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市場変化にさらされても安定基盤は揺るがないーAdjustの長期的展望とは

IDFA利用制限からSKAdNetwork対応及びAppLovinによる買収など、激動の1年間を過ごしてきたAdjust。今後一層の変化が起こり得る環境下で、彼らはその将来についてどのような青写真を描いているのか。アプリ市場動向と合わせて話を聞いた。(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

 

コロナ禍とiOS14.5の影響

 

―アプリ利用率の増加が著しいと言われています。

 

当社が計測するアプリを対象とした調査によると、2019年から2020年にかけて、全体でインストールが32%増加、セッションは101%増加しました。2020年~2021年の間で各数値の伸びはやや鈍化しましたが、それでも依然として日本のアプリ市場は拡大を続けていることは明らかです。昨年から今年にかけて、ユーザーのアプリ内の滞在時間、1日当たりのセッション数、セッション1回当たりのアプリ滞在時間などがすべて増加しています。

 

 

資料提供:Adjust

 

ジャンル別ではハイパーカジュアルゲームが2020年に急成長。ハイパーカジュアル以外のゲームも2021年の上半期にインストールが大きく伸びました。さらには地方銀行が運営するバンキングアプリや決済アプリ、デリバリーやネットスーパーなどのEコマース関連アプリも拡大基調にあります。

 

一方で旅行、リアル店舗、レストラン予約といった分野は低調でした。ただし、新型コロナウイルスの感染状況が落ち着けば、こうした業界も徐々に盛り返していくのではないかと想像します。

 

―アプリ市場はコロナ禍の影響を大きく受けましたね。

 

注目すべきは、緊急事態制限中に新規アプリをインストールしたユーザーが、制限解除後もそれらのアプリを使い続けているということです。

 

また政府によるキャッシュレス推進もアプリ利用増に寄与したのではないでしょうか。決済、健康、ショッピングといった日常生活に密接に関わる分野のアプリは今後も安定して成長していくと見込んでいます。

 

加えて菅政権の目玉政策となっていたスマホ料金値下げや次世代通信規格である5Gの普及なども成長要因となっていくはずです。

 

―今年4月末のiOS14.5リリースに伴う混乱は市場の成長阻害要因となりますか。

 

成長阻害要因となり得ますが、まだそれほど多大な影響は出ていません。実のところ、Apple社が発表したSKAdNetworkという新たなアトリビューション計測手法への対応に関する試行錯誤を各社がまだ続けている段階にあります。

 

Adjust社を始めとするモバイル計測パートナー (MMP)が提供してきた手法とSKAdNetworkは大きく異なります。つまりマーケターは、二つの異なる計測手法を通じて弾き出された2種類の異なる数値をいかに比較し、新たなKPIを設計するかについて検討を重ねている最中です。とりわけ巨大な広告予算を持つ大手ゲームタイトルなどが、この調整期間に広告出稿に対してやや慎重になる可能性はあると思います。

 

SKAdNetworkはMMPと競合するか

 

―貴社の顧客がSKAdNetworkをご利用される場合もあるのですか。

 

当社では、SKAdNetworkのデータを瞬時に視覚化する「Adjust データキャンバス」やSKAdNetworkデータを従来の計測結果と比較する「Adjust Automate」を無料で提供しています。

 

GoogleやFacebookといった主要媒体は既にSKAdNetworkへの対応が進んでいますが、対応がまだ不十分なアドネットワークもあります。当社としては、アドネットワーク側が従来の計測手法とSKAdNetworkの両方に対応しているのであれば、両者とも並行して活用することをお勧めしている状況です。

 

従来の計測方法を用いれば、iOSにおいてトラッキングへの同意を示したユーザーに対して以前と変わらず詳細な分析やリターゲティングなどを実施できます。SKAdNetworkへの対応とは別に、トラッキングの同意率を向上させる取り組みを続ける意義は高いでしょう。

 

―SKAdNetworkが高度化または普及すれば、貴社の事業と競合するのではないでしょうか。

 

まずSKAdNetworkがどれほど高度化したとしても、特定の計測手法を用いるだけでは得ることができない細かなデータを確保したいという需要は今後も根強くあるはずです。効率的なリターゲティングを可能とするソリューション、アプリ内の行動データをも計測対象としたツールやアドフラウド防止機能の改良など、当社独自で展開できるサービス領域はまだまだ多く残されています。

 

また当社の顧客企業は、Adjustにより取得できるデータを、複数の部署や外部機関と連携させ、アプリ、ウェブ、店舗売上といった様々なデータと統合して分析し、その結果をマーケティング戦略に反映させています。自ずと各顧客企業には欠かすことのできないソリューションとなり、取引は長期的なものとなりますが、それが故に広告プラットフォームの仕様変更に対応し続けることは弊社の使命でもあります。

 

Androidの比重が高まるのか

 

―iOSにおける各種の変更や制限強化を受けて、マーケターはAndroid端末に対するキャンペーンを優先すべきとの見方が示されています。

 

iOS14.5リリース後に投下された広告費をマクロ的な視点から眺めると、Androidは緩やかに増加傾向、iOSは逆に緩やかに減少傾向となっています。もう少し分解してみると、インストールはAndroidではほぼ横ばいながらわずかに減少、iOSは減少傾向。リアトリビューション(休眠復帰やリターゲティング)はAndroidが大きく増加し、iOSが減少しています。つまり、リターゲティング施策においては、広告効果を確認しやすいAndroidを優先するマーケターが多くいると言えるでしょう。

 

ただし、広告予算全体として、Androidの比重を高めていくとの方針を明示している企業様は、少なくとも私が知る限りでは、実はあまり多くありません。「iOSについては、確保した予算の範囲内で新規インストール獲得を引き続き狙っている」という話はよく耳にします。日本市場においては65%以上を占めるiOSユーザーへの打ち手を止めるという極端な措置を取るのは実際のところ難しいのではないでしょうか。

 

―Androidでも各種の変更や制限が実施されれば、また状況は大きく変わりそうですね。

 

つい先日リリースされた「Android 12」正式版では、トラッキングについてユーザーの同意・非同意の選択による制限がより厳格化されました。一方でAndroidではインストールリファラを用いた計測手法が用意されており、今後も引き続き活用できれば、iOS14.5ほどの変化は起きないかもしれません。Android 広告IDが今後どれだけ取りにくくなるかについては注目すべきポイントの一つです。

 

AppLovinによる買収経緯

 

―2021年2月には、AppLovinによる買収が発表されました。

 

AppLovinはゲームアプリを主な顧客層として広告収益改善ツールやアドネットワークにゲームスタジオ、Adjustは多様なアプリにアトリビューションやエンゲージメントの計測、アドフラウド防止、オートメーションツールなどを提供してきました。顧客層とサービス内容に重複が少なく、相乗効果が期待できるとして今回の買収に至った次第です。

 

ただ今後もAdjustは自社ブランドと文化を維持し、独立した会社として運営を継続します。顧客企業がAdjustのシステム上に蓄積したデータの管理及び共有措置は顧客企業のみが設定できるという点も変わりません。ユーザー獲得ソースとしてAppLovinは多くのマーケターに活用されていますが、日本にも世界にも素晴らしいアドネットワークは多くあります。他のアドネットワークとの連携も引き続き強化していく予定です。

 

―今後の事業展望についてお聞かせください。

 

アパレル店舗やレストランといった分野ではモバイルアプリを持たず、モバイルウェブに留まっている企業様が少なくありません。逆に言えば、リアル店舗領域は、まだまだ新規開拓の余地があるということ。こうした事業者特有の課題解決にも取り組んでいきたいと思います。

 

またSKAdNetwork対応を行うなどした結果、当社が保有するツールが多様化しました。やや複雑化しすぎた面も否めないので、今後管理画面を大幅にリニューアルし、より使いやすいUIで各レポーティング機能を統合していく予定です。

 

さらにはウェブサービスからアプリ進出した企業様向けのサービスとして、ウェブユーザーに対してアプリのインストール誘導を行う「スマートバナー」の提供や、課金形態の多様化に対応するためのサブスクリプション計測機能、そして今後需要が急拡大すると想定されるCTV(コネクテッドTV)計測の事例拡大なども行っていきます。

 

このような形で当社の強みである粒度の細かい多角的なデータ提供を一層強化しつつ、マーケターの皆様にご満足いただけるサービスを引き続き提供していきたいと考えています。もし、当社のサービスにご興味があれば、ご連絡いただけると幸いです。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。