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キーパーソンがみた、デジタル広告業界の2020年と2021年

デジタル広告業界の関係者にとって、2020年のデジタル広告業界は、広告主、広告会社、アドテク企業、媒体社それぞれにとってどのような年だったのか。

長年にわたり、デジタル広告業界を俯瞰して見続けてきた、ネクスジェンデジタル株式会社 代表取締役社長 兼 SMN株式会社 アドテクノロジー事業 執行役員 谷本 秀吉氏に2021年の展望とともに、お話を伺った。

 

(聞き手:ExcangeWireJAPAN 野下 智之)

 

それぞれの立ち位置からみた、2020年

2020年にデジタル広告市場では、大きくどのようなことが話題になりましたか? またそれが広告主、広告会社、アドテク企業、媒体社それぞれのビジネスにどのような影響を及ぼしましたか?

デジタル広告業界全体においては新型コロナの影響を大きく受けました。全体としてみると、やはりマイナス影響の方が大きかったでしょう。

昨年4月の政府による緊急事態宣言後、人々の暮らしは自粛に伴い日々の行動が大きく抑制されることになりました。その結果経済活動が停滞しました。

いわゆる巣ごもり消費により追い風となった業種もありましたが、店舗や対面で商品やサービスを提供する業種における消費の多くは減速した傾向が見られました。

 

広告主は、足元の売上を確保するために必要な販売促進費はそのまま維持するというケースもありましたが、中長期を見通して投資されるような広告宣伝費については凍結するといった動きが数多く見られました。

 

このような環境下にあって、広告会社は新規顧客の取引拡大に苦戦したように見受けられました。

緊急事態宣言下においては、まずは新規のアポイントを取ることですら苦戦しました。広告主企業の担当者の方に話を聞くと、コロナ禍ではやはり新規との商談は控えるようにしていたようです。

 

例年は新規の顧客開拓において有効なタッチポイントである、リアルの場で開催される広告業界関係者向けイベントも軒並み中止となりました。広告会社の営業職の方は、会社の目標に新規獲得の目標を持っていることも多いでしょうから、恐らくは大変苦戦されたのではないかと思います。

 

その後、業界の空気も変わり、ウェビナーの開催や、ビデオ会議による新規商談が活発に行われるようになり、特に夏以降はコロナ禍でも工夫をしてビジネスを動かしていこうという機運が高まっていきました。

 

アドテク企業にとっての2020年は、新型コロナもさることながら、3rd Party Cookie やIDFA利用規制の話題に終始した1年でした。Google Chrome の3rd Party Cookie の2022年以降の利用停止を予告する発表や、9月に発表されたAppleのiOS14の大幅アップデートによる、iPhone上の3rd Party Cookieの有効期限の短縮化を、以前までのApple製ブラウザSafariに限らず、Chromeなどのアプリ上で起動するその他のブラウザにも有効制限を適用する動きは、広告ターゲティングの在庫数の目減りや効果計測にも大きな影響をもたらしました。

そして今年はIDFA自体もユーザーに都度利用許諾を取る、オプトイン型への変更が予定されており、Web領域に限らず、アプリ領域にも変化への対応は引き続き余儀なくされています。

 

媒体社の広告ビジネスについては、やはり新型コロナの影響がマイナスの影響を及ぼしました。プログラマティック広告の収益効率を見る指標としては、RPM(Revenue Per Mille)とARPU(Active Revenue Per User)が代表的ですが、新型コロナの影響により両指標とも低下しているという当事者の方々の声を多く聞きます。

コロナ禍では、媒体のimp数は全体的に上がる傾向がみられました。その一方で、広告主の出稿が全体として減少したことで、オークションプレッシャーが弱まり、取引単価はそれまでよりも2~3割ダウンしました。これにより媒体社の収益効率が下がったのです。

 

一方で、Google、Facebook の2020年7-9月の決算を見ると、広告収益は回復基調に向かいつつあります。

Alphabetが公表しているIR資料において、Googleの四半期広告収益を紐解いてみると4-6月期は前年対比で−8.2%であったのに対し、7-9月期は同+14%。特に7-9月期のYouTubeの収益は、前年対比で+32%と大きな伸びを見せました。Facebookは、4-6月期の前年対比+11%から、7-9月期には同+22%となり、両社とも一時的な成長停滞から脱却しています。今後は業界全体の単価水準も回復していくことでしょう。

 

(データ引用元)

Alphabet 2020 7-9月決算資料

https://abc.xyz/investor/static/pdf/2020Q3_alphabet_earnings_release.pdf?cache=514fb58

 

Facebook 2020 7-9月決算資料

https://s21.q4cdn.com/399680738/files/doc_financials/2020/q3/FB-Q3-2020-Earnings-Presentation.pdf

 

 

コロナ禍でも三方よしを目指すことこそが発展への道筋

2021年、デジタル広告業界関係者は、市場のどのような潮流を見定めてビジネスをしていくことが求められますか?

2021年は、デジタル広告業界は、これまで依存してきた施策から切り替えて、新たな施策に可能性を見出す年となるでしょう。

3rd Party Cookie の利用制限という流れは、もはや不可逆的なことです。日本で昨年6月に可決された個人情報保護法の改正案は、2年以内の施行が予定されています。

 

(個人情報保護法改正案について)

https://www.ppc.go.jp/news/press/2020/200612/

 

そして、話題の中心は、「データ利活用のあり方」でしょう。マーケティングにおけるデータの利活用のあり方の輪郭が定まるはずです。従来通り残る施策と、消えゆく施策とが選別されると同時に、新たな施策へ何らかの可能性を掴む動きが活性化するでしょう。

 

そして、決して忘れてはならないのは業界の健全性についてです。2020年12月に業界3団体(日本アドバタイザーズ協会、日本広告業協会、日本インタラクティブ協会)による設立が発表された「JICDAQ」は、アドフラウドやブランドセーフティなど、業界の大きな課題を解消していくために、とても重要な取り組みです。業界全体で、このような取り組みを支えていくことが求められます。

 

(関連リリース)

https://www.jiaa.org/wp-content/uploads/2020/11/20201201_jicdaq_release.pdf

 

2021年も引き続き、テクノロジーの進歩やデータ活用の可能性に恩恵を受けつつも、ユーザー、広告主企業、広告業界に所属する企業にとって、三方良しであることが今後の業界発展において不可欠な観点であると思います。

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。