1つの管理画面で横断的に広告を管理―ヤフーの新たな広告プラットフォーム体制 [インタビュー前編]
ヤフーでは2020年度にかけて「Yahoo!プレミアム広告」や「Yahoo!プロモーション広告」を「Yahoo!広告」として一つのプラットフォームに統合した。今回の統合に伴い、YDNなどの従来のサービスも新体制に引き継がれ、サービスを提供していくこととなった。
ヤフー株式会社のメディア統括本部ディスプレイ広告ユニットマネージャーの芝崎健太氏と同ユニット予約型広告サービスマネージャー小嶋浩司氏と同ユニット運用型広告サービスマネージャーの田中翔平氏にお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下智之)
(ライター:同 柏海)
なお、本インタビューは2部構成となっており、後編ではYahoo!のデジタル化について取り上げる。
Yahoo!広告としてワンプラットフォーム化
―自己紹介をお願いいたします。
芝崎氏:2021年の4月にヤフーの組織体制が変更され、広告のプロダクト部門とメディア部門が一緒になり、同じ執行役員の下で活動することになりました。それに合わせて、私が広告事業領域の責任者という形でアサインを受け、現在は業務を行っております。
経歴として、ヤフーには2003年から在籍し、広告事業の中で営業や商品企画、マーケティングなど様々な業務を担当してきました。直近ではメディアサービス部門に移り、いわゆるYahoo! JAPANのトップページやニュースや天気などのサービスに関する経営企画にも携わりました。こちらはビジネスモデルの基本は広告ビジネスモデルで収益を上げていますので、実際には広告とto C向けのサービスを接続するようなハブの部分も私のほうで担っていたという背景があります。
小嶋氏:私は2020年から予約型広告のサービスマネージャーを担当しております。その前までは、「Yahoo!プレミアム広告」の商品企画担当として、Yahoo! JAPAN のトップ面にある「ブランドパネル」広告の値付けや、新商品の企画、新しいテンプレートの検討を行っておりました。。
ヤフーには2008年からおりまして、私もずっと広告領域を担当してきましたが、去年より予約型のサービスマネージャーを行っているというような状況になります。
田中氏:私は2021年の4月から運用型広告のサービスマネージャーを担当し、運用型広告に関する機能追加や精度改善等の責任者をしております。
私は大学からいわゆる人工知能や情報処理、自然言語処理などの研究をして来まして、ヤフーに新卒で入社をしてからは、継続的に広告の開発や研究領域に携わり、特に運用型広告の配信のコアとなる広告収益の計算や広告選定のロジック開発を行ってきました。ヤフーとしても、運用型は今後自動化をしっかりやっていくべきだという考えもあり、長年専門であった私がサービスマネージャーに就任した経緯がございます。
―貴社では2020年度にかけて「Yahoo!プレミアム広告」や「Yahoo!プロモーション広告」を「Yahoo!広告」として一つのプラットフォームに統合されましたが、その背景についてご共有ください。
芝崎氏:広告の出稿や管理を1つのプラットフォームに取りまとめる、というのが大きな背景になります。
ヤフーもサービス当初は予約型の広告しかなかったのが、検索、運用型と少しずつ商品ラインナップも増えて行きました。しかし、それぞれの配信システム等が異なるために、ログも共有出来なければレポートも別々に出さなければならず、同じYahoo!の広告ソリューションでありながら、使い勝手の悪いサービスになっていました。
ここに手を入れるのは作業時間や工数など、大きな課題がありましたが、ヤフーとしても「これはやるべきだという決断をして、約3年の歳月をかけて計画をスタートし、結果的に去年から今年にかけてリリースや切り替えの実施に至ることが出来ました。
現在は各広告が1つのプラットフォームから出稿が可能な管理画面を提供し、プロダクト横断のログやレポートを見ることも可能となりました。ヤフーとして、マーケティングソリューションの基盤がしっかりと出来上がって、その上でサービスを磨くことに改めて着手することが出来るようになったと考えています。
ディスプレイ広告の商流を一本化
―予約型広告も運用型広告も1つのプラットフォームから出稿ができるような管理画面になったとのことですが、他にはどのような変化があったのでしょうか。
芝崎氏:管理画面の統合と合わせて、予約型広告におけるメディアレップの制度をYahoo!広告では廃止させていただきました。
今まではメディアレップ様でヤフーの取り扱う広告を取りまとめていただき、その先にエージェンシーさんが居るという形でお取引をしておりましたが、従来の運用型広告と同じように各エージェンシーさんと直接、メディアレップを介さずに取引をする形に変えています。
―予約型広告のインプレッション保証が変更されたとのことですが、どのような体系になったのでしょうか。
芝崎氏:従来の予約型広告はインプレッションを保証するサービスとして20数年提供してきましたが、そこをビューアブルインプレッションの保証に変えました。
今までもインプレッション保証でありながら、ファーストビューに広告が入るようなものが大半を占めていたので、ビューアブルレートとしては非常に高くありましたが、それでも100%ではありませんでした。ここをよりお客さまにメリットを感じ、安心して出稿いただけるようにというところでのビューアブルインプレッションでの保証に切り替えました。ビューアブルインプレッションを保証するためには、将来の在庫を予測しなければならず、その精度が求められますが、挑戦して実現させました。
様々なターゲティングメニューで広告を正しく届ける
―現在のYahoo!広告の強みについて、御社ではどのようにご認識をされていますか。
小嶋氏:予約型に関しては先ほど芝崎よりお話したとおりで、インプレッション保証からビューアブルインプレッション保証になったため、「しっかりと広告が見られている」という点に価値を感じてもらい、そこを保証しているのが1つの強みになります。
このビューアブルの定義は、50%の表示で1秒以上見られていたら1ビューアブルとしてカウントいたします。
更に、PCであれば「リッチアド」といわれる、ブランドパネルの枠だけでなくて、サイドにもバナーを出すことで大きく広告を表示出来るメニューもありますので、そういったものを掛け合わせることによってブランド認知の向上をお手伝いできるかと考えています。
田中氏:運用型広告の視点からお話しすると、「ヤフーというメディアの品質が高い」というのは大きなポイントかと思っております。いわゆるアドフラウド対策など配信面の品質だけでなく、メディアに来るユーザーについても、質の高いユーザーがいらっしゃっています。
Yahoo! JAPAN IDを取得し、ログインをしてからヤフー内の各サービスを利用しているユーザーも多く、ユーザーの識別がしっかりできているのも大きな特徴です。広告主の方の視点からは、年齢・性別・地域などの情報を確定情報としてしっかり活用しながら精度の高いターゲティングがご利用いただけますし、ユーザーから見ても自分に合った広告を受け取ることが出来ます。
ターゲティングのメニューとしても、新たに「コンテンツキーワードターゲティング」を本年7月より提供を始めました。こちらは、Yahoo!ニュースの記事を分析し、ニュース記事内のキーワードを分析し、お客様の指定したキーワードと関連性の高い配信面にターゲティングが可能なメニューとなっています。このようなターゲティングに関しても、社内のアセットをしっかり活用できるのは強みだと思っています。
―近年はサードパーティークッキーの制限の文脈で、「コンテンツマッチ広告」といった広告も代替策として注目をされていますが、こちらも同じような使い方が出来るという理解でよろしいでしょうか。
田中氏:コンテンツターゲティングは、純粋な機能強化を目的とした側面もありますが、個人情報保護の流れを汲んだターゲティング機能でもあります。個人情報を使わない形で広告事業継続的に成長させていくという観点で、大事なピースの1つになる機能かと思います。
利用方法としては、広告を配信対象としたい、または配信除外をしたいコンテンツの内容を指定したキーワードリストをお客様にご用意いただき、それを広告グループに紐づけてターゲティングを行っていただく仕組みになります。こちらは追加でコストが発生するわけではなく、既存のターゲティングと同じ様にご利用可能です。
例えば、大谷翔平選手のニュース記事が出た時に合わせて自動で広告が出る、というのは分かりやすい使用例にはなりますね。一方で、例えば車メーカーさんが交通事故のニュース記事には広告を出さない、といった形で、除外のターゲティングを行うケースも増え始めております。
芝崎氏:サードパーティーの利用制限は非常に大きなインパクトがありますが、ヤフーとしても情報収集と取りまとめを積極的に行いながら、どう対応していくかという検討については専任の部隊を設置し行っています。
実際に使えなくなるのは先の話になりますが、期限も示されています。情報も常にまとまって出てくるわけではないので、順番に出てくるものを拾いながら、自分たちの中でそれを整理し、俯瞰的に捉えながらも、対応方法を検討していきたいと思います。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。