ブランド価値の向上と媒体効果の可視化が鍵‐ニューステクノロジーが語るサイネージ市場の未来[インタビュー]
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on 2020年10月20日 inニューステクノロジーはモビリティメディア 「THE TOKYO TAXI VISION GROWTH」を提供している。コロナ禍にあたり広告料金設定をインプレッション課金に変更したほか、新たな取り組みとして、都内の高級ヘアサロンを対象としたサイネージサービスも開始した。事業の振り返りと今後のサイネージサービスおよび市場の展望について、三浦純揮 代表取締役に話を聞いた。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 柏 海)
インプレッション課金で広告出稿に安心を
―「THE TOKYO TAXI VISION GROWTH」(以下、GROWTH)は2019年4月にサービスを開始し、約1年半が経過しました。改めて、この1年半を振り返ってみていかがでしょうか。
(2019年に行ったExchangeWireのインタビューはこちら)
三浦氏 クライアントニーズが継続的に発生し、非常に良い成長スピードで事業を伸ばすことが出来ました。コロナ禍の前までの広告枠はほぼ満稿という状況が続いていましたね。ただ、3月以降はコロナ禍の影響を受けて、特に緊急事態宣言で外出をする人が減ったのは事業にも相当なインパクトがありました。タクシーサイネージはオフラインメディアのため、乗客の数がメディア在庫に直結します。タクシー自体は公共交通機関の側面もあるため、一定の在庫はあったものの、通常時に比べると2~3割ほどの広告規模になってしまいました。
しかし、9月時点でタクシー利用者も8割ほど戻り、GROWTHの売り上げも回復して来ています。また、GROWTHの「エコノミービュー」という乗車5分以降から18分程度までに流れる広告メニューのインプレッションについては、既に100%まで戻りました。タクシーのヘビーユーザーのなかには、どうしても長距離を移動しなければならない企業の経営者もいますが、そういった場合には長距離の移動に際しても電車を使わず、よりプライベートな空間に近いタクシーを積極的に利用する傾向もあると聞いています。
※ 出典:THE TOKYO TAXI VISION GROWTH媒体資料
―広告主の変化はありましたか。
三浦氏 コロナ禍の前までは、BtoBのサービスが6割、残りがBtoCという状況でした。
今の状況下の変化としては、会社受付に置かれているようなアルコール消毒用品やサーモグラフィカメラを提供している会社からの広告出稿や問合せが増えていますね。また、中にはPCR検査が可能な民間の病院やクリニックからの広告出稿もいただいています。
こういった広告主の業種の広がりはまさにコロナ禍を象徴するような状況です。
また、広告主からはコロナ禍をきっかけにインプレッション課金への要望が強くなり、現在GROWTHでは期間掲載保証型の広告メニューから、インプレッション課金での広告メニューに代わりました。具体的には、期間掲載保証+インプレッション課金で、各広告メニューに設定された想定表示回数が下回った場合、放映実績回数にインプレッション課金再生単価を掛けた金額でのご請求を今は行っています。なお、想定表示回数を放映実績回数が超えた場合は、申し込み金額のままでのご請求になります。
デジタル広告のようなメニューとなりますが、このインプレッション課金への取り組みは、タクシーサイネージを提供している同業他社も同様に行っています。
広告主の立場から考えれば、またいつ緊急自体宣言が来るのか分からない状況下で多額の広告投資をするのはリスクが高く不安もあります。
そういった前提で「1週間に約100万再生されるので400万円かかる広告」を買うよりも「1人につき単価が4円かかり100万人に視聴されたので400万円かかった広告」のほうが、広告主にも安心してタクシーサイネージを使ってもらうことが出来ます。
媒体価値向上に向けた業務提携
―ニューステクノロジーではラクスルと業務提携し、クライアントのメディアプランニングのトータルサポートや、効果分析レポートを提供する新たなパッケージプランの提供を始めました。この狙いはどのようなところにあるのでしょうか。
三浦氏 自分たちのGROWTHという媒体価値を最大限に生かし、広告を科学してプランニングをすることが可能なパートナーが必要だと考えたからです。
世の中でもタクシー広告が認知され、昨年からGROWTHの広告枠は満稿が続いていた一方で私には危機感もありました。それは、広告を出稿していただいたクライアントのなかには、結果を出せたクライアントだけでなく、結果を出せなかったクライアントもいただろうということです。
我々は媒体社なので直接クライアントと接する機会はなかなかありません。しかし、より多くの人たちに長く活用して頂くためにも、媒体価値は高めていかなければなりません。では、その“価値”とは何かと考えれば、認知や売上に繋がり、クライアントのビジネスにインパクトを与えていくことなのではないかと思います。
特にBtoBの会社は認知寄りのマーケティング施策の経験が不足しているのでないかと感じており、更に認知の領域からコンバージョンやリードに繋げるとなればその傾向が顕著になります。ニューステクノロジーではラクスルと提携することにより、実際にどのサービスが何件売れて、広告出稿に価値があったか、またどうすればより価値のある広告出稿が出来たかまでプランニングをすることが出来るようになりました。
―8月にはメトロアドエージェンシーとも連携し、東京メトロの駅に設置されたデジタルサイネージへの配信も可能となりましたが、こちらも媒体価値を高めるための取組になるのでしょうか。
三浦氏 我々はモビリティネットワークという言い方をしていますが、出社時や退社時、日中など、それぞれで移動が行われるタイミングでどのように広告を発信してくかを考えていけば、色々なモビリティを持っているパートナーと連携し、お互いの相互補完や価値向上に取り組みネットワーク化していくことは不可欠ではないかと思います。
クライアントはタクシーサイネージに広告を出稿する自体が目的なのではなく、サービスへの問合せや売上を増やすことが目的です。
我々もサイネージだけをやっていれば良いとは思っておらず、ラクスルとの業務提携も含め、様々な事業に取り組んでいます。今後も様々なプレイヤーと協力をしながら事業を進めていくことが必要となっていくのではないでしょうか。
都内高級ヘアサロン専門サイネージをスタート
―6月には新たに、都内の高級ヘアサロン専門のサイネージメディア「THE TOKYO SALON VISION COVER」(以下「COVER」)の提供を開始しました。都内の高級ヘアサロンに特化した媒体ということですが、どのような狙いがあるのでしょうか。
三浦氏 COVERのターゲットは、都内の高級ヘアサロン(平均顧客単価2万円以上)を利用する美容感度が高い層になります。美容室を利用している瞬間というのは美容意識が高まっている瞬間でもあり、そこを狙ってコミュニケーションが出来るという点には大きな価値があります。
※ 出典:THE TOKYO SALON VISION COVER媒体資料
11月末時点で80店舗1,000面にサイネージの設置が完了する予定です。全国に約25万店舗美容室はありますが、地方にサイネージ面を広げて販売をしていくよりも、しっかりと“都内の高級ヘアサロンを利用し一定の購買力と自己投資意欲があり、かつ美容好感度が高い層にリーチできる”という独自性やブランドを作り上げていきたいと考えております。
私自身の考えとしては、消費者のニーズが多様化する中で、それぞれのニーズに合わせたコミュニケーションの設計が必要だと感じています。そのような意味でも、特定の人だけを対象とした高品質なシャンプーを、特定の層に向けてコミュニケーションをしたいニーズはあると思います。これはマスブランドであっても、特定の層を狙ったリーチの需要が今後行われていく可能性があります。
また、都内に絞っている理由としては、地方のサイネージ広告を販売するよりも都内のサイネージ広告を販売するほうが収益上も安定するだろうという、今までGROWTHを扱ってきた上での狙いもあります。
そのため、今後は設置を一定程度進めていくだけでなく、ビーコンを使用したスマホ連動サービスの開発やInstagramを使ったコミュニケーション設計など、カスタマージャーニーに寄り添いながら、ブランド価値の向上や購買傾向を高めていける施策を作っていければと思います。
特に、ブランド価値を作るというのは大きなテーマです。ヘアサロンサイネージに広告を出稿するという文化自体はまだクライアントのなかで固まりきっていないのではないかと考えています。そのためには、デジタルと同様に、具体的な数値を踏まえて結果を振り返ることができ、クライアントにもロジックを持ってフィードバックすることができる体制を早急に構築する必要があると考えています。
広告効果の可視化がより良い市場の成長へ
―改めて、今後の市場及び貴社の事業展望についてお聞かせください。
三浦氏 会社としては、デジタルサイネージ事業だけでなく、映像制作に長けたコンテンツクリエイティブ事業や広告運用コンサルティングを行うメディアアカウント事業を行っています。メディアが増えていくことにより、中身のコンテンツやデジタルも絡めた広告運用・分析というのは更に重要となっていくので、引き続き連携を取って進めていきたいと思います。
その中でメディアの話を取り上げますと、デジタルサイネージ市場は今後伸びていくといわれており、私自身も伸びていくだろうと見ています。
しかし、どのように伸ばしていくか、という点については考えていかなければならず、私自身今後やるべきなのは「ロケーションの開拓」と「開拓したロケーションのデジタル連動」ではないかと思います。
今、弊社では、サイネージを「モビリティ」「シティ」「インストア」「ホーム」の4つを主な軸として定義付けており、特にモビリティ分野での成長が著しいです。ただ、様々なロケーションやシチュエーションでユーザーの属性や気持ちは変わっているはずなので、そこを把握しながら面を増やし、媒体として育てていかなければなりません。
また、デジタル連動というのはレポーディングとして振り返るだけでなく、ウェブ広告でいうKPIをサイネージでも示し「サイネージはこれだけの広告効果が見込める媒体です」と言えるようになることです。場合によっては、広告効果が可視化されることにより、今までの媒体価値が下がってしまう媒体もあるかもしれません。
しかし、自信を持って「このサイネージはこれだけの価値があるからこの値段で提供をしています」という意識を持ち販売をしていくことが、サイネージ市場のより良い成長につながっていくのではないかと思います。
ABOUT 柏 海
ExchangeWireJAPAN 編集担当
日本大学芸術学部文芸学科卒業。
在学中からジャーナリズムを学び、大学卒業後は新聞社、法律・情報セキュリティ関係の出版社を経験し、2018年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。デジタル広告調査などを担当する。