「すべてのインプレッションを一つひとつ精査」-誤検知率1%以下のDoubleVerifyが見渡す日本のアドベリフィケーション動向
「アドベリフィケーション」という用語を耳にするようになって久しいが、その実態はいまだ明らかでない部分も大きい。2020年5月に日本オフィスを開設したばかりのアドベリフィケーション対策ツール提供企業のDoubleVerifyが、その実態と日本市場の展望について語ってくれた。
(聞き手:ExchangeWire Japan長野雅俊)
アドベリフィケーションの草分け
―自己紹介をお願いします。
DoubleVerify Japan株式会社の最高責任者を務める武田隆と申します。JWT、Saatchi & Saatchiなどの外資系の広告会社での勤務を経て、DDBジャパンの代表取締役社長兼CEOやGoogle日本法人の執行役員を経験。今年4月より現職に就きました。
―貴社の事業内容をお聞かせください。
2008年に創業したアドベリフィケ―ションの草分けであり、広告主、パブリッシャー、広告プラットフォームなどデジタルメディアを取り扱う顧客に対して、様々なメディアの品質を認証するソフトウェアを提供しています。ブランドセーフティ、ビューアビリティ、アドフラウド関連の様々なKPIを網羅した「Authentic Impression」という独自の統合指標に基づく精緻なアドベリフィケーション対策を実現できることが強みです。
―具体的にはどのようにアドベリフィケーション対策を行うのでしょうか。
主な手法は2種類。広告費用が発生する以前となる入札リクエスト段階で機械的なフィルタリングを行うPrebidと、広告配信後に問題ある広告を表示させないための処理を行うPostbidです。前者は既にほぼすべての大手DSPに対応済み。また後者であれば新規のプラットフォームにも対応できます。
―Postbidでは問題ある広告をブロックすることはできるが、その広告の配信にかかった費用は支払わなければならないということですね。
課金形式にもよりますが、いったん配信された広告はたとえ表示されずとも費用が発生するというのが一般的です。過去にはPostbidによるブロック率が20%という広告主様がいらっしゃいました。つまり広告費の実に2割が無駄な費用として消えていたわけです。そこでこのブロック率を下げつつも、ブランドセーフティの基準を引き続き順守することが課題となりました。
この会社は主にキーワードブロックに基づく対策を行っていたのですが、当社のダッシュボード上ではさらに細かい設定が可能です。75以上のコンテンツ回避カテゴリを用いて、ドメイン単位だけではなくページ単位やセクション単位での制御ができます。こうした精緻な設定を通じて、Postbidのブロック率は1%にまで低下。ブランドセーフティの基準とキャンペーンの効果は維持したままで広告費を14%削減することに成功しました。
誤検知をなくす方法とは
―「75以上のコンテンツ回避カテゴリ」にはどのようなものが含まれているのでしょうか。
分かりやすい例としては「水着」があります。ただし、同じ水着でも、競泳について解説するスポーツ面と、グラビアページでは意味合いが大きく異なります。そこでメディア単位だけではなく、ページ単位やセクション単位での細かい設定が必要になるときがあるのです。また合わせて100以上の言語を解析するセマンティック解析専門チームがAIや機械学習を活用することで一層の機能向上を図っています。
―アドベリフィケーション対策ツールを提供する事業者が近年増えてきました。貴社はどのように差別化を図っていますか。
最大の差別化ポイントは、「このような傾向を持つインプレッションは恐らく70~80%の確率で不適切なものであろう」といった推定型の判断を行う競合他社とは対照的に、すべてのインプレッションを一つひとつきちんと精査している点です。よって誤検知率が他社では20、30%となるのが決して珍しくない一方で、当社では1%以下と非常に低いという特徴があります。
そもそもアドベリフィケーションとは、マーケティングにおける費用対効果を高めることが目的であって、ブロックすること自体が目的ではない。PCなど単価が高い商品の広告では、誤検知がわずか数%発生しただけで、全体の売上に大きな影響を及ぼします。当社が特定型の検知にこだわる所以です。
―貴社は米国に拠点を置くグローバル企業です。日本語の解析はどのように行っているのでしょうか。
本社には各言語の専門家をそろえており、日本語は2名の専門担当がAIによる学習を管理しています。また日本オフィスの開設以前からAPACオフィスを通じて日本市場へサービスを展開し、データもだいぶ蓄積できたので、日本語の解析精度は既にかなり高いレベルにあると考えています。
テレビCM重用がもたらしたもの
―アドベリフィケーションに関する日本の市場環境についてのご見解をお聞かせください。
アドベリフィケーションについては、日本市場はまだ黎明期です。つい最近まで、テレビCMという安全かつプレミアムな広告媒体が重用されてきたという歴史的な経緯に因る部分が大きいと思います。
ところがオンライン広告市場が成長したことで、データを駆使しながら様々な配信面を買うという形式が増えてきました。そこでアドフラウドやビューアビリティといった課題にも向き合わざるを得なくなってきたのです。
日本アドバタイザーズ協会(JAA)、日本広告業協会(JAAA)、日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の広告関係3団体による「デジタル広告の課題解決に向けた共同宣言」が象徴するように、広告関係者が具体的な取り組みを見せ始めています。オンライン広告市場におけるアドベリフィケーション対策の実施率は今後急速に高まっていくはずです。
―アドベリフィケーションについての理解促進や普及においてはどのようなことが課題になると考えていますか。
やはり広告主側が動かなければ、広告会社も広告プラットフォームも動きません。また広告主の中でも決定権を持つ方々に高い意識を持っていただくことが重要だと思います。デジタルマーケティング業務は既に細分化されており、「とにもかくにもまずはリーチを確保しなければいけない」という部門が存在することは事実です。そういった部門にアドベリフィケーションの重要性を説いたところで、「お金にならない仕事が増えるだけ」と受け止められかねない。まずは総合的な判断を下すことができる上層部間での理解を広げるべきです。
―貴社ではどのような事業者を顧客としていますか。
当社のアドベリフィケーション対策ツールは様々な指標に対応しているので、顧客層も多様です。一般的にはマーケティングファネルにおける認知段階では大手ブランド広告主がブランドセーフティ対策を、購入段階ではeコマース企業を含む様々な事業者がアドフラウド対策を行う一環として当社ツールをご利用になることが多いです。
また大手企業であれば、KPIも多様になりがちです。当社では多様なKPIに対応しながらも、グローバル企業向けに統一したデータを国単位またはブランドごとに時系列で提示できる仕様となっています。
―今後の事業展開についてお聞かせください。
オンライン広告の一つひとつを精査することができる当社技術は、不適切な広告を排除する以外にも広く応用できると考えています。例えば、異なる広告クリエイティブごとにユーザーがどのような反応を示したかをリアルタイムで計測することで、広告戦略全体の効率化に貢献できるはずです。さらに各企業のファーストパーティーデータと連携させれば、広告の質に応じたアトリビューション計測が可能になります。またcookieレスの時代には、言語解析技術の重要性が一層増すはずです。
「マーケティングの費用対効果を高める」という理想を実現するために、今後も様々な機能開発を進めていきたいと思います。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。