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サプライサイドで注目を集めるFLUXの業界リーダーシップ[インタビュー]

ヘッダービディングの普及により、アドテク業界のサプライチェーンは、ここ数年で大きく変化した。この領域で業界をけん引するFLUX創業者のお二人に、これまでの業界の流れや同社の取り組み、そして今後について、お話を伺った。

 

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)

 

 

ヘッダービディング登場以前の世界とは

―自己紹介をお願いします。

永井氏:株式会社FLUXで最高経営責任者(CEO)を務める永井元治と申します。戦略コンサルティング企業やメディア企業での勤務を経て、FLUXを創業するに至りました。

 

平田氏:最高プロダクト責任者(CPO)の平田慎乃輔です。新卒で国内大手メディア企業に入社。この会社でマネタイズの経験を積んだ後、FLUXの立ち上げに参画しました。CEOの永井は中学時代に同じ塾に通っていた仲間でもあります。

 

―FLUX社を創業するまでの経緯についてお聞かせください。

平田氏:私がメディア企業に新卒入社をした2015年当初は、媒体のマネタイズ担当者の元に「広告在庫を提供してください」というSSPとアドネットワークの営業担当者がひっきりなしに訪れるような状況でした。それに対して媒体の担当者は枠と広告表示回数の目安と収益目標を伝える。そして多いと100枠以上に上る広告枠ごとに異なる単価を設定して広告を配信し、数日後に「今回の収益は目標の~%に達しました」というレポーティングをしてまた調整を図るということだけに一日の大半を費やしていたのです。

2016年ごろからいわゆるネイティブ広告が普及して新規の広告枠が爆発的に増大した結果、もはや対応しきれなくなりました。あらゆるSSPやアドネットワークに対して一斉に自動入札を実施することを可能にするヘッダービディングは、そのような背景の中で注目を集め始めたのです。

 

永井氏:外資のテクノロジー企業が日本市場にもヘッダービディングを提供していたものの、実際に導入に踏み切った日本のメディア企業はごく一部に過ぎませんでした。日本国内に500万以上のPVを持つウェブメディアが数千社ほど存在していたにも関わらず、その中でヘッダービディングを活用していた企業は50社前後だったと思います。

 

平田氏:現在ではPrebidという標準規格において複数の配信事業者が提供するヘッダービディングソリューションを一つのタグ内にまとめることができる「ラッピングサービス」が主流ですが、当時はまだ各配信事業者の個別のソースをエンジニアが一つずつ手動で変更する必要がありました。然るべき技術と人的資源を擁する媒体のみが対応できる状況だったのです。

 

そのような状況であるにも関わらず、ヘッダービディング提供企業のカスタマ―サービスが行き届いていないという声をよく耳にしていました。しかも中小規模の媒体はアプローチされていない。ここに事業機会があると捉えて、2018年にFLUXを創業しました。

 

 

搭載ビッダー数最多の理由

―ヘッダービディングソリューションの提供企業としてはいかに差別化していますか。

永井氏:大きくは3点あります。

1点目は25社という搭載ビッダー数の多さ。これは当社がSSP/アドエクスチェンジ事業を運営していないことと深く関係しています。

つまりSSP/アドエクスチェンジと並行してヘッダービディングを提供している事業者は、競合するSSP/アドエクスチェンジのヘッダービディングを取り込むことにはどうしても消極的になります。一方の当社はそのような利害関係には関知しないので、ありとあらゆるヘッダービディングをまとめたラッピングサービスを提供できるというわけです。

ヘッダービディングソリューションの導入数が増えれば増えるほど、入札競争が盛んに行われることになるので、広告単価が上がり、媒体社の収益は向上します。ただ例えば25種類のソリューションを個別に導入かつ対応するのは法務的、技術的、体力的に相当な困難が伴います。それら25種類をすべて束ねて提供できる当社の存在意義がここにあります。

 

2点目は、カスタマーサポートの手厚さ。ヘッダービディングの実装作業は地味であるにも関わらず、相当な人的資源を必要とします。日本市場に進出した外資系事業者はSSP事業と並行して4、5名で対応していますが、当社はヘッダービディング事業だけで約30名を揃えているので、実装やトラブル対応のスピードは圧倒的に速い。米国の大手メディアであれば優秀なエンジニアを多数そろえているかもしれませんが、国内においては自前で実装及びトラブル対応ができる媒体社がごくわずかであることを鑑みると、カスタマーサポートの充実は必須です。

 

3点目は技術です。各社がそれぞれの強みを持っているとは思いますが、当社はメディアの種類別に最適なデータを収集し、事業社の配置や詳細設定を最適化するなどの研究を深めてきました。これらの差別化要因が評価され、当社は日本国内では競合企業を大きく引き離して市場シェアの大部分を占めていると理解しています。

 

平田氏:ヘッダービディングについては「すべてのメディアが導入しなければならない」という認識になりつつあると思います。媒体社の元には、ヘッダービディングとSSP/アドエクスチェンジをセットで販売する営業がたくさん来ている状況なので、ヘッダービディング機能を持たないSSP/アドエクスチェンジは何もしなければ圧倒的に不利な立場です。そこでそうしたヘッダービディング機能を自社開発していないテクノロジー企業が、当社のラッピングサービスを扱ってくれるという事例が多い。こうしたパートナー企業様の協力もあり、日本市場の開拓に成功することができました。

 

 

今後の注力領域の一つはアプリ

―ヘッダービディング市場はまだ成長の余地があるのでしょうか。

永井氏:500万PV以上の国内サイトにおけるヘッダービディングの浸透率は現時点で10%程度。まだまだ成長していく市場だと思います。

 

平田氏:またアプリやモバイル上での高速表示向け仕様であるAMP(Accelerated Mobile Pages)でのヘッダービディングの導入が始まったばかりなので、今後はこれらの分野にも注力していきます。ただし、アプリの場合はいわゆるメディエーション機能を持つSDKが入札を全面的に管理する設計が一般的です。ウェブでは当社のヘッダービディングソリューションが25のビッダーを取りまとめる役割を担っているのとは対照的に、アプリにおいて当社はメディエーション機能を持つSDKとのパートナーという位置に留まる可能性があります。

 

永井氏:アプリはウェブ以上に少数のメディアに多くのトラフィックが集中する傾向があります。よって導入社数が少なくとも、一社当たりの売上規模は比較的大きくなるかもしれません。

一方で、アプリ広告で大きな売上を占めるのはゲームアプリのリワード広告です。バナー広告と異なり、リワード広告は一般的にRTBによる競争入札ではなく、アドネットワークの形態を取ることが多いです。こうした領域では当社保有の技術を生かしづらいので、恐らく情報系アプリの開拓に注力していくことになります。

 

―ヘッダービディングの普及を進めていく上でどんな課題があると認識していますか

平田氏:広告リクエスト過多を受けてのインフラ費用の増大が大きな問題です。現状では、一つの広告枠に対するリクエストが、異なるヘッダービディングソリューションを通じて同じDSPに対して送られています。

リクエスト数が増えれば、サーバーなどのインフラ費用が増える。インフラ費用の増加は媒体に落ちるお金が減るということを意味するので、今後はサプライパス最適化などの仕組みを整備していく必要があるでしょう。

 

永井氏:ヘッダービディングについての理解を持つまたはマネタイズに対して高い関心を持つ媒体とそうでない媒体とでは、当社とのコミュニケーションのあり方が大きく変わってきます。ヘッダービディングという言葉を聞いたこともない、または「マネタイズ施策としてはAdSenseを活用しているのみ」といった媒体社からも理解を得ていくことが今後は課題となります。

 

平田氏:アプリ領域にヘッダービディングを普及させていく過程でも様々な課題が生じます。ウェブではJavaScriptを用いることが多いのですが、アプリで活用されるのはSDK。ヘッダービディングソリューションを15種類導入するとなったときに、SDKを15個入れてしまうとクラッシュする可能性が増える。SDKの数をなるべく少なくしてサーバー間で処理をさせる仕組みが必要です。実際にウェブにおいてはPrebidができる限りサーバー処理をする設計になっています。

こうした課題が解決されて、アプリでもウェブと同程度にヘッダービディングが普及すれば、RTB取引が活性化し、データ上の鮮度を保った広告IDに対して広告が配信できるようになるので、ブランド広告主がアプリ出稿に対して積極的になるはずです。そうすれば、ブランド広告主の要望に応じたプレミアムな在庫も出揃うでしょう。

またアプリならではの特性を生かした、ユーザーアクションに応じた出し分けをするユニークな広告も今後出てくるかもしれません。

 

―貴社の今後の取り組みについてお聞かせください。

永井氏:引き続きヘッダービディングのマーケットリーダーとして、アプリ、AMP、動画など様々な広告形態に対応したヘッダービディング機能をしっかりと提供していきます。加えて、昨今ではやはりデータプライバシーの問題は避けて通れません。現在は個人情報保護を目的とした広告プロダクトの開発にも取り組んでいます。

 

平田氏:また媒体社向けに、アドフラウド対策としてのクリエイティブ監視ツールの輸入販売も行っています。今後もヘッダービディングに軸足を置きながらも様々な取り組みを行うことで、会社を一層大きくしていきたいと思います。

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。