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「動画配信サービス利用実態調査」から得た示唆とは-The Trade Deskはこう考える

グローバル大手DSPのThe Trade Desk(TTD)が実施した「動画配信サービス利用実態調査」の結果が公表された。日本国内在住の2806名を対象にしたアンケート調査には、YouTube、Netflix、TVerといった主要な動画配信サービスに対するユーザーの意識と行動に関する知見が詰まっている。本調査からどのような示唆を導き得るかについて、TTD社に話を聞いた。
(聞き手:ExchangeWire Japan長野雅俊)

 

「動画配信サービスには支払わない」がほぼ半数

 

―改めて自己紹介をお願いします。

 

The Trade Desk の日本担当ゼネラルマネージャーを務める馬嶋慶です。2020年6月の着任以来、「オープンインターネットを対象とした透明性の高いプラットフォームの構築」という当社の理念をさらに浸透させるべく、顧客や社内との積極的なコミュニケーションを図ってきました。その過程を通じて把握した様々な課題に対しては、現在も試行錯誤を繰り返しながら取り組んでいる最中です。

 

―貴社は昨年末に「動画配信サービス利用実態調査」を発表しました。本調査を実施するに至った背景をお聞かせください。

 

当社のDSPは動画広告に大きな強みを持っています。動画配信サービスの動向には以前から注目していましたが、本社を置く米国と比較すると、日本の市場はまだまだ拡大の余地が大きい。とりわけ、テレビをインターネットに接続したコネクテッドTV(CTV)市場は日本ではまだ創世期です。現時点における動画コンテンツの消費のあり方や主な動画サービスに対するユーザーの意識を把握することで、デジタルマーケティング全般への示唆を得たいと考えました。

 

―調査を実施してみて、意外な結果はありましたか。

 

疑問を感じるような調査結果はあまりなく、例えば「若年層はPCではなく、スマートフォンで動画のコンテンツを消費する傾向が強い」など、この業界では以前から言われてきたことが改めて数値化されたという印象です。

 

意外な結果と言えば、「動画配信サービスのサブスクリプション費用を支払う場合、毎月最大で、合計いくらまでなら支払えるか」という質問に対する回答です。回答者のほぼ半数が「動画配信サービスに支払おうと思わない」との考えを示しました。

資料提供: The Trade Desk

 

既にNetflixを始めとする有料サービスが世界中で広まっており、また私自身は好きなコンテンツを視聴するためであれば課金を厭わないので、意外でした。日本のユーザーは恐らく地上デジタルテレビ放送やAVOD(広告付き動画配信)に慣れているのでしょう。課金に対してこれほど厳しい評価が示されるとは思っていませんでした。

 

UGCとOTTを区別する理由とは

 

―本調査では「個人が制作し、アップロードしたコンテンツ」を「ユーザー作成コンテンツ(UGC)」、「インターネットに接続された端末で視聴可能な、放送局などのプロが製作したプレミアムな動画コンテンツ」を「オーバー・ザ・トップ(OTT)」とそれぞれ定義して、両者を明確に区別しています。

資料提供: The Trade Desk

 

個人が制作したユニークな動画を視聴できるというのがUGCの魅力ではありますが、一方でそれらの中にはテレビ録画を無責任に投稿しただけのものも少なくありません。コンテンツの質において、著作権が適切に管理された、質の高いプレミアムな動画コンテンツを制作するプロの事業者のコンテンツを広告主はよりブランドセーフなプラットフォームと認識し、UGCプラットフォームとは差別化していることから、当社ではUGCとOTTを区別しています。

 

―区別した結果、UGCユーザーとOTTユーザーで異なる傾向が明らかになりました。

 

例えば、UGCユーザーとOTTユーザーでは利用する視聴端末がやや異なります。UGCは62%がスマートフォンでCTVは12.6%、OTTは46%がスマートフォンでCTVは24%です。一般的にOTTは長尺かつプレミアムなコンテンツを放映するので、大きなスクリーンを用いて動画視聴に専念するユーザーの割合が高くなるのでしょう。

 

自社の製品やサービスを音声付きで大画面を通して宣伝したい広告主にとっては、UGCよりもOTTプラットフォームの方が適していると言えるのかもしれません。

 

またOTTとUGCでは、どちらが良い悪いではなく、放映される広告の種類や質が異なります。両者の違いは思いのほか多岐にわたるというのが実感です。

 

―放送局などのプロが製作したコンテンツであれば、地上デジタル放送と同じような感覚で視聴されているということですね。

 

ただし、今度はOTTと地上デジタル放送を比較すると、OTTの方が専念視聴の割合が高くなります。例えば地上デジタル放送と同じコンテンツを流しているはずのTVerの方が、地上デジタル放送よりも専念視聴するユーザーが多いのです。恐らくオンデマンド形式の動画配信サービスの方が、ユーザーは観たいコンテンツを自ら選び取ることができるので、専念視聴の割合が高まるのだと思います。つまり同じ「半沢直樹」でも、視聴する手段が地上デジタル放送とTVerでは、ユーザー層も視聴形態も異なる可能性があります。

資料提供: The Trade Desk

 

さらに言えば、地上デジタル放送を録画した人が、果たしてどれだけしっかりとCMを視聴しているかという課題もあります。ユーザーが観たいときに、きちんと広告を表示し、かつターゲティング技術を活用できるAVODの優位性が今回の調査を通じて改めて浮き彫りになったと言えます。

 

CTVはマーケティングを変える

 

―「広告が嫌われる時代」と言われていますが、動画配信サービスにおいては視聴者が広告視聴を前向きにとらえていることも意外でした。

資料提供: The Trade Desk

 

若い世代が「広告と引き換えに無料でサービスを利用」という事業モデルに理解を持っていると考えられるのが一つ。また様々なデータが取得できるようになったことで、ユーザーの趣味嗜好に合った広告を出し分けできるようになったからだと想像します。今後は許諾したユーザーのデータをSSP経由でDSPが拾い上げ、広告会社がそれらのデータをより積極的に活用できるようになると、広告の許容度がさらに上がっていくでしょう。

 

―OTTに代表される動画広告が、テレビCMを超える日は来るのでしょうか。

 

CTVが今後どれだけ普及していくかにかかっています。一般論として、テレビCMの効果を測るデータは、広告会社が管理するリーチとフリークエンシー計測及び調査会社がまとめ上げるブランドリフト効果の調査結果などです。

 

ただし、これらのデータだけでは、宣伝した商品なりサービスの売上の増減との関連性が把握しきれません。テレビCMを打った後でウェブサイトの訪問数が上がった、オンライン購入が増えたということは分かるかもしれませんが、各ユーザーのカスタマージャーニー全体を見渡すことができない。だからこれまでマーケターは、テレビCM→ディスプレイ広告→ウェブサイト→コンバージョンといった各施策を段階的につなぎ合わせた「ファネル」の概念を用いてカスタマージャーニーの理解に努めてきました。

 

ところがCTVは、広告を放映するユーザー対象や気象条件などを細かく設定することで、認知媒体にも購入媒体にもなり得ます。従来のファネルという枠組みを取り払ってしまうような大きな可能性を秘めたCTVには大きな期待を抱いています。

 

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。