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プライバシーファースト時代のブランドセーフティ

ウイルスの世界的なまん延。米連邦議会議事堂の襲撃を招いた激烈な米大統領選挙。再三の延期の末ようやく完了したブレグジット。2020年に入ってすぐ発生した、このような出来事から予期される通り、ブランドセーフティに対する懸念は日々高まっている。「フェイクニュース」という言葉は、もはや耳にしない日がないほどだ。社会の偽情報に対する意識は高まる一方だ。

 

ブランドセーフティの毀損がブランドの評判に与えるダメージは、単にユーザーに失笑されるとか、英誌「プライベート・アイ」の「マルゴリズムズ」コーナーで取り上げられるとかでは済まない。2018年のある調査では、広告が不適切なコンテンツに隣接して表示された場合、消費者がそのブランドと関わりを持つ意思は2.8倍低下するという結果が出ている。当時は、広告が表示されているということは、広告主がそのコンテンツを支持していることを意味しているというのが、消費者の共通認識だったのだ。

 

今回の特集記事では、ExchangeWireの編集者であるマット・ブロートンとグレース・ディロンが、ブランドセーフティを守るため、市場関係者はそれぞれどのような役割を果たすべきか、ブランドセーフティとブランドスータビリティ(適合性)を取り巻く状況は新興チャンネルによってどう変化しているか、偽情報を排除するため、アドテクはどのような役割を果たすべきかを分析する。

 

パブリッシャー、プラットフォーム、ブランド:サプライチェーン全体のブランドセーフティスタンダード

最も注目すべきブランドセーフティ毀損はおそらく、2017年にグーグルのサイト群、なかでもユーチューブで発生した事例だろう。さまざまなブランドの広告が、テロの推進、反ユダヤ主義、ホモフォビア(同性愛嫌悪)といった不適切なコンテンツに隣接して表示され、AT&T、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ロレアル、ベライゾンなど、多くのブランドが広告の引き揚げを余儀なくされた。

その後、ほとんどのブランドは戻ってきたが、ユーチューブ英国法人のマーケティングディレクター、ニシュマ・ロブ氏は2019年、子供の無害な動画に不適切なコメントが多数寄せられたことについて調査した結果、100%のブランドセーフティを実現することは「私たちのプラットフォームの現実」ではないと認めた。確かに現実的な見方ではあるが、1四半期で60億ドル(約6600億円)もの広告売上を生み出し、グーグルのリソースに支えられているプラットフォームには、ブランドパートナー、そして何より一般市民に対し、少なくとも100%のブランドブランドセーフティを目指す責任があるはずだ。承認されたパートナーのチャンネルだけでなく、あらゆるチャンネルで広告を表示することにしたのであればなおさらだ

 

すべてのプラットフォームやパブリッシャーが、ユーチューブに匹敵する規模を持つわけではないが、安全でない、あるいは不適切なコンテンツから広告主を守るという点では、これらのプロバイダーはみな同じ役割を担っている。上述のような複雑なケースや、新型コロナウイルス関連のコンテンツに対して広告が必要以上にブロックされた2020年の事例などは、ブランドセーフティのシステムが抱える問題点を改めて浮き彫りにした。

ブランドセーフティのシステムは多くの場合、広告主が自ら課している基準に依存しており、文脈を無視した単純なキーワードベースの広範な対策が施されていることもある。近年、ブランドセーフティやブランドスータビリティはたいてい、アドフラウドやビューアビリティ(可視性)のソリューションプロバイダーと密接な関係にあるが、コンテキストベースの広告ソリューションの台頭が、この力学にどう影響を与えるかは興味深いところだ。

いずれにせよ、プラットフォーム、パブリッシャー、テクノロジープロバイダーは、自社とパートナー企業のブランドセーフティ基準を見直し、不適切な環境に広告が表示されないだけでなく、ブランドスータビリティのための過剰なブロックによって、広告売上が損なわれないことも目指すべきだ。

 

プラットフォームとパブリッシャーは、ブランドセーフティとブランドスータビリティを守る重要な役割を担っているが、ブランドやエージェンシーが広告を監視することの重要性も軽視すべきではない。記憶に新しいのは、ビデオゲームパブリッシャーのガイジン・エンターテインメント(Gaijin Entertainment)の件だ。

ハンガリーに本社を置く同社は2021年に入ってすぐ、ウクライナ、ドネツク州の分離独立派である自称ドネツク人民共和国(DPR)を積極的に支援していると非難された。ドネツク州で行われていた違法な兵器の実験を紹介するユーチューブチャンネルに、同社の広告が表示されていたことがきっかけだ。ガイジン・エンターテインメントはこれらの非難に反論し、プレースメントについては事前に情報がなく、(非公表の)同社のエージェンシーによって発注されたものだったと述べている。

 

このように広告がどこに表示されているかをブランド自身が把握していないと思われる問題は、ここ数週間でさらに顕著になっている。イケア、グロールシュ(Grolsch)、コッパルベリ(Kopparberg)、オープン大学(The Open University)、OVOエナジー(Ovo Energy)などのブランドが、右派のニュースチャンネル「GBニュース」から広告を引き揚げた。GBニュースに広告が掲載されていたことについては、いずれのブランドも寝耳に水だと主張している。

 

【日本語訳】ご指摘ありがとうございます。明確にしておきたいのですが、私たちの広告は事前の通知や同意なくこのチャンネルに掲載されました。コッパルベリは皆さんのための飲み物です。私たちは直ちにこのチャンネルから広告を引き揚げ、コンテンツを調査することにしました。

 

なぜGBニュースに広告が同意なく掲載されたかについて、ブランド側は、メディアエージェンシーに責任をなすり付けたり、メディアバイイングアルゴリズムのせいにしたりと、さまざまな理由を挙げている。また、ブランドセーフティとキャンペーン効果は両立しないという誤解が続いていることも、これらのブランドがメディアバイイングをうまく管理できなかった一因かもしれない。今は亡きサイズミック(Sizmek)が2018年に大西洋の両岸で実施した調査では、64%のマーケターが、完全なブランドセーフティを実現するとキャンペーンのパフォーマンスが犠牲になると回答している。

 

プラットフォームやパブリッシャーがブランドセーフティスタンダードを守るという役割から逃れることはできないが、ブランドとエージェンシーも最低限、自分たちの広告活動を監視する必要がある。英国のテレビ局の(比較的)ニッチな時間帯に流された自分たちのCMを、もしマーケターが認識できていないとしたら、不明瞭なウェブのエコシステムのどこに自分たちの広告が掲載されているかなど知る由があるだろうか? コンテキスト上の関連性がより重視されるプライバシー尊重の新時代、特にオープンウェブにおいては、このことはさらに重要性を増すはずだ。

 

新興チャンネルにおけるブランドセーフティ

すでに確立された既存のデジタルメディアにおいてもまだ懸念がまん延している現在、オーディオ、CTV、DOOH、ゲームなどの新興チャネルがブランドセーフティの侵害に弱いことは驚くに値しないだろう。ゼファー(Zefr)のEMEA地域担当バイスプレジデント、ロス・ニコル氏が提案しているように、新興チャネルのブランドセーフティスタンダードを守るには、効果的な技術ソリューションを開発し、サプライチェーン全体の透明性を高めることが不可欠なのかもしれない。ニコル氏は次のように述べている。

「自社データを活用する場合でもサードパーティベンダーとのパートナーシップによる場合でも、新興チャネルのどこに広告が表示されるかについて、マーケターはより高い透明性を求めている。動画、画像、音声など、新興チャネルにはますます多様なメディア形式が使われるようになっているため、広告をどこに配信するかを検討する際には、バイサイドがブランドスータビリティを確認し、安全に運用するための共通の基準が必要であることは明らかだ」

 

「グローバル・アライアンス・フォー・レスポンシブル・メディア(GARM)のスタンダードは主要なプラットフォームやエージェンシーに採用されている。これは、一貫性を促進し、有害コンテンツに隣接して広告が表示される問題を最小限に抑えるプロセスを迅速化することに、大きく貢献するだろう。しかし、まだ疑問が残っている。ブランドセーフティの技術は、追い付けるのかだ」

 

この疑問に対する答えはおそらくいくつもあるが、その一つはターゲティングですでに模索されている方式、つまり、コンテクスチュアルにあるのかもしれない。この方式はますます高度化し、ただテキストを分析するだけのレベルをはるかに超えている(音声や動画をフレームごとに分析できるようになっている)。つまり、幅広いデータポイントを評価することで、ブランドにとってより適切で安全な環境に広告を表示できるようになったということだ。

これらはサプライチェーン全体に適用できる。バイサイドのマーケターはブランドスータビリティ基準を見直し、その新しい基準にコンテクスチュアルターゲティングの機能を適応させることができる。一方、パブリッシャーやプラットフォームは違法となる可能性があるコンテンツを見つけ出すために、キーワードで手当たり次第にブロックするのではなく、より洗練されたコンテクスチュアルソリューションを採用することができる。

 

偽情報対策におけるアドテクの役割

アドテクやデジタルメディア業界全体が、社会から注目を集める新たな動きの一つが、偽情報との戦いや偽情報の拡散だ。政治の文脈で、「フェイクニュース」というキャッチーな言葉がトランプ前大統領の発言を通じて広まったが、ここ数カ月は、新型コロナワクチンに関する誤った情報が原因で、偽情報問題がより不快な形で注目を集めた。

7月下旬には、ジョー・バイデン現大統領がフェイスブックを痛烈に非難した。フェイスブックが新型コロナワクチンの偽情報に対処できていないことについて、「彼らは人々を殺そうとしている。私が言いたいのは、今のパンデミックはワクチン未接種の人々のあいだで起きているということだ」と発言したのだ。

 

フェイスブックがプラットフォームの秩序を維持できてないことは、データサイエンティストのソフィー・チャン氏が書いた厳しい内容の社内メモでも指摘されていた。

例えば、ホンジュラスの大統領、フアン・オルランド・エルナンデス氏の当選確率を人為的に高めるための持続的なキャンペーンが行われていたとき、フェイスブックの幹部による対応は9カ月も遅れ、削除したはずのボットはわずか2週間で復活していたという。ここで強調しておきたいのは、これはフェイスブックだけの問題ではないということだ。プログラマティックのエコシステムは本質的に不明瞭で、偽情報を一掃するには、協調的なアプローチを採用するしかないのだ。

欧州委員会の価値および透明性担当副委員長ベラ・ヨウロバ氏は、偽情報対策に関する欧州連合(EU)のフレームワークについて次のように述べている。「オンラインプラットフォームやその他の関係者が、言論の自由を完全に守りながら、自社サービス上のシステムリスクやアルゴリズムによる拡散に対処する自主的な取り組みを諦めて、むしろ偽情報による金儲けに向かっていることを阻止する必要がある。そのためには、より強力な新しい規範が必要だ」

 

現在の業界の不十分な自主規制には、規制当局も気付いており、EUは5月、現在の行動規範を強化し、9月までには新版を完成させると発表した。域内市場担当委員のティエリー・ブルトン氏によれば、行動規範は強化される予定だが、規範に署名した5つの主要プラットフォーム(グーグル、フェイスブック、マイクロソフト、ツイッター、ティックトック)のうち4つは約束を守っていないという。

規範が任意のまま維持されるのであれば、なぜ内容を変える必要があるのだろう? 今回行われる規範の強化は、早ければ2022年半ばに策定されるデジタルサービス法の先駆けになると考えられている。理論的には、任意ではなく法的な性質を持つため、強制力は高まるはずだが、表面的に類似した法律であるGDPRの一部は実際には執行されていない(プライバシー保護法律家マックス・シュレムス氏に聞いてみるといい)。

 

「パブリッシャー、テックプラットフォーム、広告主、さらには政府も、業界に関係するすべての人々は声を上げなければならない」

先に述べたブランドセーフティの問題と同様、偽情報に対処するのはエコシステムに関与する全関係者の役割だ。AOPのマネージングディレクター、リチャード・リーブス氏はこの見解を支持しており、次のように述べている。

 

「偽情報と戦い、信頼を守ることは、パブリッシャーにとって優先度の高い課題だが、その責任は業界の1プレーヤーにあるのではなく、業界全体が一丸となって取り組むべきものだ。そしてそれは消費者も同じ気持ちだ。トラストワージー・ アカウンタビリティ・グループ(TAG)の調査に回答した消費者は、ブランドセーフティに対する責任は、広告主(52%)、エージェンシー(56%)、テクノロジープロバイダー(47%)、パブリッシャー(54%)など、すべての業界関係者が平等に負うべきだと考えている」

 

「信頼とブランドセーフティは密接に関係している。そしてもちろん、私たちはみな、信頼できる環境に広告を出すことの重要性やプログラマティック取引の落とし穴も認識している。しかし、これがプレミアムパブリッシャーの話となると議論が成立しなくなる。プレミアムパブリッシャーは、その性質上、もともとブランドセーフであり、常に完全な説明責任を負ってきた。標準よりはるかに高いレベルを維持しているにもにもかかわらず、より高いスタンダードを目指す業界の取り組みにも全面的に協力してきた。しかし、その結果はどうだろう? プレミアムパブリッシャーはいま、エコシステムを『改善』するという名目で押し付けられた、使い勝手の悪いブランドセーフティツールに苦しめられている。トラッキングピクセルの実装ミス、ページ読み込みの遅延といったマイナスの結果が生じ、収入源とユーザー体験の両方に悪影響が出ている」

 

「ブランドセーフティを守り、偽情報と戦う手軽な方法などないことを私たちはよくわかっている。そして、私たち全員が変化を促進する役割を担っている。パブリッシャー、テクノロジープラットフォーム、広告主、さらには政府も、この業界に関係するすべての人が、これらの問題に対処するため、声を上げ、重要な質問を投げかけ、そして自らの説明責任を果たさなければならないのだ」

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本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事の中から日本の読者向けにCARTA HOLDINGSが翻訳・編集し、ご提供しています。

株式会社CARTA HOLDINGS

2019年にCCIとVOYAGE GROUPの経営統合により設立。インターネット広告領域において自社プラットフォームを中心に幅広く事業を展開。電通グループとの協業によりテレビCMのデジタル化など新しい領域にも積極的に事業領域を拡大している。