アプリ内広告の仕組みとパブリッシャービジネスにおける可能性
近年アプリ内広告が普及しており、デジタル広告市場全体の成長に貢献している。アプリ内広告は、アプリ開発者やアプリパブリッシャーにとり、重要な収入源となっており、グローバル大手SNSから、個人開発者までの多くが、ここから収益を得ている。
本稿では、アプリ内広告について、体系的な解説をしていく。
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1.アプリ内広告の定義
アプリ内広告とは、主にスマートフォンやタブレットのOS上で提供されているアプリケーション上で表示される広告のことである。
デジタル広告業界内では、より略されてアプリ広告と呼ばれることもある。これに対して、Webブラウザ上で表示される広告はWeb広告(ウェブ広告)と呼ばれる。
2.アプリ内広告の種類
アプリ内広告は、デジタル広告業界においては、大きくは以下のように分類される。
ここでの分類は、厳密な機能分類を意識しつつも、デジタル広告業界内において一般的に使われている実態を重視して行う。
(1)ディスプレイ広告/ピクチャー広告
アプリコンテンツ内の一定のレクタングル枠内に表示される、アプリ広告におけるベーシックな広告フォーマットである。
クリエイティブは動画で表示されるものもあるが、一般的には、静止画画像のものをイメージして使われることが多い。
ピクチャー広告は、ディスプレイ広告とほぼ同義であるが、元々はフィーチャーフォン時代のモバイル業界において、PCよりも狭い画面枠の中で、横長の四角形で表示されるものが、この呼称で呼ばれることが多く、その流れを汲んでいる呼称である。スマートフォン普及期に活躍したアドネットワークの多くがこの形態で配信を行ってきた。
(2)動画広告
クリエイティブが動画である広告というのが、最も基本的な考え方である。このうち、アプリ内広告としては、大きく以下のように分類される。
①インストリーム動画広告
動画コンテンツの前や途中、後に挿入され手表示される広告である。配信先媒体としては、YouTubeやAbemaTV、TVerなどが代表的である。
②動画リワード広告
ユーザーの広告視聴の対価として、アプリ内で利用可能なインセンティブを付与する動画広告である。予めユーザーの承諾を得た上で、配信されるので、視聴完了率が高い広告フォーマットであり、実装するアプリパブリッシャーも収益を得られるフォーマットとして、過去数年で急速に普及している。
⓷インタースティシャル広告
アプリの起動時や画面遷移時などに表示される全画面型の動画広告。主にコミックアプリなどで実装されている。
3.アプリ内広告需要拡大の背景
アプリ広告の歴史は、スマートフォンの普及の歴史と連動する。
2007年にiPhoneが登場し、スマートフォン向けのアプリの提供が始まった。だが当時国内ではまだガラケーと呼ばれるフィーチャーフォン広告全盛の時代であり、キャリア公式ポータルサイトのトップメニューや、mixi、モバゲー、GREEなどのプラットフォームがこの市場の多くのシェアを占めていた。
その後スマートフォンの普及が本格化し、国内のモバイル広告市場は2011年3月の東日本大震災の前後を皮切りに急変を遂げる。このころを機に、フィーチャーフォン広告市場が大幅な縮小トレンドに入る一方で、スマートフォン広告の市場が急成長を始めた。
この頃には、TwitterやFacebookなどのSNSが本格的な普及期に入っていたが、まだ現在ほど大きな規模の広告ビジネスは行われていなかった。当時市場をけん引したのは、カジュアルゲームなどのスマートフォンアプリをネットワーク化したアドネットワークである。その後、スマートフォンゲーム市場が急成長し、熾烈な新規ユーザーの獲得競争を背景に、国内・海外の大手ゲーム会社からの膨大な広告予算が、アプリ広告の市場を潤した。
その後FacebookやInstagram、TwitterやLINEなどのソーシャルメディアが急速にユーザーに普及し、アプリ広告はアプリ広告主のみならずWeb広告主のプロモーション需要の受け皿ともなり急成長を遂げることとなる。2010年代半ばにはWeb広告の領域ではRTB取引によるプログラマティックの普及が進んでいたが、アプリの領域では、この頃よりアプリ専用のDSPやSSPが、海外から参入がみられ始めるようになる。とはいえ、当時はまだSSPはメディエーション機能に特化したものがほとんどであり。アプリ内ビディングによる広告取引の世界観には遠い状況であった。
2010年代の終わり頃より、ironsourceやMoPubなど、アプリ内ビディングの仕組みを持つ海外事業者が日本でも本格的な事業を開始。本格的なプログラマティック取引がアプリの領域でも普及し始めている。
4.媒体社にとってのアプリ内広告導入のメリットとデメリット
(1)メリット
①低コストで導入が可能
アプリ立ち上げ期においても開発コストをほとんどかけることなく、導入することが出来る。近年は、様々な広告事業者のSDKが用意されており、選択肢も多い。また、トラフィックが多いアプリ媒体においては、広告事業者から手厚いサポートを受けることが出来る。
②収益モデルの多様化と安定化
ユーザー課金モデルと併用することにより、収益モデルを多様化することが出来、アプリの収益の安定化にもつながる。
また、これまでユーザー課金モデルで収益を拡大してきたアプリ媒体社においても、アプリ内広告を導入することにより、さらなる成長機会を得ることが出来る。
③ ユーザーベネフィットの提供
動画リワード広告においては、ユーザーは自らの意思で動画広告を視聴することと引き換えにアプリ内で利用できるインセンティブを受け取ることが出来る。このようなリワードプログラムの提供により、ユーザーは恩恵を受けることが出来る。
このようなユーザー体験の向上は、ユーザーによるアプリに対するロイヤリティーを高めることにつながる。
(2)デメリット
①ユーザーインターフェース
広告枠の配置の仕方によっては、ユーザーによるコンテンツ視聴を邪魔してしまうことになり、ユーザー体験を阻害し、アプリそのものの利用をやめてしまうことにもつながりかねない。
②ブランドセーフティー
SSPやアドネットワークなどを通して、不特定多数の広告主からの配信を受けることで、出稿者側の属性やクリエイティブの事前確認が困難となり、不適切な広告配信を受けるリスクが発生し得る。
③レイテンシー
広告配信を受ける際に実装するSDKの内容によっては、レイテンシーを発生する恐れがある。
5.アプリ内広告を取り巻く業界
アプリ内広告は、現在以下のような業態の事業者により構成されている。
(1)広告主
アプリプロモーションを目的とする広告主(アプリ広告主)と、Webプロモーションを目的とする広告主(Web広告主)とに分かれる。ここでは前者について特に詳しく触れる。
アプリ広告主は、大きくはアプリゲームを提供する企業広告主と、それ以外のアプリケーションを提供する企業広告主に大別されている。アプリ広告の業界内においては、よく「ゲーム広告主」と「非ゲーム広告主」と、それぞれ呼称されて、区別されている。
「非ゲーム広告主」には、ニュースアプリを提供する企業や、有料動画配信サービスや音楽アプリ、電子コミックなどの有料のデジタルコンテンツを提供する企業が多くの広告予算を市場に投下している。マッチングアプリのようなスマートフォンアプリならではの広告主も、上位広告主として常連である。(関連データ)
(2)広告代理店
総合広告代理店や、デジタル広告代理店などあらゆる広告会社が対象となる。もともとは、デジタル広告代理店の中でも、スマートフォン広告専門の広告代理店という立ち位置で、スマートフォンに特化していることを強みとした広告代理店が数多くあったが、デジタル広告の多くが既にスマートフォン広告となった今では、その特徴性は薄まりつつある。
(3)アドネットワーク
数多くのアプリ媒体をネットワーク化して、一元的に広告主に広告サービスを提供する事業者である。広告主は、一つの事業者を通して複数のアプリ媒体に一括で広告配信をすることが可能。アプリパブリッシャーは、アドネットワークを通して複数の広告主から広告配信を受けることが可能である。
(4)DSP
アプリ内広告取引におけるデマンドサイドの広告プラットフォームである。SSPに対してRTB配信を行う。2010年代半ば頃より、主に海外からアプリプロモーションに特化したDSPが国内市場に参入をし始めた。RTBその後アプリリターゲティング広告への需要の高まりとともに、数多くの事業者が市場参入を果たしている。
(5)メディエーション/SSP
メディエーションとSSPは、いずれもアプリ媒体の広告収入を一元的に管理し、広告収入の最適化を図るための広告プラットフォームである。
メディエーションとは、複数のアドネットワークから広告配信を受けるアプリ媒体の広告収益を最適化するための広告プラットフォームである。ウォーターフォールと呼ばれる形式で、アプリ媒体が、広告の配信元のアドネットワークをシステマティックに振り分けを行うことで、広告収益の向上を図る手法として取り入れられてきた。
SSPとは、DSPの媒体側の受け手として、RTB配信を受ける広告プラットフォームである。
(6)アプリパブリッシャー
ユーザーに対してアプリ上でコンテンツを提供する媒体運営事業者(パブリッシャー)を指す。しばしば、大手SNS、ゲームアプリのほか、ニュースアプリやコミックアプリその他の非ゲームアプリの大きく三つに分類される。
(7)計測ツールベンダー
アプリ内広告の効果計測を行うソリューションを提供しているサービスプロバイダーである。多くの媒体をまたいで広告効果を計測することが出来るため、アプリ内広告を出稿する多くのの広告主・広告代理店が利用している。adjustやAppsFlyerがグローバルおよび国内の両方において最大手とされており、アプリ内広告業界内で大きな影響力を持つ。
6.アプリビジネスとアプリ内広告
アプリの収益モデルは、大きくは以下の通りに分かれる。
(1)ユーザー課金モデル
コンテンツの対価をユーザーから直接徴収するモデルである。徴収の方法としては、アプリダウンロードにより収益を得るダウンロードモデル、月額課金など一定期間ごとに利用料金を徴収するサブスクリプションモデル、コンテンツ内で特定の利用権を得るアイテム課金(都度課金)モデルなどがある。また、最近では、ライブ配信サービスなどアイテム課金モデルの発展形ともいえる、オンラインギフト(投げ銭)モデルなども広がりつつある。
(2)Eコマースモデル
商品やダウンロード販売型コンテンツを品ぞろえし、その売買取引の手数料で収益を得るモデルである。
通信販売やCtoCサービスのアプリなどが採用する収益モデルとなる。近年は、サブスクリプションモデルへの注目も高まっている。
(3)広告モデル
アプリ内広告の配信を受けて、広告収益を得るモデルである。広告モデルは、主に自社が企画・開発した広告商品を販売する予約型モデルと、アドネットワークやDSP(SSP)などの外部の広告事業者を介し、入札制のもので広告取引が行われ、広告の配信を受ける運用型モデルの2種類に大きく分かれている。
7.アプリ内広告によるマネタイズ方法
(1)予約型広告(純広告)
アプリ媒体自らが広告商品を企画・開発し、広告主との相対取引により広告配信を受けることで収益を得る方法である。純広告で広告収益を得られるのは、ごく一部の大手アプリ媒体に限られる。
(2)ウォーターフォール型(アドネットワーク)
ウォーターフォール型は、アプリ媒体が複数のアドネットワークとの接続をして広告収益を得る方法を選択するときに、取り入れられてきた方法である。
モバイルアプリによるマネタイズを手軽に始める方法は、アドネットワークのSDKを組み込むことである。アドネットワークのSDKがあれば、アプリ媒体は広告をリクエストし、SDKから広告が返ってくれば、ユーザーに広告を閲覧させることができる。だが、チャネルが複雑化することで、1つのアプリに追加されるSDKは増加しているため、パブリッシャーはSDKにどのような順番で広告をリクエストするかを決める必要が出てくる。このSDKあるいはデマンドソースの順序付きリストは「ウォーターフォール」と呼ばれている。(図1)
ウォーターフォール方式では、順番リストの先頭に記されたアドネットワークのSDKに広告を返すチャンスを与えられる。もし先頭のSDKがインプレッションをフィルできなければ、2番目のSDKに広告を表示するチャンスが巡ってくる。その下には3番目、4番目とSDKが控えている。ウォーターフォールの順番は手動で設定した優先順位のルールや過去の価格を集計したデータに基づいて決定さる。インプレッションがフィルされると、それ以降のSDKはマネタイズのプロセスから除外されるため、下位のデマンドソースがより高値で入札していても落札することができない。
(3)ヘッダー入札(アプリ内ビディング)
一方、ヘッダー入札(「並列オークション」「統合オークション」とも呼ばれる)では、複数の入札リクエストと応答を同時に集め、アドサーバーに渡す。
パブリッシャーは1つの広告インプレッションを複数のSSPに同時送信し、SSPはそのインプレッションをそれぞれのDSPパートナーに送信することが出来る(図2)。
ウェブ領域においてはヘッダー入札への取り組みと普及は2010年代前半には進められてきたものの、アプリ領域では技術的なハードルが高かったこともあり、近年本格的な普及が始まっている。
Source:PubMatic
8.アプリ内ビディングのメリットと導入方法
ヘッダー入札はウォーターフォール方式の弊害を解消することで、マネタイズに関するさまざまなメリットをパブリッシャーにもたらす。まず、ヘッダー入札を採用したパブリッシャーは、デマンドの増加による価値の向上を享受することができる。つまり、パブリッシャーは、モバイルアプリに投じられる割合が増えつつあるプログラマティック予算を通じて差別化されたデマンド、ブランド広告費にアクセスできるようになる。
また、ウォーターフォールにおいてみられがちな、レイテンシーや、設計の複雑化による運用にかかる手間やコストを抑えることが出来るソリューションとして注目されている。
また、サーバーサイド入札によって、効果的にデマンドの規模を拡大することができる。これは、ウォーターフォールと異なり、デマンドパートナーのSDKを一つひとつ追加していく必要がないためである。デマンドは今や、マネタイズの成長と引き換えにアプリのパフォーマンス(SDKの膨張、メンテナンス)を犠牲にするものではない。
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アプリ内ビディングを利用するためには、この機能を開放しているSSPまたはメディエーションサービスのSDKを導入する必要がある。最近国内でもアプリ内ビディングの普及が進んでおり、アプリパブリッシャー向けに提供されているサービスは、国内外のものを含め数多く存在する。
どのサービスを利用するかは、サポート体制や、バイサイドとの連携状況、あるいはサポートしている広告フォーマットの種類の豊富さ、実装するSDKと自社アプリとの相性の良さなど様々な観点で、検討を重ねるべきである。
また、広告取引の透明性や、アドフラウドに対する取り組みなどについて、明確なポリシーをもっているかどうかということも、サービス提供者のサイトや担当者に対してなどに問うて確認をすることが望ましい。
アプリ内広告ビジネスは、OSを提供するAppleやGoogleの規約やそのルール変更に大きな影響を受ける。これらグローバル大手事業者の情報を的確に提供してくれる事業者をパートナーの1社に含めておくことも、変化の激しいこの市場でビジネスを成功に導くための大きな要素となるであろう。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。