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クッキーレス時代の広告プランニングに求められる意識変化とは?[ABEMA×ビデオリサーチ対談]

今までのデジタルマーケティングは、行動データをもとに効果の出やすい関与度の高いユーザーに絞ってリーチを行うケースが多かった。

しかし昨今、その仕組みを支えてきたサードパーティクッキーやIDFAによる個人データ収集についてプライバシー保護の観点から利用制限が進んでおり、従来の追跡技術だけに頼っていては近い将来に効果的なマーケティングを行うことが難しくなってくるのは確実である。

そこで今回、クッキーレス時代の広告プランニングにどのような意識変化が求められるかについて、メディアとリサーチ会社それぞれの立場で広告マーケティングに携わるAbemaTVの小島 功氏とビデオリサーチの吉田 正寛氏の両氏が対談を行った。

 

個人追跡に頼らずとも効果を得るためには

小島氏:クッキーレス時代の広告に関し大きく懸念されることの1つとして、今までのようにメディア横断でのユーザーデータを活用した配信をすることが難しくなるため、従来の「人」単位での追跡技術だけに頼っていては顧客獲得の“チャンス量”が減少してしまうという点があります。そういったことも踏まえて、今後の広告プランニングに求められる意識変化は以下2点ではないかと考えています。

 

 

吉田氏:今までは個人を追跡することによって効果を上げるケースが多かったため、①のような場所自体の品質に対するケアがやや疎かになっていても問題になりにくいところがあったのですが、今後はそうはいかないですよね。

 

小島氏:そうですね。クッキーレス時代においても顧客獲得の“チャンス量”を減らさないためには、まず個人追跡に頼らずとも誰にアプローチしても見てもらえること、つまり受容性の高い広告であることが重要な前提条件だと考えます。そしてその受容性の大きさにはメディアの信頼性評価が大きく関わっています。

私が過去に行った調査では、メディアの発信している情報を信頼している人はそこで流れる広告に対する“広告認知率”や“メッセージ認知率”が高くなりやすいというデータがあります。広告が期待される役割を果たすには、まずその広告がユーザーに受け入れられ、そして記憶に残してもらうことが必要であり、こういった受容性はその先の効果を得るための重要な先行指標といえます。つまり、個人追跡に頼らずとも効果を得るには、ユーザーから見たメディアの信頼性評価を注視することが今後さらに重要になってくるでしょう。

 

 

あとは、その信頼性という前提の中でもできるだけ効率よくターゲットに広告を届ける必要がありますので、②をどう実現するかについても今後の広告プランニングにおいて求められるキーの1つになると考えています。

 

吉田氏:②については、「人」から「枠」へという最近のデジタルマーケティングの潮流もあり、「枠ごとの価値をいかに可視化し広告主に提供するか?」という点にわれわれは注目しています。地上波市場をみても、従来は視聴率に代表される量指標がその価値の表現方法の主流でしたが、最近では質的側面にも注目が集まっており、なかでも「枠」ごとの来訪者特性の可視化に力を注いでいます。その流れもあり今回、インターネットテレビである「ABEMA」と「地上波」について、各視聴ログをもとに弊社の生活者データACR/exを掛け合わせ、同条件下にて「枠」ごとの来訪者特性を比較・分析する調査を行いました。

すると、われわれにとっても大変興味深いデータが得られたのです。

「枠」ごとの価値をいかに可視化し広告主に提供するか

吉田氏:以下は「枠」ごと(チャンネル×曜日×時間帯別)に自動車の購入意向を持つ視聴者の割合を可視化したグラフになり、上は「地上波」のみのデータをカラースケール化したもの、下はそこに「ABEMA」のデータも含めた形でカラースケール化したものです。

 

 

面白いのは、「地上波」の中だけで比較すると枠ごとの濃淡がはっきり出ていたものが、そこに「ABEMA」を加えることで「地上波」の濃淡が平坦化し、「ABEMA」の濃淡が鮮明化するという点です。言い換えれば、「地上波」に比べて「ABEMA」のほうが枠ごとの濃淡の幅が非常に大きいということです。

 

小島氏:「ABEMA」の最大値から最小値を引いた差分が、「地上波」の差分に比べて4倍以上になるというのはすごい数字ですね。

 

吉田氏:実はこの濃淡の幅の大きさの違いは、自動車だけでなく、コスメやアルコール、ゲーム、保険など他のさまざまな業種でも同じ傾向が見られ、また、職種でいえば公務員の含有率などについても同様でした。これらの傾向にはある特性が表れていると考えられます。それは、生活者の可処分時間の使い方が多様化する中で、「ABEMA」が提供しているようなバーティカルなコンテンツの「枠」はマスメディアである「地上波」の「枠」に比べて視聴者の趣味嗜好の偏りが出やすいということです。つまり、そういったメディアをうまく活用し相性の良い「枠」をしっかり捉えることは、クッキーレス時代において効率よくターゲットに届け効果を出すための手法の一つになりうるといえます。

実は弊社のメンバーの中に、M.LEAGUE(麻雀プロリーグ戦)開催時期を中心に「ABEMA」の麻雀チャンネルをかなり視聴している者がいるのですが、普通に接しているだけでは気づけないくらい競馬とゲームにかなりハマっているユーザーなんです(笑)。これは私の中で、視聴コンテンツを起点に嗜好性を捉えるというターゲットアプローチのイメージが湧く身近な例です。

あとは、コンテンツメディアのこの特性を広告ソリューションとしていかに広告主に提供できるかが重要ですね。

 

小島氏:「ABEMA」では、この特性を活かした広告プロダクトにすでにチャレンジしています。簡単にご説明すると、購買などの行動データを参照しながらも「人」単位ではなく「番組」単位でリーチすることで、行動データ上には存在しない人も含めてターゲットと考えられる多くの人にリーチすることを狙ったものです。これは個人を追跡するわけではなく、ユーザーのプライバシーを守りながらもターゲット精度とリーチ量を担保できるものとして考えた方法であり、従来の「人」単位でのオーディエンスターゲティングと並行して配信したケースにおいて、ほぼ同等の購買率増加が確認できた事例も出ています。

 

吉田氏:なるほど。その事例はまさに、相性の良い「枠」をしっかり捉えることができれば効率よく効果を出せることを示していますね。

ビデオリサーチ社の生活者データベース「ACR/ex」の結果を見ると、「ABEMA」は他動画サービスに比べて「自分向けの広告だと感じる」という評価が高いというデータが出ており、こうした「番組」単位で捉える手法が適正ターゲットへのリーチとして機能しかつユーザーに受け入れられているということを反映しているのかもしれませんし、最近よく耳にする「嫌われない広告」を実現する1つのアプローチなのかもしれないですね。

個人データの規制強化を機に発想の転換を

小島氏:クッキーレスの時代を迎える中でさまざまな代替ソリューションが検討されていますが、「枠」単位で消費者の特性を捉えることの有用性が確認できた今回の調査結果は非常に有意義なものでした。

 

吉田氏:生活者が多様化する中でコンテンツ接触の好みも多様化し、そのコンテンツへのロイヤルティの高まりをうまく広告に連動させることはこれからの潮流になってくるでしょう。この考え方を推進することで、クッキーレスの時代に合ったより有用なセグメンテーションもさらに可能になると考えています。

 

小島氏:そうですね。今回の個人データの規制強化は、広告主による本質的な広告投資を実現するという思想を業界全体で再確認する機会だと考えており、われわれもさらに有用な広告プロダクトを提供するためのチャレンジを続けていきたいと思います。

本日はありがとうございました。

 

 

小島 功(こじま こう)氏
株式会社AbemaTV
ビジネスディベロップメント本部 プロダクトマーケティングスペシャリスト
2003年にサイバーエージェントに入社し「アメブロ」のデザイン制作やマネタイズ業務などに携わる。2016年より「ABEMA」の広告商品開発や価値証明を担当。

吉田 正寛(よしだ まさのぶ)氏
株式会社ビデオリサーチ
ソリューション室マーケティングソリューション部 シニアエキスパート
2008年(株)ビデオリサーチ入社。主にメーカー等の広報・宣伝担当部署や広告会社・媒体社営業担当部署をクライアントに、広告プランニングや広告効果測定をコンサルティング、メディアの広告役割の観点から次期広報・宣伝施策を第三者の立場でサポート。広告メディア・コンテンツ別にある固有の役割に関する研究を継続。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。