個人と企業が中国で成功するための道筋とパートナーシップ[インタビュー]
個人が自由に活躍し、大きな収入機会を得られる新しい働き方の象徴ともいえるインフルエンサー。近年は、その活躍は日本にとどまらず、世界に向けた情報発信をする取り組みも増えつつある。実際にインフルエンサーが海外で成功するためにはどのような取り組みがなされているのか。
タレント・クリエイター・インフルエンサーなどの中国進出を支援しているVstar Japan株式会社取締役 沈 天怡(チン テンイ)氏に、これまで同社が成功を支援したインフルエンサーの中国展開の事例について、お話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)
中国成功の目利きとローカライズが強み
―自己紹介をお願いします
2017年にアライドアーキテクツ株式会社(以下、アライドアーキテクツ)に入社し、当時グループ会社だったVstar Japan株式会社に参画(現在は連結子会社、以下、Vstar Japan)、現在はVstar Japanの取締役を務めています。アライドアーキテクツでは中国向けプロモーションの企画を担当、Vstar Japanでは日本人タレント・クリエイター・インフルエンサーなどの中国進出支援を担当しています。
―Vstar Japanの事業についてお聞かせください。
中国に進出したいタレント・クリエイターなどに対して、コンテンツの戦略設計から実際の展開までサポートしています。
当社はWeiboの公式MCN(※1)に認定されています。また、Weibo社が毎年開催するイベントでは、2017年と2018年にトップ10のMCNとして選出されており、コンテンツを展開する上でWeibo社からサポートを受けています。当社の強みは、「中国で成功できるかどうか」という観点でのインフルエンサーの目利きと、コンテンツのローカライズです。
※1 MCN(マルチチャンネルネットワーク):複数のクリエイターと提携し、ファンの開拓、コンテンツ制作、収益化、営業などを含むサービスを提供する事業者。
―中国に進出するインフルエンサーについてお聞かせください。
中国に進出するインフルエンサーは、三つのタイプに分かれます。一つ目は俳優、ミュージシャン、スポーツ選手などの有名人。二つ目は、YouTuber、インスタグラマーなどのSNSで活躍するインフルエンサー、三つ目は情報発信が好きな一般の方たちです。
一つ目の有名人は、映画やドラマに出演して中国人の間で有名になり、ブランドアンバサダーなどになって活動しています。
二つ目のインフルエンサーは、YouTubeで公開しているコンテンツをWeiboやbilibiliなどで公開してファンを集め、日本から中国に進出する企業や中国企業との広告タイアップオファーを受けて活動しています。
三つ目の一般の方たちは、中国に興味を持っている日本人留学生や中国人向けに日本のことを紹介することでファンを集め、中国企業から何らかのタイアップ広告の機会を受けてコラボして活動しています。
インフルエンサーマネタイズはタイアップ広告とEC
―貴社で支援されているインフルエンサーはどのタイプが多いのでしょうか?
当社で支援しているのは、主に一つ目と二つ目のタイプの方です。ご自身で中国語での情報発信をすることが難しいため、当社がお手伝いできる余地が大きいのです。
―現在何人くらいの方の展開を支援していますか?
芸能人の方を3名、YouTubeやInstagramで活動している方を11名支援しています。
―インフルエンサーのマネタイズはどのようにしているのでしょうか?
中国のSNSでは、YouTubeのように動画の再生数に応じて広告プラットフォームから収入を得ることができません。そのため、タイアップ広告案件をとるか、自分でブランドを立ち上げて商品を販売することによってマネタイズをしています。
この二つの方法は当社でも行っています。中国進出を図るインフルエンサーの支援では、中国の広告主企業との商談や案件が成立した場合、契約関連のやり取りを含むすべてを当社が行っています。商品の販売では、越境ECでの販売ルートの整備、商品の開発、物流、値段設定、クリエイティブ制作、プロモーションなどの支援を行っています。
成功した3つのケース
―貴社の支援により中国で活躍しているインフルエンサーの事例があればお聞かせください。
まずは、あさぎーにょさんというインフルエンサーの事例です。
彼女は当社と繋がりがあった事務所からご紹介いただいたインフルエンサーで、彼女のイメージやコンテンツから中国で成功できるポテンシャルを感じ、当社が中国進出を支援することになりました。
そのような中、YouTubeに投稿し再生回数が390万回を突破するほど大きな話題となっていた動画をVstarJapanが中国向けにローカライズし、今年2月にWeiboに公開しました。
出典:あさぎーにょ公式Weibo、bilibiliアカウント
事例詳細:https://www.aainc.co.jp/news-release/2020/02032.html
中国で新型コロナウイルスの感染拡大によって外出が規制され、家から出られなくなった時期での公開となり、動画に込められたメッセージが大きな反響と共感を呼びました。その結果、Weiboでの動画再生回数は約3,300万、閲覧数は1億程度まで伸びました。このコンテンツは、元々は日本においても反響があり、日本人の独自の世界観を反映しているような内容ですが、中国に展開しても成功した事例です。日本のアニメ、漫画が日本的な世界観であるにも関わらず、世界中で人気があることとイメージは同じです。本件を通して改めて日本人が作ったコンテンツのポテンシャルを感じました。
マネタイズは、タイアップ広告で行っています。現在、中国企業から毎週10社程度の問い合わせがきています。カラーコンタクトレンズのEC事業者とコラボしたコンテンツをWeiboとbilibiliで配信したり、(※2)商品紹介に特化したSNSプラットフォーム、REDでも配信を行っています。
※2 事例詳細:https://www.aainc.co.jp/news-release/2020/02082.html
また、あさぎーにょさんは、昨年香港で開催されたWeibo社のイベントで海外部門の人気ファッションアイコン賞を受賞したり、Weiboのファン数も100万人を突破するなど、着実に中国で人気になってきており、今後の中国での活躍が非常に期待されます。
二つ目は、大口智恵美さんの事例です。当社はインフルエンサーがプロデュースしているブランドの販売も得意としています。彼女がWeiboで販売しているのが「CENTENCE」というブランドで、昨年から「CENTENCE」と「大口智恵美さん個人」、両方の中国における活動を支援しています。
出典:大口智恵美 公式Weiboアカウント
事例詳細:https://www.aainc.co.jp/news-release/2020/02038.html
中国では、「CENTENCE」のタオバオでの出店を当社で支援しており、大口智恵美さん個人のWeiboアカウントと連動させて商品を販売しています。去年から出品という形でテスト販売したところ、初めての中国向け販売にも関わらず、短期間で何百個もの販売実績をあげ、中国での販売拡大の可能性を感じたため、今年5月からは自社でタオバオショップを開くことになりました。商品自体は大口智恵美さんプロデュースのブランドで、元々日本だけで販売をしていたのですが、当社にて中国向けに物流やHPの制作を含めた総合的な販売支援を行っています。
三つ目は、日本でYouTubeとInstagramで活動をしている、まつきりなさんの事例です。
出典:まつきりな公式bilibiliアカウント
中国ではWeiboとbilibiliで活動しているのですが、特にbilibiliで人気のある方で7.1万人のファンがいます。彼女は日本と中国で全く違う内容のコンテンツを公開しています。日本では女性向けに化粧品に関する情報を発信しているのですが、中国で同じコンテンツを投稿しても再生回数は数千程度にとどまっていました。そこで当社の企画チームが支援を行い、「中国人が好きな男性俳優を見て日本の女性はどう思うか」(※3)など、中国人受けが良い切り口で動画を制作、投稿したところ、再生回数100万を突破しました。このように個人のキャラクターや特性、ファン層、中国人受けなど多角的な視点から当社がコンテンツの企画提案をすることで、中国展開における成功へと近づくよう尽力しています。
※3 動画URL:https://www.bilibili.com/video/BV1t4411U78q
個人と企業が中国進出する時代のパートナーシップとビジネスのあり方
―中国に対して自社のインフルエンサーを展開させたい事務所を支援するという取り組みをされているのですね?
はい。当社は最近事務所の担当者の方から相談を受けるケースが増えています。
―広告主への提案はどのようにしているのですか?
SNS施策全般の提案においては、アライドアーキテクツと連携して提案をしています。アライドアーキテクツでは日本企業向けのブランド、商品の中国進出支援実績がたくさんあるので、その知見やノウハウに基づいて結果に結びつくような複合的な提案が可能です。
また、インフルエンサー単体の提案については、当社から提案をすることもあります。当社はインフルエンサーと深く関わっている事業なので、インフルエンサーを起点として様々な施策を行いたいというご要望の場合は幅広い施策の提案が可能です。
―Vstar Japanはどのようなビジネスモデルで事業をしているのですか?
大きく2つのパターンがあります。
当社が中国市場で成功できると判断し、ぜひ支援したいとオファーを出した方についてはパートナーシップを組んで中国展開を進めています。
一方でインフルエンサー事務所側から、「支援してほしい」というご依頼をいただくこともあり、その場合は支援内容に応じた料金プランでのご支援となります。
―今後貴社がこのビジネスで注力されていくことについて、お聞かせください
この事業を通して、「コンテンツは人を動かすことができる」ということを日頃から実感しています。良いコンテンツを発信したり見ることによってポジティブな情報が伝わり、人の気持ちを和やかにしたり、癒したり、お互いの理解を深めたりします。私は留学生として日本にやってきて初めて知ったことがたくさんありますし、異文化を感じる楽しさと感動を体験しました。しかし、今では中国にいながらでもSNSで日本のコンテンツを見ることで、日本人と日本文化に触れることができるので、とてもいい時代だなと思っています。
これからはコンテンツだけではなく、もっとモノを中国の方に届けることができたらいいなと思っています。越境ECを通して、クリエイターが思いを込めたモノの販売をさらに強めていきたいと考えています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。