コロナ禍の、D2Cマーケティング手法の変化と成功の本質とは[インタビュー]
コロナ禍で、近年D2Cとも呼ばれている単品通販会社のビジネスや、マーケティング投資はどのような状況にあるのか。
この領域において日本を代表する専門家、売れるネット広告社 代表取締役社長 CEO加藤 公一レオ氏にお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)
サブスクモデルこそが成功の秘訣
-コロナにより単品通販企業のマーケティング活動はどのように変化したでしょうか?
当社のお客様は、今巣ごもり消費により需要が伸びている通販企業や、メーカーの通販部門が多く、売上も堅調に推移しており、マーケティング投資も強化しています。
当社のクラウドサービスを利用しているクライアントに昨年の5月ごろにアンケート調査を実施したところ、全体の約8割がビジネスにコロナによるマイナス影響がないという回答でした。また、1割は売上が上がったという回答で、売上が下がったという回答は全体の1割にとどまりました。
また、コロナ禍にあって、ナショナルクライアントの出稿が控えられたことで、広告単価が割安になり、ここ数カ月間広告効果が高まっています。これにより通販企業は、1-2割程度割安に新規ユーザーを獲得することができるようになっています。
最近私が感じているのは、皆さんコロナ禍でネットが強いという「ネット信仰」のような状況になっていますが、その何倍もすごいなと思ったのは、サブスクモデル(サブスクリプションモデル)の強さです。
単品通販企業は、ほぼ全てがサブスクモデルを採用しています。フロー型のビジネスのような毎日新規顧客を獲得するビジネスの場合、コロナの影響を受けやすいですが、ストック型ビジネスであるサブスクモデルの場合はそれほど影響を受けません。
コロナ禍で、ネットビジネス以上のすごさはサブスクモデルにこそあったことが、明らかになったことを感じています。
-貴社のビジネスの状況はいかがでしょうか。
当社もサブスクモデルではありますが、それはさておきコロナ禍だった昨年5月から7月にかけて毎月過去最高売上を更新し続けました。
広告の獲得効率が良く、投資に対して強気のクライアントからの投資により広告出稿額が伸びて当社の売上が上がっていっている状況です。
プロモーション手法が変わり、ツーステップ型マーケティングに
-広告の出し方に変化はありますか?
コロナによってということではないですが、国の規制により以前は横行していた悪質な記事型広告が少なくなりました。違法行為で摘発された企業が出て以降は、そのような強引な売り方が控えられるようになりました。その意味ではより本質的な商売になってきています。
またリターゲティングが今後使えなくなる可能性があるので、これに頼らない手法を探る必要があります。
これまでのマーケティングは、「ワンステップ型マーケティング」のものが主流でした。ユーザーを薬機法違反すれすれの記事型広告からLPに誘導してそこでワンステップで購入してもらおうとするというモデルです。ここで買わなかったユーザーに対してはリターゲティングで追いかけていく。これらすべてが出来なくなる可能性があります。
ワンステップ型マーケティングを恋愛で例えるならば、合コンで出会った初対面の異性に対していきなり「私と結婚してください」というようなものです。いきなり結婚してくれというからには、自分を盛る必要があるわけです。「自分はハーバード大卒で、フェラーリに乗っていて・・」とウソを並べて結婚を迫る。相手が認めない場合には、ストーカーのように追っていく。というようなものだったのです。
最近我々のクライアントの間で圧倒的に導入が進んでいるのが、『ツーステップ型マーケティング』です。最初は、無料や500円などの低価格サンプルで見込客を集めて、そこからサブスクに誘導するというモデルです。
ツーステップ型マーケティングを恋愛で例えるならば、「まずはデートをしましょう。」というところから始めて、お付き合いをして結婚をする。という形へと変わっていったわけです。コロナというよりは、むしろ国の規制が大きかったです。
記事型広告やリターゲティング広告のほかにも、これまでワンステップ型マーケティングにおいて強かった、アフィリエイトもまたGoogle検索機能のアップデートの影響を受けて、今では以前の1/3程度の獲得件数になっています。
運用型広告は、良くも悪くも平等な世界です。
これが一定規模以上の広告主に対しては悪く向くこともあり得ます。運用型広告では、大手広告主からするとパワーゲームが出来なくなりました。アフィリエイトや運用型のリターゲティング広告の活用が厳しくなっていく中で、個人的には今後大手広告主の目は純広告に向かうのではないかと見ております。
もちろん運用型広告の市場は今後も大きくなりますが、一広告主の目からすると、その限りではないということです。そして、純広告と相性がいいのが、ツーステップ型マーケティングである、個人的にはこのように感じています。
コロナ禍で、絶え間なく続く引き合い元とは?!
-貴社はこの環境下でどのような取り組みをしていますか?
引き合いが来るクライアントの業態が大きく変わりました。
今まではほとんどが健康食品と化粧品でしたが、最近は一般食品大手のレストランチェーンやホテル経営会社、食品メーカーなどからの引き合いがとても増えました。コロナ禍で自社で取り扱っている商品の安定流通・販売が出来なくなり、ネットで通販を始めたいという問い合わせがとても増えました。そして当社にお問い合わせをいただく方々が共通して認識しているのは、単にネット通販がよいということではなく定期モデル、すなわちサブスクモデルがいいのであるということです。このような引き合いは、コロナが拡大しなければ恐らくは来なかったでしょう。
このような状況下で、コンサルティングサービスもさることながら、制作の依頼も大変増えており現在対応がなかなか追いつかない状況です。少人数で回しているのが現状であり、現在採用活動も行っています。
-貴社に引き合いが来るクライアントは、どのような経緯で来るのでしょうか?
当社に引き合いが来るクライアントは明確です。バツ二クライアントが多いのです。最初にネット事業を始めると、まずは総合代理店に依頼します。そこで結果がいまいちであったとします。その後にネット専業代理店に依頼し、そこでも同様であった。そうすると最終的に当社にたどり着くというパターンです。今までのCPA、CPO、ROASを改善することを求めて、当社に問合わせをいただくという形です。
D2Cと単品通販
-先日D2C市場規模の公表もされていましたが、この調査のことについてもお聞かせください。D2Cと単品通販とは一緒のものと考えてもよいものなのでしょうか?
この調査は、九州産業大学の先生に依頼して実施したものです。調査を実施した期間はまだコロナ感染拡大が本格化する前でしたし、当時の予測よりもさらに市場は上振れることになるかもしれません。
私はD2C Summitの理事をしているのですが、色々な方とお話をしている限りでは、本質は同じであると認識しています。
ネット業界では色々なバズワードが出回りますが、単純に言うと、単品通販のことをD2Cと呼び、定期販売モデルのことをサブスクと呼んでいるだけのです。
もちろん、細かいところではD2Cというと、主にネットを使ってビジネスをし、かつソーシャルをこのように活用し云々というロジックはありますが、これをどう解釈するかです。いろいろな人がD2Cをそれぞれに解釈をしていますが、その本質は“Direct to Consumer”であることです。
今後は海外、そして他業種へ
-今後の注力領域についてお聞かせください
当社は単品通販に関するプロモーション周りはすでに日本トップクラスのノウハウを持っており、ほぼ独占しつつあります。単品通販TOP100社のうちの7割くらいが当社と何らかの取引があります。
次に考えているのは海外展開です。早ければ2021年には動き出す予定です。台湾やベトナムなどのアジア地域に当社のクラウドサービス「売れるネット広告つくーる」を展開していきたいと考えています。
また、これまで健康食品や化粧品を提供するクライアント向けに提供してきたサービスを、アプリ業界、金融業界、士業、不動産業など他の業界にも広げていくことも視野に入れています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。