クッキーに別れを告げるとき、メディアがすべきこと[インタビュー]
メディアとサード・パーティー・クッキーとの別れのときは刻一刻と迫っている。
デジタルガレージのグループ会社 BI.Garageが有力メディア28社と立ち上げたコンテンツメディアコンソーシアムに携わる、株式会社東洋経済新報社 ビジネスプロモーション局兼デジタル戦略本部 デジタル広告戦略担当部長 佐藤 朋裕氏と、株式会社BI.Garage 取締役COO 小林 篤史氏に、いまメディアが取るべき他選択肢や、同コンソーシアムが取り組むコンテキストターゲティング広告提供の取り組みについて、お話を伺った。
(聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下 智之)
メディアアライアンスが、選択肢の一つ
-サード・パーティー・クッキー廃止により、メディアは今後の対応策としてどのような選択肢があるのでしょうか?
佐藤氏:まず、ターゲティング配信における対応としては、ファーストパーティークッキーのリッチ化が一つのカギになります。IDを持つメディアは、これを増やしていくことで、情報を追加していくことにより、最終的にそのユーザーがログインするとターゲティングが可能になります。
一方で、IDを持たないメディアは、ファーストパーティークッキー自体の情報を付加するというようなやり方でも、対応が可能です。
そしていま大切なのはコンテキストターゲティングです。当社ではAIで記事コンテンツを読み込んで、バナー広告枠に、これに近い記事広告の誘導が広告を表示させるという取り組みを始めています。これによりバナー広告のCTRが上昇するという結果も得られています。
ですのでこの手法は一般的な広告主からのテキスト広告でもディスプレイ広告でも応用可能です。ですが課題もあります。オーディエンスターゲティングの場合、過去の履歴をもとにアドサーバーで事前に在庫予測をしているのですが、コンテキストターゲティング広告は一方で、事前に広告の在庫予測をすることが困難になります。
当社では2年前に、コンテキストターゲティングを実験的に導入しました。その結果から見えてきたこととして、広告主は、エッジの立ったキーワードで広告を購入する傾向があるのですが、そうすると1メディアだけでは在庫が賄いきれないのです。
したがって、インプレッション保証での広告販売が出来づらく、メディアにとってはその販売方法を工夫する必要がでてくるのです。そしてメディア同士でのアライアンスは、その解決方法の一つとなってまいります。
-コンテンツメディアコンソーシアムの活動についてお聞かせください。
小林氏: 2017年からコンテンツメディア価値研究会という組織をデジタルガレージが事務局となって立ち上げました。ここでは、世の中デジタル化が進み、プラットフォーマーが台頭していく中で、実際にコンテンツを作り出している、日本を代表するデジタルの一次メディアが今後どのようにしていくべきであるかということをテーマに研究活動を行ってきました。
例えばメディアの信頼性と広告効果との関係性を、広告接触者の脳波を測定するというような調査も実施しました。
調査研究の結果、集まった28社のメディアによる広告が、広告主にとって高い価値があるものであることから、2020年よりコンテキストターゲティング広告事業を開始しました。
個々のメディアが集まることで、単体メディアとはまた違った広告主の課題を解決することが出来るということを、皆さんが感じていただきながら、事業化が進められてきました。
広告商品の特徴は、ブランドセーフティー対応が担保されているかどうかについて、第三者機関による審査に通った広告枠が配信の対象となるということ、そしてアドフラウドに対する対応も行っており、その高い品質を保証しているという点です。
“枠から人”ではなく、“人から枠”へ―メディアがコンテキストターゲティングに期待すること
-コンテンツメディアコンソーシアムへの参画を決められた理由をお聞かせください。コンテキストターゲティング広告に対する期待値はどのようなものでしょうか?
佐藤氏:広告主が安心して出稿をすることが出来る場というものを今後も確保していきたいということが、参画した一番の理由です。
当社では「コンテンツメディア価値研究会」の発足当時から参加をしていますが、その名前にもあるように、数多あるデジタルメディアの中で、自分たちの広告媒体の価値というものについて、改めて考え直してみるということをじっくりと取り組むことができたことが良かったと考えています。
研究会を通して自分たちの広告媒体としての価値について、改めて自信を深めることが出来ました。
デジタルがメディアの中で主流になり、無数のメディアが出現しました。我々のようにコストをかけて作成しているメディアもあれば、他の記事の情報を寄せ集めて、記事を作っているメディアもありますが、同じ土俵で評価をされたとき、長い目で見ると結局はコンテンツを作成しているメディアは経済的に合わなくなってきますので、最終的には誰も手の込んだコンテンツを作らなくなってしまいます。
そうすると、広告主が安心して広告を出す場もなくなってしまうことは、言うまでもありません。
近年のインターネットメディアは、良くない流れに入りつつありましたので、そのような流れを変えたいという想いがあります。
サード・パーティー・クッキーが使えなくなる中で、かつて言われていた“枠から人”ではなく、“人から枠”へと回帰しつつあります。
広告効果において、枠が掲載されている面のコンテンツがどのようなものであるのかということが非常に重要であると思いますので、最終的にはコンテキストを持ったメディアが強くなってくるはずです。
メディアは今後よりコミュニティー等でエンゲージメントを高めていく必要があります。そうすると、そのメディアに対してターゲティングがしやすくなります。運用型広告においても、純広告においても、今後はコンテキストターゲティングというものの精度をどこまで高めていき、どのようにうまくこれを販売することが出来るのかということは、メディアの広告ビジネスにおけるカギになってくるところであり、高い期待を持っています。
-コンテキストターゲティングにより得られる広告効果についてお聞かせください。
小林氏:テスト販売の実績をご紹介させていただくと、ビューアブル時のクリック率において、コンテキストターゲティングをした場合と、そうでない場合とを比べたとき、0.24ポイントほどコンテキストターゲティング配信時のクリック率が高いという結果が出ました。
また、クリック後の広告主様のページに遷移した後のユーザーの直帰率や滞在時間もよい数値が出ており、クリックの量のみではなく質の面でも結果を出すことが出来ております。
そして、態度変容についても調査した結果、他の大手広告プラットフォームの広告と同じクリエイティブで配信を行った結果を比較したところ、ターゲットの認知率や興味・関心度合について、3~10ポイント程度高い結果となり、コンテキストターゲティングが広告効果を高めることに寄与出来ていると認識しております。
どのような広告商材を、どのようなコンテキストで配信するのかによって広告効果は変わってまいります。ですので、数値のばらつきは多少見られるでしょうが、しっかりと広告商材の特性を読み取って、関連性の高いコンテキストを選定することが出来れば、広告効果を高めていくことが出来ると考えております。
-コンテキストターゲティングに加えて、ファーストパーティーデータの活用も想定されているのでしょうか?
小林氏:広告主様から、ターゲットに応じて広告を当てていきたい層についてのご要望をいただいた場合には対応をしてまいります。また最近案件のご相談として、地域を絞った配信などについてもお話をいただいておりますが、これについても対応を進めてまいります。
データは、メディア側からの属性データを活用する形となります。
参画いただいているメディアから性別や年代などのデータをいただき、スイスの会社のデータプラットフォームを活用して分析した結果を活用して、オーディエンスターゲティングをすることも可能となっています。
コンテキストの提供こそがメディア価値
-ポスト・クッキー時代のメディアの広告ビジネス環境の将来像について、これまでと大きく変わるポイントをお聞かせ下さい。また、これを受けてコンテンツメディアコンソーシアムの今後の活動の方向性について、お聞かせください。
佐藤氏:本来メディアの役割とは、社会に対してコンテキストを提供するということです。ただしこの10年ほど、プラットフォーマーの出現によりその役割自体がクローズアップされることがなかったと思うのです。今後はメディアというものがコンテキストを提供することについて、より力を試されるようになります。
コンテキストを提供するメディアは、必ず強いエンゲージメントを読者と築くことが出来ます。結局広告も最終的にはユーザーとつながらなければ意味がありません。広告主がいて、“コンテンツ=コンテキスト”があり、そしてユーザーがいる。そうすれば、これらの三者がきれいな形でつながるのではないかと思っています。
小林氏:今までデジタル広告はデータを取得してこれを使い、ユーザー個々と最適なコミュニケーションを図っていくことが理想であるというように考えていく中、行き過ぎたメディアや広告主様もいらっしゃいました。
しかし徐々にプライバシー保護に対する対応が進み、それが出来ないようになりつつあります。また、世の中はリターゲティングのような、追いかけられるような広告に対して嫌悪感を持たれていることが、はっきりと言われるようになりました。
これからは、ユーザーに嫌われない広告をどれだけ提供することが出来るかということが重要になってまいります。
それを受けて、私たちコンテンツメディアコンソーシアムが取り組むべき一つの解がコンテキストターゲティング広告であると考えております。
コンテキストを持っているメディアとの相性が良い広告であれば、ユーザーから素直に受け取られるという調査データもあります。どのような広告商材と、どのようなコンテキストが合っているのかということについては、まだまだ掘り下げていきたいと思っています。
また、広告枠とそこに出すクリエイティブ、そしてコンテキストとの最適な組み合わせ方についても、まだまだ深堀して追求していくべきであると考えています。
それにより、ユーザーや広告主様にさらに価値のある広告を提供してまいります。
ドイツのメディアアライアンスでは、メディアやチャネルを横断するような取り組みも始まっていると聞いていますが、私たちコンテンツメディアコンソーシアムもまた、日本を代表する28社のメディアが集まっており、同様の取り組みが出来ればと考えております。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。