コロナ禍でブランド適合性の重要性が増した理由とは―DoubleVerify主催セミナー
デジタルメディア測定、データ及び分析のグローバルソフトウェアプラットフォームであるDoubleVerify Japanは、9月16日、デジタル広告のメディアの品質とパフォーマンスの現状についての年次調査結果の解説を行うウェビナーを開催した。(Sponsored by DoubleVerify Japan)
守りのセーフティから攻めの適合性へ
DoubleVerify(DV)は、2008年にアドベリフィケーション事業者の草分けとして設立された。その日本法人となるDoubleVerify Japanは2020年4月にオフィスを開設。今年8月末には、80市場で2,100以上のブランド広告主の1兆回以上のインプレッションを分析した「2021 グローバルインサイトレポート日本語版」を発表した。
最高責任者の武田隆氏によると、日本市場においては、アドベリフィケーションに対する本格的な取り組みはまだ始まったばかり。2020年12月には、デジタル広告の品質に対して第三者認証を行うことを目的として一般社団法人デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)が設立されるなど、今後はアドベリフィケーションに対する関心が飛躍的に高まることが予想されている。
また過去1年間では様々なウェブサイトがコロナ禍にまつわる深刻なニュース関連情報を扱ったために、従来のブランドセーフティに基づく定義では、広告配信に適さないと判断されてしまうウェブサイトやページが急増した。こうした背景を踏まえた上で、同氏はアドベリフィケーション領域で重視される概念が「ブランドセーフティから、ブランドスータビリティ(ブランド適合性)へと置き換わりつつある」と主張。前者は「不適切なウェブサイトやページに広告が掲載されることを防ぐ守りの取り組み」であるのとは対照的に、後者は「微妙なニュアンスの違いまでを理解し、適切な場所、コンテンツ、コンテキストを選んで広告を配信する攻めの取り組み」であると説明した。
アドベリフィケーション関連指標の多くが改善
DV調査によると、プログラマティック広告の入札前回避(Prebid)が機能したことなどを受けて、同社がベンチマークとする入札後の品質指標(フラウドやブランドセーフティなど)の多くでは昨年時と比較して違反率が減少。ビューアビリティも大幅に向上した。
また北米では動画視聴端末として、コネクテッドテレビ(CTV)の利用率がPCやモバイルを押さえて首位に。さらにモバイルアプリが浸透したアジア太平洋地域では、動画広告のAVOC率(視聴完了に対してオーディブルでビューアブルな率)が高くなる傾向にある。
出典: DoubleVerify Japan
日本市場ならではの特徴とは
国や地域によって、アドベリフィケーションの手法に違いが見られる。欧米やアジア諸国ではカテゴリ設定を通じて不適切なコンテンツを含む箇所のみを広告配信対象から部分的に除くのとは対照的に、日本では不適切なコンテンツを含む可能性のあるサイトやアプリ全体を除外リストに登録することが多い。このため、日本の広告主はアドベリフィケーションに注力すればするほど、広告配信規模が縮小するという現象に悩まされている。
出典: DoubleVerify Japan
尚、日本市場におけるアドフラウドの違反率は0.3%と極めて低い。ただモバイルアプリに限定すると、アドウェア/マルウェアの出現率が他のアジア太平洋地域と比較して7倍多くなる。さらに動画視聴率が非常に高いにも関わらず、AVOCは非常に低いなど、本調査によって日本市場の特異性が明らかになった。
ブランドスータビリティ活用の前提条件
セミナーの後半には、三井住友カード株式会社の久保拓也氏と、スマートニュース株式会社の伊東裕揮氏を交えたパネルディスカッションを開催した。
三井住友の久保氏は、YouTube単体だけでも様々なコンテンツが用意されていることを踏まえて、一律的な基準に基づき不適切なサイトをブロックするという従来のブランドセーフティ手法はもはや機能しないと指摘。一方でより詳細かつ微妙な基準設定を可能とするブランドスータビリティを最大限に活用するには、まずは宣伝商品とその利用者の実態を十分に理解することが必須との見方を示した。
この意見にDVの武田氏は同調。また「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」ことを掲げるスマートニュースの伊東氏も、コンテンツと広告とユーザーの親和性を高めるための研究開発を積極的に行ってきたと振り返った。
現場から眺めた最新フラウド動向
今年7月よりDVとの提携を開始したスマートニュースの伊東氏は、日進月歩で進化するアドベリフィケーション技術を強化するに当たっては、自社の取り組みに加えて、専門ベンダーとの連携が必要と判断したと発言。また自社の取り組みだけでなく、第三者による外部の客観的な評価を得ることで信頼性を高めていくべきであると述べた。
また三井住友では、ビューアビリティをKPIとしては設定していない。あくまでもKPIを達成する要素としての位置づけだという。この発言について伊東氏は、数値の計測を自己目的化するのではなく、ユーザー体験の充実度を図る手段の一つとして数値を扱っていると解釈。媒体社にとってはありがたい考え方であるとの感想を伝えた。またアンケート調査などを実施する以外の方法で、ユーザーが広告内容をどれほど理解できたかをデータ化する手法の開発に取り組んでいるとの状況を報告した。
最後に行われたセミナー聴講者との質疑応答では、アドベリフィケーションツールの導入に至るまでの社内理解を得る方法についての質問が寄せられた。これに対して久保氏は、決裁者に対して定例会議などを通じて関連情報を提供し、課題意識を共有することの重要性を訴えた。
また伊東氏は、サードパーティーCookieやIDFAの利用及び取得制限を受けて、「正しいターゲットに正しいコンテンツを届ける」という基本に立ち返る契機になると指摘。ニュースアプリとして膨大なテキスト情報を扱う同社は、コンテクスチュアルターゲティングにおいて今後より大きな強みを発揮し得るとの考えを示した。
*9月16日に実施されたDoubleVerify Japan主催セミナーの模様はこちらから視聴できます。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。