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インダストリーリーダーが語る、YouTube市場の現状と今後[インタビュー]

成長を続けるYouTube市場であるが、2019年から2020年にかけて、その環境は大きく変わったようだ。

業界をリードする1社のBitStar代表取締役社長 CEO渡邉 拓氏に、直近の市場環境の変化や同社の取り組みについて、お話を伺った。

 

 

YouTube市場における3つの変化

―YouTube市場の直近の変化についてお聞かせください。

大きく3つの変化が挙げられます。

1つ目は広告主の変化です。インフルエンサーマーケティングはもともとゲームやアプリの広告主がけん引していましたが、ゲーム業界で新規タイトルのリリースが減り、ゲーム系広告主の需要が低下しました。リリースされているタイトルについては、強いIPのライセンスを活用するなど、マーケティング予算をかけずにヒットの確率を高めるようなビジネスモデルへと変わりつつあります。

一方で、美容やナショナルクライアントなどの需要が拡大しています。インフルエンサーマーケティングの手法に関しては、ナショナルクライアントが求める品質に耐えうるクリエイティブを作ることができるインフルエンサーの需要が高まりつつあります。

また、ニッチなジャンルや幅広い年齢層に対応したインフルエンサーマーケティングも生まれています。

2つ目はユーザー層の広がりです。芸能人が参入しつつある中で、視聴年齢層も広がっています。30代~40代、それ以上の層にまで広がり、ビジネス系のものや専門性の高い法律系のコンテンツなど、従来のエンタテインメントの枠にとどまらない広がりがみられます。これに合わせてマーケティングの観点では、よりターゲットにあったインフルエンサーのキャスティングが求められるようになってきています。

3つ目は、企業が独自でYouTubeチャンネルを作っていく動きが増えていることです。インフルエンサーマーケティングを実施して、ある程度の効果を実感し、自社のチャンネルを運営することも中長期的なファンも獲得できるため良いのではないかと思われるようになったほか、テレビのようなマスメディアの影響力や効果が落ちてきていることも背景にあるでしょう。また、YouTubeでマーケティングをすることができる対象年齢層が引き上がってきていることも影響しているかと思います。

特に2019年の夏以降、企業チャンネルを作りたいというニーズが高まっています。

 

―貴社において、直近で新しいお取り組みや注力されていることについてお聞かせください

当社はもともとインフルエンサーマーケティング事業(広告事業)から始めた会社ですが、今ではインフルエンサーのプロダクションとコンテンツ制作の2つの事業も重要な柱となっています。プロダクションから、次世代のスターを育成したり、コンテンツをIP化していくというミッションに注力しています。

所属インフルエンサーに対しては、個々人と向き合って、プロフェッショナルチームを組んで彼らのビジネスモデルをいかに構築し、サポートしていくかということを考えながら支援を行っています。“YouTuber=制作者”という観点から、私たちとしては、彼らのコンテンツ作りに加わったり、彼ら一人ではできないことを、付加価値として提供していくことに努めています。

そして、単にチャンネル登録者数を増やすことを支援するだけではなく、一緒に広告主のタイアップ案件を獲得しにいくこともしています。その他にもイベントでのグッズや物販など、様々な価値提供をしていくためのチームを作り、取り組んでいます。

このような取り組みの結果、プロダクションとしても月間総再生数で1年前と比べて200%成長することができました。これに満足することなく、業界をさらにけん引していけるようチャレンジをし続けたいと思っています。

コンテンツ制作においては、上記にあるようなブランド企業やマスメディアと共同でのYouTubeチャンネルの運営、自社でのYouTubeチャンネル運営を行っています。ゆくゆくはマスとデジタル、ミドルクオリティとハイクオリティも含めたIPコンテンツを手掛けていきたいと考えています。

 

 

芸能人参入がYouTube市場に及ぼす影響

―芸能人の参入は、業界にどのような影響を及ぼすでしょうか?

よく、「芸能人が参入してきたら、既存のインフルエンサーは淘汰されてしまうのではないか」という話も聞きますが、芸能人の中でも、YouTubeで伸びる人とそうでない人とに分かれてくるのではないかと思っています。

業界全体としては、多様なコンテンツがYouTube上に出てくることにより、視聴者層の広がりとともに、マーケットの拡大が期待されるので、芸能人はマーケットを広げてくれる存在だとも思っています。

一方で、芸能人はブランドもキャラクターも強いので、パーソナリティーの観点では既存のインフルエンサーは、コンテンツの企画や制作の部分で優位性を求められるようになります。これを十分にサポートすることが出来なければ、インフルエンサー離れにつながってしまう懸念もあるので、我々が率先してサポートしていきたいです。

 

―貴社では芸能人の方と協業されていく予定はないのでしょうか?

当社では芸能プロダクションとの提携は3年ほど前から実施しています。たとえば、現在はタレントのゆきぽよさんや佐藤ノアさんなどのチャンネルのサポートをさせていただいています。今後、大手のプロダクションとの提携も予定しているので、ぜひご期待いただけると嬉しいです。

 

―コンテンツの内容については最近何か大きな変化は見られますか?

カップルでのチャンネル運営や、年齢層の高いインフルエンサーが増えました。また、弁護士や税理士、医師などの専門性の高い発信も増えています。他にも、コロナウイルス感染拡大の影響からか、ストレスを和らげるような、動物に関するコンテンツが伸びています。

 

―YouTubeのアドセンスからの還元単価が下落したという話を聞きます。このことが、インフルエンサーの活動に何らかの影響を及ぼしているのでしょうか?

単価下落の要因は、コロナウイルス感染拡大後、個人や企業、芸能人などの配信者数が物理的に増えたことにより広告を配信できる枠が増えた一方で、出稿を控える広告主が出たため需給バランスが変わったことが一因です。

ただ、単価は落ちたものの、巣ごもり需要で全体の再生数が伸びたので、当社の業績で見るとAdSense収入自体は増えています。

また、逆にプロモーションが増えたケースもあります。流通がストップしたことで、リアル店舗からEC販売にチャネルを変える必要性が生まれ、オンラインでのプロモーションに積極的な企業も見られます。インフルエンサーへの影響としては、一般的にYouTuberはAdSense収入にマイナス圧力がかかると、収入減を補うためにタイアップ案件をより積極的に求めるようになるという側面はあります。

 

―コロナウイルス感染拡大の貴社ビジネス全体への影響についてお聞かせください。

当社の場合は、イベントなどオフラインが絡む案件には影響が出ていますが、業績全体としては予想を上回る売上げに着地できる見込みです。

広告主からの予算は上下があり一概には言えませんが、現時点でコロナ禍の前に立てた目標予算は達成しています。

オンラインでのプロモーションが増える予測などを踏まえて中長期的にみると、プラスの効果もあったと言えます。

 

 

インフルエンサーマーケティングの今後

―インフルエンサーマーケティング全体では今年は前年の市場規模を上回るでしょうか?

単価が落ちたとしても、昨対比で微増くらいにはなるとみています。当社で開発しているInfluencer Power Ranking(IPR)というマーケティングツールによる計測では、YouTubeにおける動画の総再生回数は例年、前年比40%以上増で推移しています。但し、今年は3,4,5月はコロナの影響もあり、30%程度の視聴増が見られました。市場成長と掛け合わせると昨対比で190%程度の成長となります。それに伴いマーケティング需要が伸びるのは自明で、広告出稿を抑える企業はあるものの、昨対比は超えるのではないかと見ています。

 

―コロナ前とコロナ後とでインフルエンサーマーケティングはどのように変わったでしょうか?

これまでオフラインで行われてきたイベントなどは、オンラインに移行していくでしょう。従来オフラインで行われてきた握手会のようなマネタイズについても、オンラインでの再現性を求められるようになります。

ただ、求められる量や質は変わっても、インフルエンサーマーケティングの本質は大きくは変わらないのではないかと思います。オンライン上でのインフルエンサーマーケティングは、コロナ禍が必ずしもネガティブではなく、むしろポジティブな側面も多くあります。
今後、YouTube業界をさらに盛り上げていくとともに、コロナ禍で打撃を受けた他業界とタッグを組むなどして、社会全体を活性化させる取り組みも加速させていきたく思います。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。