品登録システムの商品ページに掲載されている画像(第一画像)やそれに紐づく価格やテキストの情報を表示させております。画像に関しては、別組織のパトロールチームが店舗さまのページの品質確認をしており、そこで品質を担保しております。
―広告の入札方法はどのようになっているのでしょうか。
実際に広告の仕組み、システムに対して入札を行う際に関しては、3つ方法があります。1つ目はキャンペーンという、登録されている複数の商品群に対してCPC単価を設定する方法です。2つ目は商品単位でCPCを入札する方法。例えば、商品軸でより露出を強化したいものに対して、入札を高めるなどの運用をしていただけます。3つ目がキーワード別にCPCの入札をする方法で、例えば「マウス」というキーワードを50円で指定入札するような形です。
―出店店舗が既存顧客との関係性を高めていくメニューはありますか?
店舗さまには、独自のクーポンやキャンペーン、新商品のご紹介をメールでユーザーに対してご案内できる機能を提供しています。メールの受信を許可しているユーザーに対して、店舗さまの必要なタイミングでメールを利用しキャンペーンなどの告知ができるようになっております。
これらの機能を使いながら、ロイヤルカスタマーを作っていく活動を、店舗さまご自身で出来るようになっております。
出店店舗の流通最大化を支援することこそ、楽天市場の広告の使命
―楽天市場における広告事業の位置づけや、サービスを提供されるうえでのお考えについて、お聞かせください
多様な業種・業態の約55,000店の店舗さまが楽天市場に出店する中で、我々はどの店舗さまにとっても簡単で、かつ広告効果が高い広告サービスを構築する必要があります。
広告管理画面について、ある程度の経験がある店舗さまには、いろんな機能のレバーがあったほうが望ましいかもしれませんが、これを10個も20個も作ると、別の店舗さまにとってはハードルが上がってしまうこともあります。
店舗さまの流通額を最大化することを目的として、最低限必要なレバーはどれであるかを考えた上でご提供しています。ですがなかなか最適点を探るのが難しく、答えがない活動であるともいえます。
我々は、全ての店舗さまの流通を最大化するためのマーケティングツールを提供してきたいという想いがありますが、楽天市場の限られたスペースの中で、店舗さまにフェアな環境を提供する上で、広告費をいただいております。
店舗さまには、マーケティングツールとして広告をご利用いただきながら、先述した通り、楽天市場ならではの店舗さま向けのサポート施策として、ECコンサルタントの存在や、ノウハウを提供するコンテンツの提供など様々な施策を活用いただき、店舗さまと共に、中長期的な成長を目指していきたいと考えております。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。