BMW遠藤氏が語る「グロースマインドセット」とは?―MCA道場
一般社団法人マーケターキャリア協会 (MCA) は7月8日、都内にて、マーケターのキャリア育成を目的とした第2期「MCA道場」の第4回講座を開催した。
失敗談を包み隠さず披露
「プロフェッショナルのブランドマネジメント論をそのキャリアとともに学ぶ」ことをテーマとする本講座を担当したのは、BMW Japan BMWブランドマネジメント 本部長の遠藤克之輔氏。過去にワンダーマン電通、ウォルト・ディズニー・ジャパン、ギャップジャパン、フェラーリ・ジャパンなど大手企業を渡り歩き、①デジタル、②CRM、③ブランドマネジメントを主要業務領域として確立するに至った。同氏はこれら各企業で経験した試行錯誤や得た学びを、時に失敗談を含めながら、つまびらかに語った。
例えば、CRMについては、1年半をかけて億単位の費用を投じて新規システムを構築及び立ち上げるプロジェクトを率いたものの、「大コケ」した手痛い経験を持つ。失敗の原因は、その運営モデルがビジネスオーナーの課題を解決し得るものではなかったということ。このため、ユーザーには使われず、ステークホルダーも興味を示さないという散々な結果になったと振り返る。
そしてこの課題解決こそ、会社勤めをしながらも気持ちの上では個人事業主としての意識を持つ遠藤氏のこだわりとなっている。彼の仕事とは、結局のところ、「課題を持っていそうな企業を見つけてドアをノックし、その課題を解決する企画を立てて売り込み、その企業と自分が契約をする」ことだと表現する。
情緒的価値がブランドの極意
ブランドマネジメントについては、ワンダーマン電通時代に米国の著名なマーケティング研究者であるデービッド・アーカー氏の著書を読んで体系化した理論を学んだ。また高級ブランドの象徴的な存在であるフェラーリ・ジャパンでの勤務経験を持つ遠藤氏は、「ブランドの極意は、情緒的な価値にある」と考える。情緒的価値とは、まず消費者によって定義され、ブランド側が再定義し、さらには自社だけが提供し得るものとして再生産することによってのみ構築され得るものだという。
こうした高級ブランドと対照的なのが、情緒的価値よりも機能によって評価される消費財。ただし、消費財であっても、「作り手の顔が見える」ものや、社会問題への取り組みなど「企業の目的意識」が前面に打ち出されたもの、さらにはユーザー同士の「コミュニティ」が形成されるものについては、情緒的価値に重きが置かれる場合があると述べた。
おこがましくないマネジメント
外注先となる広告代理店のメンバーを含めて、これまで数十人から100人程度のチームを束ねてきた経験を持つ遠藤氏は、チームマネジメントについても一家言を持つ。彼にとってマネジメントの仕事とは、「自分より優秀な人を探してきて、彼らが活躍する環境をつくり、またそうする上での課題を見つけて自分たちで解決してもらう」こと。遠藤氏曰く、「自分自身がメンバーのタスクを作って用意するなどおこがましい」。このため、チームのメンバーに対しては、仕事を通じてどんなことを成し遂げたいと考えているかについて詳細なヒアリングを実施し、それぞれの目標達成に向けた後押しをすることに注力するという。
ただし、チーム全体の方針にはブレが生じてはならない。その重要性は、過去に仕事はできるがチームワークに欠ける社員の行動を半ば容認してしまうという失敗を犯した経験から学んだ。戦略や考えを共有するチームの中で、その共通理解を乱す発言や行動をしたメンバーを容認または放置すると、それ以外の人々から信頼を失ってしまうからだ。
グロースマインドセットとは
遠藤氏は最後に「グロースマインドセット」と呼ばれる概念の重要性について語った。「頭を柔らかくして、すべての課題を自分の成長の機会として捉えようとすること」として定義されるこのグロースマインドセットを持てば、様々な困難に直面しても「何か面白い経験ができるかもしれない」「どんな打開策があるかを考えてみよう」と前向きに受け止めることができる。また失敗を犯して、上司などから問題点を指摘するフィードバックを受けた際にも「その視点は自分では気づかなかった」「新たな学びとなった」と感じることができるようになるという。
その後、道場の各参加者が抱える課題とその解決法をグロースマインドセットに基づき整理するワークショップを実施。顧客へのプレゼンテーションに課題を感じる参加者に対しては、「プレゼンテーションとは、顧客の課題解決に向けた提案に対するフィードバックを得る機会に過ぎない。顧客との対話のきっかけ作りさえできれば、事前に用意した通りに話すことができなくても全く支障がない」との助言を提供した。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。